レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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皆さんお久しぶりです。
なんとか弾幕ごっこを書ききる事が出来ました。

勝負の行方はいかに!
では、お楽しみください。


それと、以前活動報告に出したクイズに答えていただきありがとうございます。
正解は1枚目のスペルカードです。正解者はいるのかな?
 


第62話 3枚の切り札

 

 弾幕ごっこの開始からすでに2分が経過。

 空気を固めて様々な軌道で弾幕を放っても、霊夢さんは表情一つ変えることなく身を翻し、少ない動きで弾幕をかわしながら反撃の手を緩めずに御札や封魔針を投げつけてくる。この動きはさすが博麗の巫女と言わざるを得ない。霊夢さんの能力は『空を飛ぶ程度の能力』である。重力に縛られず空を飛び、またいかなる弾幕や制限からも浮遊する。味方の時は非常に頼もしいと思っていた能力でも、いざ敵に回るとこれ以上厄介な能力は無い。埒が明かないから、スペルカード行くか。

 

 

「一枚目のスペルカード!」

 

 

 懐から1枚のスペルカードを取り出し、霊夢さんに提示した。

 

 

「ようやくね。でも、私はそのスペルカードを見たことがあるわ。だから対処も簡単ね」

 

 

 霊夢さんの余裕そうな声が聞こえてきたが、それに応えることなくスペルカードを発動した。

 

 

「落下遊戯『()()()()』!」

 

 

 空気を固めてテトリスのブロックを大量に作り出し、次々と霊夢さん目がけて投げつけた。しかし霊夢さんは単調な攻撃に小さくため息を吐きながらいとも容易く攻撃をかわしていった。

 

 

「確か4列積み上げた後に棒ブロックを突き刺して後ろから攻撃するんでしょ?」

 

 

「そうですよ。でも、ゲームの進行状況は常に変わる。それに合わせて臨機応変に動かないとすぐゲームオーバーになるよ」

 

 

 その声と共にTブロックを投げつける。霊夢さんは少し身を翻しただけでブロックをかわしたが、それが俺の狙いだった。何も4列消し(テトリス)だけがテトリスじゃない。

 

 

「ダブル」

 

 

 Tブロックが回転して列に収まった途端2列分のブロックがはじけ飛んだ。上手く霊夢さんの意表を突く事が出来たが、残念ながら命中させる事が出来なかった。

 確かに霊夢さんの言うとおり、このスペルカードは以前霊夢さんの目の前で披露したことがある。だから攻撃のパターンを知られているため弾幕を当てる事が出来ない。しかし、手順を知っているからこそ意表を突きやすい。霊夢さんの意表を突いて被弾を狙うためこのスペルカードを発動させたのだ。

 

 

「ゲームはまだまだ続く!行きますよ!」

 

 

 そう言って大量のブロックを作り出して連続で投げつけた。しかし、霊夢さんは御札の弾幕を大量に放出してブロックを次々と破壊したり、お祓い棒でブロックを弾き飛ばしたりと、このスペルカードの弱点を突いてきた。

 

 

「要するに、ある程度ブロックを積み重ねないと背後からの攻撃が出来ないというわけね」

 

 

「その通りですよ」

 

 

 本来ゲームではブロックを横一列に隙間なく並べないと列を消す事が出来ない。つまりこのスペルカードで背後からのはじけ飛ぶブロックで攻撃をするためには、ある程度の量のブロックを積み重ねて隙間なく並べる必要があるのだ。その弱点を見つけてスペルブレイクするなんてと感心すると同時にイメージ通りに決まらなかった悔しさも感じた。俺のお気に入りのスペルカードだったのに。博麗の巫女は俺のイメージからも浮遊するのか…。

 

 

「しかたない、2枚目行くよ!」

 

 

 懐から2枚目のスペルカードを取り出し、構えた。これは俺の新作でまだ誰にも見せたことが無い。相手を縛り、自由を奪うスペルカード。これをブレイクすることはできるかな?

