魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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なんか42話まで書いてるのに更新を忘れていたらしいです。
申し訳ありません。


第33話 九校戦へ‐1

 西暦2095年、7月中旬。

 

 アルバが通っている第一高校では、先週に生徒たちの懸念であった一学期の定期試験が終わったことで、生徒たち、特に一科生のエネルギーは夏の九校戦準備へと向けられていた。最もその価値を正確に理解しきれていないアルバは、かつての記憶を頼りに国内の闘技大会のようなものかと大雑把な認識をしている程度だったが。

 

「つまり、日本中の魔法師の卵の中でも優秀な人達が集まって競う大会、ということ。アルバはその中でも活躍できる、と思う」

「そうか」

「雫は九校戦大好きだもんね」

「去年までは見るしか出来なかったから。今年は私も参加できる」

「3人共成績良いから九校戦も選出されるんじゃない? 入試首席のアルバはともかく、雫もほのかも成績良かったでしょ」

「すげーよな3人共。司波さんも一番だったし」

「すごいですね皆さん」

 

 トリオン・アルバと北山雫と光井ほのか。いつもの1-A四人組から司波深雪を抜いたメンバーに、E組の西城レオンハルトと千葉エリカ、そして柴田美月を加えた6人。学校内での一科生と二科生の関係を考えると異色のメンバーが、生徒指導室の前の廊下に集まっている光景は少しばかり異様だと言える。

 

 だがこの6人が生徒指導室の前に集まっているのにはもちろん理由があり、彼らの共通の友人が定期試験の結果に関わる話で生徒指導室に呼び出しを受けているのだ。特にその友人と関係の深いのは深雪だが、彼女は生徒会役員として九校戦の準備で生徒会室に向かわなければならず、代わりにアルバと雫、ほのかの3人がこうして来て、待っているE組の面々と交流を深めているのである。

 

「お、達也」

「レオ……それに皆も、どうしたんだ揃って」

 

 少しの間、一科生二科生それぞれの観点からテストの話や九校戦の話をしていると、ついに待ち人が生徒指導室の扉から出てきた。自分を待っている相手がいると知らなかったその友人、司波達也は、驚いたふうな言葉とは裏腹に表情を変えずに話しかけてきた。

 

 

 達也が出てきたことでおおよそいつものと言えるメンバーが揃ったが、そのために先程まで以上に目立っている。指導室は教職員用のフロアにあるので、生徒が使う教室がある棟、階ほどに生徒の人通りは無いものの、それでも生徒が全く通らないというわけでもない。通りかかる上級生、同級生に限らず、集まる7人をジロジロと、あるいはさり気なく見ていく。

 

 それも集まっているメンバーそれぞれを考えれば無理がないことではある。

 

 一年生の首席入学、それも例年のように一人ではなく2人首席の片割れであり、風紀委員会に所属しているアルバ。同様に風紀委員に選ばれた達也とともに、新入部員勧誘週間で多数の違反者を取り押さえ、その実力を示した。ついでに言えば、部活連会頭の十文字克人ほどではないものの恵まれた身長と、どこか日本人らしくない顔つき、そして後ろで縛った黒髪と容姿の面からもかなり目立っている。

 

 そして二科生ながらもアルバとともに風紀委員に抜擢され、新入部員勧誘週間ではアルバ以上に違反、攻撃の対象とされながらも、それを捌いて二科生からの選出が贔屓ではなかったことを示した達也もまた、その名が同級生上級生問わず広まっている有名人だ。その後のテロ組織に対する活躍については秘密とされているので知る者は少ないが、新入部員勧誘週間の活躍だけで注目を集めるには十分な程の活躍だった。例年ならば上級生の風紀委員が活躍することを、一年生のそれも二科生が意図的な邪魔を受けながら解決したのは非常に目立っている。あるいは、アルバよりも実績だけならば目立っていると言えるだろう。

 

