魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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ゴールデンなウィークなので投稿です。


第35話 かつて在りし龍達の姿

「まあ、そうなるだろうね。君がどの程度の成績を残しているかは知ってるから驚かないよ」

 

 テスト後の休日。つい昨日九校戦のメンバーが発表され、そのメンバーの中には成績を見れば当然だがアルバも入っていた。それ自体には問題はない、と見せかけてアルバがやらかす可能性があり、また夏休みも明けられるならば明けて欲しいと八雲には言われていた。そのことを伝えに寺院を訪れたアルバに対する八雲の発言が冒頭の言葉である。

 

「しかし、困ったね」

「夏は何をするつもりだったんだ?」

「ああ、君は以前言っていただろう? 世界中に君の同胞が封印されているって」

「ああ、そうだな。といっても全員が物理的に残っているかはわからないが」

「わかってるとも」

 

 アルバの同胞、つまりアルバと種を同じくし、自然そのものとあるいは同じ存在であり長き時を渡る龍のことである。アルバは封印時の術の関係で他の龍たちより先に目を覚ましたが、他の龍達は大部分が封印されたままだ。もっとも一部封印されないままのやつもどこかにいる可能性があるが。

 

「できれば大まかな場所でも、君と一緒に確認しておきたいと思ってね」

「そういうことか。だが、それなら地図の上ではダメか?」

「随分地図が変わっていないかい? 地球の歴史を考えれば昔の地図は意味をなさないはずだけど」

「地図はな。だが相対的位置は変わってないはずだ。地球の半径は変化していないからな。だからおおよその場所はわかると思う」

 

 その視点は無かった、と八雲は顎に手をあてて考える。人の基準で考えれば地形や国などで場所を特定するが、全ては相対座標で表現できる。人よりも高性能な脳を持つアルバは世界規模でそれが出来るということか。

 

「なるほど……。それなら今から地図に示してくれるかい?」

「わかった。だが、攻撃するようなことはしないでくれ」

「わかっているとも。そもそも僕らには肉体をもたない相手を攻撃するすべは無いさ。ただ、備えることが出来るならば備えたいからね」

「……すまないな。俺のわがままを言って」

 

 今度はアルバが後ろめたさから顔をそらす。人間の目線から見れば今すぐアルバ自信の情報を公開して全世界で備える、というのが最善の選択である。それをアルバの意向で、今現在普通に高校生として学校に通うような状況になっていた。

 

「君の善意、というのは忘れてはいけないからね」

 

 加えて、アルバを怒らせてしまえばいよいよ取り返しがつかない。そう知っている八雲は、アルバに直接関わる際には、出来る限りアルバに配慮するような形を取っている。その代わり裏では色々と手を回し始めているが。

 

「その代わりと言ってはなんだけどね」

「なんだ?」

「何人かに、君のこと、と言っても詳細ではなくて特殊な事情があるということを伝えておきたいんだ」

「なるほど。政治的に手を回したいのか」

「いや、そっちじゃないね」

「違うのか?」

 

 自分の名前とその事情を、例えば自分が人外であるということなどは多少隠しつつも説明することで、政治的に、つまり個人の単位ではなくある程度権力のある人物を介して集団を動かしたい。そういう意味かと考えたが、八雲の答えは否だった。

 

「名前を出してしまえば、僕がいくら止めても君にちょっかいをかける連中がいるだろうね。それじゃあ君に迷惑がかかるだろう?」

「そうか、そうなるのか」

「他者に止められても自分の手でどうにかしたり、そうやって優位に立ちたいっていう連中は多いのさ。特に魔法師の名家なんかはね」

「国が統制を取れていないのか?」

「日本は専制国家じゃないからね。権力も分散しているし、十師族なんかは独自の権勢を持ってる。国が全部支配は出来ていないのが現状だね。ただそれぞれに国は無いと困るから協力している。そんな形さ」

「なるほど……」

 

