(仮題)ブラウニーの特異個体として扱われています 作:セレンディ
「……ブラナッハ」
「んお?」
トリアイナの救難信号を、ホライズンの偵察部隊がキャッチしたことに端を発する宝探しと称した休暇に見せかけた特別作戦という名のどんちゃん騒ぎのメインディッシュ終了後(そう、リオボロスの遺産である)。
浜辺の木陰で潮風に吹かれながらタバコを吹かしていたところ、珍しくもネオディムが話しかけてきた。とりあえずタバコを携帯灰皿に消し入れる。
「ネオディム? 珍しいね。どうしたの?」
「聞きたいことがあるの」
「おや。私に答えられることなら?」
「うん。あのね……愛してるって何?」
「……うん?」
表情に乏しい私だが、これにはすごく困惑した表情をしていたことだろうと思う。
「話が見えない。もっと詳しく説明してくれる?」
「うん。昨日の夜、司令官がウェアウルフを縛って、でもウェアウルフは愛してる言いながらすごく喜んでた」
「……おーう……」
リオボロスの遺産でウェアウルフがこぼしてた案件か?
しかし、これネオディムに見られてたのか……。
「ブラウニーに、このことを話して愛してるって何、って聞いたらものすごい勢いで逃げちゃった。だから、ブラナッハのところに来た」
人選を間違えとりゃしませんかね、それは私も含めて。
「あー……真面目な返事と茶化した返事、どっちがいい?」
「まじめに」
「即答かい。そうだなあ……愛してるって何、か……。茶化していいならもっと言いようもあるんだけどなあ……」
「まじめに」
「はいはい。んー、色々とあるが、スタートはまずはその人と一緒にいたい、と言うところから始まる、ってところかねえ。その後の形は人によりけりバイオロイドによりけり千差万別。お互いに一緒にいたいと思ったコンビが、お互いにとって居心地の良い形を追求してく……って感じかな。人類滅亡前は、少ないが人とバイオロイドの間の子供もいたって話だ」
……まあ、これでも結構煙に撒いている自覚はあるが、真面目に頼ってきたネオディムを無碍にするわけにも行くまい。
「こんなところでいいかい?」
と、聞いてみたらなんとネオディムは首を振る。
「……うん?」
「違う。ウェアウルフが司令官と愛してる言いながら愛してるしてた。そっちの愛してるって何?」
……セ●クスのことかー!? うんそっちですよねー!? でなけりゃブラウニーが逃げるわけないもんねー!?
いや真面目すぎる話題に逃げ出したって可能性もなきにしもあらずだけど。
しかも真面目に、かぁ……。
「そっちかー……。そうだなぁ……」
思わずタバコに火をつけようとして、ネオディムの前なので思い止まる。
「バイオロイドは、遺伝子の種から培養すれば増えることができるけどさ。人間は、その『愛してる』、えー、セックスとか交合とかまぐわいとか仲良しとか色んな言い方や隠語があるけどね、動物が交尾して増えるように、人間もそれをして増えるんだ」
「じゃあ、ウェアウルフも子供を産むの?」
「それが難しいところでなあ……。とりあえず今は産まないんじゃないかな。人間がそこらの動物と一番違う所は、子供を作る目的以外でも『愛してる』をする生き物なんだ」
「……どうして?」
さて、ここからが正念場である。
司令官に「純粋な子になんてことをした!?」という目で見られないようにせねば。
「一番の理由は、『それが愛情の確認になるから』かな。よっぽど相手のことが好きじゃないと、されたくないことだけど、そのよほど好きな相手だったら逆にしたいされたいものなのさ。その辺はいいかしら?」
「……わかった。じゃあ、一番じゃなくて、次は?」
「そうねえ。内容が難しいからちょっと長くなるよ。えーっと……人間には、あ、この場合はバイオロイドも含むよ、人間には三大欲求というものがあって、食欲と睡眠欲と、あと性欲」
「うん」
「人間の根源的欲求に根ざしてるだけあって、まあどうやってもこれはほぼなくすことができない。で、これ、面白いことに、愛情があると大体性欲とセット。まー、ぴゅあっぴゅあな愛情がないとは言わないけど、少ないんじゃないだろうか。でもって、悲しいことに逆はあまり成り立たない」
「……そうなの?」
首をかしげるネオディム。
「勘違いしないでね、性欲が先に立っちゃった場合ね。なんていうか……本能優先に近い感じかな。だから、性欲だけが際立っちゃうと、大体の場合に愛情はついてこないわけ」
「そうなんだ」
