レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第53話 激突!欧我 vs 心華

 

 白玉楼の上空で人間と相対し、次から次へピンク色に輝く弾幕を同心円状に放出する。この人間を倒さなければ、幽々子に復讐をすることはできない。復讐のため、なんとしてでもこいつを倒さないと!しかし、心は熱く燃えていても、頭は驚きと動揺が入り混じっていた。この男が放ったセリフ…。

 

 

『俺か?俺は西行寺幽々子様にお仕えする専属料理人、名を葉月欧我!我が主に仇なすと言うのであれば、俺がこの場で料理する。さあ、食材になる覚悟があれば全力でかかってきなさい!』

 

 

 葉月欧我って、小傘ちゃんを助けてくれた人間じゃない。あの時私は「会ってみたい」と言った。でも、まさかこんな感じで初対面を果たしてしまうなんて。しかも幽々子に仕えているなんて知らなかったよ!どうして小傘ちゃんは教えてくれなかったの!?

 でも、こうなった以上何としてでも欧我を倒さないと。欧我は弾幕の隙間を縫いながら真っ白な弾幕を打ち出してきては攻撃を仕掛けてくる。しかし、弾幕の軌道から予測するに私を狙って打ってきてはいないようだ。私の癖や弾幕の軌道を見極めようという魂胆かしら?だったら、手始めにこのスペルカードは突破できるのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 まさかこうして復讐しにやってくるとは思いもしなかった。あの時見た光景は思い出すだけで背筋がゾクッとする。あれだけ多くの凶器を引き連れて白玉楼に襲撃を駆けるなんて、この女の子の復讐心はよっぽどのものだ。悲しみも孤独も怨みも、全てが俺のイメージを超えている。

 でも、どうしたのだろう。俺の名前を聞いた直後、一瞬だけど驚いたように目を見開いたのを見逃さなかった。まさか、俺の名前を知っていた?でも、一体誰から?まあ、今は考えていても答えは見つからないからまずは目の前の侵入者を倒そう。

 相手の女の子はまるで桜の花びらのように輝くピンク色の弾幕を放ってくる。初対面なのでどんな弾幕やスペルカードを繰り出してくるのか全く分からないから、迂闊に攻め込んでは返って反撃を食らうだけだ。まずは相手の癖や軌道を読んでイメージをしないと。ん?あれはスペルカード?

 

 

「桜符『枝垂桜(しだれざくら)の開花』!!」

 

 

 スペルの宣言と同時に背中に背負った鏡を構え、上から下に振り下ろした。すると鏡からピンク色の光弾が放たれ、こっちに迫ってきた。バレーボールくらいの大きさでその数4つ。

 

 

「なるほどね…」

 

 

 小さい声で呟き、その光弾との距離を縮めていく。その様子を見た女の子はこちらに手をかざした。

 

 

「甘いわ、ボッカーン!」

 

 

 女の子の声と共に突然光弾が破裂し、まるで花火が開くように全方位に小さな光弾を大量に放出した。攻撃が見事に決まったようで女の子の喜ぶ声が聞こえたが、生憎この爆発はイメージ通りだ。あの避けやすい4つの弾幕で終わりな訳がないからね。弾幕の密度はイメージよりも濃かったから驚いたけど、それにしてもボッカーンなんてちょっと独特な擬音語を使うんだな。

 

 

「当たったと思った?」

 

 

「えっ!?」

 

 

 弾幕をかわし、女の子の前に躍り出る。弾幕を食らっていない俺の様子を見て驚きを隠せていないようだ。目を大きく見開き、信じられないという表情を浮かべていた。

 

 

「だったら…ドドドーンと喰らえー!」

 

 

 女の子は再び鏡を頭上に掲げると連続で振り下ろし、先ほどのピンクの光弾をいくつも繰り出した。それらは一斉に炸裂して小さな光弾を大量に放出した。あまりの密度の濃さに目の前がピンク色に染まる。これは突破するのは難しいか。だったら…吹き飛ばす!

