例年通り1人でクリスマスを過ごしている戌眞呂☆です。
今回初めての時事ネタに挑戦してみました。
風呂の中で思い浮かんだネタを膨らませたらいつのまにかネタよりもその前後の方が比率が重くなっちゃったけどねw
それでもよかったら読んでください。
その前に注意事項があります。
レストラン白玉楼内では今6月です。つまりそれから6か月後のクリスマスを前倒しして書いているので、着工していないはずのレストランが出来ています。その他にもネタバレらしきものも出てきますので、それが嫌な人は読むのを控えてください。
それでは、クリスマス短編の番外編、どうぞ!!
欧我の初めてのクリスマス
窓の外を見れば、いつの間にか真っ白な雪がはらはらと空中を舞っている。雪が降り積もり、白一色に染まった外と比べて、レストランの中は色鮮やかな飾りつけや電飾など、まるで虹のような輝きに包まれている。ホールの中央には豪華にデコレーションされた巨大なもみの木がドンと立ち、天辺には銀色の星が燦然と輝いている。
そう、今日は12月23日。クリスマスイブの前日だ。今日はレストランを休みにして、明日の夜7時から行うクリスマスパーティーの準備を行っている。幻想郷に来てから初めてのクリスマス。意外にもここ、幻想郷に住むみんなにはクリスマスを祝うという概念が無かったためクリスマスパーティーを開催すると宣伝しても今一反応が薄かった。唯一喜んでくれたのは早苗さんたち守矢神社のみんなだけだったな。まあいつも通りの宴会になっても楽しいからいいや。
「飾りつけの方はどう?」
キッチンから顔を出し、ホールで飾り付けを行っている文と小傘、そして心華の方に声をかけた。3人とも明日のパーティーに向けてレストランの飾りつけを手伝ってくれているのだ。
「バッチリよ!」
そう言う文の足元には鈴奈庵から借りてきた雑誌が何冊も積みあがっている。どうやらその雑誌を見て店内を飾りつけているみたいだ。
「ねー欧我、本当にこれを着なきゃだめ?」
「もちろん。雰囲気だって大切だよ」
そう言って赤いボンボンの付いた帽子を怪訝そうな眼差しで見つめる心華。心華の気持ちも分からないではないが、サンタさんの格好をして接客をすればその分雰囲気も出て盛り上がるんじゃないかな。
でも、アリスさんにサンタの衣装をお願いしたら心華の衣装がミニスカートで来たのは理解しがたいが、絶対寒すぎるだろう。まあその分レストラン内を暖かくすればいいや。
「大丈夫だよ。それに俺だって着るしさ、真っ白なお髭だって生やしちゃうよ」
そう言って空気を固めて白色を付けた髭を口元に当てたら3人が声を出して笑ってくれた。やっぱりこういった家族で笑いあうと本当に幸せを感じる。みんなに笑顔を向け、調理を再開した。
「ねえ、そう言えばクリスマスって何をするの?」
「クリスマスはね、とっても幸せな1日なんだ」
文からされた質問に手を休めずに答える。脳内でクリスマスの華やかな光景をイメージしながら。
「クリスマスの日は大好きな人と一緒に過ごし、プレゼントを送り合うんだ。日ごろ渡せない高価な物とか、お互いに欲しいものをプレゼントしあう。そして夜の料理も豪華なものになる。七面鳥の丸焼きや揚げたチキンに…」
ガシャーン!!
