魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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ずいぶんとお久しぶりです。文章がいつもと違っていたら申し訳ありません。しばらく書けてなかった上に他のシリーズも書いてるので混ざってる可能性があります。


第27話 放送室占拠

「アルバ、今日は?」

「今日は──」

 

『全校生徒のみなさん!!』

 

 放課後。雫に声をかけられたアルバが今日は風紀委員の当番があると答えようとしたところで、スピーカーからハウリング寸前の大音量の放送が流れる。

 

「今日は風紀委員の当番がある」

「そっか。それより、この放送、何かわかる?」

「なんでアルバも雫もそんな落ち着いてるの!?」

 

 放送が途切れたタイミングで冷静に話の続きを始めるアルバと雫に思わずほのかが突っ込む。

 

「驚いてはいる」

「放送はそれなりにあるだろう?」

 

 驚きつつも無表情故に分かりづらかったという雫と、全く気にしていないアルバに分かれたが、ほのかがそれに突っ込む前に再度放送が響いた。

 

『失礼しました! 全校生徒のみなさん! 僕たちは学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!』

 

 クラス中がその放送に注目する中、アルバは自分のカバンを持って教室の外へと向かおうとする。

 

「聞かないの?」

「俺には関係の無い放送のように思えるが……」

 

 雫の言葉にそう答えながらも、アルバは取り敢えず足を止めて放送を最後まで聞いておくことにした。

 

『僕たちは生徒会と部活連に対し、対等な立場での交渉を要求します!』

 

 いわゆる政治的な活動のようなものなのだろうということはアルバにも予想がついた。が、その内容に少しばかり違和感を覚える。普段の放送は、何か確定した情報を伝えるためのものだ。例えば職員室への呼び出しであったり、特別な日程に関するものがあるわけだが。

 

 だが今の放送は、どこかそれらと違う。『要求します!』というのは、即ち確定していない何かを主張するために放送を利用しているということになる。

 

「放送はこういう使い方も出来るのだな」

「出来ませんよ? 多分放送室の不正利用です」

 

 何気なく呟いたアルバの言葉に、3人の近くまで来ていた深雪が答える。

 

「そうなのか?」

「おそらくは、ですけど。そもそもこのような形で、生徒に何らかの指示を伝える以外の使い方で放送室を利用することは許可されていないはずです」

 

 深雪のその言葉と同時に、アルバのポケットの端末が着信を知らせる。同様に着信を確認した深雪が、一足先に内容を確認してアルバに声をかける。

 

「アルバさん」

「風紀委員会の招集、か。深雪も生徒会の招集か?」

「はい。放送室に向かいましょう」

 

 メールの内容は、放送室の不正利用に対応するために放送室前に集合すること、という端的なものだった。それを雫達にも説明して先に帰ってもらうように伝えるが、彼女たちも放送の続きを、というよりはことの成り行きを不安ながらも待つことにしたらしく、他のクラスメイトらと一緒に教室に留まっていた。

 

 

******

 

 

 教室を出た2人は、途中で同じく呼び出しを受けた達也と合流してから放送室へと向かった。招集を受けたのは生徒会と風紀委員、そして部活連の実行部隊ぐらいなものだろうが、放送室の前にはそれ以上に野次馬の生徒が多数集まっていた。扉の前は流石に立ち入り制限がされているが、その外側は通るのが大変なぐらいである。

 

「遅いぞ」

 

 生徒会や風紀委員の上級生はすでに到着しているようであり、最後の到着となった3人に摩利がそう声をかけてくる。

 

「これでも──」

「すみません。どういう状況でしょうか」

 

 

 急いだのだがな、と続けようとしたアルバは深雪に袖を引かれて言葉を切り、達也が代わって形だけの謝罪をしてみせる。摩利も責める気があったわけではないようで、それ以上の追求はせず、状況を説明してくれた。

 

 まず今回の放送に関しては申請などは行われておらず無断使用であること。そして現在放送室の扉には鍵がかけられているので踏み込むことができず、取り敢えず放送室の電源を切ることで放送を中断させたこと。

 