 これまでアルバが見てきたのはおおよそ王権国家か、あるいは国家とは言えないほど小さな規模の人の歩みでしかなかった。この現代社会。これほどの規模の人が、王という絶対的統治者がおらずにまとまっているというのは、実はそれだけでかなり新鮮なものである。

 

「では、誰に俺のことを伝えるんだ?」

「第一高校のカウンセラーの遥くん、それと司波兄妹だね」

「遥というと小野遥カウンセラーか。司波兄妹は司波達也と司波深雪か?」

「そうだね」

「わかった」

 

 八雲の提案にアルバは即決でうなずいた。それに八雲は、本当に珍しく虚をつかれたような表情を見せた。

 

「……理由は聞かないのかい?」

「理由は聞くが、理由によらず許可する。俺のわがままを聞いてもらっているのだからな。大規模にばれて迷惑がかからないようにしてくれている以上、俺の方から全部止めるつもりはない。後は、こういうときに人はこういうのだと思う」

「というと?」

「『お前を信用している』」

 

 これまでの八雲の行動を評価している。そう取れるアルバの言葉に八雲は一瞬固まった後笑みを深めた。

 

「なるほど。ならそれが信頼に変わるように、これからも努力しようかね」

「信頼と信用の違いがわからない」

 

 

 

******

 

 

 

 

 思い切り決め台詞を言ったところでアルバの天然ボケに潰された八雲は少しすねたが、改めてアルバに当該3人に彼の情報を伝える理由を説明する。

 

「まず第一に、第一高校関係者で僕の知り合いというとあの3人ぐらいしかいなくてね」

「達也は弟子だと言っていたが、小野カウンセラーもか?」

「彼女も僕の弟子だよ。これでも僕は弟子がそれなりにいてね」

「なるほど」

 

 この弟子の人脈というのも八雲の強いところである。だからこそ、アルバの存在を目立たせずに匿うことすら出来ているのだ。

 

「それぞれに伝えたい理由だけど、まずは遥くん。彼女には君に対して色々と気を配っておいてもらおうと思ってね」

「気を配る?」

「君が何かしでかしたときに対応が出来るように、ということさ」

「かなり溶け込めていると思うが」

「それぐらいなら良いけどね。こう言っては何だけど、魔法師関係は結構物騒なんだ。それこそ数年前には沖縄に大亜が侵攻してきたりもしたしね。それにブランシュの事件みたいに魔法科高校が狙われることもある。その中で君が何か普通ではないことをやったときの対応、ということだ」

「なるほど」

「そしてそれは司波くん、というか司波兄妹にもかかっていてね」

 

 ブランシュの件、と言われてアルバも納得する。確かにあのとき、ブランシュというテロ組織への攻撃を達也たちが敢行した。アルバは参加していなかったが、参加していたら通常人間では使えないような魔法の使い方をしたり、あるいはその枠を飛び出た攻撃をしてしまった可能性もある。ただでさえ、真由美たちの前で披露した多数の障壁を活用したバリケード戦でも後で問い詰められたのだ。それ以上、となると一人で対処出来ない可能性が高い。

 

「司波の兄妹にも事情がある。詳しくは僕の口からも言えないけどね」

「なるほど」

「だから、事情を抱えた者どうしうまくやって、互いに対する注目をそらせないか、と思ってね」

 

 これは方便である。実のところ八雲は達也と深雪に関しては、アルバのやらかしに対するカバーをしてもらいたいとは考えていない。そもそも彼彼女も目立ってはならない者たちなのだ。まあ今現在2人とも相当に目立ってはいるが。

 

 せいぜいが出来て、色々な場面でのアルバのストッパー。常識的な思考が出来ない部分があるアルバを制御する役目ならば2人には期待出来る。

 

