(仮題)ブラウニーの特異個体として扱われています 作:セレンディ
「……酷い目にあった……」
ネオディムが司令官の執務室に来たその翌々日。
一日飛んでる? あの野郎人に八つ当たりしやがって腰がいわされて動けなかったんだよ。自分はネオディムの顔に普段よりいっぱい出してた癖に……まあいい。
さすがにやりすぎたとは思ってもらえたようで、翌日と翌々日、つまるところ今日まで休みとなった。相部屋のブラウニーからはなんか凄く謝られたが。
……机の下でやっていたことに気づかれたのもブラウニーの本のせい? お前しばき倒すぞ?
まあ、なんだかんだで人格が汚染されてきている気がしないでもないが、それでも今日はまっとうに休みである。ちょっと腰がまだカクカクするが。
で、またも木陰でビーチチェアを敷き、その上で怠惰にタバコをくゆらせているわけである。
「うーん……怠惰最高……」
一緒に用意したココナッツミルク(キンキンに冷やしてある)をストローで啜りつつ、潮騒と潮風を全身に浴びながら体の力を抜く。
至福である。
……なのに。
「ブラウニー8846! ちょっとブラウニー8846!? 聞いてるの?」
「はいはい聞いてますですよ?」
どういうわけかこのトランジスタグラマーさんが私の隣でガミガミとがなり立てているのである。
「はぁ……メイ隊長にナイトエンジェル大佐まで、なんでそろって休暇中の私の所に来るんです?」
「決まってるじゃない、あなたのおかげでネオディムが司令官と、む、む、結ばれたのよ? なら当然、私にも力を貸してくれるんでしょうね?」
高圧的に言うなら最後までどもらずに言ってくれませんかね、な滅亡のメイと、
「……はぁ……。まあ、このクソガキとネオディムでは話が随分と違うとは思いますが、なんとか力を貸してもらえませんか。面倒な暗黙の了解で、このクソガキの順番が済まないと私達の順番が来ないのです」
と、面倒そうな呆れ顔のナイトエンジェル。
あー、思い出した同じ隊の中では階級が上から、か。でも、レオナより前にヴァルキリーがお手つきになってたり、その辺は随分とゆるゆるだったような……あ、思い出した、司令官からのアプローチの場合は別だっけか。
「と言われましてもねえ……。あれは私がネオディムに話をした後というタイミングが凄い悪いか良いかどちらかわかりませんがとりあえず滅多なタイミングで、なおかつそこで私と司令官の双方がトチったから成立しただけですよ? メイ隊長の場合に活かせるとは思えませんが」
「そうだとしても……何とかご助力願えませんか。この駄肉の空回りを見ているととてもイライラするのですよ」
……。まあ、イベントのたびに、メイのポンコツっぷりを見て笑っていた記憶はある。離れたところから見て笑う分にはいいが、そこに実害があるとなると話は別、か……。
「いいから協力なさい! なんなら隊長権限だって持ち出してやるわ!」
「私はドゥームブリンガーでもスチールラインでもないんですけどねえ……まあ、場所を変えましょうか。ちびっこたちに聞かせる話でもないし」
無論、こうして大きな声をメイが上げているのであれば、注目を集めないわけがない。
向こうの波打ち際で遊んでいたアクアやらココやらLRLやらが視線を向けてきているので、仄聞されないためにも(そして第二のネオディム()を生まないためにも)場所を変えるべきだろう。
■ ◇ ■
「とりあえず……一つ、確実な手があります」
「どんな!?」
食いつきはえーなオイ。
オルカ号に戻ってきて、休憩用の談話室の一つを占領して。とりあえず言うだけ言ってみるか、ということに実にあっさりとメイは食いついた。