突然響いた騒音に驚いて料理の腕が止まった。慌ててホールの方を見ると、文の足元に大きな星の飾りが転がっている。どうやらこの飾りが手元から落ちて音を立てたようだ。文は体をプルプルと小刻みに動かしている。俯いているため表情をうかがうことはできない。一体どうしたというのだろうか…。
「今…なんて言いましたか?」
「あっ!?」
文の一言を聞き、全てを理解した俺は慌てて口を押えた。しかしその行動はもう遅かった。一度放った言葉は取り返しがつかない。
「七面鳥の丸焼き…?挙げたチキン…?」
うっかりしていた。いや、楽しい光景を思い浮かべたことですっかり忘れていた。文は“鴉”天狗だと言う事に。俺は文と出会ってから、極力鶏肉を使った料理を作らないようにしていた。幽々子様の専属料理人になってからも、文がいる日は鶏肉を使った料理を避け、いない日に限って唐揚げとかを作っていた。
そう、文にとって鶏肉料理は許し難い凶行であり、嫌悪感を抱く対象でもあるのだ。
「欧我…今すぐクリスマスを中止して」
文の発した声も震えていた。
「それは無理だよ。俺が配った招待状にもデカデカと載せてあるから今更中止なんて…」
「じゃあ七面鳥とチキンだけ無しにしてくれれば…」
「ごめん。それも招待状に…」
「もういいわ!そんな野蛮な行為許さないんだから!!」
そう叫んだ文の目には涙が溜まっていて、今にも零れ落ちそうだ。そしてそのままレストランを飛び出し、寒く凍える夜の冥界へと飛び出していった。俺はその光景を、ただじっと見つめることしかできなかった。文が怒鳴るところなんて、初めて見た。
今までワイワイと明るかった店内が、一気にシーンと静まり返る。その光景に耐えられず、俺は声を上げてうずくまった。
「だ、大丈夫!?」
小傘と心華が駆け寄って心配してくれた。しかし、それでも心の中に吹く冷たい吹雪は一向に収まらなかった。文に怒鳴られ、目の前からいなくなってしまったショックが心にズンと重くのしかかる。
「うん、ありがとう。大丈夫だよ…」
心配させまいと放った言葉に元気は無く、傍から見ても分かるくらい落ち込んでいた。
「元気ないよ?ほら、笑顔笑顔!」
「うん…」
小傘に言われ、精いっぱいの笑顔を浮かべる。
「うわ、引きつってる」
「ちょっと心華ちゃん!」
心華からのとどめの口撃がグサッと心に突き刺さり、膝の間に顔をうずめた。あれ、目から何かが零れ落ちているぞ…。
「あっ、ご、ごめんなさい!!」
「いいよ、気にして無い…」
慌てて謝った心華の頭を優しく撫で、立ち上がって空中に浮かんだ。そしてそのままゆらゆらとレストランの出口を目指した。
「ね、ねえどこ行くの?料理は?」
「今日はもう休む。料理は明日やるよ…」
もう、料理を続ける気力なんか残されていなかった。大切な人がいなくなったことでボロボロになった心に冷たい隙間風が吹き荒れている。ドアを開けるとカランカランとベルが鳴り響いた。いつもは来客を知らせる心地よい音のはずなのに、今はやけにむなしく聞こえる。店内を振り返ることもなくレストランを後にした。
自室に戻り、押し入れから布団を引っ張り出して寝転がった。いつも隣で寝ているはずの文はいなく、小傘や心華の姿もない。真っ暗な部屋の中、ただ一人布団に包まってぼおっと虚空を眺める。
頭の中では、文の一言が何度も響いていた。
『もういいわ!そんな野蛮な行為許さないんだから!!』
「ああああぁっ!何やってんだよ!!」
言い表せない後悔が、怒号となって弾き出される。固く握りしめた拳を強く振り下ろした。振り下ろしたところが布団の上だったので痛みはなかったのだが、心は比べ物にならないほど痛かった。
今回ばかりは俺が悪い。文への気遣いが…足りなかった。
「……本当に…馬鹿だな」
頬を一筋のしずくが流れ落ちた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日、クリスマスイブの昼。
白玉楼には魔理沙とアリスの姿があった。
