「あー、疲れたー!」
白玉楼に帰宅し、畳の上に大の字で寝転がる。
初めての買い物だったけど、本当に色々なことがあったなぁ。
自分のお墓へ墓参り、妖怪に襲われた女の子を助け、情報を集めるために即席屋台を開き、そして…
「よし、これで…。」
1冊の本を持ち上げた。
これで、俺の弾幕の問題点を解決することができる。
あの時女の子を助けたお礼として慧音さんからもらったのは“知識”だ。
目に見える空気を作り出すにはどうするのか。慧音さんに聞いたおかげで、その答えを見つけることができた。
それは後で試してみることにして、今はゆっくりと休憩しよう。
それにしても、ただ買い物に出ただけでこれほどまで疲れるものなのかなぁ…。買った量もそれほど多くなかったし、いくらなんでも…。
「理科…?面白い本を持っているわね。」
「幽々子様?」
目を閉じて体を休ませていると、不意に幽々子様の声が聞こえた。
目を開けると、右手に持つ理科の教科書を興味深そうに見つめている幽々子様の姿があった。
「あら、どうしたの?顔色が悪いわよ。」
「ええ、ちょっと疲れちゃって。」
幽々子様は小さく「そう。」とつぶやいた後、何かを考えるようにじっと俺の顔を見つめている。一体どうしたというのだろうか。
「ねぇ、貴方が外にいた時間ってどれくらい?」
時間?えっと…。
「大体4時間ちょっとくらい…ですかね?」
でも、それが一体なんだというのだろうか。
俺の発言を聞き、幽々子様は「やっぱり。」とつぶやくと、衝撃の一言を口にした。
「あなたの身体、消滅しかけていたわよ。」
「えっ!?で、でも、5時間経っていないし…。」
「そう、私は確かに5時間が経過したら消滅すると言ったわ。でも、それはギリギリのラインよ。言ったでしょ、幽霊になったばかりの体は脆いって。外に4時間もいたら消滅するのは当たり前よ。消滅し始めたとしても、身体の一部さえ残っていれば復活することができるけど、5時間経ったら何もかも消滅してしまう。そうしたらもう戻せないの。」
そっか…。
5時間も外に出れるというわけじゃなかったんだね。
4時間が経過したら身体は消滅を始めて、5時間が経過したら跡形もなく消えてしまう。
つまり、4~5時間の間がタイムリミットってわけか。
今感じているこの疲れも、身体が消滅しかけたことによって引き起こされたものなのだろう。
絶対に文や小傘、みんなと別れたくない。
これからは慎重に行動しないといけないな。
「それよりも、欧我~。」
「はい。」
「お腹が減ったわ。何か甘いものを頂戴。」
ありゃりゃ…。
真剣な話だと思ったらこれかよ。
「分かりました。しばらくお待ちください。」
幽々子様に餡蜜を提供し、今中庭で空中に浮かんでいる。
慧音さんから教わった、目に見える空気の作り方をさっそく試そう。
まずは1つ目の方法だ。
でも、どうしてこれに気づかなかったのだろう。毎日見ているのに。
その1つ目は“湯気”を使う方法だ。
空気中に含まれる目に見えない水蒸気に意識を向け、状態変化させて小さな水滴に変える。
そうすれば…。
「はぁっ!」
両手を前に向け、空気を固めて弾を作り出す。
その中の空気中に含まれる水蒸気を操り、一気に状態変化させた。
「…できた!」
目の前に真っ白な弾が姿を現した。
さらに俺を取り囲む空気に意識を向け、水蒸気を状態変化させると同時に大量の弾幕を打ち出した。
その弾幕も湯気によって白く色が付き、目視が可能になった。
しかもよく見ると、球の中で湯気がまるで炎のようにゆらゆらと揺らめいている。
これで相手に魅せるという点もクリアできたかな?
しかし、大量に作り出すには集中する時間が長すぎる。そこは改善点だな。
「よし、次…。」
目に見えるようにする、もう一つの方法。
空気中の水分量を操って最適な濃度にし、そこに太陽の光を当てる。
すると…
「わぁ~!」
球体の弾の中に、7色に輝く虹が姿を現した。
先ほどと同じように、今度は虹の弾を大量に作り出して一斉に放つ。
すると、キラキラと輝く虹の弾は虹の形を変えながら円錐状に広がった。
なるほど、見える角度によって形が変わるのか…。
ただ、太陽が無いと虹の弾幕は放てない。
天気によって湯気と使い分ける必要があるな。
これで、無事に目に見える弾幕を作り出すという課題をクリアできた。
後は明後日の弾幕ごっこに備えてスペルカードを編み出さなければ。
課題の克服もしないといけないしな。
よし、やるぞ!
その後、体に溜まった疲労を忘れ、ひたすら弾幕を放ち続けた。
おそらく、「目に見える美しい空気を作り出す」という難題を達成できた嬉しさだけではなく、またみんなと弾幕ごっこができるという喜びが疲労を消し去ってくれたのだろう。
スペルカードの開発は明日にするとして、今日は課題点の克服に重点を置こう。
その様子を、縁側に座って眺める幽々子と妖夢。
「ふふっ、欧我もやるわね。」
「はい。でも、少し羨ましいです。」
「あら、そう?確かにあんなに素敵な弾幕は…」
「違います。」
「違う…?」
「はい。人のために、仲間のために全力を尽くす欧我の姿勢が羨ましいのです。今だって、弾幕ごっこを約束した魔理沙さんのために最高の弾幕を作り出そうと一心に頑張っている。それが羨ましくて…。私も、見習いたいです。」
そう言って欧我を見つめる妖夢の目には、どこか寂しさが感じられた。