魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第29話 襲撃

「ここでは討論の様子が見えないな」

「アルバ……意欲的なのは良いことだが気を抜くなよ」

 

 真由美と服部が舞台に出ていき討論会が始まった直後。見えない場所で始まった討論会に、舞台袖に待機していたアルバは残念そうに呟く。言葉の内容から残念がっているのはわかるものの表情に変化が見られないのはいつものことだ。

 

「わかってます。ときに、この討論会の内容は録音してあるのですか?」

「……どうなんだ?」

「念のためしてあります。ですが公開されるかは未定ですよ」

「そうですか。では頑張って聞いておきます」

「そうではなくてだな……」

 

 ずれた返事を返すアルバに頭痛がするというように頭を抑えた摩利は、咳払いをして話を切り替える。

 

「実力行使の部隊が別に控えているんだろうな、あの数を見るに」

 

 討論会に参加している三年生の同盟のメンバーだけでなく、見学側で会場に来ているメンバーについても風紀委員を中心に監視を行っている。その数が先日から確認されている数よりも遥かに少ないことも共有済みだ。

 

「同感です」

「こちらから手出しはできんからな。同盟のメンバーは全員討論会に強制参加とでもできれば良かったんだが……」

「実力行使の前提で話を進めないでください」

 

 何かが起こるだろうという摩利に対して、起こってほしくないと鈴音が苦言を呈するものの、アルバからしてみれば何かが起こる前提で考えた方が都合が良いだろうというものだ。元々風紀委員と生徒会役員では有事における役目が違うので考え方が違うのが仕方ないのだろう。摩利が喧嘩っ早いのは周知の事実ではあるのだが、それに関わらず、という話である。

 

「始まりますよ」

 

 そうこうしているうちに舞台上では真由美が討論会の主旨の説明を終えて、実際の討論へとうつっていた。

 

「生徒会長! 今季のクラブ別予算配分、一科生の比率が高いクラブの予算が二科生の比率が高いクラブに対して明らかに多く配分されています。これは一科生に対する優遇が課外活動においても行われているという証明ではないですか! 生徒会長が一科生と二科生の待遇を平等にしたいと本当に考えているならばまずはこの格差を是正すべきです!」

「クラブ別の予算配分は各クラブの部長の参加する会議において、在籍人数と活動実績をもとに決定されています。実際予算配分にはクラブによって差がありますがそれは対外試合実績や大会の成績を反映した部分が大きいというだけであり、魔法競技非魔法競技にかかわらず、好成績を残すクラブに対してより多くの予算が配分されているのはお手元のグラフで御覧いただけると思います。予算配分が一科生優遇によって操作されているというのは誤解です」

 

 話の筋を『一科生vs二科生』、あるいは『一科生が二科生より優遇されている』という方向に持っていきたいであろう同盟側に対して、真由美は“一科二科にこだわらない観点から判断されている”と実際の数値付きで説明する。同盟側も流石に捏造した資料は持ち出してこなかったようだが、そのためか論理的な根拠、指標を説明できず、話の内容は真由美の一方的な演説のようなものになっていった。

 

「外部からの侵入者、か」

「侵入者ですか?」

 

 同盟側の論拠のなさに、浮かべていた1つのアイデアをポツリと呟いたアルバに、隣に立っていたが故に聞こえた深雪が尋ねる。

 

「ん、ああ、声に出ていたか?」

「はい。『侵入者か』とおっしゃっていましたけど……」

「そうか」

 

 勝手に納得してしまったアルバに、2人の会話に注目していた摩利は慌てて待ったをかける。

 

「待て待て、どういうことだ?」

「……俺ですか?」

「ああ。外部からの侵入者だと? 何故それがわかる?」

 

 一科生と二科生。その意識の差こそが差別を生んでおり、それは一科生の側からだけでなく二科生もまた持っている劣等感が原因なのだと。

 

 演説状態に入った真由美の話を聞きつつ、アルバは摩利の質問に応える。

 

「同盟側の理論は改革を主張するにはかなりおざなりです。だから他に何か目的があると考えられる。そしてたとえ即席とは言えこの程度の論理しか述べられない者が何かを考えつくとは思えない。そうであるならば指導者とも言える者が存在しているのではないだろうか、ということです」

 

 それが外部の者であった場合には、同盟のメンバーだけでなく外部からの侵入者が襲ってくる可能性もある、と。

 

