魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第28話 討論会前夜

 放送室立てこもり事件の翌朝。アルバは朝かなり早い時間に図書室へとやってきた。いくつか調べたいことがあったからである。

 

 1つ目は昨日の立てこもり事件。あそこにおいて立てこもった犯人たちが主張していた『格差』。それは何も現代だけの話ではなく、魔法師、魔法使い、あるいはその他の呼び方であれ何らかの術を使う者達が歴史の表舞台に出てきたときから何らかの形で存在していたものなのだろう。極端な話をすれば、過去彼らが表舞台に出てくる以前2000年頃の日本では、『呪殺は犯罪ではなかった』らしい。それはつまり、『科学的に証明できない魔法による犯罪』もまた犯罪扱い出来なかったというわけで。そのあたりに何らかのこの件に対する一つの答えがあるのではないかと思ったわけである。

 

 そしてそうしたことについて調べる際には、検索によって近い答えを返すインターネットよりも、無作為に新書や論文の中から探して読むことの出来る図書館の方が効率が良かったのである。特にここの図書館は並の学校のそれとは比較にもならないので色々と資料があるのではないか、と思ったわけだ。未だに紙の資料を置いてあるというのもアルバにとってはありがたい。

 

 2つ目は先日深雪に訪ねた件。『精神に干渉する魔法は存在しているのか』というもの。

 

 魔法とはすなわち、世界の裏側の情報体群にプログラム的にアクセスし、それを書き換えることで表側の世界に影響を及ぼす技術である。多くの魔法は物理的な要素を持つが、魔法がそれだけしか出来ないというわけではない。つまりはやろうとすれば、物理的なものではない人の思考や精神構造のあり方にもアクセス、改変出来るというわけである。サイオンという非物理粒子にアクセスして操作しているのも、結局はそれと同じことである。魔法師が認識さえできれば、それにアクセスする魔法を組み立てることは理論的には可能である。

 

 結局のところ、『精神に干渉する魔法は存在し得る』というのがアルバの出した結論である。それについてより詳細に調べたい、と考えて魔法関連で秘匿されている書物も存在しているであろう図書館へとやってきたわけだが。

 

「見つからないな」

 

 一通り見て回ってみたのだが、格差に関する書籍が複数見つかる一方で精神に干渉する魔法に関する詳細な研究が見当たらない。例えば理論的には可能でも実際にはそれに耐えうる魔法師が存在しないために研究が頓挫した、とかならばまだわかるのだが、そうした研究過程で書かれるような論文も見当たらないのである。

 

 書籍閲覧用の端末で探せば見つかっていないものも一瞬で見つかるかもしれないが、せっかく書籍の山を前にしているのでそれは最後の手段としたい。

 

 そう考えたアルバがうろうろとしていると、ちょうどデータ閲覧用の個室から1人の女子生徒が出てきた。まだ朝早い時間というのに勤勉なことである。かと思えば、当の女子生徒、真由美がアルバのことを見つけて近づいてきた。

 

「おはようございます生徒会長」

「おはようアルバくん。朝早くから偉いわね」

「会長もお早いですね」

 

 先輩相手に先に挨拶をしたアルバに、真由美はもの珍しそうに話しかけてきた。アルバが、というよりはこの時間に図書館を利用している生徒が珍しいのだろう。

 

「もしかして今日提出の課題が終わってなかったりする?」

「いえ、そういうわけでは。会長はどうしたんですか?」

 

 案の定というべきか、放課後や昼休みではなくこのタイミングを選んだことに、提出期限の迫った課題が終わっていないのではないかと疑われてしまった。といっても本気で疑っている様子では無さそうだったが。

 

「私は課題よ。といっても提出はまだ先だけどね。ほら、昨日の放課後の事件、あったでしょ?」

「放送室の立てこもりですね。討論会の打ち合わせをすると聞きましたが」

「そうなの。それでその討論会が明日の放課後に決まったから、今日から準備で忙しくなるし先に課題を終わらせておこうと思って」

「なるほど」

 