「お、可愛いじゃないか!やっぱりアリスはこういうもの作らせた右に出る者はいないな」
「ありがとう魔理沙。どうやらサイズもピッタリで安心したわ」
2人が白玉楼にいる理由。それは今日のパーティーで着る心華のサンタコスチュームの確認に来たのだ。2人の目の前にはサンタのコスチュームを着て恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めた心華がいた。
「で、でも下がスースーする…。すっごく寒いよ」
今の心華の衣装、頭には赤いおなじみの帽子をかぶり、上は真っ赤なケープを羽織り、胸元には白いボンボンが2つ付いている。ここまではいいのだが、下は裾に白いもこもこが付いた膝上のミニスカート。真冬なのにミニスカートでは寒いのは当たり前である。細くすらっとした脚には鳥肌が出来ていた。
「うーん、可愛いと思ったんだけどなぁ」
そう言って魔理沙は頭を掻く。どうやらこのミニスカートという案は魔理沙が出したようだ。
「ならこれを着たら?これは熱を吸収してくれる生地で作ったから温かいと思うわ」
そう言ってアリスが差し出したのは黒いタイツだった。心華はそれを受け取って早速脚を通す。
「本当だー!ちっとも寒くない!これなら雪の中をビューンってしても平気!欧我ー、どう?似合う?」
脚が寒く無くなったことが嬉しいのか、心華は飛び跳ねたり走り回ったりしてはしゃいでいる。そして欧我に声をかけたのだが、返ってきたのは「うん」という返事だけだった。
「どうしたんだ?いつもの欧我らしくないぜ」
「それは後から話すよ」
心配そうな表情を浮かべる魔理沙たちに対して、心華は小さい声でそう伝えた。今欧我がいる状況で話したら、今以上に傷ついてしまうかもしれないと思ったからだ。
「ここにいたのですか!」
するとその時声が聞こえたかと思うと、欧我のもとに妖夢が姿を現した。
「あ…どうしたの?」
「どうしたのじゃないですよ!ほら、買い物に行くよ!」
「はーい…」
欧我は重い腰を上げると、妖夢の後について空中に浮かび上がり、白玉楼から出て行った。心華たちにとってナイスタイミングである。
「欧我がいなくなったわね。それで、何があったの?」
「実はね…」
心華は昨日の夜あったことを魔理沙たちに話して聞かせた。鶏肉料理発言で喧嘩をしたこと、その喧嘩のせいで文が出ていったこと、文が出て行ってから欧我の元気が無くなったこと…。
その話を聞いた2人は…。
「「はははははっ!」」
声をあげて笑っていた。
「なんだ、心配して損したぜ。ただの夫婦喧嘩でそんなに落ち込むものか?」
「欧我らしいと言えば欧我らしいのかもね」
ひとしきり笑った後、魔理沙は何かを理解したようにうんうんと頷いた。
「だからか。だから文はあんなことをしていたのか…」
「ああ、あれね」
「え、えっ、何があったんですか?」
2人の言葉を聞き、心華は首をかしげた。ニヤニヤした笑みを浮かべた魔理沙は小声で話し出した。
「じつはな、ここに来る時に見かけたんだが…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
まったく、一体何があったのだろうか。隣を飛ぶ欧我を眺めながらはぁとため息をついた。昨日の夜から突然元気が無くなり、今朝だって幽々子様の朝食を作りには来なかった。こんな日は今までなかったからものすごく心配になる。どこか具合が悪いのだろうか。欧我に聞いても、「別に大丈夫」と言うだけで他には何も話さない。まあ、時間が解決してくれることを祈るしかない。私がどう足掻いても何の役にも立たないだろうから。
「もうすぐ人里に付きますよ。ほら笑顔をしてください」
「うん…」
そう言って浮かべた笑顔にはやっぱり元気がなかった。これで大丈夫なのだろうか。
「「えっ、ええっ」」
人里に降り立って目に留まった光景に思わず二度見をしてしまった。その直後欧我は能力を発動して姿を見えなくした。2人の目線の先には…