「マスターキーは無いんですか?」

「奴らは事前にマスターキーを盗んでいたようでな……」

 

 苦々しく摩利が言うのも当然であり、ことは放送室の無断使用という校内のルール違反を飛び越えて犯罪行為に至っているのである。

 

「盗み、というと刑法で罰せられる犯罪行為、だな?」

 

 達也と摩利のやり取りを見守っていたアルバの問いかけに深雪はうなずく。同時に話を聞いていた鈴音がアルバのただの疑問であるそれを『犯罪行為にどう対応するのか』という問い掛けだと判断して答えてくれた。

 

「そのとおりです。ですから私達も、これ以上彼らを暴発させないように慎重に対応する必要があります」

 

 犯罪に手を染めることをためらわない相手であるためそれ以上の暴挙に出させないように慎重に対応する必要があると鈴音が主張する一方、摩利がそれとは違う意見を持っているらしく、鈴音の言葉に反発するように言う。

 

「こちらが慎重になったからといって向こうが大人しくしていてくれるとは限らないだろう。多少強引でも短時間での解決を図るべきだ」

 

 どうやらこの2つの意見の対立もあって状況が膠着しているらしかった。こうした状況での対応には疎いアルバではあるが、かつて交流のあった人類文明には現代と同じ様な法治国家も存在していた。そこから考えるならば一応放送室を占拠しているものたちは犯罪者として扱うことが出来るのだが、魔法師の社会における特殊な立場上そう安直に行動するわけにもいかないのだろう。だからこそアルバは、特に自分から意見を言うことなく事の成り行きを見守る。

 

「十文字会頭はどうお考えですか?」

 

 一年生の風紀委員、つまりは下っ端にしてみれば少しばかり出すぎた質問をした達也に場の視線が集まるが、当の十文字はそれに対してとくに思うところは無いようで自分の意見を述べる。

 

「俺は彼らの主張する交渉には応じても良いと考えている。元より彼らの主張は言いがかりに過ぎない。ここで押さえつけるよりしっかりと反論しておくことが後顧の憂いを断つことになるだろう」

「ではこの場はそのまま待機しておくべきだ、と?」

「それについては決断しかねている。不法行為を放置すべきではないが、学校施設を破壊してまで性急な解決を要するほどの犯罪性があるとは言えん」

 

 そう、犯罪行為ではあるものの、現状はそれほど性急な解決が必要とされる状況でも、またその手段を講じる正当性が生じる状況でもないのだ。

 

 放送室を占拠している者たちの主張は、ただ交渉、話し合いの席につけということだけであり、その結果どのような結論を出し自分たちの意見を通せといったことは主張していない。交渉の場を作るのは多少手間ではあるが労力以外に消費するものはない。

 

 またこの放送室の占拠というのも曲者で、放送室の利用頻度はそれほど高くないし、なんなら職員室や生徒会室には放送用の機器が別にあるので放送室の奪還が急がれるわけでもない。

 

 そうした状況から、この膠着した状況が生まれているのだ。

 

 

 さてこの膠着時間。アルバにとっては非常に暇な時間である。何らかのやり取りがあるのならばそれを聞くことが出来るのだが、すでに互いの意見は出揃っているらしく、そして互いに決定打もなく黙っている現状というのは得られるものもなく暇なのだ。

 

 そう考えたアルバが、懐から端末を出して読書を始めたのは仕方の無いことだろう。場に適しているかどうかはともかくとして。

 

「アルバさん? どうしたんですか?」

 

 幹部達の視線は達也に集まっているが、アルバの隣に立っていた深雪がそれに気づいて問いかけてくる。

 

「いや、暇だから読書をしているだけだ」

 

 アルバの言葉に呆れたと言いたげな視線を深雪が向けてくる。だけでなく、声を抑えるという意識が無かったために方針を模索していた摩利達の耳にもアルバの言葉は届いた。

 

「トリオン、一応委員会として招集している以上委員会の活動の最中だぞ」

「そうだと思いますが……?」

 

 何が言いたいのかわからない、と言いたげなアルバに、摩利が不機嫌そうに答える。

 

「君は普段見回り中にも読書をするのか?」

 