 そんな達也とよく一緒にいるエリカは、十人が十人とも認めるであろう陽性の美少女。新入部員勧誘週間ではその容姿だけで多数のクラブの勧誘にあったほどだ。彼女の剣術での実力を知らなくても、容姿だけで注目されるほどのものを持っている。

 

 美月も普段はエリカや深雪と一緒にいるためにそこまで目立っていないものの、顔立ち自体は大人しげな美少女で、主に上級生から密かな人気がある。

 

 レオもまた、全体的にスタイルや顔が均整になりやすい魔法師の中でも純粋な日本人風ではなく、ゲルマン的な彫りの深い顔立ちと体育などで見せる卓越した運動神経が女子の間で「ちょっと気になる男子」という割と他の男子からすれば羨ましい地位を確立している。

 

 雫とほのかも、1年一科生の中でも上位5人に入るほどに優秀な成績とそれぞれに系統が違う可愛らしい容姿で目立っている。

 

 

 総じて、このメンバーが一同に会していて目立たないはずがないメンバーだ。

 

 それでも今は、いつものメンバーの中では圧倒的に容姿で目立つ稀代の美少女である深雪がいないので、チラチラと見る視線が少ない方なのだ。これが深雪がいると、彼女を見るためだけに向けられる視線が倍以上に増えることになる。

 

 もっとも、集まっているメンバーは一人ならばともかく数名でいるのでそんな視線を気にも止めていない者ばかりなのだが。

 

「どうしたってのはこっちの台詞だぜ。指導室に呼ばれるなんていったい何したんだよ」

 

 レオの答えに達也は納得した表情を見せた。アルバからしてみれば、学校という生徒を教育する場で指導室に何か問題があるのか、という感想であったが、今達也が対象になっていた以上は下手なことを言うべきではないと黙って聞いていた。

 

「実技試験のことで訊問を受けた」

「訊問とは穏やかじゃねえな。普通に質問とかじゃなくてか?」

 

 達也の答えに、レオだけでなくアルバを除く全員の雰囲気が固くなる。

 

「あれは質問などという優しいものでは無かったと思うが……要約すると、実技で手を抜いてるんじゃないかと疑われたようだ」

 

 達也の答えにまずエリカが憤慨する。

 

「何それ? そんなことしたって何のメリットも無いじゃない。それを達也くんがしたって何を根拠に言ってんのよ。ばっかみたい」

 

 エリカの発言は全くもってその通りである。点数をあげるためにカンニングや実技試験の場合は機器に対する不正等をするならともかく、あえて点数を下げることに意味はない。それこそ実力を隠そうとするような特殊な状況でなければ。

 

「学校側としては疑わしきは調査する必要があったのだろう。達也が理論の成績が飛び抜けてよく、それでいて実技が低かったのは事実だ。手を抜いていないかという問いかけは擁護出来ないが、原因の解明は教師としては必要なことだったはずだ」

 

 達也を下げる方向に関して下手なことを言うべきではないと口をつぐんだアルバだが、とはいえ教師にばかり問題がある、というエリカの考えにはアルバなりの考えで訂正をする。

 

「なんでよ?」

 

 エリカが不機嫌そうに食って掛かるので、アルバはそれに対して言葉を選びながら自分の考えを示す。

 

「魔法がまだ発展途上の学問であり、同時に魔法師が国防にかかる重要な戦力だからだ」

「そりゃあそうだけど……今回の件と関係ある?」

「アルバは、達也さんが特殊な例である可能性があったから、その詳細を調査するべきだ、って言いたい?」

「教育機関としての魔法科高校ならそうするのだろうと思う。常に最適な教育の形を探るのは教育機関の義務だろう」

 

 雫が出してくれた助け舟にアルバは頷く。

 

「ここの教師はそこまで考えてねえと思うけどな」

「そうか?」

 

