魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第7話 感謝を告げに

「あ! トリオン・アルバ君! ちょっとあなたもこっちに来て!」

 

 この学校の生徒会長である七草真由美にそう声をかけられて足を止めたアルバは、必然周囲からの注目を集めることになる。

 

「何か用か……ですか、生徒会長」

 

 あまり丁寧ではない口調で真由美に答えたアルバに、真由美の後ろに立っていた男子生徒の目つきが鋭くなるのを見てアルバは慌てて敬語に直す。ついでに名前で呼ぶのではなく役職で呼んでみた。

 

「今少しお時間良いかしら」

「……少しなら」

「ありがとうございます。では」

 

 そう言うと真由美は新入生総代である司波深雪の方を振り返り、アルバのことを紹介し始める。

 

「司波さん。こちらがアルバ君。司波さんも聞いたと思うけれど、司波さんと同率の……もう1人の首席入学者です」

「この方が……」

 

 真由美の言葉に周囲がどよめく。第一位が2人、というのが、ある種奇跡のような信じられない話だったからだ。ちなみにアルバと深雪においては、実技では深雪が僅かに上。そして理論ではアルバの方が上で達也に迫る程の点数を取っている。それらを加味した結果どちらが上位とも定まらず、首席が2人、というような形になっているのだ。

 

「初めましてアルバさん。司波深雪と申します。よろしくお願いします」

「トリオン・アルバだ、です。よろしくお願いします」

 

 ひとまずペコリと頭を下げてアルバも自己紹介をする。そして彼女の名乗った名前を聞いて、つい先程知り合った男子生徒と名前が似ていることに気づいた。都合よくその男子生徒はアルバの隣に立っている。

 

「達也、司波と言えばお前も司波達也ではなかったか?」

「……深雪は俺の妹だ」

「ああ、なるほど。だから司波、と」

 

 アルバと達也の会話を聞いて、それを疑問に思った深雪が達也に2人の関係を問いかける。

 

「お兄様、お知り合いですか?」

「知り合いと言えば知り合い、だが」

「お二人は入学式の前に仲良く並んで読書をされていたんですよ」

 

 アルバとの関係をなんと答えたものかと一瞬口ごもる達也の代わりに応える。それを聞いた深雪が興味深そうに食いつきかけたところで、アルバがそれを遮った。

 

「すまない、所用があるので話はまた今度にしてもらっても良いだろうか」

 

 アルバがそう放った言葉は真由美に向けられたものだったのか、はたまた深雪に向けられたものだったのか。それを受け取った真由美は、アルバの意思を汲んでくれる。もともとアルバが来る前に深雪との話も一区切りついていたのだ。

 

「急に引き止めてしまってごめんなさい。今日はもともとご挨拶だけのつもりでしたから。深雪さん、と私も呼ばせてもらっていいかしら?」

「あ、はい」

「では深雪さんと、アルバ君も。詳しい話はまた後日にしましょう。今日は時間をとってくれてありがとう」

 

 そう言って軽く会釈して出ていこうとする真由美の隣で話を寸断する形になったアルバを一科生であろう男子生徒が睨んでいたが、アルバはそれをどこ吹く風と無視する。『今から襲うぞ』という敵意ならまだしも、目的の定まらない不明瞭な敵意に反応することはない。

 

「では、達也、それに司波さんもまた」

「俺が達也で深雪が司波さんというのはどうなんだ」

「む……では深雪さん、と?」

「そういうわけじゃないんだが……」

 

 相変わらずずれた発言をするアルバにため息を吐く兄を深雪が珍しそうに見つめる中、アルバは他の生徒にも暇を告げてその場から退場した。

 

 

 

******

 

 

 

 他の生徒がホームルームに向かったり新しい友人と交流を深める中一足はやく学校を出たアルバは、その足で八雲が住職を務めている山上の寺へと向かう。周囲に家がなくまたてくてくと人間のペースで歩くのも時間がもったいないと考えたので、移動には練習もかねて魔法を使った。使用した魔法は『擬似的飛行魔法』とも呼べる、事象干渉力と身体の耐久力が常人離れしているアルバだからこそ使える魔法である。

