レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第42話 家族みんなで温泉!

 

 かつて博麗神社のそばから噴き出した間欠泉。それが地霊殿異変の発端となり、霊夢さんたちが異変解決のために幻想郷の地下に飛び込んだ。これが、「地霊殿異変」である。あれ、でもちょっと待って。この前見た資料では、間欠泉が吹き出す要因となった霊烏路空さんに核融合の力を与えたのは、目の前ではしゃいでいる諏訪子ちゃんと神奈子さんだよな?つまり、元をたどれば地霊殿異変の黒幕は…

 

 じっと、目の前に広がる温泉にはしゃいでいる二柱の神をじっと睨みつける。

 うん、まあいいや、今は気にしないでおこう。

 

 

 それにしても、何度見てもこの情景には圧倒されるな。目の前に広がる温泉からは真っ白な湯気がまるで霧のように立ち込め、幻想的な風景を形作っている。また、奥の方に高く積みあがった岩の間からは勢いよく湯気が吹き出している。それに、ここに向かう途中に見えたのだが、お湯が赤や青に染まったものも所々見て取れた。おそらくお湯に含まれる硫化鉄などの成分によるものだろうが、こんなにも美しいものが自然によって作られるなんて驚きだ。

 だが、先の地霊殿異変の時に沸き出したのはお湯だけではない。お湯と同時にたくさんの怨霊が飛び出してきてしまったのだ。怨霊は人間だけではなく妖怪にまで悪影響を与えてしまう。そのために霊夢さんが異変解決のために地下へ行く羽目になったのだ。 

 もちろん、今いる場所はそんな怨霊が出てくる場所から離れているので非常に安全だ。そんなものを心配することなくゆったりと温泉につかることができる。

 

 んだけど…

 

 

「やっぱりこれ、分かれていないんだよね」

 

 

 温泉を眺めながら言葉を交わす早苗さんたちに聞こえないように、そう呟いた。

 そう、男湯と女湯に…。いやあ、流石に分かってたよ。自然にできた温泉だから分かれていないことくらい。でも、よく考えてみたら男は俺だけだし、その他はみんな女性なんだ。だから一緒に入ることは…。

 

 

「欧我、どうしたの?」

 

 

「…え?な、何でもないよ、文」

 

 

「もしかして、私たちと一緒に入ることが嫌なの?」

 

 

「あ、えっと…」

 

 

 まさか気付かれた!?

 文は俺の言動を見て大きくため息をついた。

 

 

「水臭いわね、私たちは夫妻なのよ。私は欧我と一緒に温泉を楽しみたいの」

 

 

「え…でも」

 

 

「それはいい考えだ」

 

 

 神奈子さん!?

 

 

「ああ、私たちの事は気にしなくていいよ。向こうにある温泉に入るから、貴方達はここを使いなさい。夫婦水入らずでね」

 

 

「うん!水を差しちゃ悪いからね」

 

 

 諏訪子ちゃんも!?

 はあ、そうだよな。夫妻水入らずで温泉を楽しんだ方が良いよな。うん、そうだよね。

 

 

「それでは、夫婦お幸せに。小傘さん、行きましょう」

 

 

「うん…」

 

 

 神奈子さんと諏訪子ちゃん、そして小傘が早苗さんの後について別の温泉に向かって歩いて行った。小傘がなぜか寂しそうな表情でこちらを振り返ったので、笑顔で手を振ってあげた。小傘はそれに笑顔で頷いてくれたけど、一体どうしたというのだろうか。

 

 

「さて、入りましょうか」

 

 

「うん」

 

 

 服を脱ぎ、お湯に肩までつかる。あ、もちろん2人ともタオルで覆っているからね。

 お湯はサラサラで非常に肌触りがよく、少し熱めの温度がとても心地よかった。この空気中を漂う硫黄の香りもまた温泉っていう感じでいい雰囲気だ。

 

 

「はあ、最高だ」

 

 

「そうね。それに、欧我と2人きりっていうのもまた最高ですよ」

 

 

「ああ、夫妻水入らずでのんびりとね」

 

 

 両腕を頭上に上げ、大きく伸びをする。非常に心地よいが…

 

 

「あのさ、どうしてそんなにくっつくの?温泉は広いんだからもっとゆったりと入ろうよ」

 

 

「ううん、私は欧我のそばにいたいの。大好きな貴方を近くで感じていたい。…ダメ?」

 