 アルバの考えに一定の理解を示しつつも、レオはあまり納得が行かないようである。もっともこのあたりは制度的に優遇されている一科生と、制度的に冷遇され、そして一科生からも見下されているのを感じている二科生の間で学校側に対するイメージが大きく違うのも関係していくるので一概にどちらが正しいとは言えないのだ。アルバはそういう観点があると伝え、レオは普段や今回達也に「手を抜いていないのか」という問いかけをした学校側のを信頼できないと答えている。

 

「でも、先生がそう思いたくなる気持ちも、わかる気がする」

「どうしてですか?」

 

 空気を切り替えるように呟いた雫の言葉に美月が小首をかしげた。

 

「それだけ達也さんの成績が衝撃だったってことです。深雪は達也さんなら当たり前だって言ってましたけど、3人で凄いって話してたんですよ」

 

 ほのかの言葉に、自慢気にする気も慣れずさりとて自分の点数を考えると謙遜も嫌味であり、達也は答えに窮して苦笑いを浮かべるにとどめた。

 

 

 さて、ほのかが言った達也の定期試験における衝撃的な成績であるが、その説明に前にまず、第一高校の定期試験の形態について触れる必要がある。

 

 第一高校の、というよりは全国に9つある魔法科高校の定期試験は、魔法理論等の記述式テストと、魔法の実技テストによって評価される。一方語学や数学、科学などの一般の高校でも習う科目だが、魔法科「高校」という名称を持っているものの魔法科高校は『魔法師を育成するための教育機関』の側面が強く、そうした一般科目については普段の授業での課題提出によって評価がされるようになっている。魔法以外の面で生徒を競わせるのは魔法科高校としては本意ではないということだ。

 

 そして記述式テストが行われる魔法理論等は、必修となるのが基礎魔法学と魔法工学、選択科目に魔法幾何学、魔法言語学、魔法薬学、魔法構造学から2科目、魔法史学、魔法系統学から1科目の計5科目でのテストとなる。

 

 ちなみにアルバは、学校の履修では魔法幾何学と魔法構造学、そして魔法系統学を取りつつも、それ以外の科目についても八雲に入手してもらった資料や第一高校の図書館の書籍を利用して学んでいる。知識欲というのもアルバの数少ない欲であった。

 

 一方の魔法実技だが、これは普段の実技科目や入試でやった内容と大きな変わりはなく、魔法式を構築する速度を見る処理能力、構築できる魔法式の規模であるキャパシティ、そして魔法式が事象に付随する情報体(エイドス)を書き換える能力である干渉力の3つを合わせて評価を行う。

 

 これら実技試験、記述試験、そして総合点の成績上位者はそれぞれ学内ネットで公表される。

 

 総合、実技ともに、1位が深雪、2位がアルバ、で、雫とほのかは実技で多少変動するが、雫が総合4位で実技が3位、ほのかが総合3位で実技が5位となっている。ちなみにアルバが2位となり実技の点数もかなり落ち着いたものとなっているのは、一学期の学校生活で実技科目やクラブ活動の見学などを通して、アルバが人間基準を学んだためである。要するに加減がうまくなったために、適度に深雪の下あたりに落ち着いているのである。他にもA組が軒並み上位を占めておりそれに教師陣が頭を悩ませているのだがそれはさておき。

 

 

 今回達也が呼び出しを受けたように問題となっているのは、記述、理論だけの順位だ。

 

 一位、E組、司波達也。

 二位、A組、司波深雪

 三位、E組、吉田幹比古。

 五位、A組、トリオン・アルバ。

 

 ここにいえるメンバーだと他に、4位にほのか、雫が11位、18位に美月で20位にエリカ。レオはランク外となっている。

 

 見れば分かる通り、二科生であるE組が上位3人中2人を締め、更に公表されている達也の点数に至っては、合計点ではなく平均点で10点以上2位の深雪と離している。

 

