レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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今まで更新ができず申し訳ありませんでした!
なかなかシーンが思い浮かばず、四苦八苦十二苦してましたw

でも、なんとか書ききったので載せます!

それではどうぞ!


第48話 愛する妻のために ~欧我の決意~

 

 空中でじっと文と対峙する。お互いに何も言わず、ピクリとも動かない。俺と文は長い時間を共に過ごしてきたし、共闘したこともあり、お互いの技や癖を熟知している。だから迂闊に手が出せないのだ。まずは文の様子や視線などから次の一手をイメージして、文が放った弾幕を打ち消すように竜巻状の弾幕を放つ。そうして隙をついて葉団扇を引き離せば、文を助け出すことができる。

 

 

「っ!?ここだ!」

 

 

 文のほんの少しの動きを読み取り、イメージよって導き出されたタイミングで弾幕を展開した。これで…

 

 

「はずれだ、愚か者め!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 そんな、イマジネーションが外れた!?文の動きをイメージして、タイミングもバッチリなはずなのに、文は弾幕を放ってはいなかった。文は虚しく空回りする竜巻に狙いを定め、風の刃を放った。それは俺の作りだした竜巻を取り込み、より大きな刃となって襲いかかってきた。慌てて身を翻したものの、反応が遅れてしまい体中を切り裂かれた。

 

 

「くそっ…」

 

 

 体中を鋭い痛みが襲い、切り口から赤黒い血液が滲み出す。呼吸を整えながらじっと文を見据えているが、俺の頭は驚きと痛みで混乱していた。

 

 

「欧我さん!」

 

 

 不意に自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、俺と文の間に椛さんが割り込んだ。

 

 

「椛さん、どうして?」

 

 

「どうしたもこうしたもないですよ。今の欧我さんでは分が悪すぎます。ここは二人で文さんを止めましょう!」

 

 

 椛さんはそう言って剣を引き抜き、剣先を文に向けた。

 俺では分が悪すぎる…。確かにそうかもな。俺の放つ空気の弾幕じゃあ文の風に対抗できない。風は空気の流れ。空気が多くなれば、それだけ風は大きく、強力になる。それに、覚悟を決めたはずなのに、身体がそれを受け入れられない。大好きな文に攻撃を加えるなんて、そんなのは無理だ。

 

 でも……

 

 

「いや、俺は大丈夫。俺一人で」

 

 

「でも!」

 

 

「下がっててくれ!!」

 

 

 思わず声を荒げてしまった。

 どんなに分が悪くても、どんなに勝利の道筋がイメージできなくても、絶対に逃げちゃいけないんだ。一人の夫として、一人の男として、愛するものを守るために戦うだけだ。

 

 

「ごめん。気持ちは嬉しいけど、文は俺が止める。俺たちの夫婦喧嘩に、割って入ってきてほしくないんだよ」

 

 

 怒鳴り声に驚き、椛さんは怯えるような眼で俺を見ていたので、努めて穏やかに椛さんに語りかけた。確かに二人で戦えば文を止めることができるのかもしれない。でも、これは俺の戦いなんだ。それに、きっと文もそれを望んでいるんじゃないかって言う気がしてならない。

 椛さんは俺の言葉を聞くと、うんと頷いてくれた。

 

 

「わかりました。欧我さん、絶対に死なないでください!」

 

 

「俺は既に死んでいるよ」

 

 

 椛さんに笑顔で笑いかけ、視線を文に戻す。

 

 

「いいの?二人で来れば勝率も上がるのに」

 

 

「いいんだ、これで。おい葉団扇。文は返してもらうぞ!」

 

 

 文を、いや葉団扇を見据え、そう言い切った。しかし、葉団扇は不敵な笑みを浮かべると予想外の事を口にした。

 

 

「できるかな?対抗できる手段を持っていない癖に。そんなお前にいいことを教えてやろう。道具がただ人間を乗っ取って操っているだけだと思っていたら大間違いだ」

 

 

「えっ!?」

 

 

