レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第34話 披露宴までのひと時

 

 式の会場を一旦退場し、一緒に文の控室に戻った。この後行われる披露宴は、紅魔館内の別の階、別の部屋で行われる。その部屋では咲夜さんと陽炎さんが時間を止めて着々と準備を進めてくれているであろう。

 結婚式を終え、俺達は正式に夫妻となることができた。未だに実感が湧かないが、今は最高に幸せな気分だ。それは文も同じなようで、俺の顔を見てにっこりと笑顔を浮かべている。部屋にあるソファに腰を下ろし、じっと文を見つめた。

 

 

「欧我ぁ…」

 

 

「えっ、どうしたの?」

 

 

 突然文の目に涙が溜まり始めたかと思うと、その涙が溢れ出してしまった。文はハンカチで涙を拭ってはいるが、それでも溢れだした涙は大きな滝となって流れ落ちている。

 

 

「文…」

 

 

文の隣に移動し、俺のハンカチを取り出して流れ落ちた涙を拭った。そして右腕を回して文の肩を持つと、慰めるかのように身体を引き寄せる。

 

 

「私っ…欧我と結婚できてよかった。それが、嬉しくてっ…」

 

 

 嗚咽を漏らしながら、文は胸の内を語ってくれた。

 ここまで来るのに、本当にいろいろなことがあった。記憶を失い妖怪の山に倒れていた俺を見つけて、命を救ってくれた。写真屋という職業を提案し、幻想郷に住むみんなと仲良くなるように各地に連れて行ってくれた。そして永嵐異変で文を愛する心に気づき、恋人同士になることができた。そして影鬼異変で俺が亡くなっても、復活後も常に俺のそばにいて、ずっと支えてくれた。

 俺にとって文は、命の恩人であり、この世界で一番大切な人であり、かけがえの無い家族なんだ。

 

 

「文、改めて言うね」

 

 

 文の身体を引き寄せ、しっかりと抱きしめる。今、俺の中に溢れている感情を伝えるにはこの言葉しかないと思う。たった5文字の、短い言葉。しかし、今の気持ちをしっかりと文に伝えるには十分すぎる程だ。文の耳元で、優しく、語りかけるようにその言葉を口にした。

 

 

「愛してる」

 

 

「うんっ」

 

 

 俺の肩に顔をうずめて泣き続ける間、俺は慰めるかのように、幸せを分かち合うように、ただ何も言わずに文を抱きしめ、頭をよしよしと撫で続ける。

 

 

 

「相変わらずラブラブですね」

 

 

 不意にその声が聞こえたかと思うと、突如として目の前に咲夜さんが現れた。能力で時間を止めている間にここに来たのだろうが、仕組みを知っているとしてもこの登場の仕方には驚いてしまう。

 文は肩から顔を離して咲夜さんの姿を確認するが、目があった途端小さく「あっ」という声を漏らして俺の胸に顔をうずめてしまった。おそらく、自分が泣いていたことと俺と抱きしめあっていたことが恥ずかしかったのかな?

 

 

「ええ、まあ大好きなので。その様子だと、会場の準備が整ったのですね」

 

 

 咲夜さんがここに来た理由は、おそらく披露宴の準備ができたことを知らせに来てくれたのだろう。それよりも、「大好き」と言った途端文に胸をグーで軽く叩かれたけど、それは照れ隠しと受け取っておこう。

 

 

「文、披露宴の準備ができたんだって。ほら、行くよ」

 

 

「…うん」

 

 

 文は俺の胸から顔を上げるが、泣いたからなのかところどころ化粧が崩れてしまっていた。これではみんなの前に出ることができない。

 

 

「あー、咲夜さん。化粧をお願いできますか?」

 

 

「はぁ、仕方ないわね」

 

 

 咲夜さんがフィンガースナップを決めた途端、文の化粧の崩れは見事に修復されていた。やっぱり、時間を止めることができるのはとても便利だな。

 

 

「それでは、会場にご案内いたします」

 

 

 咲夜さんの後について、披露宴の会場に向かう。しかし、なぜか文が俺の顔を見てニヤニヤとした笑みを浮かべている。俺の顔に何が?

 

 

「俺の顔に何が付いているの?」

 

 

「欧我、カッコいいよ」

 

 

 俺の質問に、文はそう答えただけだった。ま、まさか!?

 

 

「咲夜さん!もしかして俺にも化粧をしました!?」

 

 

「そうね、カッコいいわよ」

 

 

 化粧したのかよ!しかも咲夜さんからカッコいいって!?見る見るうちに顔がかぁ~っと真っ赤に染まっていく。生まれて初めてされた化粧に、嬉しさとともに恥ずかしさがどんどん湧いてきた。恥ずかしくて両手で顔を覆いたかったが、覆ってしまったらせっかくの化粧が崩れてしまう。

 あーっ、何だこのもどかしい気持ちは!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 披露宴の会場は結婚式を行った教会風の部屋と異なり、豪華なホテルの大宴会場のような部屋だった。天井からは幾つもの煌びやかなシャンデリアが吊るされ、絨毯や壁紙、装飾品に至るまですべてが高級な品でまとめられていた。これだけのものを集めるなんて、主であるレミリアさんはかなりのカリスマだと再確認した。

 その会場の入り口に立って、披露宴のゲストであるみんなを出迎えた。でも、来る人みんなが化粧の施された俺の顔を見て「カッコいいよ!」とか、「女の子みたい!」とか、「可愛い!」とか言ってくるのは恥ずかしすぎる。しかも写真屋が目をキラキラと輝かせながら俺のアップばかり撮っているのは我慢ならない。

 

 

「あのー、文も写してあげて?」

 

 

「いえ、私は写真に撮られるのが好きじゃないので。欧我のカッコいい顔を撮ってください」

 

 

 写真屋にそう懇願したが、文がそう言ってしまったため一旦俺から離れたカメラの照準は再び俺の顔に戻ってきた。そして響き渡るシャッター音。

 

 

「小傘ー、恥ずかしいよ」

 

 

「いいじゃん、だって今の欧我は今までで一番カッコいいもん!」

 

 

 そう言って小傘は再びカメラを構えた。小傘の言ったその言葉はとても恥ずかしかったが、それと同じくらいとても嬉しかった。やっぱり、化粧というのも悪くn...

 

パシャシャシャシャシャシャシャシャッ!

 

 

「ちょっそれ連写!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲストを迎え終わり、みんなが席に着いた頃、俺はドアの前で文と手を繋いでいた。そして、司会進行役の妖夢の言葉とプリズムリバー三姉妹の奏でるBGMに合わせて会場の中に足を踏み入れた。

 前を見て、ゆっくりと足を進める2人(俺は浮いているが)。ただ手を繋いでいるだけなのに、心に安らぎと幸せを感じる。文とは、季節を忘れるくらい色んな事があったけど、2人でただ歩いているこの感じがとても愛おしい。

 

 周りから贈られる祝福の拍手に包まれながら、笑顔を浮かべてゆっくりと進んでく。

 さあ、披露宴の始まりだ。

  


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