取手が欠けたら、持ち主に穴を開けられたマグカップのショートショート
出窓の日当たりのいい場所にマグカップが二つ並んでいる。
色違いのお揃いで一つは取手が欠けている。
「マグカップの物語を綴ってみようと思うんだけどさ、マグカップの中に何が入っていると思う?」
「コーヒーかしらね。あとは冬ならココアとか?」
「ふむ。凡人だな」
「なによ。甘酒とか柚子茶とか、そういうことかしら?」
「ふむ。凡人に毛が生えたような答えだな」
「答えは何よ?」
「別に答えがあるわけじゃないんだがな、しいて言うなら・・・『思い出』が入ってるんだよ」
「はぁ?」
「・・・というわけでだな、マグカップを使って物語を綴ってみようと思ったわけだが、物語の基本ってわかるか?」
「起承転結」
「そうだな。基本は大事だ。とりあえず簡単なものを作ってみる」
※※※
ボク、マグカップ。工場のラインで大量生産されたよ。
ボク、マグカップ。お店に並べられてラブラブカップルに買われたよ。
ボク、マグカップ。カップル別れて、ボクは不燃物。
ボク、マグカップ。まだ使えるけど、もう誰も使わない。
※※※
「なんなのよこれ・・・」
「安っぽいマグカップの生涯を擬人化してみたんだが」
「なんで、こんな悲しい話なのよ」
「ヒロインが死んでしんみり終わらすのは王道だろ?」
「ヒロインって、「ボク」と言っているのなら男じゃないの」
「細かいな」
「まっ、別にどーでもいいわね」
「ところで、どうすれば幸せになると思う?」
「もう少し思い入れのあるマグッカップになるといいんじゃないかしら?」
「そうだな」
「あとはマグカップとしての天命をちゃんと終えるとか?」
「割れる?」
「まぁそんなところよね」
「じゃあ、作ってみよう」
※※※
祖父が趣味で作ったマグカップを私は気にいっていて子供の頃から使っていた。
少し大きなカップを手頃だと感じたのはいつ頃からだろう。
夏にはアイスコーヒーを、冬にはココアをいれた。
ある日、私はマグカップを落として取手のところを折って壊してしまった。
捨てるには惜しかった私は、マグカップに砂を入れサボテンを植えた。
※※※
「どう?こんな感じか」
「そうね、いい話になったわよね」
「でもさ、面白いか?そんなに面白くもないだろ?」
「まぁそうよね。どこかありがちな感じはする」
「そこで、もう一度擬人化してみよう」
※※※
「ちょっ、そんなにそこを薄くするなよ。割れやすくなるだろがぁ!」
俺は不器用な老人の手で、今まさに器の形になろうとしていた。
男らしく、逸品物の茶器になりたかった。出来上がった形を見た老人は、俺に取手をあとからつけた。
俺はマグカップとかいう西洋風の器に産まれた。時代ゆえ致し方あるまい。
あとは自らの運命を受けいれるのみ。
「えっ、デビューはお粥だとぉ!?」
まさか、固形物がいれられるとは思わなかった。
日本男児らしく、抹茶とは言わないまでも、コーヒー・・・もとい珈琲ぐらいでデビューしたかった。
頑丈そうで広口の俺をまさか離乳食の器に使うとは思わなかった。
その少女は俺をえらく気にいってくれた。
最初の液体は、すりりんごジュースだった。
成長すると、コーラーになり、コーンポタージュになり、ココアになった。
お汁粉の時は餅がくっついて気持ち悪いが、娘が嬉しそうなので我慢しよう。
やっと珈琲が入ったと思ったら、ミルクと砂糖もたっぷりいれやがる。
これが珈琲牛乳かと思ったら、カフェオレとか言っている。人は難解なものである。
なんにせよ娘が無事に成人した。
娘は俺が育てたといっても過言ではあるまい。
俺もずいぶんと年老いた。ガタがきていたのだろう。
娘の娘が俺を落とした時に、俺はもう耐えることができなかった。
器のところはまだ大丈夫だったが、取手が折れた。
もはやここまで、俺は死を覚悟する。
まこと良き人生であった。マグカップもバカにできぬものである。
「えっ、なに?そのドリル?やめて、いやぁ~掘らないでぇ~!!」
まさか捨てられる前に、後ろ側にドリルで穴を開けられるとは思わなかった。
そして網でふさぎ、大粒の砂を流し込まれた。
もう、食べるものですらない。おまけにサボテンを植えられるとは、・・・解せぬ。
今は娘の部屋の出窓に置かれ、よく日が当たる。
不覚にも俺は第二の天命を受け、こうして日々穏やかにマグカップとして過ごしている。
※※※
「あら、思ったよりいい感じになったわね」
「だろ?物語はたいしたことなくても、擬人化することで読むに堪えるものなったと思う」
「うん。これがマグカップの物語?」
「そうだな、あとはこの物語全体の伏線を回収して終わりたいな」
「どういうこと?」
「実は・・・俺たちはマグカップなんだ!」
「なんだってぇ~」
※※※
独身だった頃に、妻と蚤の市で買ったペアのマグカップ。
一つはもう壊れて取手がとれているが捨てる気にもなれず、妻の写真の横に並べて置いている。
なんだか仲良く日光浴しながら、くだらない雑談をしているように見えたので、このマグカップの物語を綴ってみた。
(了)