魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第31話 気に入らないもの

「小野先生?」

 

 達也の開けた扉の先に人影を認めて真由美が思わずといった風に呟く。

 

「……九重先生秘蔵の弟子にはやっぱりばれちゃうか」

「本気で隠れるつもりもなかったでしょう。気配が漏れてました。あまり嘘ばかりついていると、自分の本心すら嘘に思えてしまいますよ」

 

 苦笑い混じりで達也に話しかけたのは、カウンセラーとして第一高校に務めている小野遥である。達也に招き入れられた彼女は、他の者達が見守る中、ベッド上で体を起こした紗耶香の正面に屈んで目線を合わせた。

 

「もう大丈夫のようね。ごめんなさい、力になれなくて」

「小野先生……」

 

 遥は遥で、カウンセラーという生徒のメンタルをケアする職業のものとして、紗耶香のように二科生というだけで認められず傷ついたものになにか出来ないかと考えていたのだ。結局それは手遅れでブランシュに漬け込まれて利用されてしまったが、紗耶香は彼女のせいではないとその謝罪に首を横に振った。

 

「遥ちゃんがブランシュってやつの居場所を知ってるってことか?」

 

 紗耶香との短いやり取りを終えて他のメンバーに遥が向き合う中、誰とも向けずにそう質問が飛び出す。

 

「ちゃんづけなのか」

「あれ、アルバ知らないのか?」

 

 達也も思った疑問を、疑問を口にすることにためらいの無いアルバが口にしてくれたことで達也は開こうとしていた口を閉じる。

 

「うちのクラスの連中は皆そう呼んでるぜ? 遥ちゃんもそれで良いって言ってるし」

「そんな呼び方してるのは一部の男子だけでしょうが。騙されちゃだめよアルバ」

「そうか」

 

 レオとエリカにそう説明されてとりあえずの納得を示す。ちなみにアルバのクラスにも達也らE組同様にカウンセラーが2人いるが、女性の方も遥とは違って少々きつい印象のある女性なので遥ちゃんのような可愛らしい呼び方はされていないし、そもそも他の男子とまともな交流を持てていないアルバはあったとしても知らない。

 

「A組にはありませんよ」

 

 視線を向けたアルバの機先を制した深雪の回答にアルバは納得を示して黙っておくことにした。話の本題はそこではないということには問を投げかけてから気づいたのだ。

 

「さて、小野先生」

「遥ちゃんで良いのよ?」

 

 気を取り直して問いかける達也の言葉に話題の本人からボケとも本気とも取れない応えが帰ってくるが、無視して問いかける。

 

「今更知らないふりというのはいかがなものかと思いますが」

「ノリが悪いわね」

 

 アルバがちゃんづけに疑問を呈しているうちに動揺から立ち直っていた達也は遥の酷評に揺さぶられることなく、白けた視線を向けた。

 

「……わかったわよ。地図をだしてもらえる? その方が早いから」

 

 達也が取り出した情報端末と遥の情報端末の間で指向性光通信によるやり取りが行われ、展開したスクリーンに座標データに従った地図が表示される。

 

「ここはどこだ?」

「……街外れだな」

 

 乗り込んで叩き潰すという達也の言葉に未だに納得の行っていない摩利がそれでもアルバの疑問に答えてくれる。生憎とまだ学校周辺と家の周りの地理ぐらいしか完璧ではないので、現在地からの距離などが数字として見えないとはっきりと理解できないのだ。

 

「目と鼻の先ね」

「随分と舐められたもんじゃねえか」

 

 一方こちらは達也と叩き潰す発言に納得しているレオとエリカで、学校を襲ったテロリストの本拠地が学校から徒歩でも1時間かからない位置にあると知って苛立ちを見せる。自分の感知範囲内に自分を討伐するためのキャンプ地を建てられるようなものだろうか、とアルバは過去の経験から彼らの苛立ちを理解した。

 

「バイオ燃料の廃工場……環境テロリストの隠れ蓑であることがバレて放棄された場所のようですね」

「……放置されていたということは劇毒物の持ち込みは無しか」

「ええ。私たちの調査でもBC兵器は確認されていないわ。だからこそ放置されてまた利用されているんだけど」

 

 克人の呟きに、遥も自分がカウンセラーである以上になにかであるということをほのめかす調査結果を返す。もっとも、現代社会の魔法師というのはそれぞれに裏の顔があったり単独のなにかに所属していることの方が少ない。職場に所属すると同時に魔法師の家系に所属している、というのはまだわかりやすい方だ。

 

「車の方が良いだろうな」

「魔法では探知されるからですか?」

「どちらにしろ探知はされるだろう。あえて近くに居を構えている以上、あちらは俺たちを待ち構えていると考えて良い」

 

 達也が自分を当事者として、「テロリストにこちらから仕掛けて叩き潰す」と宣言をしたのは、達也自身だけは、テロリストの狙いが自分にもあるということを理解していたからだ。テロリストは図書館のデータバンクを通して非公開の魔法技術を強奪しようとしていた。ならば、彼が風紀委員の活動で見せざるを得なかったあの技術も狙っている可能性が高い。何より、一度ならず数回に渡ってエガリテのメンバーから魔法による攻撃を受けたことがそれを裏付けている。

