新作の方、読んでいただけましたか?
「居酒屋女将の幻想郷見聞録」、これからもよろしくお願いいたします。
夜空でほのかな光を放つ月を見上げながら、廊下をふわふわと浮かびながら進んでいく。夕食で使った大量の食器をすべて洗い終え、明日の準備も終えて家族の待つ自室に向かっている。それにしても、今日は本当に疲れた。霊夢さんと繰り広げた弾幕ごっこで予想以上に疲れがたまり白玉楼に帰ってきた直後ぐっすりと眠ってしまい、気付いたら午後3時。昼食を作り忘れたため幽々子様から説教を受け、罰としてそれからずっと屋敷の掃除を命じられた。そして5時から夕食の調理に取り掛かる…。文もひどいよな。12時直前になったら起こしてくれたってよかったのに、気付いたらいなくなってたもん。後で聞いたら今日の弾幕ごっこを記事にするために自分の家でまとめていたって。まあ新聞記者だから仕方ないけど。
と一人で愚痴をぶつぶつと呟いていたら自室の前に辿り着いた。中からは3人の楽しそうな声が聞こえてくる。一体どんな話をしているんだろう。障子に手を駆け、開いて部屋の中に入った。
「欧我、お疲れ様」
「お疲れー!」
「ありがとう、文に心華。…あれ、小傘は?」
部屋の中を見回しても、小傘の姿がどこにも見られなかった。さっきまで声が聞こえていたはずなのに、どこに行ったんだろう。きょろきょろと部屋の中を見回していると…
「ばあ!!」
「うわああっ・・・いたっ!」
ジンジンと痛む後頭部を両手で押さえてうずくまった。くそっ、驚きのあまり飛び上がりすぎて後頭部を天井にぶつけてしまった。俺を驚かした犯人は俺のことなどお構いなしで満足そうな満面の笑みを浮かべ、文も心華も俺の心配をすることなく笑い声をあげている。でも、やっぱりこの小傘の笑顔と笑っている2人を見ていると驚かされたことに対する怒りは薄れていくな。まあ小傘に驚かされるというのは今に始まったことじゃないからそれほど怒りは感じないけどね。それにしても、小傘の人を驚かす技術は進歩してきていると感じているのは俺だけか?
一体どこに隠れていたんだろう。え、天井?貼りついていた?忍者かよ。
「はぁ~。やっぱり欧我の驚いた心は美味しい」
「そう、よかった。料理人としてこちらも嬉しいよ。いてて…」
あー、まだ後頭部の痛みは収まらないか。驚いて飛び上がりすぎたかな、ガンッてものすごい音が響いたし。
気を取り直して畳の上に腰を下ろすと、小傘は俺の脚の間にちょこんと座りもたれ掛ってきた。なんか羨ましそうな目でじっと見つめてくる文と心華の視線が気になるけど、あえて気にしないでおくか。意表をついて頭をわしゃわしゃと撫でると「ひゃ~」なんて言いながら俺の手を掴もうとあたふたと両手を動かし、撫でる手を止めたら俺の手首をがしっと掴んで「捕まえたっ」なんて言ってくるから可愛過ぎる。
「ねえねえ欧我、レストランは順調?」
「途中で霊夢さんと弾幕ごっこをしたけど、今のところ順調だね。萃香さんに頼んで霧から元に戻してもらったし、後は明日から本格的にリフォームを始めるだけさ」
「りふおーむ?なにそれ?」
「リフォームだよ。家を壊さずに作り変えるってことさ。レストランの中も外も構想はできているし、準備もできている。完成は時間の問題ってところかな?」
「すごいね!あ、そうだ!欧我に見せたいものがあるの」
小傘はそう言って立ち上がり、部屋の隅から持ってきたものは1冊のアルバムだった。ピンク色を基調とした真新しそうなアルバムで、表紙にはきれいな花の絵がプリントされている。これ、確か以前似た物を人里で見たことがあるような気がする。心華と文が近づいてきたのを確認すると、小傘は自慢げに表紙をめくった。その直後、俺は驚きのあまり目を見開いた。
「これ、全部小傘が撮ったのか!?」
「もちろん!私だって一人前の写真屋だよ」
