レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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いつも明るく、人懐っこい小傘ちゃんにも、
誰にも言えない悲しみを胸の内に秘めていると思うんですよね。

そんな小傘ちゃんの悲しみを表現できたのかは不安ですが、ぜひ読んでください。
 


第47話 付喪神少女の思い ★

 

「一体何があったというのかな?」

 

 

 人間の里にあるベンチに腰を下ろし、今まで撮った写真を見直している。数日前から撮ってきた写真には、人間が暴れまわっている様子が映し出されている。どうして人間が人間を襲っているのだろうか。どうしてこんなにも恐ろしい形相をしているのだろうか。私が感じられるのは、激しい怨みを抱いていることくらいだ。私は長い間誰にも拾われず、人間に怨みを抱きながら妖怪となった付喪神。だから、なんとなく分かるような気がする。この異変は、人間に乱暴に扱われた道具たちの反乱だと言う事を。

 復讐なんかして、何の意味があるのだろうか。人を殺め、復讐を果たして何が嬉しいのだろうか。私たち道具には、使ってもらう人間や直してくれる人間が必要だ。もし人間が一人もいなくなれば、私たちは誰にも修復されず、ただ朽ち果てていくだけなのに。

 

 

「はぁ~。さて、取材取材!」

 

 

 暗い気持ちを振り払うために、自分に言い聞かせるように呟いた。私はブン屋の助手であり二代目写真屋。今起こっている異変のすべてを切り取り、永遠に残すことが私の仕事であり義務である。

 一緒に取材をしていた文は、「山のみんなが心配になってきた」と言って里を飛び出して山の方に向かっていった。あれから3時間経つが未だに帰って来ていない。山で何かあったのかな?すごく心配になってきた。私一人で取材なんてできるのだろうか。

 

 

「文がいない分、写真屋として私がしっかりと取材をしないとね!一人でもできるんだと言う事を証明しなくちゃ!」

 

 

 自分で自分を勇気づけ、カメラを握りしめて立ち上がった。

 

 

「小傘ちゃん!」

 

 

 その時、不意に私の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声と共に目の前に降りてきたのは、友達で私と同じ付喪神のメディちゃんだ。でも、その隣にいるピンク色の長い髪をした女の子は誰なんだろう。

 

 

「あなたが小傘ちゃんね?」

 

 

 キャスケットをかぶり大きな手鏡を持っている女の子は、水色の瞳で私をじっと見つめている。

 

 

「うん、そうよ。あなたは?」

 

 

「私は鏡美(かがみ)心華(こはな)。あなたと同じ付喪神よ!よろしくね!」

 

 

 と、その女の子、心華ちゃんは笑顔で自己紹介をしてくれた。その笑顔が無邪気で明るかったので、心華ちゃんにお願いして笑顔の写真を撮らせてもらった。でも、この子何処かで。まさか…。

 ポケットからメモ帳を取り出し、パラパラとめくっていく。

 

 

「あっ!」

 

 

 その中の記述を見て、思わずそう声を漏らした。なぜなら、心華ちゃんが異変の犯人の特徴とピタリと一致したからだ。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あ、ううん!何でもないよっ!」

 

 

 慌てて誤魔化そうとしたが、心華ちゃんの目を見て誤魔化せていないと分かり、はぁと小さくため息をついた。

 

 

「この異変を起こしたのって心華ちゃんだよね。どうして異変なんか起こしたの?」

 

 

「えっ、私が異変を起こしたことを知っているの?流石新聞記者の助手だね!」

 

 

 心華ちゃんは反省する様子もなく、嬉々とした表情で自分が異変を起こしたことをあっさりと認めた。どうしてこのような異変を起こしたのだろうか。

 

 

「この異変を起こした理由?もちろん復讐よ!私たち道具に感謝しようともせず、毎日乱暴に使い続けて、壊れたらはいさようなら…。私は数多くの泣いている道具を見てきたわ。だったら、私の持つ能力で復讐をさせてあげたいの!」

 

 

「心華ちゃんの、能力?」

 

 

「うん、『道具に意思を持たせる程度の能力』よ!この鏡に道具を映し、私の意思を感染させて意思を読み込ませるの。そうすれば、道具が意思を持ち、道具と共鳴した人間を乗っ取って暴れることができるの。すごいと思うでしょ?」

 

 