 

「正面突破ですね?」

「それが一番敵の意表をつけるだろうな」

「正面突破か。そういうのは得意だぜ」

「それしか出来ないでしょうが。あんたは脳筋なんだから。ま、あたしもそれで良いわよ」

「なんだとぉ!?」

 

 深雪に加えてレオ、エリカまでもが好戦的な台詞を口にするにいたり、摩利が頭が痛そうにため息を吐く。助けを求めるようにアルバの方に視線を向けてくるが、アルバとしては答える言葉を持たない。思い返すとさっき誰が行くか話しているときに、達也と深雪の関係性について深く考え込んで反応しなかった覚えがあるのだ。

 

 と、それを不審に思ったのか、真由美がアルバに問いかける。

 

「アルバくんはどうするの?」

「……どちらでも。俺は風紀委員ですので、指示に従います」

「そう、なら」

「ですが」

 

 ようやく大人しい一年生がいると安堵の息を吐こうとした真由美だが、アルバに言葉を遮られて固まる。

 

「俺は洗脳というのが嫌いなので。許可が出るのであれば叩き潰してやりたいとは思う」

「……なら許可は出せません。アルバくんは不参加です」

「わかった」

 

 アルバから漂う殺気を感じて、真由美はアルバにだけは許可を出さないことに決めた。達也は、自分の障害、邪魔になるものを排除するという、攻撃性の欠けた排除の意思を感じた。だからこそ排除さえすればやりすぎることはない。

 

 だがアルバのそれは、下手をすれば下手をすると感じさせるほどのもので、感情の籠った攻撃に真由美は許可は出せなかった。

 

「なら車は俺が用意しよう」

「えっ、十文字君も?」

 

 行くの、と省略された問いにアルバを除いた全員が同じように疑問の表情をする。克人は先程達也が攻撃を意思を見せた際に、達也を含めた生徒の参戦を否定していたのだ。部下を安全なところにおいて自身で戦う、などと夢を見るような人物にも到底思えず、全員の疑問は当然のものだった。

 

「十師族は十文字家に名を連ねるものとして、これは当然の務めだ。そしてそれ以上に、俺もまた一高の生徒として、幹部として、この事態を看過することはできん。何より下級生だけに任せておくわけにもいかんだろう」

「なら」

「お前は駄目だ、七草」

「真由美、気持ちはわかるがこの状況で生徒会長のお前が不在になるのはまずい」

 

 立場を持ち出した同級生2人の説得に真由美も頷かざるを得ない。

 

「……わかったわ。でもそれなら摩利、あなたもダメよ。残党がいる可能性もまた襲撃がある可能性もあるんだから、風紀委員長の貴女に抜けられたら困るわ」

 

 そして今度は摩利が立場によって頷く番だった。

 

 本音としてはどちらも参戦したい。相手は第一高校の生徒を洗脳したテロリストで、まだ攻撃される危険がある上に報復もしなければならない。それを立場で抑え込んで、2人は克人と一年生達に任せたのだ。

 

「司波、今日行くのか? このまま行くと夜間戦闘になる可能性があるが」

「それほど時間はかけません。日が沈む前には終わります」

「そうか」

 

 毅然とした態度の達也に感じるものがあったのだろう。克人はそれ以上は何も言わず、車を回すと言って保健室から出ていった。

 

「では俺たちも」

「行くか?」

「ああ」

 

 真由美達に一礼した達也と深雪に続いて、レオとエリカも保健室を後にする。後に残されたのは、立場の都合上出ることが出来なかった真由美と摩利、そして真由美に止められたアルバと、状況についていけていない紗耶香だけだった。

 

「しかし、意外だな」

「何が?」

「いや、アルバくんが残ったのがな。君なら達也くん達に着いていくものかと思ったが。真由美も何故止めたんだ?」

 

 摩利によって放たれた問に真由美が答えに困っている間にアルバが答える。

 

「俺は風紀委員ですので、判断を聞いただけです」

「ほう。ということは君自身は行きたかったのか?」

「……わかりません」

 

 わからない。それが正しく今のアルバの感情だ。

 

 アルバは洗脳が嫌いである。というと語弊があるかもしれない。言葉をもって人を誘導し、自分の意思を通す、というのもまた、人の行動であるとアルバは認めている。ただそれらと今回の件の間には明確な差があった。

 

 それが、アルバの目には見えていたプシオンの淀みだ。あれは、言葉で長い時間をかけて行われた洗脳などでは見られない症状なのだ。それが紗耶香に見えていたということは、紗耶香に対する洗脳は、言葉や行動を費やしたものではなく、何らかの術、魔法によって瞬く間に行われた可能性が高い。

 

