入学式。それは昔も今も変わらず新入生達の新たなる挑戦の始まりを告げる日。
そんな日の朝。時間を忘れがちであることを2日間の試験で2日間とも人に声をかけられてようやくテストに向かったことから自覚しているアルバは、入学式が始まる2時間以上前には第一高校に到着していた。
着ているのは当然ながら第一高校の制服である緑のブレザーにスラックス。今朝初めて制服を開封したときには一瞬固まったものだ。基本的に龍としてのアルバの体色というのは黒に近いもので。煌めく黒龍などと言われてもそれは炎と熱、あるいは稲妻の紅々とした煌めきであって、こんな明るい白と爽やかな緑を身に着けたことなど一度も無かった。普段着るものでさえ、入試の際に着ていた黒いジャージをはじめとして黒や紺のものばかりである。
そんな着慣れない色合いの服を着ているものだから、悠久の時を生きているにも関わらず何か新しい気分になれるのだから服というのは不思議なものだ。
校門をくぐり抜け、まっすぐに入学式の会場である講堂へと向かう。何やら校門の前で言い合いをしている男女がいたがそれも特に声をかけることなくスルーして会場の中に入った。中にはずらっと椅子が並べられており、そのうち案内の中を確認して生徒の席であろう場所の一番後ろの方に座る。入学式に特別思い入れがあるわけでもなく視力も聴力もこの姿でも並の人間よりは良いので、わざわざ前の方の席を取ることも無いと考えたからだ。
そのまま席に座って端末を開き、端末内に大量に取り込まれている資料に高速で目を通していく。
現在アルバがこの世界の魔法においてもっとも興味を持っているのが、
つまり、魔法師たちが扱う魔法を形作るのが
なぜこれがアルバにとって気になるものなのか。
それは、似ているからだ。自分たちが行使するその力と、人間の操る
と。
資料に目を通してたアルバの隣に人影が立つ。通り抜けるでも無く立ち止まっているのがわかったので顔を上げると、何やら小さな女子が隣に立っていた。制服から見るにこの高校の女子生徒であろうことがわかる。
「おはよう」
「おはようございます。じゃ、なくてですね、えーと、あの」
何やらしどろもどろな様子の女子生徒に、アルバは怪訝な顔をする。流石に人の表情からその意思を読み解くなんてことは出来ない。そもそも彼の力は基本5大属性よりで更に破壊するほうに特化しているのだ。人の心なんて読めない。
「えーと、今からリハーサル、なんです」
「ああ」
「だから、新入生の方ですよね?」
「そうだ」
「うう……リハーサルの間は新入生は講堂に入れないんです」
「む……そうなのか?」
「そうなんです。ご、ごめんなさい」
つまり、開始時間までここで待っていることは出来ない、と。小さなモンスターのような動きをするその女子生徒の姿に若干の面白さを感じつつも、アルバはその説明に納得した様子を見せた。
「わかった。では外で待機しておく」
「うう……ごめんなさい」
何やら謝る彼女に礼を伝えて、アルバは講堂の外に出る。その後ろでは講堂の扉が閉じられ、中に入ってこないようにされた。
「どうするか」
ううむ……とアルバは頭を悩ませる。シンプルな話として、このままどこかにいると、そのまま入学式に出席しないまま何かを考え続けてしまう可能性がある。だからこそ最初から講堂内にいるという選択をしたのだが。
「誰かに頼むか」
シンプルにそう結論づけたアルバは、手の空いてそうな人間を探してうろつき始めた。
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学校の建物の見学をしてしまうとまた時間が経ってしまうのでなるべく見ないようにしつつしばらく歩いたところの中庭で、アルバは1人の男子生徒がベンチに座っているのを見つけた。ここまでで唯一動いていない生徒である。こいつに頼もうとアルバは彼に近寄っていった。
「失礼、少しいいか?」
そう話しかけると、端末を操作していたその男子生徒は顔を上げる。胸元にはアルバと違って八枚花弁の紋章が無いが、それ以外は全く同じ制服である。
「何か用ですか?」
「あなたは新入生か?」
「そうですが」
「なら入学式の時間になったら教えてくれないか。俺は集中すると時間がわからなくなってしまう。隣に座っておくから適当なタイミングで声をかけてくれるとありがたい」
「……ああ、それぐらいなら」
「ありがとう」
困惑した男子生徒の了承を得たアルバは、彼の隣、3人掛けのベンチの反対側に座り込む。そのアルバの様子を奇妙そうに見ていた男子生徒だが、アルバが自分の端末に集中しているのを見ると、彼もまた自分の端末へと視線を戻した。
後に世界を揺るがす2人の邂逅はこうして起こったわけであるが。
少なくとも声をかけられた側の男子生徒からすればあまり良いとは言えない出会いであっただろう。
一方のアルバは、端末で資料を閲覧しながらも隣に座っている男子生徒について考えていた。
身長は170~180センチほどで高校1年生にしては普通から少し高い程度。黒髪黒目で細身を制服で覆っているが、その下の肉体が相当に鍛えられているというのは容易に把握できた。
だが、そうした男子生徒に関する情報よりもアルバが気になったのは、というより感嘆したのは、彼が内包する
以前入試の時声をかけてくれた、おそらくは先輩であろう女子生徒。彼女の
魔法書によれば、現代においてはCADと呼ばれる魔法の行使を補助する器具の発達によって
だが、それはアルバからしてみれば少しばかり間違った評価であると言える。最もそれは、人間より遥かに自由に
とにかく、アルバにとっては
もっとも人間の操る
そうした思考を巡らせながら資料を読みふけっていたアルバは、やはり、時間が経っていることに気づかなかった。
入学式が一話で終わるはずもなく。
他の魔法科高校の劣等生2次創作書いてらっしゃる方がヒロインの話をしていたんですが、今作もヒロインいります?