魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第5話 入学式・2

 読書をしていた端末の画面に時計が表示され、司波達也は読書に集中していた意識を引き戻した。それと同時に正面から声をかけられる。

 

「新入生の方ですよね? 開場の時間ですよ」

 

 その声に顔を上げると、達也の正面には1人の女子生徒が立っていた。小柄ながら整ったスタイルに、可愛らしい笑顔。男であれば10人中9人がその魅力にやられるだろうが、あいにくと達也はそういうものに大して興味がない。

 

 それよりも注目すべきは、眼前の女子生徒が腕に巻いている幅広のブレスレット。否、ブレスレットに見えるようファッション性にも気を配って開発された最新型のCAD、正式名称術式補助演算機である。

 

 CADは現代魔法師にとっての必需品である。通常、魔法を使用するにあたって術式、呪文、魔法陣など古来から伝わる方法を使用した場合、魔法の使用には最低でも10秒、ながければ1分以上の時間を要する。CADはそうした時間のかかる方法の代わりに1秒以下の時間で魔法師に魔法発動のための起動式を提供し、魔法の発動速度やその精密さを安定させるためのツールだ。

 

 そして達也の記憶によれば、それらを学内で携行することが許可されているのは、生徒会を始めとして一部の委員会のメンバーなどに限られていたはずだ。ということは、目の前にいる女子生徒は少なくとも何らかの実力者である、と考えられる。

 

 達也がそう考えていると、隣に座っていた男子生徒が顔を上げる気配があった。

 

「ん、もう時間か。ありがとう」

 

 そう言った男子生徒は、端末を閉じて立ち上がる。先程は戸惑っていたので気づかなかったが、身長は185センチほどで達也より大きく、体つきも多少であるが鍛えてあるのが見て取れる。長い黒髪を後ろでまとめて束ねているのが少し、というかかなり現代の男性においては珍しい。もっとも校則に違反しているわけではないだろうから別段否定するべきものでもないが。

 

「あなたもありがとう」

「いえ、結局何もしていないので」

 

 いきなり話しかけてきて時間になったら言ってくれなどといい出したかと思えば、少し言葉遣いがおかしいところがあるが礼を言う常識は持ち合わせている。不思議な人物だと思ったのは秘密だ。

 

「2人ともスクリーン型を使っているんですね。感心です。ご友人ですか?」

 

 2人のやり取りを見ていた女子生徒の問いかけに、2人は揃って首を横に振る。友人、ではないだろう。つい1時間ほど前に顔を合わせた上に互いの名すら知らないのである。

 

「そうですか。今どきスクリーン型を常用している方は珍しいので気の合うご友人同士かと思いました。当校では仮想型の持ち込みは禁止されているのですが、それでも仮想型を好む生徒というのは多いんですよ」

「はあ」

「ですがお二人は入学前からスクリーン型を使っているんですね」

 

 達也の戸惑った返事にもめげず、女子生徒は話を続ける。何故いきなり初対面の相手にこんな話をされているのかは少々疑問だが、あまり波風を立てたくない達也は適度に応えておくことにする。

 

「仮想型は読書には向いていませんから」

「映像ではなく読書なんですね。私も映像より書籍の方が好みだから嬉しいわね。そちらの方は何故スクリーン型を?」

 

 段々と砕けた口調になってきた女子生徒が次に目をつけたのは、達也の隣に立っていたアルバであった。一応自分も話に巻き込まれているようだったので離れていいものか悩んでいたのだが、どうやら離れなくて正解であったらしい。

 

「映像より文章の方が早い」

「なるほど。映像より早いということは随分と読むのが早いんですね」

 

 そう感想を述べたところで、女子生徒ははっと何かに気づいた様子を見せる。そしてコホンと咳払いをして見せてから口を開いた。

 

「自己紹介をしていなかったわね。私は七草真由美といいます。当校の生徒会長を務めています。ななのくさ、と書いて七草よ。よろしくね」

 