 

 

「虹線『吹き飛ばすドラゴライズシュート』!!」

 

 

 自分の周りの空気を極限まで圧縮させ、元に戻る反動を利用して光線のように打ち出した。普段よりも太くしたこの光線は周りの空気を巻き込んで強力な旋風を纏い、目の前から迫る大量の光弾を吹き飛ばした。

 女の子はこのスペルカードの威力、そして効果に驚くかと思いきや手を叩いて空中で飛び跳ねている。そんなにはしゃいでどうしたんだ?

 

 

「すごいすごーい!」

 

 

「へ?」

 

 

「すごかったね今の!バビューンって!じゃあ今度は私のビュオーンを見せてあげる!」

 

 

 楽しそうにはしゃぎながら嬉々として言うと2枚目のスペルカードを取り出した。その隙に離れ、女の子との距離をとる。誰も使わないような独特かつ強烈な擬音語のオンパレードに惑わされないようにしないと。

 

 あれ?空気の様子が…

 

 

「いっくよ!反符『我龍桜(がりゅうざくら)の極光』!!」

 

 

 スペルカード発動と同時に女の子の掲げた右手に魔方陣が現れると、そこにどんどん光が集まって眩い輝きを放つ光弾が形成されていく。それと同時に空気中に鏡と似た性質を持つ空気の壁が複数枚出現した。光と鏡…まさか!?

 

 

「ビュッオーン!!」

 

 

 その擬音語と共に魔方陣から眩い光を放つ光線が発射された。猛スピードで空を龍のごとく駆ける光線はまるでオーロラのように輝きを変えながら突き進む。そして空中にできた鏡に激突すると折れ曲がるように反射してこちらに迫ってきた。軌道を読んで左に避けたが、その光線が進む先に別の鏡があり、反射して今度は背後から襲いかかってくる。さらに光線の通った後には花びらのような光弾が残され、舞い散る桜のように範囲を拡散させていく。周りをよく見ると、同じように鏡が数枚浮かんでいて、その内のどの鏡に当たってどのように反射してくるのかを速攻で判断して動かないと避けきるのは難しい。光線の速度からして一瞬の遅れが被弾につながるだろう。

 女の子が放った光線は6回反射すると勢いを失って消滅した。ほっと胸を撫で下ろした瞬間、「まだまだ!」という女の子の声が聞こえた。慌てて女の子の方を見上げると、両手に魔方陣を掲げて光を集めていた。

 

 

「まさか2本同時に!?」

 

 

「ううん、4本」

 

 

 魔方陣から放たれた4筋の光線は先ほどよりも細くなったもののスピードは変わらずに高速で迫ってくる。俺を取り囲むように現れた大量の鏡に反射して襲い掛かってくる光線はどこから来るのか予測が難しい。それが4本ともなると尚更だ。考えている暇はないから直感で行こう!

 

 

「虹符『蜻蛉の舞-巻の(よん)-』!!」

 

 

 空気を固めて虹色を付けた蜻蛉を大量に飛ばしながら縦横無尽に襲いかかってくる光線の隙間を縫って飛び続ける。ある程度の軌道を読んで躱せてはいるものの、予想外の場所や反射をしてくる攻撃には対応が遅れ危ない場面が何度かあった。しかし、展開していた蜻蛉の弾幕によって女の子の注意が逸れて攻撃が中断されたことで何とかスペルブレイクが出来た。

 

 

「もー!なんで突破するのよー!」

 

 

「さっきも言っただろ、俺が幽々子様の専属料理人である以上ここを通す訳にはいかないって。それに、復讐なんかしても何も残らないよ!」

 

 

 復讐を止めてほしいという願いを込め、女の子に言い聞かせる。

 

 

「俺だって君と…うっ!?」

 

 

 突然視界がグラッと揺れた。一瞬真っ暗になり、焦点(ピント)が合わなくなる。体中から嫌な汗がドッと噴き出し、倦怠感や疲労が重りのように身体中にドンと圧し掛かってきた。一体何が起こったというのだろうか。目の前が霞んでよく見えないが、薄紫色の霧が漂い、鼻にツンと来る臭いも感じ取ることができる。これってまさか毒!?そして、この毒を操る事が出来る妖怪は…1人しかいない!