 

 それを使用したアルバは、ものの数分で八雲のいる寺へと到着した。空中で適当に設定していた魔法が終了したために上から寺の中へと落下する形になったアルバに、寺の僧侶達、八雲の弟子たちが慌てて飛び出してくる。

 

「何者! ってアルバ!?」

「む、失礼。少し乱暴な着地になった」

「少し乱暴とかいうレベルじゃないでしょう」

 

 僧侶のうちアルバと知り合いである数名が他の者を抑え、口々にアルバを非難、もとい説教する言葉を口にする。そんな乱暴な入ってきかたをするな、そもそもどうやって上から来たのか、門から入れ、まさか街中で堂々と飛んできたのか、馬鹿なのか、などなど。

 

 アルバと知り合いになっているとはいえ彼が人ではないとは全く思いもよらぬ人ばかりであり、その指摘はすべて至極もっともなものだった。

 

 それらの説教をアルバが甘んじて受けていると、結界によってアルバの侵入に気づいていた八雲が表へと出てくる。

 

「おやおや、珍しい来客だね」

「いつもはお前の方から遊びに来るからな」

 

 門人らについには正座までさせられていたアルバは、そんな説教はどこ吹く風と出てきた八雲に答える。

 

「あー、君たちこれは放っといて良いよ。うん。また無茶なことをするなら叱ってやってくれ」

「いや、無茶ではな―――」

「今の君は“人”だろう? 今のどのあたりが無茶ではなかったというんだい?」

 

 八雲に完全に論破される形となったアルバは、それに反論できずに黙り込む。確かに、人として生きてみたいと言ったのはアルバである。それを持ち出されると弱いのだ。ただアルバの側にも言い訳はあって。今日は八雲へと感謝を伝えたいがために

 

 八雲の指示に門人たちもそれぞれの仕事へと戻っていき、後には八雲と、正座から立ち上がったアルバだけが残された。魔法を使って制服から汚れを払うアルバを見た八雲は、感心したように頷く。

 

「何度見てもすごいねアルバ君は。どうやっているんだい?」

「どう、とは?」

 

 アルバに尋ねる八雲はアルバの方を見ていて。そして、アルバのことを見てはいない。彼が見ているのは、裏側の世界だ。

 

「君のそのの一粒も漏れ出していない想子(サイオン)霊子(プシオン)、僕らでいうところの霊気さ。君が魔法を使う際には一切の余剰想子(サイオン)やノイズが発生していない。それに霊気も。僕の知り合いにもくっきりとした輪郭を持つ子はいるけどね。君のように圧縮されて固体のように見えるというのは初めてだよ」

 

 そう言われてアルバは、その八雲の言っている霊気や想子(サイオン)が、アルバ達龍にとっては環境に干渉するためのエネルギーに付属するものであるということに思い当たる。明確に考えたことは無かったが、おそらくはそれが八雲の言っていることに影響している。

 

「慣れ、だな」

「慣れかい? 魔法はほとんど使ったことが無いんだろう?」

 

 八雲の問いに、アルバは首を横に振る。今からするのは以前初めて八雲と初めて会った際にも話したことを、更に一歩発展させた話しだ。

 

「人のように『想子(サイオン)を操って魔法式を作る』というのはしたことがないな。だが……以前、俺たち龍の力について話したのは覚えているか?」

「龍にのみ操れるエネルギーを操り、自然に影響をもたらす、だったかい?」

「そうだ。この龍だけが操れるエネルギーだが、厳密に言えば違う」

「というと?」

「そのエネルギー自体は、人が言うところの想子(サイオン)霊子(プシオン)に過ぎない」

 

 アルバの説明に八雲はその細い目を更に細める。

 

「つまり、僕ら人間にも君たち龍と同じことができる、と?」

「いや、無理だな。人が操れるのはあくまで想子(サイオン)、俺達が言うところの『無垢なエネルギー』だ」

「純粋な状態のエネルギー……」

「そうだ。それに対して龍は、霊子(プシオン)を媒介として属性を与え、更にそれを高密度で吹き出していることで現実世界へと影響を及ぼす」

「ふむ」

「ペンで字を書くことを想像してみろ」

 