「クリスマスはんたーい!!」
「野蛮な行為を許さなーい!」
「クリスマスの中止をー…」
「ほら椛、もっと声を出す!」
「は、はーい…」
里の一角を陣取って文とはたて、そしてミスティアとやる気のない椛の4人が「クリスマス反対!」、「鶏肉料理という野蛮な行為を撲滅しよう!」と書かれた横断幕を掲げて声を張り上げていた。4人とも背中に旗と頭に鉢巻、ミスティアは即興で作り上げたクリスマス反対の歌をマイク片手に歌い上げている。
その光景に呆気にとられていると、隣にいる欧我が頭を抱えるようにうずくまった。いや姿は見えなかったけど発した声からしてそうだという予想を立てた。
「一体文さんに何があったんですか?」
「ちょっとこっち来て…」
「ちょっ、いきなり引っ張らないでよー!」
いきなり引っ張られたことで転びそうになりながらも欧我の後について人気のない路地裏まで足を運んだ。文の目が届かないと判断した欧我は能力を解除して姿を現した。その顔には悲しみと後悔の色が浮かんでいる。
「それで、何があったんですか?もしかして元気が無いのも…」
「うん、そうなんだ。まさかあんな事をしているなんて思わなかった…」
そう言って欧我は語りだした。昨日の夜レストランで起こった出来事を。
鶏肉料理発言で喧嘩をしたこと、その喧嘩のせいで文さんが出ていったこと、まさかそのせいであんなデモ活動をするまでに発展していたこと。文さんをデモに駆り立てた原因が自分にあると知って欧我はかなり落ち込んでいるようだ。
その話を聞き、思わず吹き出してしまった。だって、元気がない理由が夫婦喧嘩だったなんて笑わずにいられますか。しかも喧嘩の原因は鶏肉料理って。
「わ、笑わなくてもいいじゃないか!こっちはものすごく反省しているんだよ!」
「だったら、今謝りに行けばいいじゃない。丁度文さんもいることだし」
「で、でもあんなデモをしている所に行けないよ!原因を作った俺が!」
「謝りたいんでしょ?」
「うん、そうだけど…でも…。ねえ、文の話を聞いて来てくれないかな?」
「え、なんで私が!?」
「だ、だって!ほら行ってよねぇ!」
「わ、ちょっと押さないでよ!」
欧我に背中を押されるまま道に飛び出した。そして運悪く文たちに見つかってしまった。
「妖夢さん!ちょうどいいところに!あなたも一緒にクリスマス反対運動をしませんか?」
そう言って鉢巻片手に走り寄ってきた。私にはクリスマスに反対する理由が分からなかったが。
「クリスマスって、お互いにプレゼントを渡しあう幸せな日だと来ているんですが、どうしてそんなに反対しているのですか?」
「だって、クリスマスには鳥を丸ごと焼いたものや揚げたものを食べるんですよ?そんな野蛮で残虐な行為を許すことはできませんよ!」
そう言って力説する文さん。それに続いてミスティアさんとはたてさんも「そうだそうだ!」と賛同の声を上げる。そっか、この人たちは鳥に関係しているんだった。鳥が鳥を使った料理を許すことはできないんだ。
「でも、クリスマスがなくなったらプレゼントを贈れなくなりますよ。欧我からプレゼントをもらえないんですよ。それでもいいんですか?」
「えっ…」
欧我という言葉を聞き、文の顔が曇った。その反応を見て文の心理を理解した私はちょっと畳みかけてみることにした。
「欧我だって反省しているんですよ。あなたが飛び出して行ってからずっと元気が無くて落ち込んでいます。謝りたいと思っているのですから、文さんもこんなことを止めて欧我のもとに行ってみたらどうですか?」
「欧我…」
「夫が待ってますよ」
それだけ言い残して、踵を返して文さんの前を後にした。後は文さんの行動に任せよう。
里を飛び出し、冥界へと向かっていると隣に欧我が姿を現した。今まで姿を消して後をついてきたみたいだ。
「それで、どうだった?」
「ふふっ、大丈夫よ。文さんも心では反省しているみたいだから」