 そしてなおも首をかしげるアルバに深雪が小さな声で指摘してくれる。

 

「アルバさん、委員会の活動中に他の事をするのは、よろしくないと思いますよ?」

「ああ、そういうことか。しかし今は特に指示が出ていない。乗り込むにしろ向こうが暴れることを警戒するにしろ指示をもらうまで動くべきではないのだろう?」

 

 あくまで自分の領分を出てまで何かをすべきではない、という意味合いのアルバの発言だったが、埒の明かない議論に若干うんざりしていた摩利などには、『とっとと方針を決めろ』と指摘されているように感じられた。

 

 と。今度はなにやら考え込んでいた達也が端末を取り出して委員長である摩利ではなく生徒会長である真由美のもとに言って他の者に聞こえないように話しかけた。

 

「……そうね。取り敢えず試してみてもらえるかしら」

 

 達也が真由美に伝えたのは、中にいる可能性のある相手に連絡を取ってみるという報告である。他の人に聞かれないようにしたのは、仮に彼女がそうではなかった場合、彼女の名誉を毀損することになってしまうからだ。摩利ではなく真由美に伝えたのも、彼女ならそのあたりを汲んでくれると考えたからである。

 

「こんにちは、司波です」

 

 周囲が注目する中、達也は連絡のついた相手の名前を呼ぶことなく話しかける。

 

「……そうですか。それで、今どちらに?」

 

 達也が通話をしている目的、相手がわかったのか、ギョッとした視線が数本追加される。

 

「はぁ……それで放送室に。それは……お気の毒です」

 

 どう言えばいいか悩んだ末の言葉に通話相手は怒声を上げたようで、達也が顔をしかめてわずかに通話ユニットを遠ざける。

 

「馬鹿にしているわけでは……。それより本題に入りたいのですが」

 

 摩利や鈴音、克人が聞き耳を立てる中、達也は通話相手との会話を続ける。

 

「十文字会頭は交渉に応じるとおっしゃっています。生徒会長は……生徒会長も同様です」

 

 確認するような達也の視線に真由美は頷いて返す。相手の行動はともかく要求は比較的穏当なものであるので、解決に近づくのであれば応じても問題ないともともと考えていたのだ。

 

「ということで詳しいことについて打ち合わせをしたいんですが。……はい、今すぐです。学校側の横槍が入らないうちに。……安心してください。先輩の自由は保証します。我々は警察ではないので牢屋に閉じ込めるような権限はありません。そもそもそうするなら通報してますよ。……はい。ではお待ちしています」

 

 相手側の発言は聞こえていないが、達也の発言から相手が出てくるのがわかったのだろう、一気に場の雰囲気が緊張する。

 

「今のは?」

「諸事情でプライベートナンバーを教えていただいた先輩です。待ち合わせに使う予定だったのですが思わぬところで役に立ちました」

 

 相手は察しろ、と。以前生徒会室で為された会話を知っている摩利にのみ理解の出来る話し方をする。

 

「……手早いな君も」

「誤解です」

 

 解決の目処が立って余裕ができたのか達也にちょっかいをかける摩利の言葉に深雪が俯いてむっとした雰囲気を漂わせるが、摩利達に行動を促していた達也は気づかず、代わりに隣に立っていたアルバがそれに気づく。

 

「どうした? 不機嫌そうだが」

「えっ?」

「なにやら不機嫌そうだが、何かそういうことがあったか?」

 

 純粋な疑問の形をとったアルバの問いかけに、深雪は少しキョトンとした後首を振る。アルバはこうした深雪のちょっとした機嫌の変動に敏いが、不必要には踏み込んでこないそれが深雪にはありがたかった。今も、達也が摩利達と話し合っている間手持ち無沙汰だからと話題を振ってくれたのだろうと。

 

 実際のところアルバがそこまで気をつかったわけではないのだが、内面に踏み込まれるのを人はあまり好まないと知識として知っているので、雑談として少し切り出す程度にとどめているのである。

 

「いえ。特に何もありませんわ」

「そうか」

 

