魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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嬉しい感想があったので投下。

でも書く時間が取れてないのでストックをすり減らしての投下です。

小説で飯が食えないもんかとあがいているので、数年はこの調子だと思います。


第34話 九校戦の話

 試験が終了してから、アルバは達也に連れられてほぼ毎日、放課後を風紀委員会本部で過ごしていた。

 

 夏休みが終わればすぐに生徒会選挙。そして新しい会長が決まると同時に3年生の風紀委員はその任を解かれ、新しい風紀委員が選任されて風紀委員同士の互選で風紀委員長が新しく決まる。

 

 そしてこの風紀委員長の引き継ぎだが、これまでまともに行われた試しが無い。ほとんど整理されていない書きっぱなしの活動報告を丸投げというのが毎年のパターンだ。

 

 これでも、例えば摩利は1年の頃から風紀委員として活動していて慣れていたために引き継ぎがこんな有様でも困ることはなかった。しかし今年は彼女が次期委員長に据えたいと目をつけている2年生が風紀委員会の経験が無い生徒ということもあり、出来るだけ困らないようにと今年はしっかり引き継ぎをしたい、と考えているのだ。

 

 その為の作業を達也に丸投げして。そして達也は、自分だけが苦労してはたまらないとアルバを引きずってきて参加させている。

 

 幸運だったのは、魔法に関する話に普段付き合っている礼としてアルバが了承してくれたことだろう。

 

「助かるよ2人とも。君らが手伝ってくれなければ、また引き継ぎが出来ないところだった」

「アルバが交渉してくれましたからね。俺もただのお人好しにならなくてすんで良かったです」

 

 作業中の達也に、隣で机に座っている摩利が話しかける。あいも変わらず摩利は達也にちょっかいをかけるのが好きなようだ。

 

「何、一度の食事ですむなら安いというものだ」

「俺はなぜ委員長が自分でやらないのかと疑問に思っただけですが」

「こういう作業は得意じゃないんだ。私は実働部隊だからな」

 

 達也に連れられてやってきたアルバが摩利に確認したのは、この引き継ぎ資料の作成業務が風紀委員の活動、それも風紀委員長の摩利や3年間活動したような生徒ではなくまだ1年生のアルバや達也の業務にあたるのか、という確認だ。

 

 特に嫌というわけでもなく、ただ単純に当時のアルバとしてはなぜ摩利がやらないのか疑問だったと言うだけの話である。

 

 だがそれで援護を受けたのが達也だ。資料作成の作業を無償でやるつもりはない、というアルバの意思表示だと受け取った達也はそれを利用して摩利と交渉したのである。といっても風紀委員会に必要な作業だとは理解していたので、資料作成作業分の巡回回数の軽減と急遽の依頼ということで食事を一度奢るという極ちょっとした取引となったわけである。

 

「しかし、随分前もって準備するんですね。まだ2ヶ月以上あると思いますが」

 

 アルバに自分の作業が終わった分の資料を送信しつつ、何気なく浮かんだ疑問を達也は摩利に尋ねた。アルバの手伝いもあって、後数日中には資料の作成は終わる。この後より詳細な資料を作成するというならともかく、そうでないならばかなりの猶予がある。その間他に大きな案件が発生し引き継ぎを要する可能性もある。

 

「九校戦の準備が本格化すれば資料作りの時間なんて取れなくなるからな。メンバーが固まったら出場競技の練習も始まるし、道具の手配や情報収集と分析、作戦立案とやることは山ほどある」

 

 事情を聞けば達也には関係のなさそうな都合だった。一方で今手を借りているアルバもそちらに関わることを考えると、今やっていたほうが楽なのは間違いなさそうである。

 

「まるで戦争のようだな」

「何? 九校戦がか?」

「兵を鍛え、武器を集め、敵の情報を集めて戦略を練る。戦争と同じだ」

「スポーツはもともと安全に闘争が出来ないかと開発された側面もあるからな。一番重要な故意に相手を傷つけない、死人が出ないというのが守られている以上戦争とは全く別物だぞ」

「そういうものか」

 

 唐突に九校戦を物騒なものにたとえ始めたアルバに摩利は固まるが、達也がこともなげに答えて話題が収束する。摩利も達也もアルバに対して、唐突に奇妙なことを言い出すくせにすぐに納得して引き下がるとはおかしなやつだと思った。

 

「そういえば、九校戦はいつから開催されるんでしたっけ?」

 

 そこまで興味は無いものの、アルバのせいでおかしくなった空気を戻すために作業しながらだが達也は問いかける。ついでに、今のアルバの言葉からアルバがまとめた資料に変なことを書いていないかと後で軽く確認することを決めた。