 翌日が討論会である、ということにアルバは特に反応を示さない。風紀委員としてその警備など役目があるのであればそれは摩利から通達が来るだろうし、来なかったら来なかったで討論会を聞きながら思索にふけることが出来る。

 

「驚かないのね?」

「特には。もともと驚くという感情が希薄ですから」

「そうなの?」

「そうですね。ある情報をそのまま受け取るという考え方をしているので、討論会についても風紀委員としての役目があるのか、無いなら個人的に見学しよう、程度の感想が湧いたくらいです」

 

 アルバがそう返すと、真由美は一瞬キョトンとした後おかしそうに声を抑えて笑う。

 

「アルバくん……その年で達観し過ぎじゃない?」

「……これが性分なので」

 

 その年で(龍としての寿命で)という意味であれば的外れも良いところだが、その年で(人間としての外見年齢で)という意味であれば確かに達観しているように見えるのだろうとアルバは軽く話をそらしておいた。

 

 そうして真由美を横目に棚の書籍を見ていると、真由美が若干口を尖らせながら問いかけてくる。

 

「それで。アルバくんとしては今回の件、どう思っているの?」

「昨日の彼女らの主張する一科生と二科生の平等について、ですか?」

「ええ。今回の討論会、彼女らの要求はそこなの。でも具体的な内容は全く無くて、それは私達に考えてほしいみたいだったわ」

 

 真由美は、別に何らかの有益な答えが得られると思ってアルバに尋ねたわけではない。ただ、この自分との会話中にも関わらず書籍を探している男を、自分の方に振り向かせてみたくなっただけだった。

 

「俺が彼らと同じ主張をするなら、ですが」

「うん」

「生徒会ではなく学校を引きずり出します。ついでに各メディアやSNSなども利用出来ることを示します」

「……え?」

 

 思わぬ回答に真由美が固まる中、アルバは自分が考えたことを述べていく。

 

「こういう風に何かを変えたいときは、内部からの声だけでなく外部からの声が有効だそうです」

「それで、メディアに? でも中身が伴わなければ意味が無いでしょう? これでも私、言い負かされるつもりは無いのよ?」

「だからこそ討論の相手は生徒会ではなく学校サイドにします。そして言い出すのは彼らと同じ『平等』ですが、実際に学校の制度として自分たちがいかに一科生と比較してどんな立場にあるのかを主張します」

「それは……でも、ここに関しては国からもそういうものとして認められてるのよ?」

 

 そういうもの。即ち、『一科と二科の区別がはっきりとしたもの』として。

 

 だが。そんなのは関係なくなるのである。

 

「国が認めたということと、市民の声が認めるかどうかは別物ですよ」

 

 正義に踊らされる世論の前では。

 

「結局のところどう言い繕っても、この第一高校が『差別が生まれる前提で』二科生を入学させているのは覆りません。そしてそれは、どれだけ魔法師育成の必要性や魔法師の有用性を謳ったところで『正義の立場から』批判するものは出てくる。例えば十分な人員を確保できない国を責め立てるだとか。倫理的に問題があるにも関わらず見下される100人を入学させる学校を責めるだとか。魔法師とそうでない人たちの対立は未だに根強いと聞きます。いくら魔法師が強くても多勢に無勢。あまりに批判の声が大きくなれば、学校側も何らかの変革をしなければならない」

「……そこまでするかしら」

「俺が彼らなら、という話です。そしてその結果教員が増員されるかカリキュラムが組み直されるなどして全員が一科生の扱いを受けられるようになれば、目的は達成できる」

 

 最も、それが彼らの達成したいものと同じといえるかどうか、というのはアルバにはわからないが。

 

 だが、そう。市民の声が恐ろしいものであるとは、アルバは理解していた。以前、王家がアルバと仲良くしていたとある王国で。

 