 そして人のあらゆる行動を興味深いものとして好み観察するアルバにとって、人の意思を不自然に歪めてしまうそれは唾棄すべきものなのだ。

 

「わからない?」

「気に入らないのは事実ですが、それを敵を叩き潰すことによって、吐き出す、発散するというのが適切かは判断しかねます」

 

 アルバは、その術、魔法による洗脳を嫌っている。その嫌っている、という感情をどこに向ければ良いのか、というのは、今のアルバは、まだ知らない。

 

 

 

 いつまでも保健室いては紗耶香が落ち着かないだろうと、アルバ達3人は保健室を出る。

 

「帰っても良いですか?」

「いや、事態の収集がつくまで待機しててもらう必要がある。取り敢えず保健室の見張りを頼む」

「わかりました」

 

 今現在保健室にいるのは、紗耶香だけなので、実質紗耶香を見張っておけという指示だったが、アルバも摩利もそれは口にしなかった。

 

 他の者達は大きな怪我が無いためにまた別の場所で拘束されていて、風紀委員や部活連の実行部隊、そして生徒会メンバーなどから監視されている。紗耶香は事情聴取中に逃げ出すことは不可能なので見張りをつけていなかったが、終わった以上は見張りが必要だ。

 

「私と真由美は一旦生徒会室に戻る。何かあったら連絡してくれ」

「え、私も?」

「当たり前だろう。司令本部、というとあれだが、今はあそこが情報の中心だろう」

 

 先程の問いかけから少し上の空に思える真由美に摩利は心配になったが、後輩の前でそれを問いただすわけにもいかないと、摩利は真由美を促して生徒会室へと向かった。

 

 

 

******

 

 

 

「さっきからどうしたんだ、真由美」

 

 生徒会室へと向かう道すがら、摩利は真由美の様子が気になってそう問いかけた。

 

「どうした、って、どうしたの摩利」

「さっきから微妙に上の空だっただろ。アルバくんは気づいていなかったようだが、私の目は騙せ無いぞ」

 

 確信を持った摩利の言葉に、真由美は苦笑する。

 

「わかる?」

「わかるさ」

 

 それ以上の追求をすることなく話してくれるのを待っていると、生徒会室の近くについてようやく真由美が口を開いた。

 

「ちょっとね。アルバくんについて考えたのよ」

「アルバか? あいつがどうかしたのか」

「どうかした、というわけではないわ。けど、よくわからなくて」

 

 よくわからない。それが真由美がアルバに感じたことだった。この感覚を正しく共有できるのは、人は無駄の上に叡智を積み上げてきたと語る彼の言葉を聞いた紗耶香と自分ぐらいだと真由美は思っている。思っているからこそ、それをうまく摩利に説明が出来ない。

 

「確かによくわからないやつだが……あいつのはいわゆる天然のようなものだろう。私は達也くんの方がわからないな」

「達也くん……確かに、達也くんもそうね。テロリストを叩き潰すなんて、生徒の口から出てくるとは思わなかったわ」

「だろう? そんな達也くんよりアルバについて悩んでいたのか?」

 

 摩利の話にのって話題を変えたつもりが、元の話題に戻ってきてしまった。観念した真由美は正直に話し始める。

 

「一度、皆に外に出てもらったでしょう?」

「ああ。あのときか。お前とアルバだけが残った」

「そう」

 

 そのときのことを思い出すと、今でも僅かに身震いするような感覚がある。

 

「そのときにアルバくんが壬生さんに言ったのよ。『人は無駄なものを積み重ねることで進んできた。心も無駄なものでしかない。そんな無駄なものから、人は叡智を得て社会を作った。だから無駄と嘆くのではなく、無駄にしないと考えろ』って」

「……それをアルバが言ったのか」

 

 意外な内容に摩利は驚くが、真由美が言いたいのはそこではなかった。

 

「その時のアルバくんの様子が、いつもと違ったの」

「様子が?」

「そう。うまく説明出来ないけど、それが怖く思えちゃって。だからアルバくんが叩き潰すって言ったとき、達也くんが言ってるのとは全く違うように思えてしまったから彼には許可しなかったの」

 

 達也のそれは、敵を打倒する、というのが真由美でもわかったが。アルバの叩き潰すからは。敵の存在を許さない、とでもいうような畏れを感じた。

 

「なるほど。達也くん達は止めないでアルバだけ止めたのはそういうわけか」

「達也くんは止めても止まらなかったでしょうけど、アルバくんは私たちに許可を求めてきたから、許可を出さないことが出来た」

 

 でなければ、止まったかどうかわからない、と真由美が思っているのは摩利にもわかった。

 

「そうか……まったく、今年の1年は血の気が多いな」

「摩利、あなたが言えたことじゃないでしょう?」

 

 若干ふざけた摩利の言葉に、真由美が的確に突っ込む。そしてひとしきり笑った2人は、改めてそれぞれのやることへと向かった。




1年ぶりです、お久しぶりです。
九校戦のバスが出発する直前まで書けています。取り敢えずこちらともう一話で原作1,2巻分は終わります。
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