レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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俺の書いていたものがラブコメだと認定されてしまった戌眞呂☆です。
ラブコメについてあまり良い印象を持っていなかったのですが、皆様と話しているうちにその印象も変わってきました。

これからは、開き直ってラブコメを書いていきます!


では、ラブコメ主人公の欧我君の料理教室をお楽しみください。
 


第29話 似顔絵クッキー

 

「お、いい感じじゃないか。」

 

 

それぞれのテーブルを回りながら生徒達の様子を見て回る。生徒たちの想像力(イマジネーション)は素晴らしいもので、花や虫、友達の顔や何か分からない怪獣など、実に様々なクッキーが出来上がっていく。中にはグループで巨大なものを作っているところがあり、その出来栄えには目を見張るものがある。

 

しかし、子ども達がこんなにも集まれば必ず喧嘩が起こるわけで…。

 

 

「わー!!」

 

 

という泣き声に驚いてその場所へと向かった。

見ると、ひとりの女の子が床に座り込んで泣いている。その前には、女の子が作った母親の顔と思われるクッキーを片手にルーミアちゃんがクッキーを見て美味しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「返してっ!返してよぉ…」

 

 

女の子の悲痛な叫びで、何が起こったのかを理解できた。女の子が作っていた母親のクッキーをルーミアちゃんが取り上げたのだろう。おそらく「食べてもいい人類?」とか言って。

 

まったく、ルーミアったら…

 

 

「ルーミア、いったい何をしたのかな?」

 

 

「ふぇ?」

 

 

周りの空気を固めてルーミアの動きを封じ、左手からクッキーを取り返す。クッキーには穴が開き、ココアの生地で作った目や鼻が取れてしまっていた。

 

 

「ダメでしょ、ルーミア。人の物を取っちゃ。」

 

 

「でもっ!」

 

 

はぁ、まったく。

両手でルーミアちゃんのほっぺをつまみ、左右にグイッと(優しく)引っ張った。

 

 

「ひぇ~!」

 

 

「人の物をとってはダメ。分かった?」

 

 

「ひゃい、ひゃひゃひひゃひひゃー!」

 

 

脳内変換、「はい、わかりましたー!」

うん、分かってくれたみたいだね。グイッと引っ張っていた指を離す。

そんなに強く引っ張ったつもりは無かったのに、つまんだ所がうっすらと赤みを帯びていて若干涙目になっていた。

ごめん、やりすぎた。

 

 

「よし、じゃあ謝って。」

 

 

「ごめんなさい…。」

 

 

声が小さかったが、しっかりと謝ることができたルーミアの頭を優しく撫でた。女の子も泣きながらだがうんと頷いてくれた。

その女の子に取り返したクッキーを返したのだが、形が崩れてしまったクッキーを見て再び泣き出してしまった。

これは元通り直してあげないといけないな。

 

穴が開いた箇所にプレーンの生地を少量のせ、へらで優しく撫でて回りと馴染ませる。今度はココアの生地を少し千切って形を整え、残っていた部分を見ながら大きさを合わせ、取れてしまった目と鼻を作り直した。後は細かいところを修正すれば…

 

 

「はい、元通り。」

 

 

元通り修復したクッキーを女の子に渡す。女の子はそれを受け取ると「ありがとう。」とお礼を言ってくれた。

そのお礼に笑顔で答えると、よしと呟いて立ち上がった。

 

 

「じゃあ、仲直りの記念にクッキーを作ってあげるよ。」

 

 

プレーンで輪郭、ココアで髪を作り、さらにココアの生地を使って目や鼻、口を作ってくっつけた。この技術はこの女の子から学んだものだ。こういう方法があったんだね。最後にルーミアの頭には特徴的なリボン、女の子の頭には花飾りをつけて完成だ。

 

何とか似せることができたけど、ほとんどデフォルメだな。

 

 

「はいどうぞ。ルーミアにもね。」

 

 

「「ありがとう!」」

 

 

2人はそれを笑顔で受け取ってくれた。どちらも太陽に負けないまぶしい笑顔だ。

しかしルーミアが…

 

 

「でも、私の髪は黒くない。」

 

 

「しかたないよ。じゃあ顔が真っ黒の方がよかった?」

 

 

「それはもっといやー!」

 

 

無事に仲直りができた2人の頭をよしよしと撫で、ほかのグループへと回ろうとしたが、急に誰かにコックコートの袖を引っ張られた。

俺の袖を引っ張ったのは女の子とおんなじグループの男の子だ。

 

 

「あの、先生!」

 

 

え、先生?

…ああ、俺か。

 

 

「僕の顔も作ってください!」

 

 

すると、その男の子の声に呼応するかのように教室のいたるところで「僕も!」、「私も!」、「おいらも!」、「わちきも!」という声が上がり、瞬く間に子ども達に取り囲まれてしまった。

あれ、これ料理教室だよな?

 

…まあいいや。

 

 

「よし!じゃあ作ってほしい子は前の作業台の前に順番に並べ!喧嘩をするような子は作らないからなー!」

 

 

「はーい!!」

 

 

という元気な掛け声とともに、あっという間に長蛇の列が出来上がってしまった。

これ、全員の顔を作るのか…。

その列の中に首からカメラを下げた水色髪のオッドアイの子がいるけど、まあ目を瞑っといてやる。

 

その後、俺はただひたすらに子供たちの似顔絵クッキーを作り続けた。

まさか、全員作るとは思わなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員分の似顔絵クッキーを作り合わったところで、再びみんなのグループを見て回る。もはや人間とか妖怪とかそんな境目など無かったかのように、みんなで楽しくクッキーを作り続けている。

文も体験取材とか言って四苦八苦しながらいろいろ作っているし、小傘は生地まみれになりながらも俺の顔を作ってプレゼントしてくれた。その他にも似顔絵クッキーのお礼として花や虫のクッキーを手渡してくれる子供たちがたくさんいて、俺の作業台にはクッキーの山が出来上がった。

 

作業台の上に用意した大量のクッキー生地はほとんど無くなっている。

じゃあそろそろ次の工程に移ろうか。

 

 

「はい、席について!!」

 

 

俺の号令に従い、みんなは自分の席に座った。全員が着席したことを確認すると、これからの工程について説明した。

 

一通り説明し終えると、みんなに号令を出す。

 

 

「作ったクッキーを並べたバットを持って、外に出てください!」

  


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