 

 

「縛符『ストップ・ザ・モーション』!」

 

 

 スペルカード発動と同時に、霊夢さんの周りにある空気を固めて身体の自由を奪った。不意に指一本動かせなくなった状況に驚きを隠せない霊夢さんは動こうと必死にもがいている。その様子を見て、自分の周りに大量の星形虹弾を作り出した。

 

 

「さあ、避けてみな!」

 

 

 その声と同時に動けない霊夢さんに向かって弾幕を打ち出した。霊夢さんの顔が驚愕の表情に変わり、弾幕を避けようと必死に体を動かす。しかし固まった空気はびくともしなかった。

 弾幕がある程度の距離まで近づいたところで、霊夢さんの束縛を解除した。

 

 

「うわぁぁっ!」

 

 

 突然動くようになった体に驚きながらも、慌てて空を飛び弾幕を避け続けた。突然動かなくなった身体とその状態で迫る大量の弾幕、そして不意に自由を取り戻して慌てて弾幕を避ける。恐怖と混乱、そして動揺によって被弾を狙うスペルカード。普通の人なら混乱と動揺によって判断が遅れ被弾してしまうのだが、動揺していても弾幕の軌道を見て確実にかわすとはな。

 

 

「ちょっと!あぶ…っ!?」

 

 

「俺の攻撃はまだ終了してないぜ」

 

 

 文句を言ってくる霊夢さんの周りの空気を再び固めて体の自由を奪い、大量の虹弾を打ち出した。先ほどよりも密度を増した弾幕は先ほどとは違った軌道を描き霊夢さんに迫る。身体の束縛をいつ解除するのか、そして弾幕の密度に軌道。すべては俺の判断で決まる。

 弾幕が目前に迫っているというのに、霊夢さんは目を閉じたままじっと動かない。その様子を見て、自分の周りの空気に意識を集中させた。霊夢さんの事だ、諦めたとは考えられない。おそらく動けない時間を利用して霊力を集中させているのだろう。その攻撃に備えないと。俺の息をのむ音がやけに大きく聞こえた。

 体の束縛を解除した途端、霊夢さんは待ってましたと言わんばかりにスペルカードを発動させた。

 

 

「神霊『夢想封印』!」

 

 

 その直後無数の色鮮やかな光弾が現れ、霊夢さんの周りをクルクルと回転し始めた。その光弾は目前に迫ってきた虹弾を瞬く間に掻き消した。このスペルカードは霊夢さんの中でも切り札的存在の一枚。この光弾は妖怪を無理やり退治する事が出来ると言われている。今の俺は幽霊だから、もしかしたらこの攻撃を食らったら封印されてしまうんじゃないだろうか。きっと棺桶かなんかに。これは絶対に喰らってはいけない!

 

 

「はぁっ!!」

 

 

 空気を固めて壁を作り出し、迫りくる光弾を受け止める。壁に激突した光弾は激しい爆発音とともに弾け、霧のように消滅していった。背後に回り込んで迫ってくる光弾にも対応し、何とか全ての光弾をかき消す事が出来たが、光弾の爆発による霧が晴れた時、霊夢さんの姿はどこにも見られなかった。まさか…

 空気の流れを読み、慌てて頭を下げる。その直後、頭上をお祓い棒の一撃が通り抜けた。間一髪だったか…。危ない。

 

 

「くそっ、2枚目もブレイクされるとは…」

 

 

「私を舐めないことね」

 

 

 空気を固めて作り出し、振り下ろした剣をお祓い棒で受け止める。ガキンと言う金属同士がぶつかり合ったような音が響き、その状態のままガチガチと押し合った。くそっ、僅かに押されているなんて。少女の癖になんて力だ。それにお祓い棒って普通木製だよな。これも霊夢さんの持つ霊力によるものだろうが、これほどまでとは思わなかった。やっぱり、俺と霊夢さんとの間には追いつけないような差があるんだろうな。

 力を両腕に込め、お祓い棒を払いのけると開いたお腹に右脚の蹴りを叩き込んだ。しかしこの攻撃は予測されていたらしく、後ろに下がることでかわされ、虚しく空を切った。今度は反撃とばかりに霊夢さんが撃ち込んでくる打撃を受け止め、躱しながらカウンターを狙うように拳や剣を繰り出す。一進一退の攻防が続く間に、次のスペルカードの準備を整える事が出来た。攻防の合間に圧縮させた空気を両方の足底に付け、右足の空気をロケットの要領で噴出した。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