 

「8月3日から12日までの10日間だ」

「結構長丁場ですね」

「長いな」

「んっ? 2人とも観戦に行ったことは無いのか?」

「ええ、夏休みは毎年野暮用で忙しかったですから。アルバも行ったことが無かったのか?」

 

 ともに同じ感想を抱いた2人だが、達也は先に答えることで話を自分からアルバへとそらした。夏休みの忙しさに関しては触れられたくない場所だ。

 

「しばらく海外を回っていた。日本に戻ったのは昨年からだ」

「なるほど、そういうことか。では見たことも無いのか? 君は今年選出されるだろう?」

「全くわからない。達也は競技の内容はわかるか? 常識ならば調べておくが」

「いや、俺もモノリス・コードとミラージ・バットしかわからないな。他にもいくつかある、ということは知っているが」

「あの二つは特に有名だな……それにしても2人とも知らないのか……」

 

 ちなみにアルバはある程度敬語が使えるようになったものの、摩利や真由美は「なんか気持ち悪い」という理由で公の場以外では今まで通りの言葉遣いをするように言っている。

 

 さておき、2人の言葉に一人だけ作業をしておらず暇を持て余した摩利は少しばかり楽しげに、口元に手をあてて考え込んだ後話し始めた。

 

「まず九校戦は、スポーツ系魔法競技の中でも魔法力の比重が高い種目で行われる」

「それは知ってます」

 

 手を止めずに達也が相槌をうつ。なおこの間アルバと達也はずっと作業をしている。

 

「以前は毎年種目変更をしてたらしいが、ここ数年は同じ競技が採用されているな。モノリス・コード、ミラージ・バット、氷柱倒し(アイスピラーズ・ブレイク)、スピード・シューティング、クラウド・ボール、バトル・ボードの六種目だ。剣術やマーシャル・マジック・アーツのような格闘技系やハイポスト・バスケットのような球技は別で大会が開かれいているな」

「クラウド・ボールやバトル・ボードは身体能力が重要になってくると思いますが?」

「まあな。だが魔法と言っても実戦では体を動かしながら使う場合も多い。クラウド・ボールやバトル・ボードはそのあたりの塩梅が良いということだろう」

 

 達也が競技の内容がわからないといったのは、数ある魔法競技のうちどれが採用しているかは知らない、という意味で、各競技がどんなものなのかは把握している。アルバもそのあたりは魔法の社会における立ち位置と、戦争に変わる力の誇示の場であった競技会に似通ったものを調べていてある程度は知っていた。

 

 何より、それらに関しては後で調べればわかるので、今は大人しく摩利と達也の会話の聞き役に徹していることにした。

 

「六種目の内、モノリス・コードだけが団体戦、残りの5つが個人戦で行われる。アルバは特に把握しておけよ。お前の出る競技選択にも関わってくる」

「わかった。よく聞いておく」

「よし。普段からそれぐらい素直ならな……」

「クラウド・ボールはダブルスではないんですか?」

「そこが九校戦のいやらしいところでな。魔法力の比重が高くなるよう競技に独自のルールが設けられているんだ。例えばクラウド・ボールなら個人戦になるからその分魔法で対処することが増えたりな。ルールを要約したパンフレットがあるが、見るか? というかアルバは後でも良いからこれを見ておけ」

「わかった。後で見る」

 

 そういいつつアルバと、ついでに自分には関係ないなと思いつつ達也は薄いパンフレットを受け取る。

 

「印刷物なんて珍しいですね」

「九校戦絡みでは珍しくないぞ。仮想型端末が魔法力を損なうという考え方は根強い。まあいまや魔法師以外でスクリーン型を使用する者は少数派だがな。魔法師でも仮想型の利用者は増えているらしい」

「なるほど。だから九校戦では情報端末そのものが必要のない紙の印刷物を使っているというわけですか」

「ん? 達也くんは仮想型容認派なのか?」

 

 達也の言葉にわずかに否定的な成分を摩利は聞き取った。普段の闊達な言動や口調などでごまかされてしまいがちだが、彼女は鋭い感性の持ち主である。有り体に言えば馬鹿ではない。

 そのことを思い出し気をつけるよう改めて自戒しつつ、達也は言葉を選んで答えた。

 

「仮想型端末が未熟な魔法師に悪影響を及ぼすという主張は根拠の無いものではありません。特に十代の能力が発展途上のうちは、仮想型の使用は避けるべきだと俺も思ってますよ。ですが既に魔法力が固まった成人以降の魔法師についてまで禁止する必要はないように思います」

