今更ですが…
明けましておめでとうございます!!
今年も頑張って執筆していくので応援をよろしくお願いいたします!
第58話 重大な問題の発生
共鳴鏡乱異変解決後の宴会で大いに盛り上がっていた白玉楼はいつも通りの静けさを取り戻し、中庭には心地よい風が吹き抜け、小鳥たちの歌が風に乗って運ばれてくる。縁側に腰を下ろして足を投げ出し、真っ青な空を見上げると、小さな雲が青色の海を気持ちよさそうに泳いでいた。太陽の暖かな光が降り注ぎ、ポカポカした陽気が非常に心地いい。このままでいると安らかなお昼寝の世界に誘われてしまうかのような最高の状態だ。
「はぁ…」
最高の状態に似合わないため息を一つ。外の天気とは裏腹に、心の中はもやもやとした暗雲や濃霧などが隙間なく立ち込めていた。
「どうしたもんかなぁ…」
誰かに解決策をすがるかのように呟いた言葉はむなしく空中を漂い、そして消えた。今、白玉楼は重大な問題に直面している。死活問題になりかねない重大な問題だが、その問題を作り出したのは自分だと言っても過言ではないだろう。そのために今俺は頭を悩ませて解決策を練っている。重大な問題、それは…
「「「おどろけー!!」」」
「うわぁあ!?」
真後ろからの襲撃を受け、驚かされた拍子に勢い余って縁側の下に落ちてしまった。くそっ、打ちつけたお尻が痛い。縁側の上に目を向けると、俺を驚かして下に叩き落とした犯人の姿が見えた。主犯は予想通り小傘だが、その隣に心華とメディちゃんがいるのはどうしてなんだろう。ってか俺の心配をしたらどうなんだ?
「もう、いきなり驚かさないでよ!」
打ち付けたことでジンジンと痛むお尻をさすりながら文句を言ってやったが、驚かしが成功したことで喜びあっている3人の耳には届かなかった。何だろうね、小傘達の満足そうな笑みを見ていたら怒りが和らいでくるよ。
「ちょっとは俺の気持ちも考えてくれたらどう?」
「あっ、ごめんなさい!」
わざと低めの声で言うとようやく気付いたようで、3人は慌てて謝ってきた。うーん、どうしてこうも申し訳ない気持ちになってくるのかなぁ。そんな不思議な感情を抱きながら縁側に座りなおす。
「で、3人そろって何か用事かな?」
「うん、実は欧我に伝えたいことがあって」
「俺に?」
なんだろう、3人そろって俺に言いたいことがあるって。まさかまた何かやらかそうとしているんじゃないだろうか。小傘の発言に、無意識に身構える。
「実は私たち同盟を組んだの!名づけて“付喪神同盟”!」
「…はい?」
予想外の言葉が飛び出し、無意識の内に気が抜けたような声が出てしまった。一瞬自分の耳を疑ってしまったが、小傘達に聞き直したらはっきりと「同盟」と答えた。え、ど、同盟!?同盟を組むっていったいどういう事なんだ?その直後脳裏に浮かんだのは数日前に起こった白玉楼襲撃の光景。まさか…
「まさかまた異変を起こすんじゃないだろうな?」
「ううん!もう異変は起こさないよ!」
心華は慌てて否定した。どうやら俺と小傘に敗れたことで悔い改めたのだろう。そうであれば信じてやりたいが。
「じゃあ、何をするの?」
「道具を大切に扱ってもらうように人々に注意して回るのよ。もう心華ちゃんが悲しまないようにね」
メディちゃんからの返事を聞き、ほっと息を吐いた。心華の事を考えての同盟だと知って胸を撫で下ろす。でも注意して回って大丈夫なのだろうか。小傘達の事だからさっきのように驚かしてから注意するのだろう。ちょっとしたことなのにこんなにも心配に思うのは親心が芽生えた証拠なのかな?