「……市原、想定していたか?」

「……いえ。警備はこの体育館に集中しています。ですがそもそも魔法科高校の警備レベルはそれを想定しているはず……」

「あくまで予想ですが」

「そういう予想はもう少し早く言ってくれ……」

 

 予想に過ぎないから言わなくても良いだろうと思っているのがまるわかりのアルバに対して摩利は頭を抱えるが、今更何を言ったところで備えが出来るわけでもなく、先程までとは打って変わって鈴音と同様に何も起きないことを願うしか無かった。

 

 舞台袖でそんなやり取りをしているうちに、舞台上では真由美の独壇場が続く。

 

『ちょうど良い機会ですから、皆さんに私の希望を聞いてもらいたいと思います。先程から『一科生と二科生の格差をなくすための改革を行ってきた』と述べていますが、あともう一つ、生徒会には一科生と二科生を差別する制度が残っています。生徒会長以外の役員の指名に関する制限。これは、生徒会長改選時に開催される生徒総会においてのみ改定可能な規則です。私はコレを改定することを生徒会長としての最後の仕事にしたいと考えています』

 

 真由美の宣言にどよめきが起こる。それまでの数字と現状に即した討論ではなく、未来と改革に向けて宣言。それを受けた生徒たちが互いに交わす会話が落ち着くのを待って、真由美は続ける。

 

『人の心を力付くで変えることは出来ません。それは例え差別を行う優越感であってもそうだと、私は考えます。だからこそ、それを改善できるように出来るだけのことを残りの私の任期で行っていきたいと思います』

 

 満場の拍手が起こった。

 

 元々真由美は、同盟が主張している平等を否定すること無く、数字と論理を用いて現状の説明に徹してきた。そしてその上で、自分たちもまた自分たちなりに、『差別意識』という観点から平等を模索していることも説明した。

 

 そこにここまでの真由美の言葉を裏付ける形の宣言。これによって生徒たちは同盟側ではなく真由美を支持することを決め、拍手という形で賛同の意思を送る。

 

「差別の種類か。やはり面白いな」

 

 人間は常に、新しい観点をアルバに与えてくれる。変わらない表情の下でアルバは笑う。だが、事態の黒幕はそんなことを一顧だにせず、次のフェーズへと事を進めた。

 

 

******

 

 

 浮ついた空気が漂う中、轟音が窓を激しく揺らす。生徒たちがザワつく中、摩利の指示を待つこと無く、風紀委員を中心にあらかじめ決められていた同盟のメンバーを拘束していく。

 

「手の空いているものは外を警戒しろ!」

 

 他の風紀委員同様にエガリテの構成員を拘束していたアルバは、耳につけていたイヤホン越しに摩利の言葉を受けて窓へと視線を向ける。

 

 直後窓ガラスを突き破って紡錘形の物体が飛び込んできて。咄嗟に対物障壁を空中に張ったアルバは、移動魔法でそれを外へと放り出した。

  

 続けて入り口から侵入してきた数名に対して銃火器、火薬によって作用するという武器を持っていることを確認し、展開しようとしていた雷撃系の魔法の起動式を破棄し、続けて振動系を起動しようとしたところで摩利が魔法式の展開を済ませているのに気づき、魔法を中断する。

 

(大気に干渉、構成成分を偏らせて窒息させるのか)

 

「トリオン! ガス兵器は最後まで面倒を見ろ!」

「わかった」

 

 そう叫んでくる服部は、アルバが外に放り出してからガスを吐き出し始めた手榴弾のガスが体育館に流れ込まないように魔法を使ってくれている。

 

「実技棟の様子を見てきます」

「私もおともします!」

「気をつけろよ! 待てアルバ! お前はここでテロリストの迎撃だ!」

 

 体育館内の混乱もある程度方が付き、達也と深雪に従って実技棟を目指そうとしていたアルバは摩利の言葉に足を止める。

 

「あれですか?」

「他にもいるかもしれないがな」

 

 体育館の外、達也達が駆け出していったのとは反対側を指し示すアルバに摩利は頷いて、その肩を叩く。そこには、体育館へと新たに接近してくる武装した集団がいた。

 

「無理はするなよ!」

「無理とは……?」

 

 まだ距離があるうちにCADを操作し始めたアルバは、先制して武装した集団の人員それぞれの足元に小型の対物障壁を張る。

 

「うおっ!?」

「な、気をつけろ!」

「違う、何も無いのに! 魔法だ!」

 

 結果。先頭の数名が対物障壁につまずき、後続がその後ろに躓いて人の山が出来上がる。

 