 確かに、心華ちゃんはすごい能力を持っている。異変を起こすことには十分すぎるくらい。でも、この方法は間違っている。はっきりとした理由はわからないけど、こんなことをして許されるはずはない。

 

 

「小傘ちゃんも、私たちと一緒に復讐をしましょう!怨みを晴らすのよ!」

 

 

 メディちゃんも、心華ちゃんの考えに賛同しているようだ。確固たる意志を浮かべ、私に右手を差し出してきた。でも、私はその手を、親友の右手を握り返すことはできなかった。

 

 

「わ、私は…」

 

 

「嫌なの?小傘ちゃんだって長い間誰にも使われず、無視され続けて付喪神になったでしょ。人間に使われることも、気に留められたこともないのに、怨みを抱かない方がおかしいわよ!」

 

 

 心華ちゃんの言葉が胸にグサッと突き刺さった。脳裏に人々から拾われることもなく無視され続けた、つらく悲しい日々が思い起こされる。胸を引き裂かれるような悲しみに襲われ、自然と傘を握る手に力が入る。

 その状態のまま何も言わずに悲しみを堪えていたら、心華ちゃんはため息をついた。

 

 

「もういいわ、付喪神同士仲間だと思っていたのに」

 

 

「さようなら、小傘ちゃん」

 

 

 2人はその言葉を残し、空へと飛び去って行った。残された私は、ただそれを見送ることしかできなかった。

 私は、この傘の色が気味悪いと誰からも相手にされず、無視され続け、雨風に飛ばされているうちに妖怪となった付喪神。心華ちゃんの言ったように、私は人間を憎んでいた。ずっと一人ぼっちで、孤独で、人知れず泣いた事もある。

 

 

「私は…うっ…」

 

 

 体を小刻みに振るわせ、唇を噛みしめる。必死に堪えていたのに、それでも大粒の涙が溢れだした。悲しみを抑えきれず、嗚咽の声が漏れる。その場に崩れ落ち、私は声を上げて泣いた。

 ずっと一人ぼっちで、ひもじくて、孤独に押し潰されそうになった日もある。でも、今は一人ぼっちなんかじゃない。命蓮寺のみんながいる。そして欧我もいる。私に優しく接してくれるみんなの心が、私から怨みや悲しみ、孤独を取り払ってくれた。

 

 

『わかりました。特別に助手として同行を許可します』

 

 

 あの時、もし私が欧我と出会っていなかったら、今の私はどうなっていたのだろうか。あの時私を助手にしてくれたことは、これ以上無いくらい嬉しかった。長い間誰からも拾われなかったのに、欧我は私を拾ってくれた。まるで自分の子どものようにいつもそばにいて、気遣ってくれた。そして色んな所に連れて行ってくれたことで、視野が広がり、たくさんの友達ができた。欧我と出会ったおかげで、私の運命はがらりと変わった。

 

 

「そうだ…」

 

 

 心華ちゃんも、きっと私と同じように悲しみを抱いているはずだ。だったら、私がその悲しみを癒やす存在になろう!私にとっての欧我のように。同じ付喪神として、同じ悲しみを抱く者として。そうすれば、もう二度とこんな異変を起こさなくて済む。

 

 

「心華ちゃんは、私が止める!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~妖怪の山~

 

 

 ガキン!

 

 空気を固めて作りだした日本刀で白狼天狗が振り下ろした剣を受け止める。妖怪の山に辿り着いた瞬間、目の前の光景が信じられなかった。人間の里で起こっているようなことが、白狼天狗の間でも起こっていた。どうしてここでも起こっているのだろうか。そんな疑問は後回しだ。

 

 

「楓さん、ごめん!」

 

 

 楓さんの剣を弾き、がら空きとなった手首に日本刀を叩き込んだ。もちろん峰打ちであり骨折しないように力を弱めたが、打たれた衝撃で手の力が弱まる。その隙をついて楓さんから剣をもぎ取ると、剣に霊夢さんからもらった御札を貼り付けた。その直後、楓さんは力が抜けるように地面に崩れ落ちた。意識を失っているだけだが、このままにしていては危険だ。

 

 

「蘭さん!守矢神社へお願いします!」

 

 

 そばにいた白狼天狗の蘭さんに声をかけると、蘭さんは頷いて楓さんを肩に担ぎ、飛び上がった。今回の異変でも、神奈子さんが避難場所として守矢神社を開放してくれたらしい。あそこなら大丈夫だろう。

