「よし、じゃあ作ろうか…」
作業台の上に置かれた食材の前に浮かび、よしと気合を込める。今の時刻は午後5時を過ぎた頃。大体この時間帯から調理を開始し午後6時30分~7時頃に夕食を食べ始めるのが白玉楼で日課になっている。その時間に間に合わせるためには早い時間から調理を開始しないと間に合わないのだ。ま、今日は案外早く完成しそうなんだけどね。なぜなら…
「でも、いつもより食材が少なくないですか?」
隣に立つ妖夢が疑問の声を上げる。確かに妖夢が言った通り、今回使う食材はいつもより少ない。なぜかという理由は説明しなくても分かるだろう。里の食材を買い占めたことにより、俺のイメージ通り食費のほとんどを使い切ってしまったのでもう食料を買う事が出来なくなってしまった。未だに白玉楼の収入源が分からないので何時まとまったお金が入るか分からない。食費が手に入る日がずいぶん先になってもいいように食料は温存しておかないと。
そう妖夢に説明をしたが、重大な問題がもう一つある。俺たちの主はあの大食いで有名な幽々子様だ。これだけの量では満足の行くたくさんの料理を作ることはできないだろう。でも、その辺は既に対策はできている。外の世界にいるときにテレビで「こんな貧乏くさい事なんて絶対にやるもんか」と思いつつ眺めていた“
「妖夢、この料理を覚えたら色々と節約できるかもしれないよ」
そうしてドヤ顔で作り上げた大量の嵩増しレシピ料理を囲んで夕食を食べ始めた。数日前まで幽々子様と俺、そして妖夢の3人で囲んでいた食卓は、今や文と小傘、そして心華も加わって6人に増えだいぶ賑やかになった。なぜ3人がここにいるのかというと、家族そろって夕食を食べれば心華も幸せを感じてくれるだろうという文の提案を受けたからだ。今まで大きいと感じていた座卓もなぜか少し小さく感じられる。家族とワイワイしゃべりながら、笑いあいながら食べる夕食はいつもより数倍も美味しく感じる。その分食べられる量は少なくなったけど、みんなの笑顔でお腹一杯だ。どうやら幽々子様も満足そうで良かった。
「美味しい!こんな料理食べたことない!」
おからを大量に使った嵩増しハンバーグを頬張りながら心華は幸せそうな笑みを浮かべる。口元にたっぷりとソースがついているが気付いていないようだ。面白いからそのままにしておこう。誰が気付くかな?
「でしょ?欧我の料理は幻想郷一なんだから!」
そう自慢げに話す小傘。妖夢や藍さん、咲夜さんといった俺よりも料理が上手い人がいるから幻想郷一なのかは分からないけど、その言葉は素直に嬉しかった。小傘がもっと自慢できるように俺も料理の腕を磨かないとな。みんなが幸せになるように、みんなの笑顔を見るために。
「あら、心華。ソースが付いてるわよ」
「え、ホント?」
「うん。そのままじっとして」
文はそう言うと心華の肩にやさしく手を置き、口元についているソースを丁寧に拭い取った。
「ありがとう!」
「ふふっ、どういたしまして」
まるで本当の親子を見ている様で非常に微笑ましい光景だ。なんだか心華が家族に加わってから文もお母さんのような言動をとるようになってきたな。以前は無邪気でわがままで少しやんちゃな女の子のような振る舞いが多かったのに。
「んっ!」
「ん?どうしたの小傘…え」
口元にべっとりとソースをつけ、何かを訴えるかのような眼差しでじっと俺を見つめている。いや、小傘が何をしてほしいのか分かるけど、心華と何を競い合っているのだろうか…。もう、仕方ないな。
「はいはい。じゃあじっとしててね」
文が心華にやった時と同じように、小傘の肩にそっと手を置いてソースを優しく拭い取った。
「ありがと、欧我」
「今度はもう少しゆっくりと食べろよ」
「うん!」
まったく、お姉さんのように成長したなぁと思っていたけど、まだまだ子供だな。
