魔法科高校の煌黒龍   作:アママサ二次創作

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第9話 食堂にて

 午前中は、結局工房に行ってその後演習の見学と2つに時間をわけることで、全員で一緒に行動することが出来た。アルバ以外の3人がCADに関して全く興味がないかと言うとそういうわけでもなく、むしろそれ自体は魔法師に必須な道具なので、ある程度授業を見学するのは楽しいことだったのだ。

 

 そしてその後は、3年生の演習の見学。見学したのは複雑な魔法応用学の実践演習であり、アルバにとっては知識以外では見たことのないものだったが、それぞれにそれぞれの環境で魔法を専門的に学ぶことのあった3人には、あまり驚きの無い授業内容であったようだ。

 

 午前の授業が終わった後4人は、昼食を食べるために食堂へとやってきていた。そこで席を探していると、途中で何かを見つけた深雪が3人を案内していく。その先にはクラスメイトと一緒に食事をしている達也の姿があった。

 

「お兄様」

 

 あくまで淑女を装って兄に話しかける深雪だが、その声が喜びに溢れているのにアルバは気づいた。同時に、人と違う感覚を持つアルバは、深雪と達也の間に、何か裏側での、即ち現実世界ではなくイデアにおけるつながりがある事を感じ取っていた。

 

(何らかの契約、か? しかし兄妹で……)

 

 かつて交流のあった小さき者達の使っていた技術からそんな想像をするが、同時にそれは有り得ないと打ち消す。アルバが知っているそれは、国の君主と君主など、強大な権力を持つ者同士が大量の人間の意思を集めることで発動させていた秘術だ。それを、ただの兄妹である2人が担っているとは考え難かったのである。

 

「お兄様、それに皆さんご一緒してもよろしいですか?」

「ああ、構わない」

 

 深雪の質問に達也が応え、アルバを除いた3人がそれぞれ席につこうとする

 

「やっほー深雪。ほのかと雫も。良いよ良いよー」

「おい、俺だけ誰も知らねえんだけど。あいや司波さんは知ってるっちゃ知ってるけどよ」

「あんたなんてゴリラその一で良いでしょ」

「なにおう!」

 

 達也と共にいた者の言葉を聞いていると、向こうの達也ではない男子生徒1人を除いて、この場にいる者達は皆面識があるらしい。

 

 と。

 

「司波深雪さん! そんな狭いところではなくこっちに座りませんか?」

 

 何者か。

 

 いや。はっきりと言おう。

 

 工房や演習の見学のときから4人を、特に深雪を遠巻きに見ていたクラスメイト達が声をかけてきたのだ。

 

 雫やほのかは初めて深雪と話した際に彼女の事を新入生総代としてでも首席としてでもなく、1人の少女として扱った。そしてそれに深雪も気づき、こうして一緒に行動するに至った。その点で言えばそんなことに全くと言って良いほど興味を示していないアルバも、ある意味深雪の合格ラインを満たしていた。

 

 だが一方で。他のクラスメイトたちには、特にいまこうして深雪に声をかけてきた男子を中心とするメンバーには、ある種深雪に対して利用するような意思が垣間見えていた。そのため深雪も、表面上の付き合いは一応して見せても、それ以上は関わっていないのである。

 

「いえ、私は――」

「座る場所も足りないじゃありませんか。さ、あっちの広く空いている席に行って一緒に昼食を食べましょう」

 

 誰も許可を出してないのだが、仮にこの席に座る場合は当然ながら人数的にはみ出す。そもそも空いているスペースはちょうど深雪、ほのか、雫、アルバの4人が座ってしまえばいっぱいになる。身体の細い女子生徒であれば後2人ほど入れるかも知れないが、それでも深雪を誘っている男子生徒達が入るのは不可能だ。

 

 そしてそんな意味のわからない主張をしている男子生徒に対して、達也達やほのか達も不快な様子を見せているのが見て取れた。アルバにとっても不快、というわけではないが深雪は断っているのではないかと感じる。

 