 それを見送ると、そばで戦っている椛さんの所に向かった。椛さんは苦戦しているようだ。そりゃあ、相手が仲間である白狼天狗だから無理もないし、戸惑いや躊躇いもあるのだろう。

 

 

「それ!」

 

 

 白狼天狗の周りの空気を固めて動きを封じ込める。椛さんは剣を奪い取ると俺が渡した札を張り付けた。

 

 

「椛さん、お疲れ様」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 椛さんは今までずっと戦っていたみたいで、かなり疲労が蓄積されている。椛さんの話では、白狼天狗の仲間が急に暴れ出したのは昨日の午後。原因は全く分からなかったが、山から飛び去る不審な人影を椛さんの千里眼は見逃さなかった。後を追いかけようとしたが仲間が暴れ出したせいで見逃してしまったらしい。その人物の特徴が文の手帳に書かれていた犯人像と一致したことを考えると、どうやら犯人はこの妖怪の山でも異変を起こしていたことになる。

 

 

「人間の里でも同じことが起こっていたんですね」

 

 

「うん、そうなんだ」

 

 

 俺は椛さんに人間の里で起こった異変、そして霊夢さんから教わった解決方法を説明した。

 

 

「暴れている人々を止めるにはこの…」

 

 

 懐から御札を取り出し、椛さんに渡そうとした瞬間、不吉な空気の流れを感じた。

 

 

「危ない!」

 

 

 咄嗟に椛さんを突き飛ばし、後方へと飛び退いた。その目と鼻の先をかすめるように飛んできたのは、風で作り出した鋭い刃だった。刃はさっきまで俺達が立っていた所に大きな裂け目を作り出している。

 

 

「この攻撃は、もしかして…」

 

 

 いや、間違いない!この攻撃は…!

 

 

「あやや、まさかこの攻撃が避けられてしまうとは」

 

 

 その声と共に、2人の前に何者かが姿を現した。

 俺の嫌な予感が、的中してしまった。

 

 

「文!」

 

 

 そう、俺達に攻撃を仕掛けてきたのは、まぎれもなく俺の最愛の妻である射命丸文だった。

 

 

「文さん!どうして!?」

 

 

 椛さんは文が攻撃を仕掛けてきたことで動揺を隠しきれていない。俺も信じられなかったが、文から感じ取れるオーラや、あの狂喜をはらんだ表情、そして瞳の中に燃える復讐の炎…。間違いない。

 

 

「椛さん、落ち着いて。文は今、意思を持った葉団扇に乗っ取られている」

 

 

「そんな!?」

 

 

 

 だったら、文から葉団扇を引き離して御札を貼れば文を救い出すことができる。今この場でそれができるのは、俺しかいない。

 

 

「ふふっ、私を止めるつもりか?無理ですよ、私が乗っ取っているのはお前の最愛の人だ。お前に文を倒せまい!」

 

 

 上空で相対した俺に向かって文は、いや葉団扇は勝ち誇ったような声でそう言った。それを聞き、俺は思わず笑みを漏らした。

 

 

「何がおかしい!」

 

 

「倒す?バーカ、救うんだよ。相手が誰であろうと、俺は絶対に最愛の人を守りぬく。文、待ってろ!今すぐ助けてやるからな!」

 




 
~オリキャラ紹介!~


この異変を起こした張本人である心華ちゃんの紹介をします。

名前:鏡美(かがみ)心華(こはな)
種族:付喪神(手鏡)
能力:道具に意思を持たせる程度の能力
身長:小傘ちゃんより一回り小さい

 腰まである淡いピンク色の長い髪で、瞳の色は水色。頭に真っ白のキャスケットをかぶり、オレンジ色の服に縞々のオーバーニーソックスとブーツを身に着けている。道具の気持ちを感じ取る不思議な能力を持っている。
 身長と同じぐらいの手鏡を持っており、それに物を映して自分の意思を読み込ませることによって道具に意思を持たせることができる。意思を持った道具は波長が共鳴した人間を乗っ取り、日ごろの怨みを晴らすべく暴れまわる。
性格は明るく子どもっぽいが、短気な面もあったり急に泣き出したりと、感情豊か。

絵はこちらですね。
色塗りを失敗しちゃいましたが。

【挿絵表示】


さあ、次のページでは、欧我と文の戦いが始まります。
欧我は無事に、葉団扇に乗っ取られた文を救うことができるのでしょうか。
 

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