Ecole de éX-D   作:三河豊田

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Sec.3

 ハイウェイに出ると、紅と黄色のガソリンカーが遠くに見えた。アリスのMINIと小早川のガヤルドとはの間には、1キロ以上の開きがあった。紗理奈は、アクセルをべた踏みする。緩いカーブ。BRZはわずかに外側へ流れていく。BRZはオーバーステア気味にチューンされている。向こうも同様に驀進している。なかなか距離は縮まらない。

 

 けれども、そんな距離をものともせず、紗理奈の耳元で小早川の声がした。

 

『ローズちゃんありがとね』小早川は司令室のオペレータに言う。『シティ・ポリスへの照会の結果が来た。確かにそいつは、シティ・ポリスの人間だ。紗理奈、そいつの目的とか、聞いてくれ』

 

「自分でやってくださいよ」

 

 言いながら、紗理奈は無線を、車内スピーカーモードにした。そんな紗理奈の行動を理解して、小早川は咳払いを一つするとつづけた。

 

『コホン。交通課付解析室の三栗谷智樹巡査殿。なんでこんなことをしてるのか、理由を聞かせてもらおうか』

 

 突然の小早川の質問にも、三栗谷は落ち着いた様子だった。

 

「実は、暴走AIカーを捕まえたいんだ」

 

「捕まえる?」緩いカーブを抜けると、隣の三栗谷に向かって素っ頓狂な声を上げた。「だったら教習所(エコール)に入所しなさい。無事エクスドライバーになれれば、学費や寮費は支給されるわよ。失業保険なんて必要になんないわよ」

 アリスが咎めるように『およしなさいサリナ』というのがスピーカーから聞こえた。

 

『サリナ、あなたご立腹のようね。どうなさったのかしら』

「別に。気にしなくていいよ」

 

 一〇〇キロで走るBRZの前に飛び出された衝撃が、まだ紗理奈から抜け切れていなかった。紗理奈の胸中は、ガソリンカーの前に突然飛び出してくるような人間を隣に乗せていることにいら立ちを覚えていた。

 

「続けてもいいかな?」

 隣の三栗谷が、伺うように紗理奈に聞いてきた。

「どうぞ」

 

「暴走AIカーを捕まえたい。正確にいえば、暴走中のAIカーの内部データがほしいんだ」

 

 ガヤルドとMINIが近づいてくる。彼我の距離は五〇〇メートルぐらいに縮まっていた。

 

『そーゆーことはですね、巡査殿。基地司令を通してくださいです』

 

「飯塚司令には、何度もお話ししましたが、聞き入れてもらえませんでした」

 

 まあ、あのおやじは石頭だからな、という小早川と、そうですわね、おじいさまは杓子定規なところがありますから、というアリスの声が重なってスピーカーから聞こえてきた。

 

「ならばとメカニックやエクスドライバーなんかの基地の人に直接お願いしても、やっぱり門前払いだった」

 

「あっ!」紗理奈の突然の叫びに、三栗谷は肩をビクッとさせた。「あなたが幽霊だったのね!」

 

 三栗谷は、何を言われているのかわからないようで、茫然と紗理奈のほうを見る。

 

『ごらんなさい、サリナ! やはり、幽霊なんて非科学的なもの、存在しないのですわ! カレオバナですわよ、カ・レ・オ・バ・ナ!』

『なんだよ、巡査殿かよ。つまんねー』

「アリスちゃん、枯れ尾花ってなんだかわかってるのかな」

『失礼ですわ。サリナよりはよく知っていてよ。わたくし、ユニバーシティの学生ですもの』

 

 三栗谷の頭の上には、いくつものはてなが浮かんでいた。

 

「どういうこと?」

 キョトンとする三栗谷が、なぜか面白くて、

「さあね」

 紗理奈は、説明しないことにした。

 

「あー、でもちょっと残念。交通事故の話、してみたかったのにな」

『まだいってらっしゃるのね、サリナは』

 

 紗理奈は三栗谷に話しかける。諌めるように、諭すように。

「でも、ガソリンカーの前に突然飛び出しっちゃ本当に幽霊になっちゃうんだからね。気をつけなさい」

「え。だから、何の話?」

 

『巡査殿は暴走AIカーの内部データがほしいんだろ?』

 三栗谷をとことん置いてきぼりにしながら、小早川が訊く。

「え、あ、うん、はい……」

『具体的には、どうやるんだ?』

 

 小早川の言に、紗理奈は驚いて訊きかえした。

 

「小早川さん! まさか、シティ・ポリスに協力するんですか?」

 

『ま、おもしろそうだしな』

 

 面白うそうって、それだけで? 紗理奈の反論は、三栗谷の説明に消されてしまう。

 

「カンプピストルを改造した、特殊な拳銃を使います。ケーブル付の拳銃です。中身のデータをこちらで吸い出します」

 

 そういって三栗谷が懐から取り出した拳銃は、異形なものだった。遊底の横にリールがついており、銃床から、ケーブルが伸びている。銃口には矢じりのようなものがついていた。四本の金属の足で作られた矢じりだ。その足に守られるようにして、針のようなものがあった。

 

 三栗谷は拳銃から顔を上げ、紗理奈に向き直る。

 

「データ取得中は、ケーブルが外れないように、暴走AIカーと一定の距離を保って走行してほしい。エクスドライバーなら、できますよね」

 

 どうして私が? そう思うと、また少しイライラしてくる紗理奈だった。

 

「私、仮免よ」

 

 本職のエクスドライバーではなく、プレエクスドライバーである。だから、絶対にできる保証はない。そんな意味を紗理奈は三栗谷にたたきつけてやった。それも、業界(?)用語を使えば、さらに相手を混乱させてやれる、とも考えた。

 

「大丈夫。第五段階昇級試験(オーバートップ)合格した(ギアチェンジ)したってことだよね。心配はいらないよ」

 

 三栗谷は平然と、そんなことを言った。あまつさえ、自信がないように見える紗理奈を励まさんといわんばかりに。

 

 そこで、紗理奈は違和感を覚えた。「オーバートップにギアチェンジした」これは、教習所(エコール)の人間しか知らないはずの言い回しだ。

 

 どうして、この巡査風情が知っている?

 

 ようやく、BRZは先行する二台に追いついた。

 

 いけ好かない奴だ、とますます紗理奈の苛立ちは積もっていった。

 

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