レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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こんにちは、戌眞呂☆です。
何時も甘々シーンばかりを書いていますが、たまにはスパイスも必要かなと思い、今回異変を起こしました。

この異変では、オリキャラが登場します。
異変に巻き込まれ、少女と関わるとき、欧我たちはいったいどんな決断を下すのか…。

共鳴鏡乱(きょうめいきょうらん)異変” 始まります!
 


第8章 共鳴鏡乱異変 ~物の悲しみ、物の反乱~
第45話 小さな異変、大きな異変


 

 白玉楼の昼下がり。食器の片づけを終えた後に飲む苦い緑茶は、これ以上ないほど格別な味がする。温もりが体中に伝わり、冷たく固まった疲労という名の氷を優しく溶かしていってくれるようだ。

 

 今、俺の隣には誰もいない。楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、文が天魔さんからもらった2週間という期間はあっという間に過ぎてしまった。今頃文は、取材をするために小傘と共に幻想郷中を飛び回っていることだろう。妻として俺の隣にいて、色々と支えてくれる姿よりも、取材をしている時の姿の方が文らしいというかなんというか…。文と小傘がいなくなって、少し寂しくなるけどね。でも、金曜日になったらまた会いに来てくれるからそれまでの辛抱だ。

 

 

「ん~っ!」

 

 

 やっぱり、風が気持ちいい。このままでいると、なんだか眠くなってきた…。

 

 

「欧我、ちょっといいかしら?」

 

 

「ん?あれ、幽々子様。昼食ならもう食べましたよ」

 

 

 いつの間にか、俺の隣に幽々子様の姿がある。一体俺の何の用事だろうか。冗談のつもりでそう言うと、

 

 

「むぅ、違うわよ。今は美味しい食事に満足しているけど…」

 

 

 少々むっとした表情でそう答えた。満足していただけたなら専属料理人としてこれ以上嬉しいことは無いんだけど、そんな俺に一体何の用事だろうか。

 

 

「ありがとうございます。ところで、何かご用でしょうか」

 

 

「実はね、蔵の中を見てきてほしいの」

 

 

「蔵ですか?」

 

 

 白玉楼の裏手には、とても大きな蔵がある。俺は今まで一度も足を踏み入れたことはないが、妖夢の話によれば昔から大切にされていた物やお宝が保管されているらしい。それにしても、どうして蔵の中を見てくる必要があるのだろうか。

 

 

「ええ。実は昨晩、蔵から大きな音と何者かが走り去る足音がしたのを妖夢が聞いたらしいのよ。妖夢は怖がって蔵に行こうともしないから、代わりに見てきてほしいのよ」

 

 

 蔵から逃げる足音が聞こえた?もしかして、泥棒が?泥棒と聞いて真っ先に浮かんだのはあの白黒の魔法使いだけど、果たして魔理沙さんが欲しがるものが蔵にあるのだろうか。いや、魔理沙さんならほうきで空を飛んで逃げるはずだ。百戦錬磨の魔法使い(泥棒)なら足音を立てるというへまはしないだろう。だったら、一体誰なんだ?冥界にやってきて白玉楼の蔵に忍び込むなんて、普通の人間には不可能のはずだ。

 とにかく、確認してみる必要があるみたいだな。

 

 

「分かりました、行ってきます」

 

 

 縁側から腰を上げ、空中にふわりと浮かぶ。幽々子様の「よろしくね~!」という声援を背に受け、まっすぐ蔵を目指した。

 白玉楼の蔵は敷地の奥の方にひっそりと佇んでいる。まるで隅に追いやられたかのようにポツンと佇む蔵は、日中でもどこか不気味な印象を漂わせる。幽霊とか出ないよね?…あ、俺、幽霊だったわ。

 廊下を曲がると、その問題の蔵が見えてきた。

 

 

「これはひどい…」

 

 

 蔵の扉は、無残にも打ち破られていた。蔵の前には扉の残骸が散乱し、ところどころ真っ黒に変色している。おそらく、弾幕をぶつけたのだろう。それにしても…

 

 

「おかしい…」

 

 

 これは、泥棒のせいじゃない。

 なぜなら、飛び散った破片の位置が不自然だからだ。普通外から弾幕をぶつけた場合、扉の破片は入り口の近くや蔵の内部に広がって散乱する。それなのに、この破片は入り口から遠く飛ばされている物もある。まるで、内部から破壊されたかのように。

 

 

「中から破壊って、普通は不可能だろう。鍵が付いている以上、外から侵入するのは不可能だ」

 

 

 いや、一人可能な人がいる。壁をすり抜けることができる人物。『壁をすり抜けられる程度の能力』をもち、『壁抜けの邪仙』の異名をとる邪仙の(かく)青娥(せいが)さんだ。