「夜、司令官の部屋に一人で行って、胸でも押し付けて『好き、抱いて』とでも言ってきてください」
「ナイトエンジェルと言ってることが同じじゃない!?」
「いや、実際有効だから言ってるんですよ。シザーズリーゼとかソワンとかブラックリリスとかみたいに互いに足を引っ張り合う相手がいるわけでなし。それだけ露出度の高いっていうか際どい水着(無規制版基準)を着れるんですから羞恥心も抑え込めるんでしょう? とりあえずメイ隊長が頑張ってそれだけのことをしたら、司令官は悪いようにはしませんよ、ええたぶん」
「多分って何よ!?」
「わたしゃ司令官じゃないから断言できないだけですよ……」
で。そこで勝ち誇った顔をしたナイトエンジェル。
「ほら言ったでしょう。その使いみちのない駄肉を使えばいいと」
「貧相なボディは黙ってなさい!」
「なっ!?」
「後は……んー……他には手がないんですよね、即効性のあるやつは」
「なんでよ!?」
「純情な乙女心をお持ちであること自体は悪いことではありませんが、みんなが司令官を狙っている状況では正直強烈な足枷にしかならないですしおすし」
「……」
真っ赤になって口をパクパクさせている。……言い過ぎたかなあ。
「悪いことじゃないんですよ。リーゼとかソワンとかリリスとかのキワモノシリーズとか、シャーロットとかウェアウルフとか私以外のブラウニーとかのバカシリーズとかの相手をした後に、メイ隊長の純粋な乙女心は司令官の癒やしになっているのは間違いないです」
「むぅ……」
「では、Yes枕でも抱えて司令官のベッドに潜り込みますか?」
「そんな破廉恥なことできるわけないじゃない!」
「でしょう?」
でも、純情っ子みたいなこと言ってるけど、水着が破廉恥極まりないんだよなあ……。
「もうめんどくさいので、強硬策とかありませんか?」
おぉっとナイトエンジェルがぶちまけた。本当メイ関連だと沸点が低い。
「結局、強硬策となると例えば私達がメイ隊長を縛り上げて司令官のベッドに放り込むとかしかありませんよ? どう考えてもその後のバックファイアが怖すぎるのでやりたくないですね」
「バックファイア、というと?」
顔の前で指を一本立てる。
「当の司令官からのお仕置き」
「む……」
二本目。
「司令官の部屋への侵入禁止ルール制定などでコンスタンツァへの無用の負担」
「むぅ……」
三本目。
「シザーズリーゼ、ソワン、ブラックリリスを筆頭とする物騒な連中からの『私がやりたかったのに』系逆恨み」
「あぁ……」
「わかっていただけましたか?」
「ええ十分に」
はぁ、とナイトエンジェルはため息を付いた。
「しかし……本当にどうにかなりませんか。メイのガキ単体ではおそらく100年あっても無様な結果にしかならないでしょう。だからといって私とセットでも、私が冷静さを欠いてしまって碌な事にならないのは先日自覚しました。現状、あなただけが頼りなんです、ブラナッハ」
「ブラナッハ?」
「え……メイ、まさかこのブラウニー8846が、ブラウニーの特異個体であることに気づいてらっしゃらない? 確かに顔と身体は同一ですが、雰囲気とか頭とかが別物でしょう?」
「違うわよ、ブラナッハという個体名称がついてることに驚いただけよ」
「なら良いのですが」
またこいつらはすぐ脱線する……まあ、いい。それならそれで、いっそ逃げ場を潰してみるか。
「……二度使える手ではありませんが……とりあえず、やってみます?」
「おや。なにか思いつきましたか?」
「なんでもいいわ、やるわよ!」
なんでもやるならとっとと司令官にその駄肉押し付けて抱いてって言ってきてくれませんかねえ……?