 七草。『数字付き(ナンバーズ)』と呼ばれる有力な魔法師の血筋の中でも、もう一つの家系とともにトップと目されている一族。

 

 魔法師の能力というのは、遺伝的素質が大きな意味を持つ。つまり、優秀な魔法師を代々排出している一族は必然その子孫も優秀な素質を秘めていることになる。そうした家系はこの国においては慣例的に名字に数字を含むので数字付き(ナンバーズ)などと呼ばれているのだ。

 

 その中でも、特に有力な家系の令嬢。言ってしまえばとびっきりのエリートだ。

 

 いつかは接触したいと考えていた数字付き(ナンバーズ)の人間がいきなり目の前に現れたことにアルバが驚く一方で、その名前に対する内心の苦さを押し隠して自分も名前を名乗った。

 

「自分は司波達也です」

 

 もう解放してくれ、と言い出したい達也だが、目の前の女子生徒は純粋に人懐っこいのか楽しそうに話すだけで解放してくれる様子は見せない。

 

「そう……あなたがあの司波達也君ね。先生達の間ではあなたの噂で持ちきりよ。入学試験で七教科平均で百点満点中96点、それも魔法理論と魔法工学は小論文含めて満点。受験者の平均が70点以下だったっていうのに。前代未聞の高得点だそうよ」

「あくまでペーパーテストの成績です。俺は実技の成績がかなり低いので理論で賄っているだけです」

 

 真由美の側としてはただ称賛するだけのつもりであるのだが、達也は卑屈なまでにそれを認めない。というより、この国の精度として魔法師の実力を示すのは魔法の発動速度や干渉力など実技における実力であり、理論の点数が多少良かったところでそれは魔法師としての評価に値しないのだ。そしてここはそんな魔法師を養成する高校。そこでの評価もまた実技中心であり、その結果として達也は制服の胸に八枚花弁の無い二科生になったのである。

 

 一方となりで動く気配の無いアルバは、また思考の中へと潜っていた。考えていたのは、この日本における数字付き(ナンバーズ)に関する情報だ。というのは、魔法書などと違って魔法師の勢力図に関する話というのはあまり表に出てくることではなく、八雲から多少話を聞いたものの拾いきれる情報は少なかったのである。

 

 そんな考え事をしているアルバに、達也との話が終わった真由美が話しかけてきた。

 

「あなたも名前を教えていただけますか?」

「ん、ああ。すまない。トリオン・アルバだ」

 

 その名前を聞いた真由美は驚きで目を見開いた後、笑顔を見せる。

 

「あら。ではあなたがもう1人の首席の方ですね」

「しゅせき……ああ、何かそんな単語が用紙にあったような気がするが……あまり意味を理解していないのだがどういう意味だ?」

 

 首席、という単語に聞き覚えの無いアルバがそんな抜けた答えを返すので、達也も真由美もぽかんとしてしまう。そしておかしそうな表情で笑った後真由美が話しだそうとしたが、その直後彼女の端末が時間を知らせた。

 

「あら、時間ですね。ごめんなさい、もっと話していたいのだけど。2人とも急いだほうがいいわよ。それじゃあまたね、司波くん、トリオンくん」

 

 急ぎ足で2人に別れを告げた真由美は駆け足でその場から去っていく。入学式前の気分転換件見回りに来ていたが、真由美もまた入学式の中で役目があるので講堂に行かなくてはならないのである。

 

「なんだったんだ……」

 

 ポツリと漏らした達也の言葉にアルバも答える。

 

「知り合いではないのか?」

「初対面だ」

 

 敬語を使わないアルバに引っ張られ、また彼が同級生ということもあって達也も丁寧に話すのをやめた。

 

「そう言えば、達也には名乗っていなかったな。トリオン・アルバだ。アルバと呼んでくれ」

「……ああ。俺は司波達也だ。もう呼んでいるが達也で構わない」

 

 互いにようやく自己紹介をした2人は、揃って講堂へと足を向ける。

 

