レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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今回いつもより文字数が少なめですが、きりがいいので投稿します。
 


第55話 異変の終結

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 

 体が思うように動かない。地面に叩きつけられた衝撃で全身を激痛が駆け巡り、身体に力を入れようとするとその指令に反して筋肉が悲鳴を上げる。声を出すこともできず、ただ呼吸を整え全身の激痛を耐えることしかできなかった。

 あと少しで、あと少しで幽々子に復讐をする事が出来たのに。たくさんの道具(なかま)を用意した、メディちゃんという協力者を手に入れた、計画も順調に進んでいた…それなのになんで?なんで私は今ここで倒れているの?どうして!?

 

 

「心華ちゃん、大丈夫?」

 

 

 小傘ちゃんの声が聞こえたのでそっと目を開ける。霞みがだんだんと晴れてきた視界の先には、私を地面に叩き付けた小傘ちゃんと復讐の邪魔をした欧我がじっと私を見下ろしていた。

 この2人が、私の復讐の邪魔をした。この2人さえいなかったら、今頃私は幽々子に復讐を果たしていたはずなのに!それなのにっ!怒りと悔しさによって歯がギリギリと音を立て、涙がにじむ眼でじっと2人を睨みつける。まだ道具(なかま)はたくさんいる。これなら復讐も…

 

 

「欧我!無事だったのね!」

 

 

「どうやら終わったみたいね」

 

 

 その声と共に、欧我の側に博麗の巫女である霊夢と葉団扇が意思を乗っ取ったはずの文が空から降りてきた。どうして2人がここに?意思を乗っ取ったはずなのに、たくさんの道具(なかま)をどうしたっていうの?

 

 

「文!霊夢さん!無事だったんですね。凶器の方はどうなりました?」

 

 

「全部封印し終わったわ。まったく、舐められたものね。私たちがあれだけの道具にやられる訳が無いじゃない」

 

 

 そん…な…

 道具(なかま)たちが全員封印された!?じゃ、じゃあもう動けるのは一人もいないってことなの?睨みつける目に滲んだ涙は溢れ、頬を伝って落ちていく。もう復讐を果たせなくなってしまったという悲しみが心の中で溢れだし、涙となって次から次へと流れ落ちた。

 

「それにしてもかなりボロボロじゃない。欧我はこんな小さな子どもに苦戦したの?」

 

 

「いや、意外と手ごわかったんですよ。鏡の反射と増幅によって…」

 

 

「まあいいわ。でもこれで、異変は解決ね」

 

 

 そう言うと霊夢は懐から1枚の御札を取り出し、こちらに向かって歩いてきた。あの御札は確か道具(なかま)に宿った意思を封印するものだったはず。もしかして私を封印しようというの!?またあの狭く苦しい真っ暗な世界に戻るというの!?冗談じゃない!早くここから逃げないと!しかし、痛みは和らいだとはいえ逃げ出そうにも体が思うように動かない。もがいてももがいても、ちっとも動けない。

 

 

「ちょっと待ってください」

 

 

「なによ?」

 

 

 しかし、こちらに歩いてくる霊夢を欧我が止めた。

 

 

「その御札をあの子に貼ったら、どうなるんですか?」

 

 

「道具に宿った意思を封印するのよ。つまり、あの子は元の手鏡に戻るわ」

 

 

「そんな!?」

 

 

 霊夢の言葉に、小傘ちゃんが驚きと悲しみが混じったような声を上げた。小傘ちゃんは私に元の手鏡に戻ってほしくないと思っているのかな?でも、なんで?私はあなたに酷い事を言ってしまったのに。

 

 

「霊夢さん…」

 

 

 欧我は名前を呼ぶと、手から御札をもぎ取り、私の方に近づいてきた。小傘ちゃんが慌てて欧我に駆け寄ろうとしたが、欧我は笑顔でそれを引き留めた。

 そう、最後は幽々子に仕える者として私を手鏡に戻すのね。悲しいし悔しいけど、やるならやりなさいよ!復讐が失敗した以上私には生きる価値も、目的も失ってしまった。この先生きていても、何の意味も無いんだから。暗く悲しい世界に戻ろう…

 欧我は私の目の前にしゃがみ、顔をじっと覗きこんできた。

 

 

「な…何、よ…。やるんな…ら…早く…やりな…さいよっ!」

 

 

 痛みを堪えながらなんとか発した声は悲しみで震えていた。欧我は小さく息を吐くと右手に持つお札を近づけてきた。

 

 

「欧我!止めて!!」

 

 

 小傘ちゃんの声が聞こえる。しかし、欧我にはその声が届いていないのかゆっくりと御札を近づけてくる。もう何もかも終わった。諦めるように、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

ビリッ!!

