台所に浮かび、黙々と調理を続ける。
一度死んで能力を失っても、俺の人間場離れしたイマジネーションは健在だった。
生前と同じように、食材を見ただけで調理法やメニューが溢れだしてくる。その通りに両腕を動かしていれば、あっという間に料理が完成した。
死んだことによって影鬼の手で施された移植や人体改造がリセットされたと考えれば、この料理のイマジネーションは生まれ持って手にしたものであることがわかる。
「すごい…。」
いきなり聞こえた声にびくっとして後ろを振り返った。
あれ?いつの間に妖夢が後ろにいるの?
集中していたから気付かなかったよ。
「もうできたのですね!すごいです!」
「ああ、ありがとう。…あのさ、頼みたいことがある。」
申し訳なさそうに、そう切り出した。
これからの事をイメージすると、深刻な問題が発生する恐れがある。
そう、深刻な…食材不足に。
「はい、何でも言ってください!」
妖夢はそう笑顔で答えた。
見たところやる気十分のようだけど、これを見たらきっとどひゃーとか言うぞ。
紙にすらすらとペンを走らせ、妖夢に手渡した。
「これ、買ってきて。」
「はい!…は?はぁぁぁぁぁ!?」
大人数が来る、さらに何日も続くことが予想されるため、その分料理は大量に必要になる。
もちろん料理を作るためにはその分の食材が必要なわけで。
さらに宴会後の幽々子様の食欲を考えれば、買えるときに買っておかないと最悪の場合飢餓地獄に陥るかもしれない。
白玉楼の台所を預かるということは、そのようなことにも注意を払わないといけないだろう。
…これでも抑えた方なんだけどな。
食材の量に度肝を抜かれている妖夢を尻目に、今度は揚げ物に取り掛かることにした。
唐揚げ、かき揚げ、フライドポテト、野菜の天ぷらに、後に使うために小さく切った肉も入れよう…
うん、やっぱりこの音は聞いていて気分が落ち着くね。
こんがりときつね色になったところで、油から取り出す。レタスを敷いた皿の上にきれいに盛り付け、トマトやパセリ、レモンで飾り付けると、欧我特製オードブルの完成!
でも、これをあと何皿作ったら足りるかな?
それにしても、みんなそろって桜の下で酒を飲むって考えただけで最高だな。
「あー、みんな喜んでくれるかな?」
自然とそう漏れた。
共に精一杯戦ってくれたみんなに、美味しい料理を食べさせる。
これが、今の俺にできる唯一の恩返しだ。
うんよし、この調子で取り掛かろう。
再び油に向かった。
その直後…。
「欧我ぁ~!!」
何者かが台所に飛び込んできて、後ろから俺を抱きしめた。
ものすごい勢いで飛び込んできたため前に倒れそうになったが、目の前に高温の油があったため両手をつっかえ棒のようにして耐える。
常に浮かんでいるから足で踏ん張れないんだよ。
「会いたかったぜ!心配掛けやがって、このー!」
「わっ、ちょっと魔理沙さん離してよっ。」
後ろから抱き着いてきたのは金髪白黒の魔女、魔理沙さんだ。
それよりも胸!胸が当たってるよ!!
「あら、やけに嬉しそうじゃない。」
「ええ、久しぶりに会えたのですから。もちろん、アリスさんにもね。」
台所の入り口に立つアリスさんに向かって、にっと笑いかけた。
…それよりも魔理沙さんどいて!お、重い…。
「あっ、今失礼なこと考えたな?」
「ぎくっ!?」
「魔理沙、いい加減離れなさい。苦しそうよ。」
アリスさんの助け舟によって、ようやく魔理沙さんが離れてくれた。
それにしても、2人とも3ヶ月前と変わらない可愛い笑顔だ。
…ん?なんだろう、この臭い。
「わっ!?焦げた!!」
やっちまったぁ…。
話に夢中で火にかけていた料理を焦がしちゃった…。
これは、自分で食べるしかないな。くそっ、せっかくの食材を…。
「これは、そっとしておいた方がよさそうだな。」
「そうね…。私たちは向こうに行ってましょう。」
背後からそのような会話が聞こえた。
まあいいや、この失敗を取り戻すため、集中してとりかかろう。少しでも美味しい料理を食べてもらうために。
…そう言えば妖夢に何か頼んだっけ?
…まあいいや、気にしない。
その後、一人で台所に向かい、黙々と料理を作り続ける。
料理を作っているときはその行為にのみ集中してしまい、周りが見えなくなった。
だから、息抜きのために外に出ようとした時に、入り口のところに大人数が集まっているのを見た時にはあまりの驚きに腰を抜かしそうになってしまった。
あ、そう言えば妖夢はいつの間にか帰って来ていたんだね。
大きな荷物を背負い、両手にも袋を下げて俺のそばに立っていた。
かなり疲れた様子だけど、まあこの量だからなぁ。
「お疲れ様、妖夢。ありがとね。」
「いえ、これくらい…大丈夫です。私も手伝います。」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、傍から見ても分かるほど妖夢は疲れ切っていた。
隠し通そうとしても、無理をしているのはバレバレだった。
妖夢の肩に笑顔で両手を置くと、肩に担ぎ、台所を後にした。
「おっ、下ろしてください!は…恥ずかしいです…。」
両手両足をバタバタと動かす。
妖夢は激しく抵抗しているが、どれだけ揺すっても俺は浮いているから転んだりはしない。
「ダメだよ。疲れているのならしっかり休まないと、この後はっちゃけれませんよ。」
「はっちゃけるってなんですか?」
「まあ、色々だよ。とにかく、妖夢は頼んだ仕事をきちんとこなしてくれた。これだけで十分うれしいよ。ありがとう。」
「欧我さん…。」
妖夢を肩から降ろし、床に座らせた。
なぜか顔がトマトのように赤くなっていたけど、そんなに恥ずかしかったのかな?
…まあいっか。
そんなことより、宴会料理はあと少しで完成する。ラストスパートをかけよう。