「本当に家族のようですね」
その光景をじっと眺めていた妖夢は幽々子にそう話しかけた。
「そうね、本当に微笑ましい光景よね。ところで妖夢」
「はい?」
「あなたはソースをつけないのかしら?」
「つけませんよ」
「あらそう。じゃあ私が…」
「止めてください!」
「幽々子様、食後のお茶をお持ちしました」
熱々のお茶が入った急須と湯呑、そしてお茶菓子が乗ったお盆を抱え、幽々子様がいる部屋の中に声をかける。後にお茶とお茶菓子をお出しするのも日課になっている。日課っていうか俺が来る前からの習慣みたいなものであるが。普段は妖夢が行っていることではあるが、今妖夢は心華たちと一緒に食器の後片付けを行ってくれている。
「ありがとう。入っていいわよ」
「失礼します」
そう言って部屋の障子を開けると部屋の中へと足を踏み入れた。幽々子様は外へ通じる開け放たれた障子の傍に腰を下ろし、じっと漆黒の夜空に輝く月を見上げていた。傍に腰を下ろし湯呑に熱々のお茶を注ぐと幽々子様は湯呑を手にとって口元へと運ぶ。そして口に含みはぁっと一息をついた。
「綺麗な月ですね…」
幽々子様の目線の先を追って優しい光を放つ月を見上げる。そう言えば昔永遠亭のみんなが起こした永夜異変という異変があったっけ。その時の経緯は全く分からないけど、幽々子様と妖夢が異変解決のために奔走していたらしい。月の異変は妖怪にしか分からなかったらしいが、幽霊である俺にはどのような月が見えていたのだろうか…。
「ところで、欧我」
「はい、何でしょうか?」
月を見上げてイマジネーションを働かせていると、不意に幽々子様の声が聞こえた。え、なんか不満そうな表情を浮かべているけど、どうしたんだろう。
「今日のご飯いつもより少なかったわ。ちょっとずるしていないかしら?」
「たはは、やっぱり気づいていましたか…」
使う食材を減らし、量を嵩増しによってごまかした事は幽々子様に内緒にしていたが、予想通り幽々子様にはお見通しだったようだ。そのことを言い当てられ、苦笑いを浮かべながら髪をわしゃわしゃと掻いた。
「ですが昼に言ったように食費が底をついたので、申し訳ありませんが我慢してください。そして、そのことに関してもう一つお願いが御座います」
姿勢を正し真剣な面持ちになる。幽々子様は湯呑をお盆に置いてじっと俺を見つめている。その表情はいつものこちらの考えを見通しているのか、それとも何も考えていないのか判別できないようなものだ。
「あら、なにかしら?」
「今回の危機を起こしてしまった責任をとるために、レストランを建てて食費を稼ごうと思っています。ですが俺は幽々子様の専属料理人。幽々子様の傍を離れ人間の里で働くことなどできません。そこでお願いです。白玉楼の近くにレストランを建てさせてください!お願いします!」
そう懇願して頭を下げた。正直に言ってこのお願いを幽々子様が聞いてくれるとは思っていなかった。却下されることを承知の上で頭を下げている。しかし、幽々子様の答えは予想外の物だった。
「ええ、いいわよ」
「…へ?」
だから、この時自分の耳を疑ってしまった。
「まったく、貴方っていつも一生懸命なんだから。欧我が責任をとる事でもないのに。でも私はその気持ちが嬉しい。無事に成功することを祈っているわ」
「ありがとうございます!!」
その言葉が嬉しくて、満面の笑みを浮かべて頭を下げた。その時に勢い余って額を畳にゴンッとぶつけてしまったけど、心の中で溢れだす嬉しさに比べたらこれっぽっちも痛くなかった。そうと決まったら早速明日から行動を開始しよう。いろんな人に協力を要請して、絶対にカッコいいレストランを建てて見せる。
「ところで、どうやってレストランを建てるのかしら?その計画はできているの?」
「もちろんできています。まずは人間の里に行って…」