そう言って欧我に笑顔を向けた。私の笑顔を見て欧我は首を傾げただけだった。まったく、夫婦って難しいものなんですね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜、いよいよ待ちに待ったクリスマスパーティーの時間がやってきた。レストランの飾りつけも2人の衣装もバッチリと決まっている。しかし、結局文が現れることは無かった。欧我にとって一番大切なものが欠けているため、欧我の顔に笑顔は浮かんではいない。
そして大勢のお客様が集まって盛大なパーティーが開催された。欧我と心華のサンタのコスチュームは思っていた以上に好評で、写真屋がたくさんの記念写真を撮りまくっていた。巨大なクリスマスツリーを囲う様にして配置されたテーブルに座って欧我が作り上げた料理を食べながら盛大に盛り上がっている。いつも通り宴会となってしまったパーティーは活気と笑顔に溢れ、とても幸せなひと時となっているが、主催者である欧我の真っ白な髭で隠れた顔には終始笑顔が見られなかった。いや、笑顔を浮かべてはいるのだが、いつものような明るい笑顔ではなく若干作られたようなぎこちないものだった。
「欧我、元気無いよな」
「仕方ないわよ、ここに大好きな文がいないんだから」
欧我に元気がないことを心配するような会話があちこちでされるが、厨房で作業を続ける欧我の耳には届いていなかった。その話が聞こえるたびに心華が料理を運びながら欧我に元気がない理由を話して回っている。
「ごめんね、欧我には言わないであげて」
「わかった。心華も大変だな」
「はぁ…」
無事にパーティーも終盤に差し掛かり、いよいよプレゼント交換の時間がやってきた。これまでのパーティーは予想以上に盛り上がり、たくさんの笑顔の花が咲き乱れた。しかし、俺の心の中は未だに冷たい吹雪が吹き荒れている。結局、文は来なかったな…。
そう言ってホールの方に目を向けた直後…
「あっ…」
窓の外に目が釘付けになった。窓の外から、文が中をじっと見つめていたからだ。お互いの目があった途端文は顔を真っ赤にして影に隠れてしまった。
「文!!待って!!!」
はっと我に返ると文の名前を叫びながら集まってくれたみんなをかき分け踏みつけてレストランの外に飛び出した。雪が降りしきる中、文は窓の下にしゃがんで身を隠していた。
「文…」
「っ、お、欧我!?」
名前を呼ばれ、文は慌てて立ち上がる。2人とも何も言わずに気まずい雰囲気が辺りに漂う。
やっぱり俺は文と一緒にいなければ心から笑顔になる事が出来ない。文と一緒にパーティーを楽しみたい。その気持ちが心の中で湧き上がってくる。謝るんだろ、俺。謝って文と笑い合わないと。そう自分を勇気づけ、じっと文を見つめる。
「文、本当にごめん!」
謝罪の言葉を述べ、ものすごいスピードで頭を下げた。
「あの時は本当にごめんなさい!文の気持ちも考えずに酷い事を言ってしまって。文が出ていったことは分かる、でも俺には文がいなくちゃダメだ。俺は文と一緒に笑い合っていたい。だから戻って来てくれないか?」
自分の気持ちを口に出し、文の返事を待つ。鼓動が激しくなり、ドキドキと音が聞こえるようだ。一瞬という長い間文は何の言葉を発しなかったので諦めかけていた時、俺の肩にポンと手が置かれた。驚いて顔を上げると、文の若干泣きそうな顔があった。
「ううん、いいの。私の方こそごめんね。私も欧我と一緒にいないと、悲しくて心にぽっかりと開いたような気持ちになるの。私も欧我の元から離れたくない。だから…だから、ごめんなさい!」
目に涙をためながら、文も頭を下げた。俺は何も言わず文の肩に手を置くと引き寄せて抱きしめた。お互いに抱きしめあっていると、心の中に積もっていた悲しみという雪が溶けていくような、温かい気持ちに包まれる。身も心も温かくなり、自然と涙が溢れだした。
「文もパーティーに参加してくれる?」
「うん」
「じゃ、行こうか」
文を体から離し、じっと見つめあう。その直後いきなり文が笑い出してしまった。
「何よ、その格好!やっぱり間近で見たら髭なんて似合ってないじゃない」