「ですから、私はここで昼食を取ります」

「ここでは狭いでしょう。あっちで僕たちに話を聞かせてくれませんか?」

 

 断っている深雪だが、体面を考えてかある程度オブラートに包むことで、直接的な断りの言葉を発していない。そのため話しかけている側の男子生徒も、あえて無視しているのかなんなのか、しつこく深雪を誘っていた。

 

 と。

 

「お前が司波さんを誘っている理由はなんだ?」

 

 隣で話を聞いていたアルバが口を挟む。その巨体に男子生徒は一瞬怯んだ様子を見せるが、すぐに言い返した。

 

「彼女は首席入学者だ。魔法師を志すものとして、そのお話を聞きたいと思うのは当然だろう?」

 

 そう、明らかに建前に思えるそれを語る男子生徒に、アルバは更に質問をした。

 

「ふむ。ならば、司波さんの代わりに俺でも構わない、ということか? なら俺が行こう」

「は?」

 

 突然今度はこっちが意味のわからない事を言いだしたとその男子生徒がぽかんとするが、アルバの入試の成績に関する事情を知っているほのか達や、真由美を経由しての深雪とアルバの自己紹介を聞いていたエリカ達はその言わんとするところがわかった。

 

 『首席という地位に興味があるなら、別に深雪ではなくても良いのだろう?』と。

 

 あくまでもこれは、アルバの素である。男子生徒達を撃退するためではなく、素でこの反応を返している。

 

「なんでお前で良いって話になるんだよ!? 意味のわからない事を言うなトリオン・アルバ!」

「む? 首席入学者の話を聞きたいのだろう? 俺も首席入学者……どうやら司波さんとは同率らしいと生徒会長から言われたのだが……」

 

 違ったか? とアルバが深雪を振り返ると、深雪はそれを肯定する。

 

「え、ええ。確かに生徒会長から伺いました。それに入学以前から、『今年は首席が2人いる』とお聞きしていましたわ」

「なっ……!」

 

 アルバの話に合わせた深雪にそう言われて男子生徒は言葉に詰まる。彼の言った建前は、今アルバに潰されたのだ。だがそれで止まるのであれば、こんなくだらないことはしていない。

 

「それだけじゃない。一科生が、二科生といるのはふさわしくない。けじめが必要だ。だから司波さんも僕たちと食べるべきなんだよ。もちろんお前も、他の2人もだ」

 

 一番オブラートな建前が潰れたかと思えば、今度は差別まがい、というか完全に差別な建前を持ち出してくる。恐るべきは、これがまだ下心を隠すための建前であるというところだろうか。

 

 だが、アルバはアルバで、とんでもない世間知らずというべきか。少なくともこの時代におけるその考え方を理解していなかった。

 

「けじめ……それは一科生と二科生の間のか?」

「そうだ。二科生はあくまで一科生の補欠に過ぎない。変に仲良くなって対等だと勘違いされては困る」

 

 その言いように、アルバの後ろにいるメンバーは憤慨し、男子生徒の後ろの数名は眉を顰め、数名は肯定の意思を示して頷いている。特にエリカやレオなどは今にも言い返しそうになっていたのだが、アルバが間髪入れずに口を開いたことで言い返すタイミングを失った。

 

「となると疑問があるのだが」

「さっきからなんなんだお前は! いちいちうるさいな!」

「む、いや、しかしお前たちが司波さんをそうまでして誘うことの道理がわからないのだ。お前が言っているのはつまり、入試で1~100番だったものと、101~200番のものは区別しなければならない、という話だろう?」

「そうだ! それはつまりブルームとウィードの違いだろう! わかりきったことを言うな!」

 

 あくまで淡々と、そして本当に疑問であるかのように話すアルバに、苛ついた男子生徒は校内で禁止されている差別用語まで口にしてその質問に答える。

 

 

 それでもアルバは止まらない。

 

「つまりお前の言う道理では、100番は101番を、その差は1つしかないのにけじめとして遠ざける。ならば俺と司波さんも、2番以下であるお前たちを遠ざけた方が良いのか? その差は確実に2以上だろう」