 魔法科高校の評価、一科生と二科生の区分には実技の成績が大きな比重を占めているので二科生が理論で点数をとってもおかしくないと思うかもしれないが、魔法に関しては使えなければ理論が理解出来ない、理解しづらいものも多数存在する。そのため、本来例年であれば理論でもこのような点数になるのがおかしいのだ。

 

「いくら理論と実技は別だといっても、限度がある」

「でも達也さんが手抜きなんて考えられません!」

「そんなことは雫もわかってますよ」

「私達はわかってても、先生たちは達也くんの人となりを知らない、ってことね」

 

 雫の言葉に美月が若干むきになるが、それをほのかとエリカが補足してなだめる。

 

「そうだなあ……教師も端末越しにしか俺等のこと知らねえだろうし……」

「実際、点数がおかしいから問い詰めてやろうと呼び出した様子だったな向こうも」

 

 手を抜いたのではないか、と詰問するばかりで普段の素行などから攻めてくる様子の無かった教師を達也は思い出していた。現代の各生徒が端末でそれぞれに学習を進めるというスタイルでは、教師と生徒が顔を合わせることすら無い。だから人格的、性格的なことは把握しづらいというのが現代式教育の欠点ではある。

 

「じゃあ遥ちゃんに相談してみたらどうだ? 学校との揉め事とかカウンセラーの仕事だろ?」

「小野先生とは昨日既に話しているんだ。実は、今日の呼び出しのことも概要は聞いていた」

「当てにならないわね」

「もとより新米カウンセラーにそう大した権限は無いだろう。それを教えてくれただけで十分だ」

 

 達也の方がよほど酷いことを言っているがそれはさておき。小野遥、カウンセラーという単語を聞いて、昨日のことを思い出した雫がアルバの方を向く。

 

「そう言えば、アルバも昨日カウンセラーに呼び出されてた?」

「ああ、放課後に少し話をしてきた」

「アルバも? 成績優秀なアルバが呼び出されるとは思えないんだけど」

「なんかやらかしたのか?」

「……達也よりも信用が無いように思えるが」

「アルバは時々ズレてるから変なことしそう」

 

 指導室への呼び出しで心配されていた達也とは違い、アルバに対しては全員若干辛辣である。これまでの行動で、アルバは若干天然で世間知らずなところがあると認識されており、それで何か問題を起こしたかと考えられたのだ。

 

「と言っても大した話ではない。入試から実技の成績がほとんど伸びていないからどうしたのかと聞かれただけだ。達也と違ってカウンセラーだったのはまだ問題視するほどではないという判断だろう」

「実技の成績、ってあんたそう言えば首席だったわね。深雪は忘れないのになんかあんたは忘れちゃうわ」

「で、でもアルバ、実技の成績2位だったよね? 定期試験の成績で」

「もともとかなり高かったから、変化がなくても成績は良かったということだ」

 

 アルバの説明に、今度はああと納得の声が上がった。ここには一科生も二科生もいるが、特に二科生は卒業まで成績が上がり続けたところで入試の頃の深雪よりも魔法力が高くなるとはもともと思っていなかったし、一科生の雫もほのかも、普段の授業からアルバと深雪の魔法力の高さは理解している。

 

 高校一年生の魔法力が、一線で活躍する魔法師よりも高い。そんなことがありえるのが、血統によってエリートを生産してきた魔法師の現実だ。

 

「じゃあアルバはその話を聞かれただけか?」

「何かあったか? と聞かれたから『特に何もしていないから上がっていないと思う』と答えた」

 

 続くアルバの答えに、全員の表情がひきつる。

 

「アルバ、何もしていない、というのは?」

「元々入試の段階で、複雑な魔法式の構築力はともかく、通常の魔法の発動速度などは極めていると自信があったからな。そこから大きな変化がなかったのだから、大きな成長も無いだろうという話だ」

 

