レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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第6話 料理人、葉月欧我

 

縁側を離れ、声のした方へと飛んで行く。

その後を、不機嫌そうに頬をぷくっと膨らませた文が付いてきた。

何を怒っているのだろう。これからお客様を迎えるのに。

 

 

「文、笑顔笑顔。」

 

 

文と目を合わせ、にっと笑顔になる。

 

 

「ふっ、分かったわよ。」

 

 

俺の笑顔を見て、ふっと息を吐くと文も笑顔になった。

よかった、笑ってくれた。

やっぱり文は笑顔が一番可愛いな。

 

…別に惚気ているわけじゃないぞ。ほ、ホントだぞ。

 

 

門のそばまで近づくと、向こうから4人が歩いてきた。

住んでいるところも、それぞれの種族も違うのに、4人とも非常に仲がよさそうに笑い合っている。

もしあの異変が起きなかったら、この4人はこれほどまでに親密な関係を築くことはなかったのかもしれない。

 

 

「皆さん、いらっしゃいませ!」

 

 

4人の前に降り立ち、深くお辞儀をする。

その直後、なぜか4人が一斉に声を上げて笑い出した。

 

…ちょっとなぜ笑っているのか分からないよ。

 

 

「お、欧我…。その格好は何?」

 

 

「あはははっ!似合わないわよ!」

 

 

あの、にとりさんに天子さん。

この格好のどこがおかしいのですか?

 

いや、妹紅さんも笑い過ぎだよ。

 

 

「欧我…一体その格好は何だ?」

 

 

屠自古さんまで…。

な、なんか恥ずかしくて顔が赤くなってきた。

 

 

「外の世界の料理人はみなこの格好をするんですよ。」

 

 

今の俺の格好。

コックコートに、背の高いコック帽子。腰から下げた青いエプロン…。

外の世界の有名な料理人はみなこの服装をしているのに、どうして笑うのかな。

 

もしかして…そんなに似合っていない?

 

 

「ちょっとショック…。せっかくアリスさんが作ってくれたのに。」

 

 

今着ているコックセットは、レストランをオープンすると聞いたアリスさんがそのお祝いにと作ってプレゼントしてくれたものだ。

その出来の素晴らしさに感動して思わず抱き着いて、戦操「ドールズ・ウォー」で殺されそうになったのはいい思い出だ。…まあ既に死んでいるんだけどね。

 

 

「仕方ないですよ。幻想郷でこの格好は珍しいだけです。」

 

 

「文だって爆笑していたじゃないか。」

 

 

隣からそう言ってくれた文をじっと睨みつける。

そのフォローは嬉しかったけど、初めて見た時の文も同じくらい爆笑していたぞ。

 

も、もういいや。

みんなには慣れてもらうしかない。

 

 

「それではみなさん、レストランへご案内します。」

 

 

空に浮かび、白玉楼の中庭へと向かう。

その後を、文たち5人がついてきた。

 

 

 

 

 

レストランの会場に割り当てられたのは、台所のすぐ近くの部屋だ。

大きな机が部屋の中央にあり、その周りに旅館などによくある座椅子が並べられている。

机の上と床の間には花がきれいに活けられた花瓶が置かれ、部屋を色鮮やかに彩っている。流石庭師。

 

 

「さあ、座ってください。」

 

 

5人が席に着いたのを確認すると、料理を運ぶために台所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、あの…幽々子様?」

 

 

よだれが垂れていますが…。

並べられたフルコースを幽々子様が恍惚な眼差しでじっと見つめている。

 

ぐりゅりゅりゅ…。

 

 

「ねー欧我ぁ。お腹すいた。」

 

 

盛大にお腹が鳴っているよ。

 

 

「すみません。ですが、昼にお客様を迎える日は、昼食は1時30分でいいとおっしゃったのは幽々子様です。それまで我慢してください。」

 

 

「えー、でも、こんなに美味しそうな料理を前に我慢なんか…。」

 

 

「これはお客様にお出しするものです。幽々子様にも美味しい料理をたくさん作りますから。」

 

 

幽々子様って食事のことになるとこんなにも子供っぽくなるんだな。

我が儘というか…。何だろうこのギャップ。

 

 

「それに、まるで目の前に壁があるみたいで料理まで手が届かないの。」

 

 

幽々子様はそう言って手を伸ばす。

確かにその手は何かにぶつかって、まるでパントマイムをしているかのような壁をなでる動きをした。

 

そう、そこには見えない壁がある。

いつの間にか手に入れていた能力で作り出した“見えない壁”だ。

 

 

「それはですね、俺の『空気を操る程度の能力』で作り出した壁です。」

 

 

「空気を…?」

 

 

「そうです。その場にある空気を固めることで、強固な壁を作ることができます。それに、その壁の中はギリギリまで酸素濃度を薄めてあります。もし中に入ったら酸欠で倒れますよ。」

 

 

酸素濃度を下げる理由、それは…。

 

 

「あっ、酸化。」

 

 

幽々子様は気づいたようだ。

そう、空気中の酸素が結びつくことによって細胞が酸化し、食品が傷まないように酸素を抜いたのだ。

これ以外にも料理の時に役立つ活用法があるんだけど、これはその内にっていることで。

 

それよりも早く持っていかないと。

お盆を小脇に抱えると、目の前にある空気の壁をすり抜ける。

 

 

「欧我、呼吸は?」

 

 

「大丈夫ですよ。口の中で酸素を生成しているので、酸素がなくても呼吸できます。」

 

 

そう笑顔で答えた。

この能力、料理以外にも色々なところで活用できそうだな。

 

 

まずは前菜だ。

お盆に5人分の前菜「筍と胡瓜の梅肉ソース」を乗せた。

 

とうとう、レストランの初めてのお客様に料理を提供するときがやってきた。

自然と心臓の鼓動が早まる。

 

みんな喜んでくれるかな?

 




~欧我の能力説明~

Ⅰ、姿を見えなくする程度の能力

これはそのままですね。
幽霊になったことで使えるようになった能力です。
姿を消し、相手の視界から消える。また、この状態では完全に気配を消すことも可能。
死角からの不意討ちや、驚かし行為に有効。


Ⅱ、空気を操る程度の能力

これもその名の通りですね。
空気を固めることで壁を作ったり、剣や弾幕を作って放つこともできます。
固める空気の密度を変えることで、その強度を変えることができます。
さらに気圧や空気を構成している元素をも操ることも可能で、酸素を抜いたり、酸素を生成したりすることができる。



どうして『空気を操る程度の能力』なのかというと、以下の理由があります。

①弾幕を放つことができる
②料理にも使える
③文の持つ『風を操る程度の能力』と関連がある

です。
これらの条件をすべて満たすものと言ったら、空気が思いつきました。

③の理由に関してですが、風というものは空気の流れです。つまり欧我がいくら空気を固めても、文が風を起こせばすぐに吹き飛んでしまいます。つまり、欧我にとって文は、対抗することができない最強の敵となります。
しかし、能力を重ね合わせれば、お互いの能力や威力を無限に高め合うことができます。
この関係が気に入りました。


能力の説明は以上です。

では、次回いよいよ欧我の料理がお客様に出されます。
楽しみですね…。次回もよろしくお願いします。

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