 2人がそんな会話をしているうちに事態は進み、出てきた不法占拠者たちは拘束された。達也は唯一『口約』に則って拘束されていない紗耶香の相手をしているが、アルバと深雪は最下級生ということもあって前には出させてもらえず後ろで待機していることになった。もともと風紀委員だけで人数としては十分であるのにそこに服部や部活連の実行部隊が含まれているので1年生の出番は無かったのだ。

 

「お前たちが求めている交渉には応じよう。だがそれとお前達のとった手段を認めることは別問題だ」

 

 達也に詰め寄る紗耶香に十文字がそう声をかけたことで、紗耶香も、他の拘束されたメンバーも大人しくなる。もともとここにいるメンバーは、暴力によって何かを達成しようというつもりなど無い。

 

 そんな彼らがこんな手段を取ったのは何故だろうか。

 

 待機を命じられていたアルバだが、真由美が十文字と紗耶香の間に割って入って話の行き先を誘導しているところへとふらりと近づいていった。

 

「言いたいことは理解しているつもりよ、摩利。けど交渉をするのに壬生さん1人では打ち合わせができないでしょう。当校の生徒である以上逃げられるということも無いのだし」

「私たちは逃げたりなんかッ!?」

 

 罰則無しで壬生らを解放するのかと詰め寄る摩利と真由美が言い合う中に割って入ったアルバは、紗耶香の目の前に立ち彼女を見下ろす。身長185センチの長身の威圧感はかなりのもので見上げる紗耶香の表情は強張っているが、それより何より恐ろしいのは、その目だった。

 

 本来は白目がありその中央に黒い瞳孔があるのだが、彼女を見下ろすアルバの目は違う。上から見下ろす形で影の指す顔の中で、アルバの金色に輝く瞳孔と、それに照らされた赤みを帯びた暗い白目部分。瞳孔の更に中心にある黒い部分は、縦に細められ、まるで獲物を捕食する蛇の。いや、龍のように。

 

「アルバくん? 壬生さん?」

 

 真由美が呼びかけるが、人のものではない目に射抜かれた紗耶香も、当のアルバもそれに答える素振りを見せない。

 

「なるほど」

 

 やがて低く呟かれた言葉とともにアルバがまばたきをすると、その目は普通の人間と同様に戻っており、その威圧感も霧散していた。

 

「どうした?」

「いえ、失礼しました」

 

 壬生から視線を外したアルバは、周りから怪訝な視線を向けられながらもそれ以上用事は無いとばかりに深雪の隣まで戻ってくる。いつの間にか達也の後ろにまで移動していた深雪だが、その隣が自分の定位置だとでも言うようにアルバがやってきたので少し驚いたが、それを顔には出さなかった。『他に知り合いもいないからな』などと言うことがわかりきっているからだ。

 

「壬生先輩と何かあったのですか?」

「何かあったというわけではない。少し魔法に関して聞きたいのだが良いか?」

 

 唐突なアルバの言葉に首をかしげながらも深雪はうなずく。

 

「私に答えられることなら良いのですが。お兄様の方が詳しいですよ?」

「ああ。後で達也にも聞いてみる。それで聞きたいことなんだが、人の精神に関与して思考の内容を操ったり、思考を植え付けたりする魔法というのは存在しているか?」

 

 内容が内容だけに珍しく声を抑えたアルバの質問に、深雪は考える素振りを見せながらも内心は大きく動揺していた。

 

 そんなことはありえない、というのはわかっている。だが、自分に。()()()()()()自分に、精神に関する魔法について聞いてきたのである。

 

「……誰にでも扱えるというわけではないけど、精神に関する魔法は存在すると聞いたことがあるわ。詳しいことはわからないのだけど……」

 

 動揺がゆえに雫らエリカ達親しい女子相手に向ける話し方をアルバにも向けてしまうが、それはそれだけアルバが深雪と関わってきたということだろう。

 

「そうか。存在するのか。ありがとう」

 

 深雪の言葉に満足したように頷いたアルバは、それ以上何も話そうとしなかった。




原作とまんま同じ展開である壬生とのやり取りを書いても面白くないでしょうし、結果としてある程度省く形になりました。

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