一応全五話連載の予定です。
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Sec.1
紗理奈は、合格者発表掲示板の前で、無感動に自分の数字が点灯するのを見た。まず第一に頭に浮かんだのは『眼鏡、新調したほうがいいかな?』であった。
「すごいじゃない」友人の
「気が乗らないなぁ……」
「なによそれ」
先程までの感激を引きずるように隣の茉莉は素っ頓狂な声を上げる。友人の抗議の声もどこ吹く風と、紗理奈は呆然と、発表掲示板を注視する。掲示板の前、顔色を落胆に染め面を伏せる人間は八名だった。
今回、第五段階への試験を受ける資格のあったものは十三名。内十名が試験に挑み、合格者はわずか二人。入学当初、第一段階に二百名近く所属していたことを思えば、難関も難関、一キロ先から針穴に糸を通すような狭き門だった。
エクスドライバーになるには、他の昇格試験よりも、実はこの第五段階への昇格試験が一番の難関だった。
発表掲示板の数字が消えた。
それに紗理奈は受かってしまった。
「あたし、来週麻子たちと海水浴に行く予定だったのにな……」
半ば無意識に言葉が出た。もちろん、紗理奈は本気で、行けなくなってしまった週末の海水浴を惜しんでいるわけではなかった。
「あんたね……」
茉莉は、もはや呆れた、と言わんばかりに、額に手を当てて頭を振っていた。
「はいはいはい。紗理奈の代わりに、私たちがよっく海水浴を頑張ってくるから。紗理奈は早いとこエクスドライバーになっちゃいなさい。それが私のお願い。私たちの希望よ。友情はかけがえがないわね~」
予鈴が鳴った。次は座学だ。
ちゃんとやりなさいよ、とだけ残して茉莉は行ってしまった。
打ちひしがれていた連中も、トボトボと校舎の外へ出て行くか、気を取り直して次の試験のための技能教習の予約を取りに受付に向かっていった。
ふと、紗理奈は、自分と同じく発表掲示板を見上げる少女に気がついた。
背格好は、伝説と言われる西東京管区の菅野走一に似ている。けれどもその流れるような長髪は金色で、瞳の色はブルーだ。華奢な体つきを包むのは、アリス・ロリータとでも言うべき、イギリス風の子供服だ。容姿で言えば、遠藤ローナをそのまま子どもにしたようだった。そう、まだほんの子どもに見えた。
彼女は、両腕でクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら、数字の消えた発表掲示板を見つめていた。
この時、紗理奈は勘違いしていたのだ。少女の瞳に宿るのは落胆の哀愁ではなく、燃え上がる闘士だった。
紗理奈は、そっと少女のもとへよった。
「気にしなくていいんじゃないかしら。あなたはまだ十分若いわよ」
突然かけられた声に、少女はビクッと身を強ばらせ、素早い動作で紗理奈を見上げた。
それから、眉尻を釣り上げ、気持ち胸をはり(彼女の胸も子どもサイズだった)、顎をあげて紗理奈に対峙した。
「あら? なんのことかしら?」
「
「あら? 勝手に落第にしないでくださる? わたくし、あなたと違って受かっておりましてよ」
「嘘ッ!?」
紗理奈の正直な気持ちは、静止の暇なく口を出てしまった。慌てて口を抑えるが後の祭りであった。
「
「あたし? あたしは大丈夫よ。受かっちゃったもん」
「失礼。あなたが?」
少女は眉根を寄せて、不信感を隠そうともせず紗理奈に言った。
紗理奈が少女の不信感に弁明しようとしたちょうどその時、受付から一人の指導員がやってきた。
「萩野紗理奈くんとアリス・チェンバースくんだね」
「アリス・クラークソン・チェンバースですわ」
「失礼」
実に業務的執務的機能的に訂正すると、指導員は三枚の紙を二人に渡した。
アリスは近くのソファにクマのぬいぐるみを座らせると書面を受け取った。
「第五段階はエクスドライバー基地で行うことになる。学習内容は、主にエクスドライバーの業務
紗理奈は三枚の書類を見た。どれもこれも小難しいことが書いてあって、頭がくらくらする。
「移動は明日。基地からエクスドライバーが迎えに来る。それまでに自分の愛車を選んでおいてくれ。一緒にツーリングだ。クルマは地下の車庫にある。あと、これを」
指導員は、紗理奈とアリス、それぞれにカードを渡した。
『プレエクスドライバーライセンス』
プラスチック製のカードにはそう銘打たれていた。
ライセンスカードにはほかにも、取得日(つまりきょうの年月日)に有効期限(きょうから半年後)、生年月日や取得条件などが書いてあった。通称『仮免許』。誰が言いだしたか知らないし、その由来についても紗理奈は知らなかった。
指導員は続けた。
「あ、そうそう。君たちはまだエクスドライバーではない。よって、公道をガソリンカーで走ることは原則許されていない。例外は、エクスドライバーの監督下にあるときだけだ」
わかったね。そう念を押して、指導員は受付に戻っていった。
「本当に、あなたも受かってらしたのね。先ほどの失言を取り消させてもらうわ」
アリスが言った。
「あたしも、まさかこんな子どもが受かってるなんて思わなくて……。ごめんね?」
紗理奈としては、
アリスは、こめかみをヒクつかせながら、
「い、言うはね……」
咄嗟に、紗理奈は自分の失言に気がついた。
「い、いや! 違うの! 子どもの癖に生意気とかそう言ったことじゃなくてね、えっと……。ほら、アリスちゃんってちっちゃいじゃない?」アリスのもう一方のこめかみがヒクついた。「それなのにすごいな、かっこいいなって思って! ほんと、ほんとよ!」
かっこいい、という部分にアリスがほんのすこし反応したのが見えた。
「アリスちゃんかっこいいよ。あたしそう思うな。ほら、だって、あの菅野走一くんみたいじゃない?」
とたんにアリスの表情は輝きだした。腰に手を当て胸をはり、ムッフーと鼻から息を吐き「これぐらい、どうってことありませんわ」と髪を振って答えた。
紗理奈のアリス評は、正直ないい子、になった。あと、小さくて可愛い、という条項も付け加わる。
「何はともあれ、これからよろしくお願いいたしますわ。サリナ・ハギノ」
アリスが小さな手を差し伸べた。
「こっちこそ。よろしくね、アリスちゃん」
紗理奈はアリスの手を握り返した。
この日から、二人のエクスドライバーへの道程が始まった。
14/10/3 一部修正
14/10/17 一部修正