 通常の魔法師が魔法式を使用して魔法を発動するのを、ペンで文章を書くこととするなら、龍がやっているのは、そのペンのインクを直接マグマであったり硫酸であったりあるいは水であったりと、つまりは液体として書きつけることは可能であるもののそれ以外の属性を持っているものへと変質させる行為だ。

 

 そうして変質した想子(サイオン)が、イデアから現実側へと影響を及ぼす。それが、龍の環境干渉作用と呼ばれる力。

 

 これまで、これについて具体的に理解できたのは龍達だけである。過去龍のそうした環境干渉作用を観測、研究していたものたちであっても、結局は変質した想子(サイオン)の観測が不可能なために結論に至ることは出来なかった。それは現代の人間も変わらず。あくまで無垢な状態のものしか人は観測できない。アルバが調べたところによれば古来の精霊魔法とやらが多少近いところまで来ている気がしたのだが、何分情報が少なすぎて判断がつかなかったのだ。

 

「なるほどねえ」

「もっとも、これは俺が解釈したものだ。厳密には違うかもしれないが、概ねは間違えてないはずだ」

「それが、君が霊気なんかを抑え込んでいる原因ということかい?」

「言っただろう。俺たち龍は、存在しているだけでその力が周囲へと波及していくと」

 

 アルバにおいて波及するその力は。物理的属性という意味では火や雷など様々な形を取れど。

 その根幹にあるのは、たった1つの概念である。だからこそアルバは、それを抑えるすべを学んできた。

 

「それを抑えることには慣れている。だから想子(サイオン)霊子(プシオン)も抑え込まれた状態になっているんだろう」

「ちなみに、今の君はその想子(サイオン)を無垢なままで展開することができるのかい?」

「俺たちに取っては手足を使うことと変わらない。もっとも、今の状態でも人のそれとは比べ物にならないほどの量であるがな」

 

 それを抑え込むために、龍としての力がかなり抑制される人の姿を取り。更に普段から、すべての想子(サイオン)霊子(プシオン)を身のうちに抑え込んでいるのだ。例え属性を与えずとも、それを解放しただけで人はアルバに近づけないだろう。

 

 

 と。

 

 八雲との会話で来た目的を忘れていたアルバは、それを八雲に伝える。

 

「ああ、そうそう今日来た理由なのだが」

「そうだね急に来たのは驚いたよ」

「いや、よく考えればお前にちゃんと礼を言っていなかったと思ってな」

 

 礼、というアルバの言葉に、八雲は首をかしげる。

 

「礼?」

「お前のおかげでこの世界のことが多少見えてきたし、高校にも入学することが出来た。感謝している」

「ああ、そのことか。でもそれが、君と僕の取引だろう?」

「取引とはいえ、与えられたものには礼を言うのが当然ではないか?」

 

 アルバの言葉に、八雲は珍しく一瞬言葉に詰まった後笑い出す。

 

「何がおかしい」

「いや……そうだね。うん。その感謝、ありがたくもらっておくよ。そして代わりに、僕からも君に感謝を。僕の知らない世界について教えてくれた。誰よりも先に備えることができる」

 

 アルバからの言伝で、周囲の有力な魔法師に龍の存在について伝えることは止められている八雲だが、いざとなったときにあちこちに渡りをつけられるようにと他所との関係を以前より鑑みるようになっていた。それはすべて、アルバが話してくれたからだ。

 

 

「どういたしまして、というやつだな」

「君はもう少し、魔法だけじゃなく常識も身につけた方が良いね。後で参照するべき資料を書き出して渡しておくよ」

「助かる」




もももっと感想くれてもええんやで……

あとヒロインなどに関する意見は感想欄じゃ駄目みたいなので活動報告にお願いします。作者ページから飛べるので。


書きたかった龍の力の一端を……
もう少し先にしようかとも思ったのですが、多少はここで出しておこうかなと。まだまだ考えているものはありますが。

モンハン世界でも未知のエネルギー。
なら法則にあったエネルギーを人間に観測できないっていう設定で勝手に考えちゃえって感じです。

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