■ ◇ ■
「司令官」
宝探しの合間に、溜まった執務をこなしていると、ブラナッハが執務室にやってきた。
「ブラナッハ? 今日は休みにしたはずだが」
ブラナッハは腰を痛めたので昨日と今日は休みにさせたのだ。……まあ、俺も悪いのは自覚しているのだが。
「いえ、それとは別件で。司令官、今夜、空いてますか?」
「……え? お前、昨日の今日でそれは……」
「違いますよ、何言ってるんですか」
呆れたようなブラナッハの視線が俺を射抜く。
そうか、違うのか……少し、残念な気もする。
「ともかく、その様子では空いているようですね。招待状です」
どこから見つけてきたのか、意外と綺麗で凝った装飾のついた封筒が執務机に置かれた。
手にとって、裏返してみると差出人は滅亡のメイ。裏側も凝っており、こちらもどこで見つけてきたのか封蝋までしてある。紋章はドゥームブリンガーだったが。今日の副官であるウェアウルフが渡してくれた取り外した銃剣(ペーパーナイフよこせよ……)でできるだけ丁寧に封蝋を剥がした後、中の便箋を取り出す。封筒とは逆にシンプルな紙に書かれていた内容は、
『今夜、私の部屋でお待ちしています
滅亡のメイ』
と、実にシンプル。
「ほう……あのおこちゃま指揮官、随分と考えたね」
「言い過ぎだぞウェアウルフ。男子三日会わざれば刮目して見よなんて諺もあるが、それはメイのような夢見る乙女だって変わらないさ……あと覗くなよ」
「硬いこといいっこなしだよ司令官」
「それじゃ、確かに渡しましたよ」
「ああ、お疲れ様ブラナッハ」
スタスタとそのまま執務室を出るブラナッハ。
便箋を見てニヤニヤしながら、なにか気になるのか透かしとかがないかいじくり回すウェアウルフ。
「……破ったり汚したりしないでくれよ? そういうのも招待状の体裁には大事なんだから」
「いやあ、こんなのを出してくるとは思ってなくてねえ?」
「ブラナッハの入れ知恵だろうが、一から十まで言われたとおりに動くなんて逆にメイのプライドが許さないさ。色々と提案されつつ、あーだこーだ注文をつけるメイの様子が目に浮かぶよ」
「ほーう……それで司令官。このお誘いは受けるのかい?」
「乙女が勇気を振り絞ったんだ、きちんと受けなきゃ男がすたるね」
「そうかいそうかい。そんじゃ私は乙女の勇気に乾杯といこうかね」
「いや……手伝えよ、執務」
「私にゃむーりー♪ ていうかなんで私を副官に指名したの? 明らかに戦力にならないじゃない。この間のブラナッハの噂みたいに机の下に潜る?」
「やめてくれよ……そもそも宝探しで仕事が溜まってるんだ、仕分けぐらいしてくれ」
色んな意味で油断できないウェアウルフを監視も兼ねて手伝わせつつ、その日の日中は過ぎていった。
「……さて」
その後、夜22時。
あまり早すぎるのも、「もしかしてさっさと帰るつもりなんじゃ」と思わせるだろうし、ということでこの時間。
メイの個室のインターホンを押そうとしたところで、貼ってある小さな付箋に気がついた。
『インターホンを鳴らさずにお入りください』
「……?」
確かに、メイの部屋のドアにはロックがかかっておらず、簡単に開いた。
「……うん?」
次いで、部屋の照明が落ちている。スイッチの近くには、
『つけないで』
という付箋。廊下の明るさに慣れた目ではすぐには部屋の中の全部を見渡すことはできなかったが、ベッドサイドのナイトテーブルのテーブルランプが淡い光を放っていて、そこに封筒があるのが見える。歩み寄って見ると、
『司令官へ』
と書いてある。開けて中の便箋を見る以外の選択肢がない。
『司令官へ
好きよ。愛してる。
この一行を書くだけで、便箋10枚が無駄になってブラナッハからたくさんお小言を貰ったわ。長々と書き連ねて誤字でもしたら、司令官にそんな手紙は出せないし、そもそも便箋がもうないわ。だから短く。
私は直ぐ側のベッドで寝ているわ。お酒も飲んだから、何をされても起きないと思う。朝まで。
生意気で素直じゃなくてツンデレの私を受け入れてくれるなら、起こさないで。
起こさないで、そのまま、朝まで、
愛してください』
「……」
監修、ブラナッハというところか。
考えたな。書いてあるとおり、素直じゃないツンデレのメイの自主性に任せていたら、今のような状況に持ち込むまでどれだけかかっていたことやら。こちらも楽しんでいなかったわけじゃないが……あの妙に人間臭いブラナッハに助言を仰げばこうもなるか。
「……っ」
一方、寝ているはずのメイがこちらをちらちらと伺っている気配がだだ漏れだ。
ちらちらとこちらを見ているのが丸わかりだし、視線を向けたら慌ててもとの姿勢に戻って、挙げ句
「うーん……」
とバレバレの寝返りをうつ。
毛布がずれて、あの酷く扇情的な水着姿が目に入る。というか、あの水着でベッドに入って寝返りを打てば、そりゃあずれる。でも寝ている設定で俺が見ているからずれたのを戻せず、かと言って反応も大騒ぎもできず、結果として顔がその髪の色のごとく真っ赤に染まっていく。口元がひくついてんぞ……?