「乗っ取っている間、道具は人間の持つ生命エネルギーを吸収していく。そしてエネルギーを残らず吸い尽くされた人間に待つのは…死だけだ」

 

 

「そんな!?」

 

 

 文が…死んでしまう!?エネルギーを吸い尽くされれば、誰だって死を迎える。それが人間だろうが妖怪だろうが…。文はいったいどれくらいの時間を乗っ取られているのかは分からないが、吸い尽くされる前に一刻も早く救わないと!文だって戦っているんだ。もう遠慮なんてしていられるか!こうなったらもうイマジネーションなんか捨てて体の動きに、感情の赴くままに身を任せよう。

 空気の弾幕は葉団扇の攻撃を強化するだけ。だからもう空気は使えないな。こうなったら…。

 もう一つの能力「姿を見えなくする程度の能力」を発動し葉団扇の視界から消える。

 

 

「なるほど、姿を消したか。だが、風の動きまでは消せまい!」

 

 

 葉団扇はそう言うと風の流れを読み風の刃を発生させる。しかし刃が切り裂いたのは、空気で作り上げた偽物だ。本物は…

 

 

「こっちだ!」

 

 

 文の背後に移動し、回転によって生み出した遠心力を纏った拳を突きだした。

 

 

『欧我』

 

 

「っ!?」

 

 

 不意に響いた文の声に戸惑い、拳は文の顔の直前で止まった。脳裏に浮かんでくる文と過ごした楽しい時間。そして大好きな笑顔。決意を固めたにもかかわらず、心が、身体がそれを拒む。

 やっぱり、俺には文を殴ることなんてできない…

 

 

「隙があり過ぎるぞ!」

 

 

 葉団扇は動きが止まった隙を逃すことなく、お腹に一本歯の下駄による蹴りを叩き込んだ。

 

 

「がはあっ!!」

 

 

 腹部に叩き込まれた強烈な痛みは刺激となって体中を駆け巡る。胃の中の物が逆流するのを感じ、肺から空気が押し出される。衝撃に襲われた脳はパニックを引き起こし、視界が霞んできた。

 

 

「まだまだ!」

 

 

 葉団扇が放った声も、ジンジンと唸りを上げる耳に届かなかった。

 さらに葉団扇を仰ぎ、強力な突風を繰り出した。その風は慌てて空気を固めて作りだした強固な壁をいとも簡単に掻き消し、強大な弾幕となって襲いかかった。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

 弾幕によって吹き飛ばされ、俺の体は激しく地面に叩きつけられた。体中が痛み、思うように動かせない。視界が霞み、意識も遠のいてきた。もう、俺はこれで…

 

 

「やはり、人を痛めつける快感は素晴らしい!それが愛する者であると尚更な。なあ、文よ」

 

 

 葉団扇のSっ気溢れる一言も、欧我には届いていなかった。必死に意識を保ち、立ち上がろうと抗っているが、身体中を襲う痛みがそれを阻む。

 

 

「止めだ!」

 

 

 そんな俺を目がけ、上空から葉団扇が急降下し、拳を突きだした。

 

 

(ああ、もう終わりなんだな…)

 

 

 もう抗うことを止め、目を閉じた。文にやられるなら、もう、これでいいや…

 空気の流れから、葉団扇は猛スピードで迫ってくることが分かった。二人の間の距離は狭まり、そして…

 

 

『欧我!!』

 

 

 不意に響いた文の声に驚き、はっと目を見開いた。葉団扇の拳はすぐ目の前で止まっていた。

 

 

『欧我、ありがとう』

 

 

 文の声が聞こえる。耳にじゃなく、直接脳に響いてくる感じだ。それってつまり…

 

 

『私は大丈夫よ』

 

 

「くそっ、文め!まだ対抗する力が残っていたとは!」

 

 

 文はまだ死んではいない!俺を守るために、葉団扇に抗って動きを止めてくれたんだ。こんなところで諦めてちゃいけないんだ。

 

 

『欧我、相手が私だからって遠慮はしないで。愛しているわ』

 