「痛そうだな」

「お前がやったんだろう」

 

 こちらは何もしていないにも関わらず勝手にワイワイとしているテロリストたちに呆れつつも、摩利はアルバの独白に突っ込んだ。

 

「いや、しかし……」

「どうしたんですか?」

 

 再び大気の構成成分をいじって敵を無力化していく摩利は、アルバに感嘆の視線を向ける。

 

「対物障壁をそんな使い方するとはな」

「というと?」

「そんな小規模な対物障壁で相手を抑え込むとは、よほど空間認識能力が高いんだな」

 

 アルバが続けざまに展開した対物障壁。それぞれは一辺30センチも無いほどのそれは、まず初めにテロリストたちの足元に展開されて彼らの足を取り。彼らが転んだ後にはその背中側に彼らを抑え込むように展開されて、難なく彼らの動きを奪った。

 

「精密な魔法の使い方を練習しているので」

「そういうことでもないんだがな」

 

 発想を褒めたにもかかわらず技術に関して応えてくるアルバに苦笑しつつ、摩利は通信端末へと目を向ける。

 

 その間に摩利の指示を受けて気絶したテロリスト達の腕を縛りつつ、アルバは彼らの手元を探った。

 

「またか。これは一体、どう手に入れているんだ? 竜でも捕らえられているのか?」

 

 敵のうち数名の指に嵌められていた指輪。そこについていた石は宝石などではなく、アンティナイトと呼ばれる、魔法に対抗する手段の1つに数えられる鉱石だ。それを以前見つけたアルバは気にかけていたのだが、再びそれを見つけたというわけである。

 

「アルバ! 拘束が終わったら移動するぞ!」

「委員長、これはどうしますか?」

 

 通信を終えた摩利が話しかけてくる中、アルバは彼らの手元から回収した複数のアンティナイトを摩利に見せる。

 

「これは、アンティナイトか? それもこんなに……」

「一応回収しておいたのですが、どうしますか?」

 

 他にもテロリストたちの身体を改めて銃やナイフ等武装は解除させている。どこぞの部隊、というよりは有り合わせの武器で武装した素人のようで、武器もまちまちであり、中には拳銃しか持っていないものもいた。

 

「全員手は拘束しているな? なら良い、人をよこすように言っておく。それよりアルバ、まだ戦えるか?」

「戦えます」

「なら行くぞ。敵の増援だ」

 

 直前に摩利が受けていた通信の主は真由美だった。彼女が言うには、服部とともにテロリストに対処していった彼女らは校門まで敵を押し返し、そこで銃火器を持った敵と撃ち合っているらしい。

 

 簡単な説明の後に、摩利は自己加速術式を。アルバは自分を一個の塊とみなした移動魔法をかけて移動する。

 

「随分と大雑把な魔法だな」

「色々と試している最中なので」

「そうか。行くぞ!」

 

 身体に負荷がかからないような加速と減速、その他抵抗の軽減など、自己加速術式は人によって差はあれど必ず複数の工程で実行される。一方アルバが使っている魔法は、加速の単一工程。一番最初の作用で身体を加速させて放り出すだけのものだ。

 

 魔法科高校の生徒が見れば眉を潜めたくなるような魔法の使い方だが、その分発動までのラグは限りなく短い。

 

「っ! 待てアルバ!」

 

 結果として、校門付近に到着し、そのまま敵の真っ只中に飛び込んでいくアルバに対する摩利の制止は間に合わず。

 

 敵が銃を撃っている中に乗り込んでいったアルバは、対物障壁をCADを連続して操作することで空中に複数生成しつつ、それをうまく障害物として利用してヒットアンドアウェイを敢行した。

 

「アルバくん! 無理はしないで!」

 

 複数人で手分けして魔法による学校の防衛とテロリストへの攻撃を行っていた真由美がそう叫んでくるものの、敵との戦いに一切の危険を感じていないアルバは真由美の言葉を受けた上で戦いを続行する。

 

「あのバカ……! 俺が障壁を張ります!」

「待て服部」

「何故です!? 危険ですよあのままでは!」

 

 乱雑に展開していて魔法の行使が追いついていないように見えるアルバを見て、直前の彼の戦いを知らない真由美と服部は、それを突っ込んだは良いものの実戦の緊張に固まっているのだと判断した。

 

 だが、直前にアルバの障壁魔法の使い方を見ていた摩利には、アルバは全く別の世界を見ているのだろうと想像できる。

 