 だがそれ以上に、八雲が期待しているのは2人を通して彼らのバックにある名家にアルバの名前が伝わることだ。彼らの背後にある名家は、表に姿を現すことなくしかし大きな力を持っている。そして『達也と深雪に近づくもの』に対しては相当の調査をする。アルバに対してもその矛先が向けられることで八雲の手を介さずともアルバの情報が秘密裏に浸透し、そしてそのことについて八雲が何か責を追うことは一切ない。

 

 いわゆる『外堀を埋める』という行動を、八雲はアルバに対してとろうとしていた。

 

「そうか……だが以前、秘密に踏み込むなと言っていたが」

「場合によりけりさ。彼らはある程度君に心を許し始めている。加えて君の秘密の方が、こう言ってはなんだけど彼らの秘密より重い。さらに言えば、君は彼らの力になり得る。そういうことを踏まえれば、今はむしろ彼らとの個人的な関係を密にしておくことが君のためにもなる。そう思ったのさ」

「なるほど」

「それとね。秘密の話で言うなら、日本にはこういう言葉がある」

 

 そう言うと、八雲はアルバに対して作務衣の前を軽く開いた。

 

「『腹を割って話す』。一切の鎧も衣服もまとわない内心をさらけ出してこそ、仲は深まる。互いに秘密を共有し合うことで関係を強くする。そういう関わり方もあるのさ」

「……そうか。急所を掴み合うというわけか」

「そういうわけでもないんだけどね」

 

 ちなみに、腹を割るの意味に関して八雲はでたらめを言っている。ただ、かつて鎧をまとった狩人、戦士たちと戦った思い出を語り、己に対しても分厚い鎧をまとっていると表現したアルバを考えるとこの表現が一番伝わりやすいと考えたのだ。

 

「それじゃあ、その3人には伝えても良いのかな?」

「ああ」

「なら明日、夜にもう一度来てもらえるかい?」

「ここにか?」

「うん。彼らもここに来る用事があってね」

「そういうことか。わかった」

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 アルバに関して限定的な情報を明かしてフォローを頼む、ということが決まった後、八雲が持ってきた世界地図や各国の地図を使ってアルバの同胞たちのおおよその居場所を特定していくことになった。ちなみにかなり珍しいことに今どき紙の大きな地図である。

 

「なるほど……球形が平面上に歪んで描かれているのか」

「地図の表示はそうなっているね。大丈夫かい?」

「多少補正すれば問題ない」

 

 しばらく地図を睨んでいたアルバだが、やがて顔を上げて八雲がいるのを確認し、話し始めた。

 

「先に伝えておくが、かなり高い精度でわかるのが幾体かと、わからないのがいる。単純に危険度が高く、また所在地が決まっていたやつほど俺は覚えている、というだけの話しだが」

「ということは、特に危険な個体に関しては場所までわかる、と。ついでにこの際だから、それぞれの龍の特徴も教えてくれないかい?」

「……そう言えばまだだったか」

 

 八雲に対して過去の記憶や交流してきた小さき者達については語っていたアルバだが、実は他の龍に関する説明は行っていなかった。面倒くさかった、とかではなく、危険な龍の情報を伝えることでアルバ自身が八雲に警戒されるのを避けるためであった。その後忙しくなったので失念していたが、たしかに八雲からすれば先に知っておきたい情報であろう。

 

「そうだな。一つずつ話していこう。まずは、特に危険なやつ」

 

 そう言いながらアルバは、北欧を指差す。スウェーデンとノルウェーの南の方。

 

「このあたりは、かつてと地形が似ている。ここに、黒龍がいる」

「黒龍? 君絵心あるかい? あったらどんなものか外観だけでも書いてほしいんだけど」

 

 そう言われたアルバは、紙とペンを持つのではなく、自身の脳内、人間になったことで機能を大きく制限されているそれで直接魔法式を構築していく。

 

「これは……」

「魔法、という技術が無かったのは言ったと思う。だが使えないわけではない。俺たち龍の脳ならこういう芸当も出来る」

 

