レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第3章 初めてのお買い物
第14話 冥界の外へ


 

ある日の昼下がり…

 

 

「はぁっ!それっ!」

 

 

白玉楼の中庭。

空中に浮かび、休むことなく弾幕を放ち続ける。

一度死んだことによって、以前持っていた『相手の能力を撮った写真を取り込むことで、それを真似ることができる程度の能力』、そして『写真に写したものを光弾として実体化させる程度の能力』を失ってしまったため、弾幕を放つには、俺の手に入れた新たな能力である『空気を操る程度の能力』に頼るしかない。

 

ただ…この能力で弾幕を放つには重大な問題点がある。

 

 

「くそっ、どうすればいいんだ…。」

 

 

この調子で弾幕を放ち続けているのに、一向に解決策が見つからない。

疲労も溜まってきた。このままじゃあ明後日に間に合わないじゃないか。

 

くそっ、考えろ。考えろ葉月欧我!

どうすればいい!イメージしろ。 

Don't think. Feel!!

 

 

「あれ、何を悩んでいるのですか?」

 

 

「ん…?」

 

 

不意に聞こえた声に顔を上げると、いつの間にか廊下に妖夢が立っていた。

妖夢が持つお盆には、お茶が注がれた湯呑と饅頭が2ずつ乗っている。

 

 

「休憩しませんか?」

 

 

まさか、俺のために?

…そうだね。このまま考えていても浮かばないだろうし、気持ちを切り替えてゆっくりと休もう。

 

縁側に腰を下ろし、妖夢から受け取った緑茶の香りを楽しむ。

うん、やっぱり緑茶は最高だ…。

 

 

「それで、さっきまで何をしていたんですか?」

 

 

緑茶を堪能していると、妖夢が思い出したように聞いてきた。

ある意味予想通りの質問が飛んできて、思わずがっくりと肩を落とした。

 

 

「やっぱり見えなかったか…。」

 

 

「え?えっ!?何がですか?」

 

 

妖夢はいきなり落ち込んだ俺を見て戸惑っている。

まあ、そりゃあ仕方ないか。

 

 

「いいよ。俺は今弾幕を放つ練習をしていたんだ。」

 

 

「弾幕ですか?空中に浮かんでただ暴れていたようにしか見えなかったんですが…。」

 

 

その発言にむっとした。

見えないからと言ってただ暴れているだけとは…。

 

能力を発動し、空気を固めて小さな球体を作り出す。

それを人差し指で妖夢に狙いを定めて弾く。

 

 

「痛っ!」

 

 

弾が当たった直後、妖夢は額を押さえてうずくまった。

あぁ、強くやりすぎちゃったかな。

 

 

「もー、痛いじゃないですか。」

 

 

「ああ、ごめんごめん。でも分かったでしょ、こうやって弾幕を飛ばすんだよ。」

 

 

そう言って、妖夢の額をよしよしと撫でる。

弾が当たったところは赤くなっていた。

 

もっと加減をしないとな…。

 

 

「でも、弾幕なんて見えなかったよ。」

 

 

「そう、それが問題なんだよな。」

 

 

本来、スペルカードルールで競うのは単純な力よりも『弾幕の美しさ』である。

相手よりも美しい弾幕を放ち、相手に魅せる。そう言った『精神的な勝負』、それが弾幕ごっこである。

 

しかし、空気を固めただけの俺の弾幕は人の目には見えない。

そう、『空気は目に見えない』のである。

美しさ云々以前に、目に見えなければ競うことなんてできない。

しかも回避不可能な弾幕は制限されているため、空気の弾幕は見えないから弾幕の位置を認識できないと言う事は制限の対象になってしまう。

 

 

「だから、美しいかつ見える空気を編み出さないといけないんだよな。」

 

 

「見える空気…ですか。」

 

 

一通り説明を行い、大きくため息をついた。

妖夢も弾幕の問題点に気づいたようで、その解決策を一緒に考えてくれた。

 