 それを快く思わない大臣が民衆を先導したのである。『王家を誑かす邪竜がいる』、と。それをアルバと親しくしていた者達は否定しようとしたものの、王宮が取り囲まれ乗り込まれてはどうしようも無い。結局アルバは、自らその地を後にし、再び深海へと帰って数百年を眠って過ごした。

 

「……アルバくんが敵じゃなくて本当に良かったと思うわ」

 

 真由美は若干笑顔を引きつらせながらもアルバの言葉にそう返した。

 

 実際のところは、そういう動きをされた場合には十師族がその伝手や権力を存分に発揮して黙らせにかかるだろう。

 

 それでも、未だに反魔法師を標榜するメディアはいるし、国会議員にもそういうものはいる。そういうところの耳に入ってしまうとうるさくて仕方が無い。真由美が討論会を受けたのも、ロジックであれば黙らせることが出来るし、そうした場では感情論が意味を持ちづらいからだ。それが意味を持つ場所こそがまさにメディアやSNSなのである。

 

「それで、アルバくんはさっきから何を探しているの? 話を聞かせてもらった代わりにお姉さんが手伝おうか?」

 

 臆面もなく『お姉さん』という真由美は、意図してその言葉を使ったわけではなく、ただアルバとの会話を自分のペースに戻そうと無意識にそういう話し方をしたのだろう。

 

「精神に干渉する魔法について記述された書籍が無いかと思ったんですが、どうも見当たらないんですよね」

 

 アルバの話にそんな余裕も一瞬で吹っ飛んだが。

 

「……なんでそれを探しているの」

 

 それはこの国においては、ただ一つの研究所と、そこから派生した一つの家のみが扱うことの出来る魔法である。加えていうなら、その家が情報を秘匿しているので十師族である七草ですら詳細な情報は掴めていない。まさに秘匿された魔法なのであった。

 

「純粋な好奇心です」

「その好奇心の理由が聞きたいんだけど」

「壬生沙也加先輩がそうしたたぐいの魔法を受けているようだったので、調べようと思いまして」

「……どういうこと?」

 

 こともなげに言うアルバだが、仮にそれが真実であるならば放っておく事はできない。彼女がそうした操作下に、有り体に言えば洗脳下にあるとすれば、他の彼女のお仲間、エガリテの構成員もそうなっている可能性がある。

 

 それは即ち、第一高校の生徒に対する明確な攻撃だ。

 

「このことは秘密にしておいてください。生徒の代表である先輩には伝えておこうと思っただけですので」

「待ちなさい。その情報の出どころはどこ? それが本当ならことは私達が考えているより重大なのよ?」

 

 先程までの穏やかな雰囲気とは一変し、真由美は普段は見せない凛とした表情を見せる。それだけアルバの話は衝撃的だった。

 

「俺の眼は少し特殊で、プシオンやサイオンが人よりよく見えるんです。それで見たときに、彼女のプシオンには不自然な澱みがあった。思考をまるごと操作され続けているというほどでは無いが、何らかの不自然な誘導がされているのではないかと。程度としては、不自然な思い込みをずっと持ち続けているぐらいだと思います。彼女の行動はその思い込みに引きずられている可能性がある」

「……それがわかったのは、いつ?」

「前から予想はしていましたが確信したのは昨日です」

「何故すぐに言わなかったの?」

「プライバシー、と言うんですか。人の個人的な事情ですので。あるいは治療などの可能性もあるかもしれないのでむやみに喧伝するつもりは無いです。ただ俺は風紀委員なので、一応懸念事項として伝えておく必要もあると思ったので今会長には言いました」

 

 アルバの説明に、真由美は少し考え込む表情をする。

 

「……対策を練らないといけないわね」

 

 ポツリとつぶやいた後、アルバの方へと顔を向ける。

 

「それとアルバくん。あなたの探している研究資料はここには無いと思うわ」

「そうなんですか?」

「ええ。研究されていたとしても公にはされていない。だから探すだけ無駄なの」

 