 

「うん、わかった。じゃあ…」

 

 

「あややややっ!?」

 

 

 文を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

 

 

「この方が、もっと感じることができるでしょ」

 

 

「ふふっ、いつにも増して積極的ね」

 

 

 温泉の中、タオルを隔てて文と抱きしめあう。多分、熱で頭がやられていたのだろうが、なぜか同時に幸せも感じることができた。

 

 

「やっぱり、文はいつ見ても可愛いよ」

 

 

「もう、欧我ったらぁ」

 

 

 文の頬に右手を添わせ、お互いを見つめあう。そして、ゆっくりと唇を近づけた。

 その時…

 

 

「ばぁ~~~っ!!!」

 

 

「うわぁっ!?」

「きゃあ!?」

 

 

 突然何者かがお湯の中から飛び出した。

 

 

「えっへへ、大成功!」

 

 

 お湯の中から飛び出した妖怪は嬉しそうにけたけたと笑っている。そう、小傘だ。でも、小傘は確か早苗さんと一緒に向こうの温泉に向かったはず。それなのにどうしてここへ?

 っていうか、それよりも…

 

 

「小傘、タオルは?」

 

 

「へ?」

 

 

 小傘の体を覆っているはずのタオルは湯船の底に沈んでいる。おそらく飛び出した瞬間に外れてしまったのだろう。つまり、今の小傘は…

 

 

「~っ!!」

 

 

 声にならない悲鳴を上げ、顔を真っ赤にして小傘はお湯の中に潜っていった。

 お湯の中からタオルを拾い上げて未だにうずくまったままの小傘にかけてあげると、それで自分の身体を素早く覆い隠した。

 

 

「小傘、ドンマイ」

 

 

 苦笑いを浮かべ、小傘の頭をよしよしと撫でてあげた。小傘に水を差されちゃったけど、まあ家族で温泉に入るというのもいいかな。

 

 その後、どうにか落ち着きを取り戻した小傘を含めて家族3人で笑いあいながら温泉を楽しんだ。

 そろそろ体を洗おうと、文が家から持参してくれたタオルと石鹸を手に取った。もちろん髪を洗うためのシャンプーもある。意外と何でもあるんだなぁ。近くにあったちょうどいい大きさの岩に腰を掛け、シャンプーを泡立てる。すると、そこに小傘がやってきて俺の前にちょこんと座った。

 

 

「欧我、洗って」

 

 

「え、髪を?自分で洗えるでしょ?」

 

 

「もー、洗ってほしいの!」

 

 

「はいはい、分かったよ」

 

 

 ちょうどシャンプーを泡立てたところだから、そのまま両手を小傘の頭に乗せ、わしゃわしゃと洗い始めた。痛くないように、力を抜いてそっと優しく。

 

 

「あははっ、くすぐったい!もう、洗うの下手!」

 

 

「なにを?よし、じゃあこれならどうだ!」

 

 

「わー!」

 

 

 少し力を込め、わざと乱暴にわしゃわしゃと両手を動かす。他人の頭を洗うなんて生まれて初めての経験なので力加減とか全く分からなかったが、どうやらこの強さが丁度良かったみたいで、小傘は至福の笑みを浮かべている。辺りに漂うシャンプーの甘い香りがやさしく鼻孔をくすぐり、まるで2人だけの幸せな世界に来たのかのような雰囲気を作り出す。

 洗い残しが無いように注意を払って髪を洗っていると、不意に小傘が寄りかかってきた。

 

 

「ちょっと、これじゃあ洗えないよ」

 

 

「いいのいいの。ふふふっ」

 

 

 はぁ、まあいいいや。小傘の頭に両手を重ねて置き、そこに顎を乗せる。その様子を湯船の中から見つめていた文が、不機嫌そうに頬を膨らませていた。

 

 

「むぅー、負けていられませんね。欧我、私の髪も洗ってください!」

 

 

「えっと…文?一体何を競っているの?」

 

 

 まさか文の髪も洗う羽目になるとは思わなかったが、まあこれも家族の幸せなひと時だと思えば大切な思い出になった。さて、明日は人間の里で甘い物めぐりに出発する。明日も、家族の思い出をたくさん作れるといいな。

 

 

 あ、あの、お礼という気持ちは嬉しいけど2人して俺の頭をもみくちゃにしないで!

 


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