墓前にしゃがみ、そっと両手を合わせる。
「おかしな光景ですね。自分のお墓に手を合わせるなんて。」
「そうだね。」
目の前のお墓には、「葉月欧我」と彫られている。
そう、俺の遺体が眠っているお墓だ。このお墓の下に、今まで一緒に行動してくれた俺の身体が眠っている。
色々と無茶をさせちゃったかな。潜り抜けてきた数々の弾幕ごっこや永嵐異変、そして影鬼との戦い…。
そして最後は文を守る盾となって命を落とした。
今から思い返してみても、いろんなところに行っていろんな人と出会い、いろんな経験をした。陽炎さんや琳といった強い人物とも戦ったし、その人たちと親友になることができた。
そう考えてみると、俺は体を酷使しすぎたのかもな。
「今までありがとうな。」
今は、ゆっくりと休んでくれ。
そう願い、お墓を後にした。
それにしても、まさか自分のお墓が命蓮寺の墓地に建てられていたなんてな。
しかもきれいに掃除されていて、色とりどりの花が供えられている。
いつも誰かが掃除してくれているんだと思うと、とても嬉しくなった。誰かは知らないけど、ありがとう。
「それにしても、欧我がお墓参りに行きたいって言い出した時は驚きましたよ。」
「うん。自分のお墓があると聞いた時は絶対に行きたいと思っていましたから。」
妖夢と並んで歩きながら、命蓮寺の墓地を後にする。
お墓参りも済んだ、いよいよ買い物のために人里へ向かおう。
「でも、どうして足を動かしているのですか?もう二度と地面を歩く事ができないと言っていたのに。」
「ああ、それはね。人前に出るときはそうするべきかなって思って。だって、いきなり目の前に空中に浮かんでいる人が現れたら驚くでしょ?」
「ああ、確かに…。」
そう呟いて妖夢は頷いた。
妖夢の言った通り、死んだことによって二度と大地を踏んで歩く事ができなくなった。
座ったり寝転がったりはできるのだが、一度立ち上がると体が浮かんでしまい、自分の足を使って立つことができない。だから、移動するときは常に空中にふわふわと浮かんでいる状態になる。
でも、浮かんでいる所を誰か、特に俺を知らない人が見たら驚いて腰を抜かしてしまうだろう。そうならないために、人前に出るときはギリギリまで高度を落として、歩いているかのように足を動かしている。
傍から見れば、その姿は歩いている時と変わらない。
ただ…足跡が付かないのが難点だがな。
「あら、欧我さん!」
「あっ、白蓮さん。こんにちは。」
境内を歩いていたら、白蓮さんに声をかけられた。
この、包み込むような優しい笑顔も3ヶ月前とちっとも変らない。
何だろう、この安心感は…。
「あら、妖夢さんも一緒なのね。」
「はい。こんにちは。」
「もしかしてデートですか?」
「なっ!?」
「いえ、買い物です。色々あって妖夢と一緒に行動しているだけです。」
…あれ?どうして妖夢は顔を赤らめているの?
それに、さっきの驚いたような反応は。
「そう、お勤め頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
白蓮さんにお辞儀をして、命蓮寺を後にした。
俺の後を慌てて妖夢が追いかけてきた。
門を通り抜けると、そこでは響子ちゃんが「ぎゃーてーぎゃーてー」と連呼しながらほうきで掃除をしていた。
どうやら、夢中になって俺たちの存在に気づいていないようだ。
「こんにちは!」
「うわっ!?あ、こんにちは!!」
大声で挨拶をしたら驚いて後ろを振り返り、そして元気な声で挨拶を返してくれた。
この爆音波は3ヶ月前よりも威力が増したか?