そう言って俺の顔についている髭を取り上げた。
「ほら、こっちの方が欧我の笑顔をよく見れるでしょ。それに…」
そう言った途端文は背筋を伸ばして俺の唇に唇を重ね合わせた。いきなりのキスに驚いたが、唇から伝わってくる温もりはとても心地の良いものだった。
「メリークリスマス、欧我」
唇が離され、文の発した一言にドキドキして顔が真っ赤に染まったが、文の笑顔を見て俺も笑顔を浮かべる。
「うん、メリークリスマス。じゃあ中へ行こうよ」
「ええ」
そして文の手を引いてレストランの中に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レストランの中に入った途端、割れんばかりの拍手に包まれた。突然沸き起こった拍手の理由が分からずにキョトンとしてしまったが、途端に恥ずかしくなり文と見合わせて顔を真っ赤にしながら笑いあった。
その後文と一緒に特製のケーキを楽しんだ後、いよいよ待ちに待ったプレゼント交換の時間がやってきた。
「さあ、いよいよプレゼント交換の時間がやってきました!皆さんプレゼントを持って来ましたかー?」
「はーい!!」
掛け声に合わせて、会場のみんなが様々なものを取り出した。きれいに飾り付けられたもの、袋に入っただけのもの、キノコ、人形など実に様々なものがある。でもその前に、真っ先にプレゼントを渡したい人がいる。
「その前に、俺から大好きな人へプレゼントを渡そうと思います。文、おいで」
文のいる方に向かって手招きをすると、驚きと嬉しさが混じったような表情を浮かべた。そして席を立つと隣に立ってじっと俺の顔を見つめてくる。俺は笑顔を浮かべながら懐から綺麗に包まれたプレゼントを取り出し、文に手渡した。
「はいこれ、俺から大好きな文に。開けてみてよ」
「うん!」
ビリビリと包み紙をほどくと、中から出てきたのはオレンジ色のマフラーとニット帽、そして暖かそうな手袋だった。
「わぁー!これって!!」
「そうだよ。これからどんどん寒くなっていくけど、寒い中でも取材ができるようにって思ってね」
ウィンクをしながら文に笑いかけた。いつも元気な文でも、何時風邪をひいたりするか分からない。そうならないために温かくしていれば大丈夫だろうと思って里を探しまわって手に入れたものだ。
「ど、どうかな?」
「とっても似合ってるよ。すっごく可愛い」
「もう欧我ったらぁ。ありがとう、大切にするわ」
プレゼントされたニット帽をかぶり、文は笑顔を浮かべた。その笑顔はとても眩しく輝いていた。
「ねーねー、私たちのは?」
「文だけずるい!私にも!」
その光景を見て心華と小傘が口をそろえる。
「大丈夫だよ、ちゃんと後で渡すから」
「本当に?絶対だよ!」
「やったー!じゃあ私はマフラーがいい!」
プレゼントを用意していると知った直後2人は嬉しくて思わず飛び跳ねて喜んだ。本当に俺は幸せな家庭に包まれている。幻想郷で初めて迎えたクリスマス。いろいろあったけど、大好きなみんなと一緒に過ごす事が出来てとても幸せな一日になった。
「さあ、皆さんもプレゼント交換をしてください!そして最後までクリスマスパーティーを楽しんでください!!」
そして幻想郷に来て初めて開かれたクリスマスパーティーは夜遅くまで続いた。文と小傘、そして心華の家族に包まれて楽しそうにはしゃぐ欧我の顔には、いつものまぶしい笑顔が戻っていた。
いかがでしたでしょうか!
基にした文のクリスマス反対デモというネタが少ししか出てこなくてちょっと微妙な出来になってしまいましたが…。
まあこう言った欧我と文の甘い展開の物語が俺からのクリスマスプレゼント!
喜んでくれるとうれしいなーなんてw
そして、もう一つプレゼントがあります。物語の中で出てきたサンタのコスプレをした心華ちゃんを描いてみました!
それがこちらです!
【挿絵表示】
どうでしょう、可愛く描けているでしょうか。
では、これからもレストラン白玉楼をよろしくお願いいたします!!
さぁてレストラン着工だぁ!