「あいつの空間認識能力ははっきり言って異常だ。おそらくあいつは自分を守るための対物障壁ではなく、バリケード代わりに障壁を築いているんだ。その位置を把握しているからあんなに動き回れる」

 

 摩利が示す先では、アルバがところどころで動きを止めつつテロリストに向けて空気弾をバンバンと打ち込み、隙を見て懐まで踏み込んでは蹴りで無力化していっている。よほど並行作業に慣れているのか、常にCADを操作し続けている手と足がまるで独立しているかのようにそれぞれの作業をこなしていた。

 

「しかし!」

「わかったわ摩利。けれどアルバくんばかりを危険には晒せない。早く終わらせるわよ」

「わかってる。あいつが注目を引いてくれているうちに終わらせるぞ」

 

 その後。前に出て動き回るアルバにおびき出されるようにバリケードから顔を出したテロリストに対して、服部に防御を任せた真由美のドライ・ミーティアと摩利の大気操作が大いに効力を発揮していく。

 

「っぐ、コイツら強いぞ!」

「アレを使え!」

「りょ、りょうかい!」

 

 次々に無力化されていく味方に焦ったのか、テロリストの数名がバリケードの影から腕を突き出してきた。

 

 直後、その指に嵌められていた指輪が一斉に発光し、そこから超音波のようなものが放たれる。

 

「キャスト・ジャミング!?」

「コイツらも持ってるのか! っ! アルバ!」

 

 ゼロ距離で向けられているわけではないので行動不能になるほどではないものの魔法の行使に影響を来たした摩利は、顔をしかめつつも最前線に立っていたアルバへと視線を向ける。距離を取れている自分たちと違って、アルバは魔法が使えなくなればすぐさま撃たれうる。

 

 そう考えた摩利は、眼前の光景に一瞬固まった。

 

「何!?」

「あんなサイオン量、嘘でしょ……?」

 

 キャストジャミングの中。アルバは何の問題もなく魔法を使い続けていた。

 

「馬鹿な!? キャストジャミングが効かないだと!?」

「もうだめだあ!おしまいだあ! 勝てるわけがない!」

 

 虎の子のキャストジャミングを突破されたテロリスト達が及び腰になる中、それまでと変わらず体術と魔法を並行して使いつつテロリストを制圧していくアルバに、攻撃を向けられるテロリストだけでなく、背中を見ているはずの真由美達すら背筋に寒いものを感じる。

 

「魔法式が、あんなに濃く……」

「サイオン量で強度を上げているのか? そんな技術聞いたことが無いぞ……」

 

 真由美や摩利、鈴音達が驚愕とともに見つめるそれ。アルバの書いた魔法式は、その強度をもってキャストジャミングの干渉波を無効化しているのだが、その魔法式が、通常見られるものと比べて色濃く見えているのである。

 

 それは、サイオンに対する感知能力をもっている魔法師だからこそ見えることであった。通常、キャストジャミングに対抗するには、『高い干渉力によってジャミングを無視する』という方法が取られる。というより、それしか今のところ対抗手段が存在していない。

 

 それに対してアルバのしているそれ。結果としてはジャミングの影響を強度で無視しているのは同じなのだが、アルバは干渉力という観点ではなく、魔法式そのものの強度を『サイオン量と密度』によって高めるという荒業でやってのけたのだ。

 

 それは言わば、紙の上にインクで書いた文字が水で滲んでしまうならばと、机ごと文字を刻み込んでしまうようなものだ。深く深く刻まれた文字は、上辺を何かが撫でたところで揺らぐことはない。

 

 結果として、重複する干渉波の中で、アルバの魔法は一切問題なく効果を発揮し、全てのテロリストを無力化した。

 

「……片付いたな」

「……ええ。他も終わったみたい」

 

 摩利がアルバが叩きのめしたテロリストたちを拘束しているのを見ながら呟く一方で、真由美は先天的に有している遠隔視系知覚魔法のマルチスコープによって見ていた学内の動向を見つつ、他の場所も終わったようだと応える。

 

 初手で襲撃を受けた実技棟は外壁を焦がし、衝撃によって室内にも多少の損傷。本棟はなんとか守りきったものの、あちこちでテロリストとの戦闘が行われていた。

 

 だが、それらも全て終わったのである。敵の主目的であった図書館も達也達が制圧している。

 

 同盟、そしてテロリストの襲撃は、第一高校の生徒、教員らの手によって完全に制圧されたのである。


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