でも、この問題は解決できそうにない。

どうすれば、空気が目に見えるようになるのだろうか…。

 

 

「そもそも、どうして弾幕の練習をしていたのですか?」

 

 

「ああ、それはね…。魔理沙さんから弾幕ごっこを申し込まれたんだ。」

 

 

「魔理沙さんから?」

 

 

「うん。」

 

 

その時の様子を思い返した。

 

今朝いきなり魔理沙さんがやってきて、台所に入るなり俺に向かって「弾幕ごっこをやろうぜ!」って誘ってきた。

でも、生前の能力を失った状態で弾幕ごっこはできないと断ったらすごく悲しそうな表情を浮かべていて、なんか申し訳ない気持ちになった。だから、慌ててこう言ったんだ。

 

 

「2日間だけ待ってください。2日のうちに今の自分が出せる最高の弾幕を編み出すから!」

 

 

って。

そうしたら魔理沙さんは途端に笑顔になって「約束だぜ!明後日の昼に来るからな。」って言い残して帰っていったんだ。

おそらく見物客もいっぱい来るだろうし、そんな状態で弾幕が放てなかったらみんなに申し訳ない。

 

 

「はぁ、どうしようかな…。」

 

 

そう呟いて、湯飲みの縁に唇を近づけた。

 

 

「あら、ここにいたのね。」

 

 

「幽々子様!?」

 

 

その直後、突然聞こえた幽々子様の声に驚いてお茶を吹き出しそうになった。

ってか何時の間に!?

 

 

「ふふっ、人を驚かすのも悪くないわね。」

 

 

おいおい、完全に小傘に感化されているじゃないか。

でも、どうしたのだろう。

 

 

「何か御用ですか?」

 

 

そう質問した妖夢に、幽々子様は笑って答える。

 

 

「それはね、欧我に買い物をお願いしようかと思ってね。」

 

 

「買い物ですか!?でも、俺は…。」

 

 

突然されたお願いに驚きを隠せなかった。

買い物に行くと言う事は、冥界を飛び出して今まで住んでいた顕界に行くと言う事。

しかし、俺は映姫さんから受けた刑によって100年もの間冥界を出ることを許されていない。

 

 

「ええ、貴方が冥界の外に出ることは許されていない。それは知っているわ。でも、買い物に行くと言う事も料理人としての仕事よ。」

 

 

「でも…。」

 

 

確かに、幽々子様の言った事は一理ある。

しかし、だからと言って冥界を出ることは…。

 

 

「あら、主が冥界の外に出なさいって命令しているのだからそれに逆らっちゃダメよ。分かるでしょ?それに、もし閻魔が文句を言いに来たら私が追い返してあげる。」

 

 

「幽々子様…!」

 

 

幽々子様のその言葉が嬉しかった。

今まで夢に見た冥界の外に出ることができる!

 

 

「その代り、外に出ている間は妖夢と一緒に行動しなさい。」

 

 

「は、はい!」

 

 

「そしてもう一つ、重要なことがあるわ。」

 

 

急に変わった幽々子様の声色に、思わずごくりとつばを飲み込む。

 

 

「幽霊になったばかりの身体は脆いわ。顕界に長い間いたら身体が消滅して二度と戻れなくなる。だから、必ず5時間以内に冥界に帰ってきなさい。」

 

 

つまり、5時間以上冥界の外に出たらこの身体は消滅する…つまり、もう文や小傘たちに会えなくなる。

そんなのは絶対に嫌だ。

 

この門限は絶対に守らなければならない。

 

 

「分かったかしら?じゃあお買い物をお願いね。」

 

 

「「はい!」」

 

 

2人そろって返事をし、食糧庫の残りをチェックすると空へと飛びあがった。

 

まっすぐ飛び続け、そしてついに冥界と顕界を隔てる結界を通り抜けた。

目の前には、3ヶ月前とちっとも変らない世界が広がっていた。

 

その光景に胸が熱くなり、気付いたら大声で叫んでいた。

 

 

「ただいま!!幻想郷!!!」

 


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