初めに言っておきます。
文さんのキャラ崩壊注意です。
そして、文さんのアンケートへの返答をありがとうございました。
結果発表の方は、この後集計して活動報告に載せます。
あのお方のようにテンポよく書けたかは不安ですが、それでは、どうぞ。
「ん……ん?」
眩しい光に
ここは、とある和室の中。天井から吊るされた電灯の紐には鴉を象ったストラップが結ばれ、部屋の中を大好きな人の匂いが漂っている。これだけのヒントがあれば、この場所がどこなのかは目を覚ましたての私でもすぐにわかる。ここは、白玉楼にある欧我の部屋だ。ということは、私は葉団扇の呪縛から解放されたんだ。そして私を救ってくれたのは…
「欧我…」
そっと私の夫の名前を呟いた。欧我は私の残したメッセージに気づいて、そして私を、私の仲間を救い出してくれた。そしてさらに夫に対する愛情が深まった。
あの時小傘と別れた後、村の片隅で包丁を構えた女性に襲われそうになっている男性を見つけた私は、葉団扇を扇いで風を起こし、男性を救い出した。ほっと安堵の息を漏らした直後、呪文のような声が聞こえたかと思うと脳内に何者かの声が響いた。
『お前の身体をもらうぞ。お前の身体で、私の衝動を晴らさせてもらう。暴れたいんだ!さあ、まずは妖怪の山で暴れてやろうか?』
その声がした直後、右手に持つ葉団扇から邪悪な何かが流れ込んできた。このままでは仲間を傷つけてしまう。私を止められるのは、夫の欧我しかいない。残る気力を振り絞り、開いていたメモ帳に「山」と走り書きをした直後に身体の自由が利かなくなった。それからの記憶はあやふやだが、欧我が私のために戦ってくれた事ははっきりと覚えている。私の能力が相手では分が悪いのに、それでも懸命に私を救い出そうとして頑張ってくれましたね。そ、それにしても、空気を奪って風を起こせなくするというのはいいアイデアだと思うんですが……
「あやや…」
ど、どうしてキスをしてきたのでしょうか!?いや、あれは私に呼吸をさせるためにと考えれば自然なのですが…いや、自然じゃないですね!みるみる顔が熱くなってきました。鏡が無くても、顔が赤みを帯びてきたのは容易に想像できた。確かに私は欧我と何度もキスをしたことはありますが、あれほど必死で、あれほど意表を突いたキスは初めてですよ!
はぁ、起きましょう。一体どれくらい寝ていたのでしょうか…。
愛用の黄色とピンクのチェックのパジャマのまま、ゆっくりと障子を開けた。
部屋の外に出ると、縁側に腰を下ろしてじっと中庭を見つめている欧我の姿があった。
「欧我…」
名前を呼ぶと、欧我がこちらを振り返った。そして私の顔を見た途端、驚きと喜びが混じったような表情を浮かべたと思うと私の胸の中に飛び込んできた。
「文!よかった、心配したんだからね!二度と目を覚まさなかったらどうしようって!でも、よかった!よがっだぁぁぁぁあ!!」
欧我は今まで溜まりに溜まった不安や悲しみと言ったマイナスの感情をすべて吐き出すかのように声を上げて泣き続けた。私の事を凄く心配してくれて、そして目を覚ましたことをこんなにも喜んでくれるなんて。感謝の気持ちを込めて、欧我の唇にそっとキスをした。不意を突かれた欧我は目を見開いて私の顔を覗き込んできたので、ニコッと笑顔になって一言。
「あの時のお返しですよ」
すると欧我の顔がみるみる真っ赤に染まりだして、目線があちこちへ泳ぎだした。その様子があまりにも可笑しくて可愛くて、ちょっとからかってみたい気分になった。
「ねぇ、欧我…」
ぐぅ~~~っ!
しかし、その雰囲気を引き裂くかのように鳴り響く私のお腹。キョトンとして泣き止む欧我。恥ずかしさのあまり目線をそらす私。相変わらず唸り続けるお腹の虫。もう、空気を読んでください!!
「あっ、お、お腹がすいたんだね。分かった、今から作ってくるよ」
そう言うと欧我は私の腕からすり抜けて台所の方へと去っていった。なんですか!この後少し欧我にじゃれてみようかなと思っていたのに!どうしてこんなタイミングで鳴ってしまったのですか?私は幽々子さんと違って腹ペコキャラじゃないんですよ!そう心の中で弁護を図っても、お腹の虫はまるで反論をするかのように唸り続けている。はぁ、もう諦めましょう。素直に欧我の料理を待ちますか。
縁側に腰を下ろし、じっと空を見上げる。考えるのは欧我の料理…ではなく異変の犯人についてだ。長い間
ぐりゅりゅりゅぅ~!
「ああもう!」
どうしてこうも空気を読んでくれないのですか!?やけになって身体を後ろに傾け、縁側にごろんと寝転がった。もう考えるのは止めましょう!まずはご飯です!うるさい虫を黙らせるためにも!…ん?
鼻をヒクヒクと動かし、がばっと上体を起こした。台所から漂ってくる、この香ばしいにんにくの香りは…!