 噴出した空気による爆発的な推進力を利用し、霊夢さんの周りを猛スピードで飛び回った。霊夢さんは俺の姿を追いかけようと必死に目をきょろきょろと動かしているが、このスピードには追いつけていないようだ。それもそのはず。今の俺は文の最高速と同じくらいのスピードで飛び回っている。目視はおろか弾幕を当てることもできない。

 一発目の噴射の威力が弱まったら今度は左脚の空気を噴出させ、その隙に右脚に新たな圧縮空気をセット。飛び回りながら大量の虹弾を放出した。そう、すでに俺の3枚目のスペルカードが発動している。文の「幻想風靡」を真似、開発した俺のとっておきの1枚。

 

 

「幻想風雅」

 

 

 猛スピードで空中を飛び回ることでゴーグルがぐりぐりと押さえつけられ、強力な風が顔面に襲いかかった。その強力な風圧に必死に耐え、歯を食いしばりながら大量の弾幕を打ち出した。ばらまかれた大量の虹弾は豪雨の如く降り注ぎ、霊夢さんに襲いかかった。

 霊夢さんは誘導能力のある大量の御札をばらまいたが、高速で飛び回る俺のスピードについて来れず空中を無意味に漂っている。

 

 

 

「これじゃあ攻撃できないじゃない…」

 

 

 霊夢はそう悪態をつきながらも必死に欧我の姿を確認しようとキョロキョロと辺りを見回し、御札を放つ。しかしどの御札も欧我のスピードに追いつく事が出来なかった。欧我の位置が分からず、更に襲いかかってくる弾幕の量が多く、全てをかわしきることは不可能に近い。弾幕の雨を何とかかわし、御札で打ち消しながら霊夢はこのスペルカードの突破方法を模索していた。

 

 

 

 襲い掛かってくる風圧にも慣れてきた。未だに霊夢さんは俺の姿を目視できていない。このままいけば霊夢さんに勝つ事が出来そうだが、スペルカードルール上この幻想風雅にも制限時間が有る。制限時間が過ぎればこのスペルはブレイクされたことになるので何としても残された時間で決着をつけないと。

 

 

「えっ!?うわっ!!」

 

 

 その直後、目の前の光景に驚いて慌てて進行方向を切り替える。なぜなら、無数の御札が目の前から迫ってきたからだ。おそらく空気を噴出させる威力が弱まり、スピードが遅くなった瞬間を狙って御札を放ってきたのだろう。あらかじめ右脚にセットしておいた空気を利用し宙返りをして迫ってくるお札を振り切った。しかし今度別の方角から御札が迫ってきたので身を翻して左に進路を変える。その直後…

 

 

「っ!?えっ!体が…動かない!?」

 

 

 突然体の自由が奪われた。まるで強力な縄で何重にも縛られたかのように、指一本動かすことが出来なかった。まるで俺のスペルカード、空縛「エアーズ・ロック」のように。でも、この身体を縛る縄は空気のようなものじゃない。もっと強く、ほのかに暖かい…。

 不意に体が動かなくなったことに驚きを隠せず、辺りを見回して原因を探る。よく見ると、自分の周りを結界が覆っていた。そして真下には霊夢さんの姿が見える。まさかさっきの御札は俺を霊夢さんの真上におびき寄せるためのものだったのか!?じゃあ、この結界は…

 

 

「捕らえたわよ。まったく、酷い事をしてくれたわね。でも、これで私の勝ち。神技『八方鬼縛陣』!」

 

 

 霊夢さんがスペルカードを発動した瞬間視界がまぶしい光に包まれる。このままだと確実に攻撃を食らってしまう!何とか脱出を!何とか空気を…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中で何度も体を回転させながら、何とか着地を決めた。あの直後残っていた圧縮空気を一気に放出させることで莫大な推進力を得、結界を突き破る事が出来た。しかし、これで俺のとっておきのスペルカード3枚すべてブレイクされたことになるな。と言う事は俺の負けか。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 

 大きく深呼吸を繰り返して呼吸を整える。目線を上に向けた時、お祓い棒を突きつける霊夢さんと目があった。

 

 

「スペルカード3枚、全てブレイクして見せたわよ。これで面倒な引っ越しとやらを諦めてくれるかしら?」

 

 

「いえ、それはもう…」

 

 