「は、はあ!? 何を意味のわからないことを……! お前はもともと関係ないだろう! 俺達は司波さんにようがあるんだ! お前は黙っていろ!」

 

 単純な疑問であるが、それはアルバが差別という概念に対してかつて抱いた疑問である。そのときは誰もこの質問に答えることが出来なかったので、こうして新しい文明の者である男子生徒に質問しているのだ。

 

 だが男子生徒は、アルバがただ邪魔しようとしていると判断したのかそれを無視するという形をとろうとした。

 

「つまり、あくまで司波さんと話したい。それはつまり、性欲、というやつか?」

 

 だが、このアルバの発言は無視できなかった。主にプライドなど彼にとっては特に見逃せない部分で。

 

 オブラートに包む気の欠片も感じられないアルバの発言に、思わずといった感じで先程ゴリラ扱いされていた男子生徒、レオが水を吹き出し、正面に座っていたエリカに悲鳴をあげられていた。辛うじて彼女にかけることは回避できたようであるが。だけでなく、アルバの後ろにいる達也たちも、男子生徒の後ろの一科生たちも皆一様にぽかんとしていた。

 

「は、はあ!? そんなわけないだろう!」

「む、違うな。すまない、間違えた。性欲ではなく恋心、と言えば良いのか?」

 

 男子生徒の否定に対して、あくまでアルバはマイペースに自分の質問を修正する。

 

 現代の言語、特に日本語においてはかなりの部分習得しているアルバだが、感情などに関しては理解が追いついていない部分もあり、また魔法の知識などで使われてないためまだはっきりと認識していないものも多く、こうした『誤変換』を時折起こす。今はそれが変な形で作用していた。

 

「ーーッッ! さっきからなんなんだお前は! そっちのウィードどももだ! ウィードならおとなしく席を譲れよ!」

 

 と。

 

 ここまで来て、男子生徒の我慢が爆発してしまった。

 

 だが。

 

「深雪、俺達はもう食べ終わったから他の皆と食べなさい」

 

 図らずもアルバの会話と疑問が時間稼ぎになった、というわけではない。アルバが何かを言い出した時点でどうせまた昨日同様マイペースな会話が始まるのだろうと想像した達也が、美月やエリカに急いで食べるように指示していたのだ。おかげで先に食べていた4人は食事を終えることが出来た。

 

「……はい、わかりましたお兄様」

 

 少なくとも怒りなどのわかりやすい感情には敏いアルバからしてみれば、明らかに達也との食事が妨げられたことで深雪は怒りを感じているのが見て取れた。更には目の前の男子生徒は達也をウィード扱いもしている。それでも、揉め事を避けたいという達也の意思を汲み取り、渋々ながらそれに同意したのである。

 

 そのまま一科生達と軽くにらみ合った後エリカやレオ達も食堂を去り、雫達を含めた一科生は、アルバのせいでギスギスとしてしまった空気の中で食事をすることになった。もっとも、既に雫、ほのかの側でも他のクラスメイトにいい印象を持っていないので、一緒に座ってもまともに会話する気が無かったのだが。不憫なのは、どれほど苛立っていても丁寧に対応しなければならなかった深雪だろう。それでもアルバが会話の邪魔という名のフォローをするという形でなんとか昼食の時間を乗り越えることが出来た。




前の話出してからポツポツ書いてたら気がついたら出来上がってました。アルバくんぶっ飛んでるね!
この部分原作だとショートカットされてるんですけど、ちょっと作者的な疑問も込めて書いています
(他の参考にしている二次創作でも書かれていましたし。明らかにあちらの方がぶっ飛んでて面白いですが)



作者の魔法科高校の劣等生の魔法関係の疑問について応えてくださる方、
https://twitter.com/amamasa_nizi
このアカウントに連絡欲しいです。

それ以外の方も色々呟いて行こうと思うので、是非フォローお願いします。

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