「そっか、わかった。でも気を付けてよ。今回の異変で付喪神に恨みを抱いている人がいるかもしれない。特に心華にはね。だから驚かす行為はほどほどに、危ない所に行ってはいけないよ。危ないと感じたら迷わず逃げること。逃げ出す判断と勇気を忘れずにね」
3人の頭をよしよしと撫でながら優しく言い聞かせる。今回の異変で道具に操られ仲間を殺そうとした人たちには異変を起こした主犯への憎悪が渦巻いているだろう。その主犯はほかでもない、心華なのだ。
「じゃ、気を付けてね!」
「うん!」
「じゃーね!」
「またね!」
同盟を組んだ3人は俺に手を振ると上機嫌に元気よく空へと飛び上がって行った。
「コンパロコンパロ~!♪」
「パラリロパラリロ~!♪」
「おっどろけおっどろっけ~!♪」
なんかとっても上機嫌なようだ。
「賑やかになったわね」
空を飛んで行く3人を眺めていると、文がやってきて隣に腰を下ろした。
「いや、騒々しくなったんじゃないかな」
そう言って文が差し出した湯呑を受け取った。湯呑の中には湯気がふわふわと立ち上る熱々の緑茶がなみなみと注がれていた。口元に持ってくると優しい香りが鼻を抜けほっと落ち着く事が出来る。唇をつけ、身体の中に流れてくる温もりを楽しんだ。
「美味しい。腕を上げたね」
「ありがとう。欧我に褒められるとすっごく嬉しいわ」
文の嬉しそうな笑顔に頷いて笑顔を向けると、再び湯呑に唇をつけて緑茶を楽しんだ。そしてそのまま文の肩にもたれ掛る。宴会で起きたあの一件のお蔭で甘えるのもいいなと思うようになったからね。それになんか幸せな気分。
「でも、さっきから何を悩んでいるの?苦虫をてんこ盛り噛み潰したような顔をしてたけど」
「俺ってそんなに不機嫌な顔をしてたんだ。うん、実はね…」
湯呑に少し残っている緑茶に目を落としながら、今まで頭を悩ませていた問題について話し始めた。自分自身が引き起こした、重大な問題について…。
「実は、食糧庫に備蓄された食糧が、今日の昼食を作った段階で底をついた」
「ええっ!?」
文は驚きの声を上げると目を見開いて俺の顔をじっと覗き込んできた。俺はそれに苦笑いをして答えることしかできなかった。
「じゃ、じゃあ今日のおゆはんはどうするの!?食材が無ければ作れないよね。っていうか底をついたってどうして?何があったの?」
文の留まるところを知らない質問を手で遮ってため息を一つ。「それはゆっくりと順を追って話す」と言って文を黙らせる。
「それは大丈夫、ついさっき妖夢に里の食材を買い占めて来るように頼んだから。食材が底をついた理由は至極簡単。俺が調子に乗って料理を作りすぎたからだ」
「調子に乗って?」
「うん。文は知ってるよね、異変解決の宴会が5日間も続いたことを。その時に俺が作った料理が好評で次から次に注文の波が押し寄せてきたんだ。最初の内は俺だって宴を楽しみたいと思っていたけど、俺の料理を食べて幸せそうな笑顔や美味しいって言葉を聞くととっても嬉しくなって、つい調子に乗ってたくさんの料理を作り続けた」
そこまで話すと湯呑に残っていた緑茶をグイッと飲み干す。熱々だったお茶は少しぬるくなっていた。
「それで、5日間料理を作り続け、気が付いたら食糧庫の食材をほとんど使ってしまった…と」
「そうだよ。でも、問題はこれで終わりじゃない」
そう言うと文はえっという声と共にメモ帳に走らせていたペンをピタッと止めた。っていうか何時の間にメモをしてたんだ?
「里の食糧を買い占めたら、今度は食費が底をつく」
「ええ!?」
「うん」
「うん、じゃないわよ!どうするの?お金が無くなったら食材を買えなくなるわよ!」
「そんなこと百も承知だ」そう言い返そうとしたが思いとどまってその言葉を飲み込んだ。口喧嘩をしたいわけじゃないし、それにブン屋相手に口喧嘩じゃ部が悪いしね。ああ、夫婦喧嘩したら夫に勝ち目は無いな…。
「だから俺が稼ぐ。この問題を作り出してしまった以上俺が責任を取って働くさ」
「働くって、欧我は幽々子さんの専属料理人ですよ。外に出て働く事なんてできないじゃない」
「冥界に、もっと言えば白玉楼の近くに作ればいいじゃないか。何とかしてレストランを作って料理を振る舞い、お金を稼ぐんだ。まさしくレストラン白玉楼!どう、カッコいいでしょ?」
胸を張って高らかに言ったら文は小さくため息をついた。え、カッコよくなかった!?ちょっとショックだなぁ。
「レストランを作るって言ったって、お店を建てるお金はあるの?レストランを建てるのにいくら掛かるか分かっているの?」
「わからないよ。だからその方法を考えてたんだ。お金を極力使わずにレストランを建てる方法を。考えたけど、仲間の力を使えば行けるかなーって」
文の言うとおり、一からレストランを建てていたら莫大な費用が掛かる。俺の所持金では賄う事が出来ない。じゃあどうするか。
ふっふっふ。皆さん、ここがどこかわかりますか?そう、ここは様々な妖怪が暮らす幻想郷。それぞれ特殊な能力や技能を持ち合わせている。それを活用しない手は無いでしょう。みんなの協力が得られれば、格安でレストランを建てる事が出来る。誰にどんな作業を頼むのか…。実は大体目星は着いている。さぁ、作ろうぜレストラン!!
「欧我、顔が怖いわ」
「えっ?」
本格的にレストランを作っていきますよー!
もうレストラン要素ゼロなんて言わせませんからね!
地味に悩んでいたんだから!←