 

「俺も愛しているよ、文」

 

 

 ふっと文が笑顔を見せたような気がした。

 文の笑顔が、言葉が、心が温かい力となって身体中に満ちてきた。もうこうなったら遠慮はいらない。後は文を信じよう。

 

 

「準ラストワード、発動」

 

 

 俺と葉団扇を取り囲む空気に意識を集中させる。

 

 

「真空『生命(いのち)の途絶えた世界』」

 

 

 そして、スペルカード発動と共に周りの空気をすべて抜いて真空状態を作り出した。空気が無ければ、風も起こせない。そして、呼吸ができなくなる。葉団扇は空気を求めるように口をパクパクと動かしている。

 

 

(今だ!)

 

 

 腕の力が抜けた瞬間を見計らい、文の手から葉団扇を引き離す。そして力なく崩れ落ちた文の体を支えながら口を重ね合わせた。隙間ができないように唇を密着させ、俺の体内で作り出した新鮮な酸素を文の肺に送る。それと同時にスペルカードを解除させて無事に文を救い出した。

 

 

「欧我…」

 

 

「文!大丈夫?」

 

 

「うん…それと、ごめんね…私のせいで…」

 

 

「いいよ。妻を守るためなら、これくらいの傷は平気さ!」

 

 

 そう言って文にニッと笑いかけた。文も笑顔を浮かべると、そっと眠るように目を閉じた。呼吸の感じから疲れ切って眠ってしまったようだ。文は乗っ取られながらも葉団扇と戦い続けててくれていたんだね。お疲れ様。さあ、後は御札を貼りつけるだけ…

 

 

「まだだ、まだ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

 葉団扇が空中に浮かんでいる。それにこの声…。まさか!

 

 

「まだだ!奪い取ったエネルギーは残っている。これを使えば…」

 

 

 その声と共に、葉団扇から妙なオーラが溢れだした。そのオーラはグニャグニャと形を変え、文と同じ姿になった。まさか、意思を持った道具にこんな能力があったなんて!それに、俺も文も、もう戦える力は残っていない。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

 葉団扇は唸りながら巨大な風の刃を繰り出した。それはまっすぐ俺達を斬り裂かんと猛スピードで突き進んでくる。俺には、この刃を受け止めるだけの力は残っていない。でも文を守らないと。

 風の刃に背を向け、文をかばうようにしっかりと抱きしめた。そして覚悟を決め、目を閉じた。その直後…

 

 

「そうはさせないよ!神具『洩矢の鉄の輪』!!」

 

 

 聞き覚えのある声が聞こえたのと同時にスペルカードが発動され、風の刃を相殺した。この攻撃は、もしかして…

 

 

「最後まで妻を守ろうとしたその心意気、天晴れじゃない」

 

 

「諏訪子ちゃん!それに神奈子さんも!どうして!?」

 

 

 俺達を風の刃から守ってくれたのは、諏訪子ちゃんと神奈子さんだった。でも、そうしてここに二人が来たのだろうか。その答えは、そばにいた椛さんで分かった。そっか、椛さんが呼んでくれたんだね。おかげで助かったよ。

 

 

「まさか、欧我が文と戦っているとは思わなかったね!かなりやられているけど大丈夫?」

 

 

「うん、何とか。助かりました。ありがとうございます!」

 

 

「いいのよ、お礼なんて。それに、貴方達は私の前で永遠の愛を誓い合った夫婦じゃない。私たち神に永遠の愛を誓った以上、私たち神は夫婦の幸せを奪うような如何なる敵からも守り抜く。それが神様ってもんだろ!」

 

 

「神奈子さん…」

 

 

「そうそう!ここは私たちに任せて、欧我は早く文を安全なところに!」

 

 

「諏訪子ちゃん…。ありがとう!」

 

 

 神奈子さんと諏訪子ちゃんに深々とお辞儀をし、文を抱きかかえて空中に飛び上がった。目指すは白玉楼。文、お疲れ様。もう少しだからな!

 


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