 入試の前から魔法の使用の練習をしてきた、というのはアルバの高い魔法力に対するいい訳である。それ以上に良い言い訳が思いつかなかったのもあるし、魔法師はそれぞれ術式など隠しているもので探りすぎるのはタブーとなっているので、その説明だけでだいたいは十分だろうという八雲の判断もあり、この言い訳をしていた。

 

「そっちの方が誤解招かない?」

「む? いや、おかしな表情をしていたが特に何も言ってこなかったぞ」

「それ絶対変に思われてるよ!」

「そうか?」

「絶対にそう」

 

 エリカ、雫、ほのかのトライアタックでアルバに自分の言葉がおかしかったということを理解させたところで、今度は美月が思い出したように達也に問いかけた。

 

「そう言えば、達也さんは大丈夫だったんですか?」

「呼び出しのことか? それなら誤解は解けたよ。一応ね」

「一応、ですか?」

 

 美月の疑問に、達也は気が進まないような表情と口調で説明を付け加えた。

 

「手抜きじゃないと理解はしてもらえたが、代わりに第四高校に転校を進められたよ」

「転校!?」

「転校、ってなんでですか!?」

 

 達也の言葉に血相を変えたのは美月とほのかだが、アルバを除いた他の面々も驚いた表情をしていた。

 

「第四高校というと、魔法工学に力を入れている魔法科高校、だったか?」

「ああ。理論しか出来ない俺はそっちの方がむいてるんじゃないかと言われたよ。もちろん断った」

 

 アルバの言葉を肯定しつつ達也は断ったという事実を説明するが、未だレオとエリカの好戦的な2人は憤慨した様子を見せている。学校側から転校を促すとはつまり、第一高校から出ていけと行っているのと同義なのだ。

 

「実技が苦手だから、それ以外で活躍できる学校に行けってのは、学校としてはアウトじゃねえか? 実技の授業についていけないならまだしも達也は合格点は取れてるだろ」

「目障りなんでしょ。魔法力ならともかく知識で生徒に勝ってたのに、下手すりゃ自分たちより達也くんの方が魔法に詳しいってなったら自分たちの立ち位置が危なくなるもの」

「落ち着け二人共」

 

 憤慨するレオとエリカが流石に行き過ぎた発言をしそうになっているので、達也がそれをなだめる。アルバ、雫、ほのかの3人は、レオとエリカの攻撃性の高さに少しばかり置いてけぼりだ。

 

「レオの言う通り、落第でもしない限りは強制なんてされないんだから実害は無いさ。卒業までここに通うよ俺は。例え善意でやってたとしても、俺の意思を考えようとしてない時点で独善に過ぎないしな」

「でも、そもそもの前提が間違えている時点でどっちにしろダメだと思う」

 

 毒のある達也の発言と、その後の雫の教師陣の間違いを指摘する発言でなんとかレオとエリカの勢いは削がれた。変わって、雫が話し始める。

 

「四高は実技を軽視してるわけじゃない。九校戦の成績にあらわれるような実践的で戦闘向きの魔法じゃなくて、技術的な意義の高い複雑で工程の多い魔法を重視してるだけ」

「そうなんですか? 雫さん、よく知ってますね」

「従兄が四高に通ってるから」

 

 美月の問に答えた雫の言葉に、ほのかを除く5人は納得する。第一高校にいる教師の発言よりも、四高にいる生徒の言葉のほうが的を射ているだろう。もっとも、その生徒が四高に歪んだ誇りを感じていれば、実態を歪めて認識している可能性もあるが。

 

 ただ、実態を知る人物の発言を伝えた雫の言葉で、その場にいる全員が実態すら知らずに転校を進めた教師に不信感を募らせたのは確かだ。

 

「四高といや、もうすぐ九校戦の時期だな。さっきも話してたけどよ」

 

 雫の台詞から思い出したであろうレオの言葉に達也が頷きを返す。

 