 それでも慣れてないので、アルバからしてみればまだまだ時間がかかる作業だ。複雑な複数の魔法式を10分ほどで記述し終えたアルバは、それを事象に付随する情報体(エイドス)へと投射し魔法を発動させる。

 

「これは、君の同胞は全て出来るのかい?」

「あいつらは、小さき者たちの歩みを学ぶ気などない。学べば出来るだろうが、俺ほどうまくはいかないだろうな」

 

 そういうアルバの眼前に、光波振動系魔法によって一つの像が投射されていく。立体的な映像になるそれは、普通の魔法技術ではとても考えられない、まさしく人知を超えた魔法だ。平面ではなく複雑な立体を、何も無い空中に立像する。平面の投射やあるいは立体面の隠蔽、光学迷彩ならば出来るものはいるだろう。身近で言えばほのかなども出来る。

 

 だが、寸分たがわぬ精度で、ただの立方体などではなく複雑なフィギュアのような像を浮かび上がらせるのは、八雲の目から見ても異常であった。

 

「黒龍だ。大きさは現代の大きさでいうと全長42メートル。もっともやつは尻尾が長いタイプだが。こいつの危険度はこれを見ればわかる」

 

 更に、アルバが展開している複数の魔法式が順次更新されて、映像内のソレが動き始める。

 

 通常、魔法式は終了するか一度破棄されれば効果を失い消滅する。ただ、相手の破棄した魔法式を奪って発動する、ということは出来なくはない。結局は魔法式というのは『どう事象に付随する情報体(エイドス)』を改変するか』という定義文である。その文の内容が、魔法式(最低アルファベット3万文字)から理解できるなら、他者の魔法式の続きを記述して起動させることも不可能ではない。

 

 理論上は。アルバは今それを、一から自分で記述した魔法式であるという利点を活かして幾度も再利用していた。

 

「これは……」

 

 ソレは空を飛ぶ。黒い羽を広げて空を飛ぶ。

 

 そして焼き付くす。赤い炎で、大地を、街を、人を、山を、木々を、海を、全てを焼き尽くす。

 

 その光景に、八雲が珍しく息を呑む。

 

「7日で世界が終わったこともある」

「これでかい?」

「全て焼き尽くされてな」

 

 映像の中では、街を、国を焼き払って満足した龍が、残った王城で眠りにつく映像が写っていた。

 

「これと同種があと3種、それに同格と小さき者達が判断した『禁忌』が数体いる。日本にもいるな」

 

 既にキャパシティオーバーしそうな八雲だが、なんとか立ち直る。

 

「……とりあえずお茶にしよっか」

 

 そして一旦の休憩を申し入れた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 数時間かけて、簡単な説明のみ終えたアルバと八雲は、弟子が用意した食事を向かい合って取っていた。

 

「それにしても」

「ん?」

「よく世界が滅んでいないね」

 

 八雲がそういうのは、アルバが映像つきで見せてきた彼の同胞達だ。人類文明に対して明らかな脅威であり、そして人はそれを打ち払うすべをおそらくもたない。もはや、人類の文明が存在しているのが不思議なレベルだ。

 

「昔から言われているが」

「ん?」

 

 ポツリと独り言のように呟いたアルバに八雲は短く疑問の声をあげる。

 

「小さき者たちが語っていた。我らは、龍は、自然そのものなのだと」

「自然そのもの、か」

「自然の力を操っているように見えるが、本質的には自然を体現する存在である、とな」

「つまり……自然の概念を個体にしたら君たちになる」

「かもしれんな。破壊が、運命の火が全てを破壊し焼き尽くしたとしても、創造が起こり新な生態系を生み出す。そうやって世界は巡っている」

 

 幾度となく繰り返した歩みだ。

 

 いつまでも終わることなく在り続ける龍が、幾度も世界をまわしている。

 

「神様が作ったとしたら、いやなシステムだねえ」

 

 人から、小さき者からすればどうしようもない不条理に対する八雲のそのつぶやきは、答えるものをもたぬまま虚空に消えていった。

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