「先程は、あー、すまなかった。いきなり頼み事をしてしまった」

「いや……戸惑ったが内容は簡単だったから別に構わない」

「そうか、ありがとう。そう言えば、しゅせき、というのは結局どういう意味だったんだ?」

「この場合は入学試験においてトップの成績をおさめた人物のことだ。つまりアルバが入試で一番の成績だったってことだ」

「そういうことか。失格の一種かと思って驚いた」

 

 そう言って納得した様子を見せたアルバは、達也にも気になっていた話を振る。

 

「もうひとり、と真由美は言っていたがそれはお前か?」

 

 その問いかけに驚いた表情をした達也は、首を横に振った。

 

「なんでそう思ったんだ? というか俺の制服を見ればわかるだろう」

「制服?」

 

 達也の突っ込みに、アルバは首をかしげる。その様子は馬鹿にしているのではなく、本当の意味で無知であるというのが達也にはわかった。

 

「はあ……ここに花弁が無いだろう」

「ああ」

「これがあるのはアルバのように一科生。無いのが俺のような二科生だ。成績が優秀な順に割り当てられるんだから、二科生の俺が首席なはずはないだろう」

 

 その説明を聞いて、制服の際にようやくアルバは納得がいった。

 

「そういう意味だったのか。これはただのおしゃれかとばかり」

「なわけないだろう。とにかく、俺は理論が良かっただけだよ。実力は大したものじゃない」

「ふむ。だが十師族は皆優秀な素質を持っていると聞いたんだが」

 

 何気なくアルバのもらした言葉に、達也がピタリと足を止める。

 

「十師族?」

「む? 達也は十師族の四葉(しば)家のものではないのか?」

「……十師族にしばは存在しない。何故俺が十師族だと思ったんだ?」

「なに? 数字の4に葉っぱの葉と書いて『しば』と読むのではないのか?」

 

 その言葉を聞いた達也は、しばらく沈黙した後信じられないと言った表情でアルバを見る。

 

「アルバ。俺は十師族じゃない。そしてお前が言っている数字の4に葉と書く十師族は『よつば』と読むんだ」

「む、そうなのか?」

 

 達也には隠された秘密がある。アルバが自分のことを十師族だと言い出したのは、そのことを何故か知っているためかと考えた。だが聞いてみれば、ただ単純に漢字が読めていなかった、と。

 

(そうやって油断させようとしているのかもしれないな。とにかく、警戒をしておいて損はないだろう)

 

 その秘密を知っているのか、あるいは本当に漢字が読めていなかったのかの判断は達也に出来ない。だから当面、アルバに関しては警戒することを決めた。

 

 一方のアルバは、自分が漢字を読めなかったということに凹んでいたが、同時に納得もしていた。先刻の真由美の自己紹介。さえぐさと言われた段階でアルバはその漢字がわからなかったのである。

 

「何故十師族はそんなに読みづらい名字ばかりなんだ? 七草といい、もっとシンプルに『ななくさ』と『しは』で良いだろう」

「七草に関してはわかるが、四葉は普通の読み方だろう」

「そうか?」

「そうだ」

 

 そこで今度は、達也がアルバに気になっていたことを尋ねる。

 

「アルバは、生徒会長と何か縁があるのか? さっき名前を呼び捨てにしていたようだが」

「いや、今朝初めて……でもないか。入試の時にぼうっとしていたら声をかけてくれたが、名前を聞いたのは初めてだ」

「ではなぜ名前を呼び捨てに?」

「何故? ああ、そうか。目上の者に対しては敬語、というのを使う必要があるのか。それとあまり親しくない相手は名字で呼ぶ、だったか?」

「何か人との付き合い方の教科書で勉強でもしてきたのか?」

 

 最初話したときの奇妙な『あなた』という言い方といい敬語を使い忘れたり十師族の名前を読み間違えたりといい。明確に警戒するほどのものではないのだろうが、何か変なやつだなと、達也はアルバに関する評価を脳内にメモしておいた。




四葉を『しば』と読むと間違えるネタはこの小説構想している段階でかなり早い時期に浮かびました。
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