「なるほど、それも一つの考え方だな……」

 

 何やら考え込んでしまった摩利。改めていうが、彼女は普段の闊達な言動や破天荒さを見せているものの、根は鋭い感性と生真面目さを持った人物である。仮想型端末の是非についても、魔法師になるものとして、そして生徒のリーダー格として思うところがあったのだろう。

 

「そうだ、それが一つ疑問だったのだが」

「なんだ?」

「魔法師の魔法力というのは学生のうちに固まるものなのか?」

 

 アルバの問に、達也はその問にどこまで裏の意味があるのかを思考する。魔法師の実力が子供時代に大きく伸び、成熟して以降は純粋な魔法力に大きな変化はないというのがおおよそ一般的な認識だ。それを敢えて問うならば、と。

 

 だがおそらくそこまで考えていないのだろうと達也は特に気にしないことにして返した。

 

「魔法力の成長はおおよそ肉体の成長と同じような成長曲線をしているというのが定説だな。勘違いしてほしくないが、成熟してからも魔法力は伸びる。だが子供の頃ほど爆発的には伸びない。体も子供の頃は骨格や身長など規格や基盤がどんどん成長するだろ? 大人になっても筋トレは出来るが骨格などが爆発的に伸びることはない」

「なるほど、骨格の成長と外付けの筋肉の成長の差か」

「雑な認識だがな。興味があるなら後で以前読んだ書籍のタイトルを送っておくが」

「頼む。読んでみたい」

 

 達也とアルバは割とこういう会話をしている。まだ知識的に薄い部分のあるアルバが、達也に尋ねてその参考文献などを紹介してもらう。

 

「君たちは普段からそんな会話をしているのか?」

「アルバがまだ常識に疎いところがありますからね。時々こういう本質的な深い質問が飛んでくることがあります」

「そうか……話が逸れてしまったな」

 

 2人の話を聞いて驚いていた摩利だが、咳払いをして話を九校戦の話題へと戻す。

 

「九校戦の話の続きだが、選手は本戦、新人戦、男女各10名ずつの合計40名になる。新人戦は1年生のみで、本戦は学年制限なし。とは言っても一人の選手が出場できる競技は2種目までと決められているから、本戦に1年生が出ることはまず無い。出場枠を抜きにしても、この時期の1年生と2、3年生では実力的に勝負にはならないけどな。トップの司波とアルバでもどうかというところだ」

 

 意味ありげな視線をアルバに送るが、肩をすくめるような反応すらなくはやく話せと言わんばかりにタイピングが加速していくのを見て摩利は話を続けた。

 

「その新人戦には去年まで男女の区別は無かったんだが、今年から男女別で行われる。去年までは1年生女子が種目を掛け持ちすることは無かったんだが、今年はそうも行かないだろうな」

 

 摩利が誰のことを念頭において言っているのかは達也に向ける視線を見ても明らかだ。

 

 女子の体力で魔法競技の連戦は厳しいものがある。体力を使う競技にしろ魔法力メインの競技にしろだ。鍛えているとはいえ華奢な体をしている妹を考えて、出来る限りフォローしてやろうと達也は考えた。

 

 その点、横で作業をしている男は体格の面で見ても、覗いた身体的特徴の面でも、魔法競技の連戦程度でこたえるようなことはないだろう。

 

「6種目の内4種目は男女共通。モノリス・コードは男子のみでミラージ・バットは女子のみになっている。……モノリス・コードは唯一、直接的な戦闘が想定される種目だからね。男子のみというのも、まあ理解できないわけじゃない」

「出ないのか?」

「私だって出れるものなら出たいさ」

 

 アルバの問いかけに摩利は率直なところを返した。第一高校でもトップ3の真由美、摩利、克人だが、この3人の中でも特に摩利の得意魔法は戦闘に特化している。モノリス・コードという一番実力が出せる試合に出れないのは本人も無念なのだ。なお出た場合は克人と合わせて対戦相手が絶望的なことになる。

 

「各校から一つの競技にエントリーできるのは3名。今年は男女別だから、クラウド・ボールにバトル・ボード、氷柱倒し(アイスピラーズ・ブレイク)とスピード・シューティングに、男子はモノリス・コード、女子はミラージ・バットを含めてそれぞれ5種目だな。本戦、新人戦とも男女各5人が5種目のうち2種目を選び、残りの5人が一種目に絞って出場することになる」