 なるほど、と真由美の説明にアルバはうなずく。研究を主導しているものが秘密主義だったのか、危険すぎるから隠匿されていたのか。いずれにしろ表に出ないところでだけ研究されていたというならこの資料の見つからなさも納得が行く。

 

 その後生徒会室に一度寄るという真由美と別れ、アルバは本の貸出へと向かった。

 

 

******

 

 

 討論会の実施が翌日と決定されて以降。これまではひっそりと、といえる程度の活動しかしていなかった同盟の活動が一気に活発になった。これまではあまり目をつけられないようにと秘密裏に活動していたが、翌日に討論会を控えて今の内に賛同者を増やそうという算段だろう。

 

 風紀委員長である摩利はこれを不機嫌そうに取り締まろうとしていたが、真由美の取りなしで一方的に取り締まるのではなく、勧誘が迷惑行為になったときにのみ取り締まると決めて、放課後から明日の公開討論会までの間の見回りを増やすと決定した。摩利としてはそもそも同盟である時点で取り締まる口実に出来ると思ったのだろうが、それだけで取り締まると思想の自由に引っかかってしまうというわけである。

 

 そんなわけでアルバもまた放課後に用事が無かったために見回りをしていた。

 

 学校のあちこちで同盟のメンバーが勧誘活動の一環としてビラ配りや声掛けなんかをしており、それを受けている生徒の側も、特に一科生は鬱陶しそうに、あるいは苛立たしげにそれを見るものの積極的に否定して揉め事を起こすようなことはなく、二科生は一部が興味を持って話を聞こうとしている。

 

 そんな中でアルバは、自分の友人が声をかけられているのを見つけた。

 

「美月」

 

 上級生、それも青と赤で縁取られたあの団体のリストバンドをしている者に話しかけられている美月にアルバが声をかけたのは、彼女が迷惑そうな表情をしていたというのもあるが、自分の友人に手を出されるのが気に入らなかったから、というのもあるだろう。アルバがそれを意識していたかどうかは定かではないが。

 

「あっ、アルバさん」

 

 案の定困っていたようで、アルバに気づいた美月はホッとした表情をした。それを横目に、アルバは彼女に話しかけていた男子生徒へと声をかける。以前見たことのある男子生徒。そのしたであろうことを考えると、アルバの視線は自然と普段よりわずかに鋭いものになった。

 

「風紀委員のトリオン・アルバです。本人の意思に反する拘束は特別な事情がある場合を除いて迷惑行為にあたります」

 

 暗に『去れ』と言っているアルバの言葉に、美月に話しかけていた男子生徒は大人しく従う素振りを見せる。

 

「そうだな。今日は退散するとしよう。柴田さん、僕の方はいつでも歓迎するから、気が向いたら声をかけてほしい」

 

 そう告げて去っていった細身の男子生徒の背中を、アルバはじっと見つめていた。その眼は人間のそれではなく、かつて壬生沙也加を覗き込んだときに見せた龍の片鱗を漂わせるもので。

 

 だがすぐに後ろから美月に声をかけられてまぶたを閉じ、もう一度開けるとその眼は普段のものに戻る。

 

「ア、アルバ、さん……?」

「迷惑そうだったから声をかけた。邪魔だったか?」

 

 振り返ったアルバがそう問いかけると、美月はどこか怯えたような表情をしながらアルバの顔を見上げてくる。余計なことをしてしまっただろうかとアルバが考えていると、恐る恐る美月が口を開いた。

 

「い、今のは……。いえ、えっと」

 

 なにやらボソボソと言った後深呼吸をし、気を取り直すようにして話始めた。目線がアルバの胸元に向かっているのが少し奇妙な気がするが、身長が大きく違うから仕方の無いことなのだろうと判断する。

 

「さっきの方は剣道部の主将さんで司甲さんというそうです。私と同じ……『霊子放射光過敏症』で、他の過敏感覚に悩まされている方も所属しているサークルに参加しないかって」

「なるほど。その勧誘がしつこかったのか」

 