 

 

「霧符『ガシングガーデン』!!」

 

 

 スペルカードの宣言と共に迫ってくる大量の米粒のような弾幕。普通の状態なら躱すことは造作もないが、毒に侵されたこの状況では難しく、さらに何故あの子が攻撃を仕掛けてきたのかという疑問が体の動きを鈍らせる。顔の前で腕を交差させ、被弾のショックに備えた。

 

 しかし、次の瞬間…

 

 

「驚雨『ゲリラ台風』!!」

 

 

 まるで台風によって雨が吹き荒れているかのように、背後から大量の雨粒のような弾幕が飛び出し、迫りくる弾幕と辺りに漂う毒霧を吹き飛ばした。

 

 

「欧我!大丈夫!?」

 

 

 毒霧が消えたことで聴力を取り戻した俺の耳に届く聞き覚えのある声。霞みが晴れてきた視界は、心配そうに水色と赤のオッドアイで俺の顔を見つめてくる小傘の姿を捕えた。そっか、さっきの攻撃で俺を助けてくれたんだね。

 

 

「ありがとう、助かったよ。でも…」

 

 

「小傘ちゃーん!」

 

 

「心華ちゃん!もう止めようよ!」

 

 

 え、どうしてお互いの名前を知っているの?

 そう疑問を投げかけようとしたが、小傘の女の子を見つめる視線に押されその疑問を飲み込んだ。

 

 

「小傘ちゃん!どうして白玉楼から逃げなかったの?私はあなたに危ない目にあってほしくないの!」

 

 

「最初は逃げたわ。でも、それでも心華ちゃんが心配で居ても立っても居られなくて!」

 

 

 女の子、確か名前は心華ちゃんだっけ?心華ちゃんと小傘の話、そして心華ちゃんの隣にメディちゃんがいる理由を統合して考えると、心華ちゃんと小傘はどこかで出会って今回の異変について聞かされていたんだろう。メディちゃんは人間に対して怨みを抱いていたから、今回の異変の犯人である心華ちゃんに協力した。でも、小傘は協力しようとはせず逆に思い留まってほしいと懇願したのだろう。その願いは聞き入れられなかったみたいだが。

 

 

「どうして…どうして聞いてくれないのよ」

 

 

 必死の説得も小華ちゃんに聞き入れられず、拒否されてしまったショックで小傘の目には涙が滲んでいた。自分の力の無さを嘆き、悔しそうに歯を食いしばる。そんな小傘の方に、そっと優しく手を置いた。

 

 

「欧我…」

 

 

「小傘も戦っていてくれたんだね。ありがとう」

 

 

 笑顔でそう言うと、小傘は袖で涙をぬぐって小さく頷いた。

 

 

「でも、心華ちゃんを止められなかった。同じ付喪神として、友達になりたかったのに…」

 

 

「友達ね…。だったら心華ちゃんを止めよう。何が何でも」

 

 

「でも…」

 

 

「大丈夫さ。間違っている道に進んでいるのなら、たとえ殴り飛ばしてでも改めさせるのが友達なんじゃないのか?」

 

 

 優しく語りかけると、はっとした表情を浮かべて顔を上げた。

 

 

「それに、今回は俺もいる。一緒に心華ちゃんとメディちゃんを止めよう」

 

 

「うん、わかった!」

 

 

 小傘は頬を伝う涙を拭い、元気良く頷いて見せた。そして絶対に心華ちゃんを救い出そうという確固たる意志を瞳に宿し、俺の隣に立って心華ちゃんと向かい合った。

 なんか、この感じは懐かしいな。小傘と一緒に戦ったのは永嵐異変の時以来か。あれから時が経って今は師匠と弟子の関係じゃないけど、久しぶりに相符「師弟共同戦線」と行きますか!

 

 

「心華ちゃん!」

 

 

「なによ?」

 

 

「私は今から心華ちゃんを殴り飛ばすわ!覚悟しなさい!」

 


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