「……」
全く、鉄虫撃滅作戦のときに、的確に作戦を立てて爆撃を敢行する際に見せるような凛々しさは欠片もなく、ソワソワして不安にまみれた、素直じゃないただの女の子がそこにいる。
そこにぐっと来てしまったのも、事実だ。
メイからはアルコールの匂いはしないので、単に飲んだ設定であるだけのようだが、口の開いたワインボトルが置いてある。あるいは普段の寝酒用か? まあ、俺も少しもらおう。
ごくっ、ごくっ……
意外と強いなこれ。
ともあれ、さらにもう一口。そのまま、ベッドのメイにのしかかり(その際面白いように身体がびくっとなって吹き出しそうになったが、我慢した)顎に手を添えてこちらを向かせ、強引に口移しでワインを飲ませる。
「む、むぐ、んっ……!?」
「ほうら……起きてるんだろう? メイ。嘘つきだな?」
「ふぇ、し、司令官……?」
「嘘つきにはお仕置きしないとな?」
「え、えっ? え、まって、しれいか、きゃぁっ!?」
■ ◇ ■
「……怠惰最高……」
昨日の一件で、前払い報酬としてナイトエンジェルの休暇を貰ったので今日も休みである。
成功報酬ではメイの休暇も貰う予定だ。
というわけで、今日も木陰でジュースとタバコとビーチチェアでのんべんだらり……
「……ぶらなっは」
「ぬわぁっ!?」
物凄くしょげかえったメイが、水着仕様の玉座に乗ってすぐそばにいた。
え、まさか昨日のお膳立てで失敗したのか……?
「……も、もしかして失敗したんですか……?」
「……失敗はしなかったわ」
「え……じゃあなんでそんなにテンションが低いんです……?」
そう問いかけてみると……
「ぜんぜんやさしくなかった……」
「……え?」
「おきてたのを、うそつきっていわれて、しばられて、くちにいれられて……」
「……うわぁ……え、もしかして来る前に飲酒なさってたんですか? 司令官」
「……てたの」
「……まさか」
小声にいやーな予感というか予想がよぎり、
「そうよ! お酒片付けるのを忘れてたの! で、司令官がそれを飲んじゃって、私にも無理矢理飲ませて! その後……ひぐっ……やめてって言ったのに……」
要領を得ない泣き言を聞けば、どうにも全穴コンプリート(鼻と耳含む、さすがに目を除く)、それに留まらずズリまでも。ベッドヤクザ(飲酒時限定)かつマジチン(私、ウェアウルフ、ネオディム、メイの反応から)な司令官に一晩でそーとー開発されたらしく、最終的には降りてこられなくなるほどだったとか何とか。
気がつけば朝でラビアタに介護されているところで、遠くからコンスタンツァの説教が聞こえてきたとか何とかかんとか。
司令官には厳重な禁酒令が出された。
なお、後日談として。
一時的に司令官と話すときには私の後ろに隠れるようになったメイだが、司令官が誠心誠意謝って仕切り直しをしたところ、くっそ上機嫌でナイトエンジェル(超不機嫌)を伴って私の所に自慢しに来たことを添えておく。
バカップルかよ。
そして次の話も皆さん予想がついているかと思いますが、まだ書いてないです。