「深雪がぼやいていたよ。作業車とか工具とかユニフォームとか、準備するものが多いって。魔法科高校の生徒会は実権が多い分することも多いらしい」

「深雪さん、ご自身が出場されるのに大変ですね」

「深雪なら新人戦ぐらい楽勝だと思うけどね。むしろ準備の方が大変そう。男子もアルバがいるし、新人戦の負けは無いんじゃない?」

 

 深雪を案じる美月をなだめるようにエリカが話をアルバにふってくる。と、アルバが答えるよりも先に雫が口を開いた。

 

「油断は出来ない。今年は三高が強いらしい」

「雫言ってたね、えっと……誰だっけ」

「一条の御曹司。それと他にも何人も優秀な生徒入ったらしい」

 

 九校戦に憧れのある雫は、今年も事前から他校の選手に関する情報収集をしている。自分が出場する女子だけでなく、友人のアルバが出場する男子でも強敵となりそうな相手を探していた。

 

「一条って、十師族の一条か?」

「あの一条が、ね……」

 

 エリカもレオも同じ歳の十師族の直系がいるとは知らなかったらしく結構本気で驚いている。アルバが驚いていないのは、十師族という集団の社会的立ち位置に対する理解があったのと、雫がこれ以前の会話で一条の御曹司について話していたからだ。

 

「そりゃ強敵か。他にも優秀な生徒がいるってなったらなおさらね。ワンマンチームなら怖くないけど、集団だと強いわ。それにしても雫、随分詳しいのね?」

「雫はモノリス・コードのフリークなのよ。だから九校戦も毎回に見に行ってるのよね」

「……うん、まあ」

 

 ほのかが代弁した答えに、雫は変化の乏しい表情をわずかに紅潮させて照れた様子を見せる。達也本人に興味があったほのかとは違って、達也を始めとして二科生組とは友人の友人程度の間接的な関わりしか無かった雫だが、友人であるアルバが風紀委員の関係で行動をともにしたり、ほのかや深雪の付き添いで二科生組と交流しているうちに気を許すようになっていた。

 

「なるほど。確かにモノリス・コードの試合を見れる機会は少ないからな。九校戦以外だと全日本選手権と魔法科大学の国際親善試合ぐらいか」

 

 達也の言う通り、魔法競技が実施される機会はかなり少ない。これには魔法師の数が関係している。

 

 魔法科高校の一学年当たりの定員は九校合わせて1200名。少ないように思えるが、国内の同年齢の子供のうち、実用レベルで魔法力を持つ者の合計人数は1200から1500名程度。

 

 つまり、魔法の才能を持つ子供のうち魔法師、魔工師など魔法に関わる職につこうとする者はほぼ100パーセント九校のいずれかに入学する。

 

 その程度しか、魔法師人口というのはいないのだ。

 

 故に九校戦。魔法科高校の身内での大会に思えるそれは、実のところ競技人口の少なさ故に身内戦が全国戦の様相を呈している状態となっているのである。

 

 そんな九校戦だが、映像が外部に向けて公開されるだけでなく会場には毎年大勢の観客が入る。

 

 九校戦を公開でもしないと、一般人が魔法競技に触れる機会が無いのだ。魔法競技には、競技という親しみやすく応援しやすい形で魔法に対する市民の関心を高め、理解を深めるという役割がある。

 

 魔法科高校生の競技会であると同時にそうした役目も担っているのが九校戦だ。

 

「となると今年もライバルは三高かな?」

「多分」

 

 得意分野とわかってエリカが話をふると、雫は簡潔に、だがどこか嬉しそうにうなずいた。

 

「今年は見る側じゃなくて競う側ですね。3人とも、頑張ってくださいね」

「うん……」

「私も頑張ります……」

「ん? ああ俺もか」

「あんたもに決まってるでしょ」

 

 成績一位の深雪だけでなく、それに続くアルバ、雫、ほのか。この3人もまた、九校戦のメンバーに選ばれるのはほとんど確定していると言えた。二科生組は基本的に選出されないが、だからこそ心置きなく友人を応援できるのである。

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