 しかし、そうだとしても腑に落ちない点がある。彼女が白玉楼の蔵に侵入する理由が分からない点だ。蔵の中に保管されている物の中で、青娥さんが欲しがるような物が思いつかない。それともう一つある。壁をすり抜けられるのであれば、わざわざ扉を破壊する必要などあるのだろうか。

 ありえないけど、何者かが蔵の中に現れ、扉を破壊して出ていったと考える方がしっくりくるような気がする。

 

 

「あり得るのかな…。また紫さんの能力が暴発したのかも」

 

 

 でも、弾幕を放つことができることを考えると、普通の人間や、外来人によるとは考えられない。

 

 

「まあ、外で色々考えていても仕方ないか」

 

 

 何かヒントを得られることを願いつつ、蔵の中に入った。

 蔵の中は、至る所に埃が積もっていて、(カビ)のような臭いが空気中を漂っている。この中にいると息苦しくなってくるな。

 

 

「これは…?」

 

 

 床に降り積もった埃の上に、何者かが歩いたような足跡が残されている。足跡の大ささと歩幅から、おそらく子どもだろうか。大体、小傘よりも少し小さいくらいの。

 それよりもここにいると埃によって肺が詰まりそうだ。空気を操って気流を生み出し、床の埃を飛ばさないように注意しながら蔵の中のよどんだ空気を外へと追い出した。代わりに入ってくる外の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、深呼吸を繰り返す。よし、これで長時間の作業ができるぞ!

 

 

「さて、無くなっているものはあるかな…ん?」

 

 

 なんだろう、長方形の形をした真っ黒な物が床に無造作に置かれている。拾い上げてみると、それは何かの箱の蓋だった。表面にはピンク色で桜の模様が描かれているが、長い間ほったらかしにされていたかのように表面の光沢はくすみ、桜も色あせている。

 その後蔵の中を確認してみたが、不思議なことに盗られている物は何一つなかった。結局何かの手掛かりを得ることはできなかったが、とりあえず幽々子様に報告しに行こう。この蓋の事も聞いてみようかな。

 

 

 

 

 

「幽々子様~!」

 

 

 幽々子様は縁側で妖夢と一緒にお茶を飲んでいた。2人のもとに向かうと妖夢が熱々の緑茶が入った湯呑を手渡してくれたので、それを受け取って一服。やっぱり、緑茶は最高だ!…じゃなくて。

 

 

「幽々子様、蔵の中を見てきました」

 

 

「お疲れ様。それで、どうだった?」

 

 

「はい。蔵の中を荒らされたり、何かを盗んで行ったような形跡は見られませんでした。蔵に残されていたのは、小さな足跡と、この蓋だけです」

 

 

 そう言って、床の上に残されていた漆の塗られた蓋を手渡した。幽々子様はそれを受け取ると、じっと蓋を見つめる。幽々子様の表情を見るに、どうやらこの蓋が何か分からないようだ。妖夢も同様に額にしわを寄せながら、じっと蓋を見つめていた。

 無論、俺も初めて見る。

 

 

「これ…。どこかで見たことがあるような気がするわね」

 

 

「幽々子様は見たことがあるんですか?私は初めて見ましたが…」

 

 

 幽々子様は真剣な面持ちで蓋をじっと見つめている。懸命に記憶をさかのぼり、この蓋に関する情報を探しているようだ。しかし、小さくため息をつくと首を横に振った。

 

 

「ごめんなさい、やっぱり分からないわ…」

 

 

「そうですか。まあとにかく、何か分かったことがあれば教えてくださいね」

 

 

 まあここで幽々子様が何かを思い出すのを待っても仕方がない。普段の生活のちょっとしたことが原因で思い出すことがあるかもしれないから、気長に待ってみよう。時間は永遠にあるのだから。

 

 

「じゃあ、お腹もすいたので何か作ってきます。ここで待っていてください」

 

 

「ありがとう欧我!やっぱり欧我の作る料理は美味しいわ」

 

 

「むぅ~、私の料理も褒めてくださいよー!」

 

 

 今日のおやつのメニューを考えながら、台所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~人間の里~

 

 

 木の上から、じっと下を見つめる少女。彼女の目線の先には、乱暴に(くわ)を扱う農民の姿がある。風に淡いピンク色の長い髪をなびかせ、水色の瞳に溢れんばかりの涙をたたえて。

 

 

「止めてよ、泣いているでしょ…」

 

 

 彼女の悲痛な叫びは、虚しく空中を漂う。自分には何ができるのだろうか。乱暴に扱われ、そして無残に捨てられる道具たちを救うには何ができるのだろうか。

 

 私の持つ能力なら、道具たちを救うことができる。

 待ってなさい、人間ども。

 

 

「絶対に、ドドーンと復讐してやるんだから」

 


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