レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第3話 幸せな宴会

 

満開に咲き誇る桜の木の下にみんなが集まり、宴会が幕を開けた。

3ヶ月ぶりに会うみんなの笑顔は、ちっとも変らなかった。

みんなとの再会を喜び、抱きしめあい、追いかけられ、驚かされ、噛みつかれ…。

 

もう二度と会うことはできないと思っていた。喋ることも、笑いあうこともできないと思っていた。

でも、こうしてみんなと再会することができた。その嬉しさからか、俺は感極まって泣きまくってしまった。

 

 

俺が精一杯作り上げた大量の料理は好評で、各地で奪い合いや喧嘩などが巻き起こってしまい、その度に小傘がその光景を写真に収める。宴会で何度も見た当たり前の光景なのに、なぜか初めて見るかのような新鮮な気持ちになる。

これも、みんなと再会できたことに対する喜びから来るものなのかな。

眺めていると、ふつふつと幸せがこみ上げてくる。こういった何気ない日常も、一度死ぬとすべてが幸せに満ち溢れていることに気づく。どうして今まで気づかなかったのだろう…。

 

桜の木の枝に腰を掛け、眼下で繰り広げられる大騒ぎの大宴会をじっと見つめる。

隣に座る文の手を握り、そっと身体を傾けて寄りかかった。

何もせず文と寄り添いあう。お互いに何も話さなかったが、それでも文の隣にいるだけで心が安らぎ、幸せな気持ちになる。

 

この時間が、長く続いてほしい。

 

 

 

「おーい、欧我ー!」

 

 

「っ!?はーい!」

 

 

そのようなことを考えていたら、いきなり名前を呼ばれた。

声のした方を向くと、そこには霊夢さんが空になった皿を頭上に掲げて大きく振っていた。

 

…あれ、ちょっと酔っている。

 

 

「もっと料理持ってきてー!」

 

 

「おい、欧我は今日の主役だぜ。そんなこと…。」

 

 

「分かりました、少し待っていてください!」

 

 

霊夢さんの隣に座っている魔理沙さんが慌てて止めたけど、俺にはこういった形でしか恩返しができない。俺と一緒に戦ってくれたことに対する恩をみんなに返したい。だから、俺はみんなに感謝の気持ちを込めて美味しい料理を作る。

 

 

「文、ちょっと行ってくる。」

 

 

「うん、行ってらっしゃい。」

 

 

木の枝から降り、白玉楼の台所に向かった。

 

 

 

 

 

「さて…。」

 

 

なにを作ろうかな。

えーと、鶏肉があるな…。

よし、チキンステーキなんてどうだろう。

 

まずは鶏肉の皮、身の部分に切れ込みを入れ、塩とブラックペッパーをまぶす。

熱したフライパンに油を敷き、皮を下にして乗せる。

じっくりと、そしてこんがりと…。

うん、いい匂いがしてきた。

皮がパリパリに焼けたらひっくり返して蓋をし、中火で中まで火を通す。

焼いている間に醤油や砂糖などを混ぜてたれを作り、フライパンに入れて煮詰めながら馴染ませる。

 

箸でも食べやすいように切り分け、皿に盛りつけてキャベツなどをトッピングすれば…。完成!!

 

 

 

 

 

お盆に乗せ、霊夢さんのもとに向かった。

 

 

「はい、お待たせ!」

 

 

チキンステーキを霊夢さんに差し出した。

それを受け取ると、箸でつまみ、口まで運んだ。

 

 

「あぁ~、おいしい!」

 

 

「どれどれ?」

 

 

魔理沙さんが隣から箸を伸ばす。

 

 

「お~、本当だ!」

 

 

良かった、喜んでくれたみたいでほっとしたよ。

すぐそばにあった未使用の2枚の杯とお酒を持ち、文のいる桜のところに戻った。

 

 

「ただいま。」

 

 

「おかえりなさい。どうやら好評だったみたいね。」

 

 

文の隣に座って、杯を手渡した。

酒瓶を傾け、杯に酒を注ぐ。

 

 

「うん、喜んでくれてうれしかったよ。」

 

 

酒がなみなみと注がれた杯を傾け、文は美味しそうに飲み干した。

そして酒瓶を受け取ると、俺の持つ盃に酒を注いでくれた。

 

 

「それで、何を作ったの?」

 

 

「チキンステーキ。」

 

 

そう言って、杯の端に唇を近づける

その直後、文が俺の肩に手を置いた。

今の衝撃で酒がこぼれてしまった。

 

 

「欧我、いけません。鶏肉はいけませんよ…。」

 

 

「どうして?美味しいのに。…そうだ、今度文にも作ってあげるよ。」

 

 

「欧我…それは宣戦布告と受け取ってもいいのかしら?」

 

 

次の瞬間文から立ち上る怒りに満ちたオーラ。

わぁ、これ完全に怒っている。

 

 

「もちろん冗談だよ、ちょっとからかってみただけ。それよりも、飲みましょうよ。」

 

 

酒瓶を持ち上げると、文の持つ盃に酒を注いだ。

そう言えば、共食いだったな。今後気を付けないと。

 

文は少々むっとした顔で杯を傾けた。

 

 

 

 

 

「それよりもさ、お店出してみない?」

 

 

「店?」

 

 

しばらく酒を飲み続けていると、文がそう聞いてきた。

一体何の店だろう。

 

 

「そう、欧我の料理はどれも美味しいから、お店として出したらどうかしら。」

 

 

「お店、ねぇ。レストラン白玉楼…。」

 

 

俺が腕を振るった料理を、みんなに提供する。

そうすれば、恩返しができるのかもしれない。

 

…でも、勝手に白玉楼の大切な食材を使ってもいいのだろうか。

幽々子様の食欲を考えたら、大勢の人に提供したら食材が底をついてしまう。

そもそもレストランスペースとなる部屋を貸してくれるのだろうか。

 

 

「うん、考えてみる。」

 

 

まずは幽々子様と相談する必要があるな。

 

 

 

 

 

その後、2人は交互に酒を飲み続けた。

まるでこの世界に2人しかいないかのように、酒を酌み交わし、とりとめのない会話を続ける。

夜空から降り注ぐ月の光はピンクの花びらを照らし、辺りを幻想的に燃え上がらせる。

こういった光景に影響されたからなのか、それとも文と一緒にいるからなのか、少し酒を飲み過ぎてしまった。

 

文が俺の杯に酒を注ごうとしたので、俺は左手を上げて遮った。

 

 

「もう飲まないの?」

 

 

「うん、酔ってきちゃって。」

 

 

「あら、これくらいのお酒で酔っていてはだらしないですよ。それとも、私のお酒が飲めないと言いたいのですか?」

 

 

「そんなわけじゃないけど…。」

 

 

文が俺の頬に両手を添わせて顔を向けさせると、唇を合わせてきた。

いきなりのキスに驚いていると、次の瞬間口の中に酒が流れ込んできた。

 

 

「んっ!?・・・ごくっ」

 

 

え?え!?

酒!?いつの間に!?

 

 

唇が離される。

酒のせいなのか、文の顔は真っ赤に染まっている。

おそらく、俺も同じ状況だろう。

 

 

「どうでした?」

 

 

いきなり起こった予想外の行動に、俺の頭はパニックを引き起こす。

何を言っていいか分からず、

 

 

「あ…文の味がした。」

 

 

という言葉が口をついて飛び出した。

 

その後、しばらくの間心臓のドキドキは収まらなかった。

 


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