「おまたせー!ピリ辛にんにくのニラレバ炒め!そして卵スープにご飯!」
その声と共に欧我がお盆に料理を乗せて台所から出てきた。私の前に置かれたその料理から立ち上る湯気が太陽の光を受けてキラキラと輝いているように見える。にんにくの香りが食欲をそそり、空腹と言う事も合わさってとっても美味しそうだ。それに疲労回復の効果がある王道のニラレバ炒め。今の私にとって最高の料理だ。ああ、よだれが…
「あれ、食べないの?」
じっと料理を見つめていると、欧我が心配そうな顔でそう聞いてきた。
そうだ、ちょっと調子に乗ってみようかしら。
「いえ。食べたいけど、腕に力が入らなくて…」
もちろん嘘。
「本当に!?大丈夫なの?」
嘘であるにもかかわらず、欧我は真剣に心配をしてくれる。その優しさがあるから、もっと甘えたくなるのよね。
「ええ、だから…」
欧我の方を向いて、あーんと口を開けた。予想通り欧我は私の行動に驚いて目を丸くしている。ちょっと追い打ちをかけましょうか。
「あやや?欧我は病み上がりの妻の看病ができないのですか?」
「い、いや…分かったよ。はい」
欧我はそう言うと、箸でニラレバ炒めをつまみ、差し出してくれた。
「あーんっ」
その箸に笑顔でかぶりついた。
ニラのシャキシャキとした歯ごたえと柔らかくて肉厚でジューシーなレバーの触感が絶妙で噛むのが楽しくなってくる。それに、少しピリッとした辛みとにんにくの風味も私好みでとっても美味しい。ゴクンと飲み込むと、その温もりが体中に行き渡り体の底から力が湧き上がってくる。そして…
「欧我が食べさせてくれると、いつもより美味しいわ!」
「そっか、よかったよ。じゃあいっぱい食べて元気になってね。はい、あーん」
欧我は笑顔で箸を差し出してくれた。
「あー…」
そして再び口を開けた直後…
「朝っぱらから2人して何やっているのよ」
「あややややや!?」
え?え!?なんで!?どうして霊夢さんがこんなところに!?
霊夢さんが私たちの前に仁王立ちして、じっとこちらを見下ろしている。え、どうして!?まさか、見られた!?あまりの恥ずかしさに顔が真っ赤に染まっていく。
「どうして霊夢さんがここに!?」
そう聞くと、霊夢さんは「はぁ…」とため息をついてここに来た理由を話した。
「どうしてって、妖夢に呼ばれたのよ。まさか夫婦のラブラブシーンを見せたかったのかしらね。それよりも欧我。姿を見えなくしても無駄よ、箸が浮かんでいるからバレバレ。お腹が空いているから、私にも文と同じ料理を作ってきなさい」
「は、はい!」
その直後縁側に皿と箸が下りてくると、台所の障子が開く音が聞こえ、そして閉まった。
「……」
「……」
気まずい、気まずすぎます!今こんな状況で霊夢さんと二人っきりなんて!霊夢さんはいつからここにいたのですか!?まさか最初から見りゃりぇ…
あまりの動揺に心の中で噛んでしまったが、このドキドキはしばらく収まることはないだろう。真っ赤に染まった顔を見られまいと目線をそらしていると、霊夢さんの声が聞こえた。
「文も変わったわね」
「え、わ、私がですか!?」
その言葉は、私の予想外の物だった。
「そうよ。上からの命令で人間の命を奪いまくっていたでしょ?」
「そ、それは昔の話です!」
「それが人間を好きになるなんてね。意外だわ」
確かに昔は、霊夢さんの言った通り命令に従って山に入ってきた人間をことごとく始末していた。そんな私が人間に恋をし、そして結婚までしてしまうなんて。昔は考えられなかったな。
「それに、あんた欧我に甘え過ぎじゃない?さっきのだって腕が動かないと嘘をついたんでしょ?」
「えっ、それはっ!?」
「ほら、やっぱり」
ま、まさか勘で言ったのですか!?霊夢さんの勘は相変わらず的中しますね!
「最近の新聞の記事にも欧我の事ばかり書いているでしょ。あんたの新聞が世間で何と言われているのか知っているの?」
「世間で、ですか?幻想郷一の新聞…」
「お惚気新聞」
「あやややややっ!?」
予想外の名前が飛び出し、私は思わず目を見開いて霊夢さんの顔を覗き込んだ。え、お…おのろけ!?どうしてですか!?私は普通に記事を書いているだけなのですが…
「はぁ、自覚なし…。今度欧我に読ませて感想をもらったらどう?きっと顔を真っ赤に染めてしどろもどろになるわよ」
そう嬉々とした表情で語る霊夢さん。その顔を見てると、なんだかムッとしてくる…
「なんですか!私はただ欧我の珍しい料理方法などを報道したり、ありのままの事実を記事にしているだけです!私は伝統の幻想ブン屋、決してお惚気なんか…」
「その伝統の幻想ブン屋が無意識のうちに記事に欧我への愛だの魅力だのを書き込んで発刊しているなんてね。これからは伝統のお惚気ブン屋としてやっていったらどうかしら?」
「し、心外ですね!私がそんなことを…ってお惚気ブン屋ってなんですか!誰がお惚気ブン屋なんですか!?」
「今私の目の前で顔を真っ赤にして反論している射命丸文さんですよー」
そう言って霊夢さんはまたニヤニヤとした笑みを浮かべる。その笑顔に煽られ、ついムキになってしまった。
「ああもう!欧我への愛を記事に書いたからってなんですか!確かに書きましたがそれは…」
「やっぱり、書いていたんだ…」
「ふえっ!?」
不意に聞こえた欧我の声にハッと我に返る。霊夢さんのすぐ後ろに料理が乗せられたお盆を抱えた欧我が立ち、じっと私を見つめていた。その顔には恥ずかしさと絶望が混じったような何とも言えない表情を浮かべて。
「あ、あやや…その…えっと……」
「それに、言い争うくらい元気があるならもう食べさせる必要は無いよね」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その日、白玉楼に伝統のお惚気ブン屋の、断末魔にも似た悲鳴が響き渡ったのでした。