Ecole de éX-D   作:三河豊田

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Sec.6

 四点式シートベルトを外して紗理奈は車外へ飛び出る。

 

「待ちな」

 

 背後から声をかけられて、紗理奈は振り返った。

 

 開襟シャツをだらしなく着て、無精ひげを生やした男がガヤルドから降りてきた。小早川だ。

 

「まだ危険だから、ちょっと待ってな」

 

 小早川はそのまま給電所へ足を向けると、屋舎の横に設えられているブレーカーを操作した。スパークをちらしていたケーブルは、途端に静かになった。

 

 紗理奈は停車したワゴンタイプのAIカーに取り付いた。

 

「茉莉!」

 

 中では、カーテンエアバックが炸裂し、エアー遊具の家の中みたいだった。五人の若い男女が折り重なるようになっていた。扉付近のピラーに寄りかかってうなだれている茉莉を覗き込む。安らかな呼吸を繰り返していた。

 

「よかった」

 

 紗理奈は独り語ちると、車内を見渡す。全員目立った外傷はなく、気絶しているようだった。

 

「全員気絶してるのか」

 

 背後から声がかけられ、紗理奈は身を竦ませた。振り返ると、ぬっと車内を覗き込む小早川の長身があった。

 

「こいつらはそっとしておけ。脳に何らかのダメージがいってるかもしれない」

 

 紗理奈は身の毛もよだつ思いがした。

 

「とりあえず、先にシティーポリスへ連絡だ」

 

 小早川はそれだけ言うと、ガヤルドへ帰っていってしまう。紗理奈もそのあとに続いた。小早川はバケットシートに収まると、助手席の端末を操作し、二言三言、インカムに向かって短いやり取りをする。インカムを助手席へ放ると、小早川は大きく伸びをした。

 

「私たちは、どうなるんですか?」

 

 先ほど、一旦脇に追いやった疑問を、今度は取り上げて聞いた。

 

「さて、なんのことかな?」

 

「私たち、エクスドライバーの監督なしに、公道を走ってました」

 

 小早川はダッシュボードを開く。中にはタバコ以外に何も入っていなかった。小早川はそのまま、ラッキーストライクを一本口に加えると、車載のシガーライターをくっつけ、紫煙を吐き出した。

 

「そうだっけ? 俺が嬢ちゃんたちを迎えに行った帰りに、AIカーの暴走が発生した。違うかい?」

 

 紗理奈は驚いて、目を見開いた。エクスドライバーはみんな、とても堅い人なのだと無意識に思っていたのだ。

 

「なかったことに、するの……?」

 

「俺も盛大に遅刻したからなぁ。うちのオヤジ――飯塚司令のことだけど、結構な石頭でさ。次、なにか始末書書くようなことになるとさ、俺トイレ掃除させられる上に、一週間ガヤルドに乗せてもらえなくなるの。だから」

 

「いいんですか、それで」

 

「いいのいいの。俺はガヤルドに乗れる。君たちは仮免許を剥奪されない。みんなハッピーでいいじゃないか」

 

 ハッピーといえば。

 

 紗理奈はワゴンタイプのAIカーへ顔を向け、小早川に問うた。

 

「どうして、こんなことをしたんですか?」

 

 ぶら下がって風に揺れるケーブルが見えた。

 

「こんなことって?」

 

「普通にセンサーを封じれば良かったんじゃないかなって」

 

「君たちの力量は未知数だからね。使いモンになるかわからんし、なにより、急いで出たもんだから単発拳銃(カンプピストル)忘れちゃって……」

 

 呆れて言葉をなくした紗理奈は、そのままMINIの方へ向かった。

 

「アリスちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、ダイアナも大丈夫ですわ。それより、わたしくし達のライセンスは――」

 

「大丈夫だって」

 

「そうですか」アリスは安堵の息を吐いた。「度量の大きいトノガタみたいですわね」

 

 紗理奈は、愛想笑いを返すだけで、それ以上何も言わずに、先ほどまで暴走していたAIカーの寄り添い、シティポリスが来るのを待った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

『交通課解析室』と銘打たれたジャケットが風で翻る。男は乗ってきたAIカーに背中を預けて、遠目に現場を眺めていた。鑑識の警官が、半壊した屋舎、ひしゃげた支柱やスタンドなど、現場の写真を何枚も撮っていた。

 

 シャッターを切る音を尻目に、救急隊が乗員たちを救急AIカーへと運んでいくのが見える。ちょうど件のAIカーはレッカー用AIカーに牽引されて行ってしまったところだった。

 

「ちょっと、遅かったかな……」

 

 男は手元のタブレットをフリックする。さっそく鑑識の所見がサーバにアップされていた。男は所見を眺める。

 

「どのみち、メモリは死んでるか、これ」

 

 男は顔を上げた。

 

 女子高生ぐらいの女の子が、同じ年頃の女の子がストレッチャーで救急AIカーへと運び入れられるのに付き添っていた。友達だろうか。

 

――よろしくお願いします。

 

 女の子が頭を下げると、救急AIカーはサイレンを鳴らして走り去っていった。

 

 彼女はそのまま、青いBRZの運転席に収まった。

 

「あの子が、エクスドライバー? 若いな」

 

 男は胸中に、なにか鋭い痛みを感じた。気がした。

 

 いや、嫉妬か? 

 

 男は内心に独り語ちる。

 踵を返し、男はAIカーに収まる。

 

「それはないね」

 

 圧縮空気の抜ける音。AIカーのドアが閉まった。

 

 

 

【To Be Continue...】




第一話完。

第二話が終わるまで、まして第五話が終わるまでにどれくらい時間がかかるんだろう…。

のちのち、とりあえず現状、第一話は書き直したいです。
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