 

 

 突然響いた音に驚いて目を見開いた。私の目の前で、欧我は手に持つ御札を真っ二つに引き裂き、粉々に破いて行く。欧我が目の前で取った予想外の行動によって混乱し、状況が呑み込めずにいると「心華ちゃん」という欧我の声が聞こえた。名前を呼ばれて見上げた先には、優しい笑顔があった。

 

 

「心華ちゃんはずっと一人ぼっちで暗く狭いところで過ごしていたんだね。どれだけ辛く、苦しく、哀しい思いをしてきたか…。その苦しみはなんとなく分かる気がするんだ。俺だってそんな状況に追いやられたら、悲しみに押しつぶされるし、復讐という行動に出てしまうだろう」

 

 

 そう言うと欧我は少しの間を開ける。

 

 

「でも、復讐したってただ悲しみが大きくなるだけ。だから復讐という行為は間違っている。今回の異変を起こした心華ちゃんの行動だって許されるようなものじゃない。でも、生きていれば間違いを正す事が出来る。どんな罪を犯しても、その罪を償う事が出来る。俺がずっとそばにいて一緒に足掻くから、心華ちゃんもゆっくりでいい、自分の過ちを正そうよ」

 

 

「えっ…」

 

 

 欧我の言った言葉が信じられなかった。私はあなたに重傷を負わせてしまったのに、白玉楼に襲撃をかけたのに、それなのに私を許してくれるというの?

 

 

 

「みんなも、それでいいですね?」

 

 

 そう言って欧我は後ろにいる小傘ちゃん達の方を振り返った。

 

 

「欧我…!うん、いいよ!」

 

 

「まったく、欧我ってお人よしなんだから」

 

 

 欧我の声に応えるように、小傘と文が首を縦に振った。そして欧我のもとに駆け寄ると優しい笑顔を浮かべて私を見下ろした。

 

 

「霊夢さん…」

 

 

「はぁ、仕方ないわね。その代り、破いた御札は弁償してもらうわよ」

 

 

「はいはい。でも、ありがとうございます!」

 

 

 欧我は霊夢にお礼を言うと、再び私に笑顔を向けた。

 

 

「心華ちゃん、私も協力するわ。同じ付喪神として、同じ悲しみを知る者として、一緒にその悲しみを癒していきましょう!」

 

 

 小傘ちゃんはそう言うと右手を差し伸べる。

 

 

「うん。だからおいでよ。俺たち家族がずっとそばにいるからね」

 

 

「ええ、だからもう安心して」

 

 

 欧我と文も笑顔でそう言ってくれた。

 

 

「みん…な…」

 

 

 暗く狭いところでずっと一人で過ごしてきた私にとって、この気持ちは今までずっと感じたことが無かった。悲しみと憎しみしかなかった心に流れ込んできた、優しく、温かな気持ち。心に流れ込んできた気持ちは体の隅々まで行き渡り、痛みや苦しみがどんどん和らいでいく。これが、「独りじゃない」ということか。メディちゃんと一緒にいた時に感じていた気持ちと似ているけど、こっちの方が何倍も嬉しくて暖かい。

 

 

「ぐすっ…うっ…」

 

 

 欧我達の優しい言葉が、笑顔が、気持ちが、私の中の孤独を打ち消してくれたように感じる。みんなの優しい気持ちによって心にのしかかっていた重りが取り払われ、押さえつけられていた気持ちが鉄砲水の如く目から、喉から溢れだした。零れ落ちた涙は濁流となり、喉からすべての負の感情を吐き出した。

 

 

「うわぁあああああああああああああ!!!」

 

 

 今まで、哀しいときや苦しいときにしか泣かなかった。それなのに、まさか嬉しくて泣くなんて思いもしなかった。心にとめどなく溢れ出す嬉しさや幸せといった感情に任せて、私は泣き疲れて眠ってしまうまでえんえんと泣き続けた。

 




 
感動的なシーンなのに、感動できる文章が思いつかなかったです。
力不足ですね…。

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