その元気な挨拶につられて笑顔を浮かべると、響子ちゃんも可愛い笑顔を返してくれた。
「可愛いなぁ、もう。」
そう言って、頭をよしよしと撫でる。
「かわいi…ありがとうございますっ!」
あれ、尻尾振っちゃっているよ。
…ってかそもそも尻尾があったんだね。
「じゃあ、また来るね。」
「はい、お待ちしております!」
響子ちゃんと別れ、参道を人里に向かって歩く。
背後からは、再び響子ちゃんの大声が響いてきた。この声を聞くと、命蓮寺に来たって気がするな。…もう帰るんだけどね。
「あれ?」
参道を歩いていると、目の前に数体の見知らぬ妖怪が集まっている。
どうしてここに妖怪が?
それよりも集まって何をしているんだろう。
…ちょっと嫌な予感がする。
「妖夢、ここで待ってて。ちょっと行ってくる。」
そう言い残して、その妖怪との距離を縮めていった。
能力を発動させ、姿を見えなくする。同時に気配も消すことができるので、妖怪たちに気づかれることもなく接近することができた。
見ると、妖怪は何かを取り囲んでいるようだ。
妖怪の一言を聞いて、俺の予感が的中した。
「おい、さっそく連れて帰ろうぜ。」
「だな。」
連れて帰る…?
上空に浮かんで空から見下ろすと、そこには10代くらいの人間の女性がうずくまっていた。まさか、連れ帰るってこの子を!?
俺の中に、怒りの炎がメラメラと燃え上る。
こいつら、どう料理してあげようか…。
「おい!その子から離れろ!」
能力を解除し、妖怪たちに声をかけた。
妖怪たちは後ろを振り返ると、俺の姿を見て笑い声をあげた。
「なんだ、人間ごときが俺様たちに命令するというのか?」
「痛い目に遭いたくなければとっとと逃げろ。」
うん、予想通りの返事が返ってきたな。
人数は…3人か。
どいつもこいつもひどい見た目だなあ…。
「お前は何者だ?」
お、まともな質問が飛んできたぞ。
「俺は料理人だ。」
胸を張って答えた俺の返事を聞き、3体の笑い声は一層激しくなった。
「料理人だと?こいつは傑作だ!」
「ただ料理を作ることしか能がねえクズは速く消えろ。」
その言葉に、カチンと来てしまった。
料理を作ることしか能がねぇだと…?クズ…だと!?
「料理人、舐めるな。」
「はぁ?」
「来いよ、お前らみたいな三流食材じゃあ美味い料理はできないが、片っ端から料理してやる。」
「やれるものならやってみろ!!」
そう叫んで妖怪たちは一斉に飛びかかってきた。
「さあ、料理開始だ!」
まずは食材の動きを止める。
そうすれば、余計な傷をつけなくて済む。包丁も入れやすくなるしな。
「
妖怪たちに右手を向けると、次の瞬間妖怪たちの動きが止まった。
まるで幾重にも巻きつけられた縄に縛られているかのように、ピクリとも動かない。
いや、動かせないのだ。
スペルカードを発動した瞬間、妖怪たちの周りの空気を固めて動きを封じた。
固めた空気の結束力は強固で、どんな力自慢だろうと破壊することができない。
…まあ勇儀さんあたりならできるだろうが。
妖怪たちは信じられないといった表情を浮かべている。
固めた空気が隙間なく覆っているので、もがくこともできない。
その様子を品定めするかのように眺めると、はぁと大きくため息をついた。
「やっぱダメだ。料理方法がイメージできない。」
そう呟くと、両手から糸を伸ばすように空気を固め、妖怪たちを捕える空気の輪に空気の糸を繋ぐ。
空中に浮かぶと、ハンマー投げの要領で身体を回転させて妖怪をブンブンと振り回す。
「空転『スパイラルキャスト』!!」
遠心力が十分溜まったところで、妖怪を空の彼方へと投げ飛ばした。
投げ飛ばされた妖怪は高速で飛んで行き、俺の視界から消えた。
はぁ、料理失敗か。まあいい、こんな日もあるさ。
気持ちを落ち着かせるため、何度も深呼吸を繰り返す。
どうやら妖夢は戦っている間に襲われていた女の子を避難してくれたようだ。
少し離れた木の陰で必死に女の子に話しかけている。
…あれ?なんか様子がおかしい。急いで駆け付けよう!