「人数は変えられないのか」

「ああそうだ。その中で誰をどの種目に出場させるか、力のある選手を一つの種目にかためて確実に勝ちに行くか、ばらけさせてそれぞれの種目で1位をとっての高得点を狙うか。対戦相手はどのレベルの選手をどの種目に出してくるか、相手のエースはどこに来て誰をぶつけるか。チーム戦だからそういう作戦も重要になってくる」

「なるほど」

「そういう事情から九校戦には、選手とは別に4人作戦スタッフが認められている。それだけ作戦、戦略は重要というわけだ。もっとも全ての学校が連れてくる訳では無いがな。うちは毎回連れて行くが、例えば三校は毎年作戦チームを連れてこない。選手が自分で全部考えてやっている」

「それで毎回当校と優勝争いをしているというのは面白い話ですね」

「まあ負けたのは3年前と7年前の2回だけだけどな。九校戦が今の形式で夏に始まったのが10年前。これまでの9回で優勝はうちが5回、三校が2回、後は二校と九校が一回ずつか」

「今年は三連覇がかかってるんでしたっけ?」

「そうだ。あたしたちにとっては、今年勝ってこそ本当の勝利だよ」

 

 第一高校の現三年生は、10年間という短い九校戦の歴史だが、「最強世代」というふうに呼ばれてる。

 

 七草真由美、十文字克人、そして渡辺摩利。十師族の直系が2人とそれに匹敵する実力者。十師族の実力というのはそれだけ飛び抜けている。三校の一条が以前アルバたちの会話で出て話題になったのもそれが理由だ。そして今一校にはそれに並ぶ摩利もいる。

 

 加えてそれ以外にも高校在学中にして既に国際魔法ライセンスA級に値すると判定されたA級判定取得済みの実力者も何人もいる。

 

 言ってみれば、他校からすれば全員がエースクラス。そんなドリームチームに片足を突っ込んだのが今年の第一高校の陣容だ。

 

「順当に行けば当校が優勝確実、と言われてましたね」

「まあな。選手の能力面は実際そうだろう。新人戦の順位も加算されるとはいえ、大きくこけなければ本戦でどうとでもなる。それに今年は司波もアルバもいるしな。心配があるとすればエンジニアだが……」

「エンジニア? CADの調整要員ですか?」

「それも生徒から出すのか? 難しい作業だと聞いたが」

「正式な用語では技術スタッフと言うな。魔法科高校では魔法師だけでなく魔工師も育成しているから、そういう意味では、ただ魔法力だけでなく技術的な面を解決できるかどうかも学校そのものの実力であると言える。実際九校戦で使用できるCADは共通規格が定められているからCADのハード自体の性能は全校で公平になっている一方で、ソフト面は事実上無制限だ。いかに規格の範囲内で選手にあったCADを用意してそれを選手の力を引き出せるようチューニングするかも勝敗に大きく影響するようなルールになっているんだ」

 

 アルバは自前でCAD以上の演算器を頭の中に持っているようなものなのであまり理解していないが、CADのハード、ソフト面の差というのは魔法の発動に大きな影響を及ぼす。

 

 特にその中でも起動式の展開速度がハード面に依存し、魔法式の構築効率はソフト面に大きく左右される。一瞬の差が勝敗につながるスポーツでは双方が高レベルであることが求められるが、九校戦では前者が制限され共通規格を使うことになっている。必然的に、ソフト面の技術の差がそのまま戦力に直結すると言って良い。

 

 加えてCADのソフトは高度・多機能であれば良いというわけでもない。ハードの性能を超えるソフトはハードの作動を阻害し、むしろパフォーマンスを大きく下げる。前世紀で言うならば、古いコンピューターに高性能な演算ソフトを入れてもろくに動かないようなものだ。コンピューターにあった性能の低いソフトを入れたほうが遥かに役に立つ。

 

 いかにハードが制限されているなかで、最適なソフトを選択しそこにアレンジを加えるかというのが九校戦では重要となるのだ。

 

 それを聞くと、たしかにソフトウェアのエンジニアの腕次第でひっくり返るなと達也は思った。

 

「今の3年生は選手の層に比べてエンジニアは人材が乏しくてな。真由美や十文字は自分でもチューニングできるらしいが、とはいえ専門家がいたほうが心強い」

「1、2年生にはいないのか?」

「1年生はともかく、2年生には多少いる。生徒会の中条なんかもそうだな。だが3年生までカバー出来るかと言うとな……それにやはり3年生の方が技量も高い場合が多い」

 

 難しげな顔をする摩利に、そんなものかとアルバは納得して作業に戻る。達也は先に作業に集中しており、九校戦に関する話はそこで終わりとなった。

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