「悲しいことにね。ただ……人間ってのは理性の生き物だから、お互いの愛情も無しに『愛してる』をするのはやめようね、みたいな暗黙の了解みたいなものがあるわけさ」
「……うん」
「司令官は、まあ例外なく私達を大事にしてくれるさ。だから、ネオディム、あなたも急がなくていい。あなたの中の気持ちをじっくりと見つめてみて、もし、司令官のことが大好きで。その気持が抑えきれないぐらいになったら、司令官に相談してごらん。悪いようにはならないはずだから」
「うん。……でも、この間司令官に好きって言ったとき、『愛してる』しなかったのはどうして? 司令官は私のことが好きじゃない?」
おっとビーンボール第二号。
「それはないよ。単に、妊娠……子供ができるには、なくてもできるけどそれなりの覚悟や準備があったほうがいいからだね」
「覚悟? 準備?」
「まず、妊娠期間はおよそ10ヶ月。まあ2~3ヶ月は気づけないものだけど、そこからは激しく動くのはご法度……つまり戦闘には出れなくなるし、出産の時の母体の負担もすごく大きい」
「……戦闘に出れなくなるのはやだな」
「あとねえ……人とバイオロイドの混血児は、大人になるまでに大体10回ぐらいのやたらと難易度とコストの高い手術が必要になるし、それがクリアできたとしても人間との混血である以上鉄虫に優先的に狙われるからオルカで育てるしかなくなる……必然、育てられる数が限られてくる」
「難しい……」
「難しいのさ。だから……鉄虫との戦争が終わるか、少なくともずっと安全な場所が確保できるまでは、子供を作るのはちょっと……ね。でも、私達バイオロイドの寿命は長いし、あの一件で司令官の体も強化されてるから司令官の寿命も心配しなくていいと思う。だからね、ネオディム」
一旦言葉を切って、ネオディムをじっと見つめた。
「さっきも言ったけど、急ぐ必要はないし、焦る必要もない。あなたの気持ちを、心を大事に育ててあげてね」
「うん。……ありがとう、ブラナッハ」
「どういたしまして。こういうのは、精神的に大人なやつの義務さね」
「それでも。……ちょっと、行ってくる」
「おう、行ってらっしゃい」
ふよふよと漂うネオディムを見送り、とりあえずボロを出さずに済んだことに安堵して。
タバコに火を点ける。
「……ふぅー……いやほんと必死に考えると疲れるわ……」
「そうねぇ~。でも、とてもいい内容だったとお姉さん思うわよぅ?」
「ぬぁっ!? ふぉ、フォーチュン!?」
「はぁい。こんにちはブラナッハ。変なこと話したらアイアンクローのつもりだったけど、必要なかったみたいねぇ?」
こちらの意味でも危機一髪だったようである。
■ ◇ ■
さて、翌日。
今日の副官は私、ブラナッハことブラウニー8846が務めていたところ、午後にネオディムが司令官の執務室にやってきた。
「司令官」
「ネオディム? どうしたんだ?」
「司令官に、大事な話」
「俺に?」
執務の手を止めて、不思議そうな顔をしているだろう司令官。
「うん。昨日、ブラナッハに色々と教えてもらったから」
「ブラナッハ? 何を教えてもらったんだ?」
「『愛してる』について」
びくっと司令官の体が震えた。
「……大丈夫。ブラナッハは言ってた。『愛してる』は愛情があるからすることだけど、それを私にはしないのは、私を大事にしてくれてるからだ、って」
どことなく、ホッとした雰囲気が指揮官からする。
「あと、言外に私はまだ子供、って言われた。でもね、司令官。私、司令官のこと、好き」
「……ああ」
「司令官のこと考えてたら、少しだけ、体が熱くなったの。これが凄く熱くなるようになったら……私とも『愛してる』してね」
「確約はできないが……そうだな」
「ふふ……約束だよ」
嬉しそうなネオディムの声。
「それじゃあ……」
「それじゃあ?」
「今日は、ブラナッハと同じこと、するね」
「……」
!?
少し、視線を上に向けてみると、こちらを覗き込んでいるネオディムと目があった。
……司令官の執務机の下、ついで言えば両足の間にいる私と。
「お、おい、まてネオディム」
「これは愛情から、だよね? それとも……性欲からなの? 理性で、って言ったのはブラナッハだよね?」
「……ハイ、アイジョウデス」
「うん、だよね。だから、私もする」
そう言って、ネオディムは少しばかり私を押しのけて、私と一緒に司令官の足の間に収まった……。
原作以上R-18未満のピョンテ度を目指したい