 霊視放射光過敏症。それはサイオンやプシオンに対する感受性が魔法師の通常よりも高い事を指し、現代ではそういったものを視覚的に排除したりする眼鏡などによって抑制がはかれられている症状だ。美月がそれを持っているということはアルバも勘づいていたので驚きは無いが、となると疑問が湧いてくる。

 

「美月、その症状なんだが」

「え?」

「さっきの、司甲という男子生徒を見て何か感じなかったか?」

 

 もし彼女が自分と同じとは言わないまでも一歩こちらに踏み込んだ景色が見えているのであれば──。

 

 そう考えたアルバの言葉は、だが、小さく首を振る美月によって否定された。

 

「眼鏡をかけているとかなり見えるのが制限されるので……何か見えたんですか? というかアルバさんは、私と同じ……?」

「いや、そういうわけではない。俺のはまた別の原因だし意図して見ないことも出来る。しかし、そうか……」

 

 美月が見えたからどうだ、というわけではないが。もし今の司甲のプシオンの澱みが見えるレベルの目をしていたのであれば、あるいはアルバの本質を看破しうる。そのときはしっかりと説明をしなければならないとアルバは考えたのだが、少なくとも今はその段階ではないらしい。

 

 だからアルバは気づかなかった。

 

「む、部活に行く途中か。引き止めてすまなかった」

「あ、いえ、ありがとうございました」

 

 そう言って別れた美月が。

 

 アルバの背中が曲がり角の向こうへと消えた途端にぺたんとへたり込み、震えながら荒く息を吐いていたことに。

 

 

 

******

 

 

 

 討論会前日の夜。一度帰宅した達也と深雪は、2人で達也の師である九重八雲のところへと向かった。

 

 目的は直近で必要となるある生徒に関する情報を調べること。そしてもう一つ。彼の知人について八雲へと依頼を出しておくこと。

 

 一人目、司甲についてはすぐに解決した。事前に気になっていた八雲がすでに調べていたので、それを聞くだけで済んだのだ。

 

 だが問題は2つ目。

 

 達也と深雪の学校での友人。

 

 トリオン・アルバについて八雲に調査を依頼することだったのだが。

 

「先生、もう一つだけよろしいでしょうか?」

 

 司甲に関する話が一段落したところでそう切り出した達也に、八雲はいつもの笑みを少しばかり深めた。

 

「それは、君の気にしている彼のことかな?」

「……ご存知でしたか」

「これでも僕は忍だからね。自分と縁のあるところについては調べるようにしているのさ。さてその彼だけどね。正直に言えば、あまり積極的に調べることはおすすめしないよ。敵対することなど以ての外だ」

 

 珍しく真面目な口調の八雲の言葉に、達也が訝しげに眉を潜め、深雪が息を呑む。

 

「何かご存知なのですか」

「……そうだね。僕は知っている。けれど話すことが出来ない。ときが来れば、親しくしている君たちには彼の方から話してくれるだろう。あるいは君たちではどうしようもないときなどは、頼ってみれば助けになってくれるかもしれないね。例えば君たちの家のこととか」

「それは、どういう……」

 

 いつもと違って、情報を見せない割には思わせぶりな八雲の口調から、アルバには何かがあるのだろうというのが伝わってくる。それを理解した上で、何かがあると考えた上で放っておけと、八雲は言っているのだ。

 

「関わるなとは言わないよ。普通の友人として接すれば良い。彼もきっとそれを望んでいる。彼には君たちのような友と呼べる相手が必要だ」

 

 いつになく饒舌な、含むところのない八雲の口調に2人が絶句する中、八雲は立ち上がり踵を返す。

 

「今の僕が言えるのはここまでだ。もしどうしても気になるというなら、彼に直接聞いてみると良い。話してもいいと思って貰えれば話してくれるだろうね」

 

 そう言いおいて去っていく八雲の背中に、2人はしばらくその場から動くことが出来なかった。


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