 頭を掻きながら、道場と倉庫が建っていた所に視線を向ける。そこには弾幕ごっこを始める前まであった空気のドームが無くなっていた。そう、既に引っ越しは完了していたのだ。その光景を見て、霊夢さんはため息を吐くとお祓い棒を肩に担いだ。

 

 

「そう、そう言う事だったのね。まあいいわ」

 

 

 「まあいいわ」と言う言葉にほっと安堵の息を漏らした直後、「でも」と言う言葉に思わず息をのんだ。

 

 

「面倒なことを引き起こし、私の仕事を邪魔した事は許されないわ。なにか、無いの?」

 

 

「へ…?」

 

 

 霊夢さんの言葉が理解できず、拍子抜けた声が漏れた。

 

 

「だーかーらぁ!お詫びの品よ!お詫びの品!何かないの?」

 

 

「お詫びの品…ですか?えっと…」

 

 

 霊夢さんの剣幕におびえ、慌てて身の回りを探る。しかし、いくら探しても霊夢さんが喜びそうなものは見当たらなかった。必死に探していると、とある考えが頭をよぎった。今の俺がお詫びの品の代わりとして霊夢さんにできること。それは…

 

 

「わかりました。レストランが完成したその日から1週間、食事代を無料にします」

 

 

 俺の提案を聞き、霊夢さんはじっと俺の顔を見つめ続ける。しばらくの沈黙ののち、口を開いた。

 

 

「一ヶ月」

 

 

「えぇ一ヶ月!?それはちょっと…」

 

 

「一・ヶ・月!!」

 

 

「ひぃっ!?わっ…わわ、分かりましたっ!一ヶ月無料にしますからっ!!」

 

 

 霊夢さんの背後から漂う鬼のようなオーラ、そして睨みつけてくる目の鋭さに押され、俺は霊夢さんの条件を飲むことしかできなかった。ここで逆らったら、確実に成仏させられる。

 

 

「よろしい。これで一ヶ月は食事の心配がなくなったわぁー。早く完成させなさいよね」

 

 

 俺の返事を聞き、霊夢さんはそう言い残して上機嫌に博麗神社へと帰って行った。俺はただ、その後ろ姿をじっと見つめることしかできなかった。

 

 

「欧我、貴方完全に霊夢さんにしてやられたみたいね」

 

 

 霊夢さんが飛び去った後、弾幕ごっこをじっと見守っていた文が近づいてきた。え、してやられたって、俺が?

 俺が弾幕ごっこを挑んだ本当の目的は、引っ越しがすべて終わるまでの時間稼ぎをすること。冥界への引っ越しを完了させれば、後は全て冥界で出来る。なんとか引っ越しを完了させるために、霊夢さんの気を空気のドームから逸らす必要があったのだ。

 

 

「萃香さんは、俺が弾幕ごっこを挑んだ本当の目的って分かる?」

 

 

「当たり前だよ」

 

 

「だよね。萃香さんでも気付くぐらいだから、霊夢さんが気付かないわけないよね…」

 

 

「ちょっとそれどういう意味!?」

 

 

 萃香さんの文句を聞き流し、はぁとため息をついた。実は弾幕ごっこを行っている最中ずっと不思議に思っていた。「引っ越しが完了するまでの時間稼ぎ」と言う目的に気付いたはずのに、なぜ霊夢さんは弾幕ごっこを中断しなかったのだろうか。本当に引っ越しを止めさせるつもりなら、本当の目的に気付いた瞬間に中断して引っ越しを阻止するはずだ。幻想郷一勘の鋭い霊夢さんが最後まで気づかなかったとは考えられない。

 つまり、最初から霊夢さんは弾幕ごっこの目的を理解したうえで気付かないふりをして俺を撃破し、俺から一ヶ月分の食事代を無料にするというお詫びの品を引き出すつもりでいたことになる。最初っからお見通しだというわけか。まさに俺は霊夢さんの掌の上で踊らされていたんだ。

 

 

「あーもう!」

 

 

 悪態をつき、ゴロンと地面に大の字で寝転がった。晴れ渡る大空を眺め、俺は心に誓った。

 

 

「もう、霊夢さんに逆らうのは止めよう…」

 




 
いかがでしたでしょうか。

そしてクイズの答えは落下遊戯「帝都裏主」でした。
正解者無し…ですか。

では、これからもよろしくお願いいたします。
おそらく、当分弾幕ごっこは無いと思います。はい。

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