そこには、幻想郷の各地の風景を収めた写真が所狭しと貼り付けられていた。澄んだ青空を背景に天高くそびえる妖怪の山の写真や霞がかかり何処か神秘的な雰囲気を醸し出す迷いの竹林、まるで幻想的で神々しく、そしてどこか不気味さを感じさせる御柱の林、夕陽を受けて一層赤みを増した、燃え上がるように輝く紅魔館など、その名の通り幻想的で美しい幻想郷の風景が見事にとらえられている。それだけではない。里の人々や仲間たちみんなの日常を切り取った写真や眩しい笑顔、楽しそうに遊ぶ姿など生き生きとした写真も数多く見られた。まさか少し見ない間に一人前の写真屋としてここまで成長していたなんて。
「わぁー!小傘ちゃん凄いね!」
「そうね。かなり成長したわね」
その後も小傘は自慢げにページをめくっていく。そこに収められている写真はどれも目を見張るものばかりだった。
「小傘は、いつの間にか俺を超えていたんだ…」
師匠として弟子が成長したことに対する嬉しさと、初代写真屋として負けたことに対する悔しさが混じったこの不思議な感情は何だろう。
「写真屋としての仕事は順調?」
「もちろん!前に文が新聞に広告を載せてくれてから依頼の数も増えたよ」
「広告?」
「うん、これだよ」
そう言って取り出したのは文々。新聞の切り抜きだった。そこには様々な写真と共に可愛い服に身を包んだ小傘の写真が載り、そこには『純情可憐なシャッターガール』という二つ名が書き込まれていた。なるほど、この広告なら依頼が増えたことにもうなずける。
そうして家族みんなで笑顔や笑い声に包まれた幸せなひと時を過ごしていると、文が何かを思い出したかのようにあっと言う声を漏らした。
「いけない、明日朝から取材に行くんだった。小傘、そろそろ帰りましょうか」
「えっ、もう?」
「ええ。明日の準備をしなくちゃいけないし、遅れては先方に失礼でしょ?」
「うん…分かった」
小傘は名残惜しそうにうなずくと帰宅の準備を始めた。俺だってもっと文や小傘と一緒にいたいけど、また明日になれば会える。そう言って小傘を慰めた。
文と小傘が帰った後、俺に任された仕事をこなすために一人で白玉楼の廊下を飛んで行く。その仕事とはお風呂のお湯を沸かすことだ。白玉楼のお風呂はまるで高級旅館の浴場のような
酸素と二酸化炭素の量を調整し火の勢いを一定に保っていると、浴室の中からガラガラと引き戸が開く音が聞こえ、その後お湯を流す音が聞こえた。
「幽々子様、湯加減はいかがですか?」
「少し熱すぎるわ、もう少し下げてくれるかしら?」
「はい」
窯の中に送る二酸化炭素の量を上げ、火の勢いを消えないギリギリまで弱める。これならお湯を温め過ぎることは無いだろう。
「今度はどうですか?」
「ちょうどいいわ、ありがとう」
その声の後「ふぅ~」と気持ちよさそうに長く息を吐く声が聞こえてきたので、火の勢いを一定に保ちつつ地面に腰を下ろして壁にもたれ掛った。静かに吹き行く風を受け、燦然と輝く星空を見上げる。ここ冥界でも綺麗な星空を眺める事が出来、顕界と比べると見える星の量が多いような気がする。妖夢に教えてもらったのだが、この冥界のはるか上空に天子さんのいる天界があるらしい。天界っていったいどんなところなのだろう、一度行ってみたいものだ。
「ねえ、欧我?」
「なんでございましょうか」
「いつも、本当にありがとうね」
「えっ…?」
予想外のお礼の言葉に思わず耳を疑ってしまった。でも、こうしてお礼の言葉を頂けるなんて本当にうれしい。
「どういたしまして。こちらこそ、俺の我が儘を聞いてくれてありがとうございます。この身体が消滅するまで、俺はこれからもずっと幽々子様にお仕えします」
「そう。その言葉を聞けて私も嬉しいわ。細かいところにまで気を配り、思いやった貴方の仕事はどれも素晴らしいわ。それに、毎日欧我の作った美味しい料理を食べる事が出来て、私は本当に幸せよ。だからもうちょっと…」
「幽々子様」
「なにかしら?」
「俺を褒め倒して食事の量を増やそうとしても、食材が少ない今は無理ですよ」
「ぎくっ!ばれちゃったわね…。ねえお願いよー、お腹減っているんだもん!」
「いけません。大人なんですから我慢してください」
「大人って、私はまだ少女よ」
「俺より何十倍もここにいるのに。とにかく我慢してください。これも食材を後々まで残しておくためなんですから」
「ぶー」
まったく、食べ物のことになると途端に子供っぽくなるのは相変わらずだな。でも、幽々子様の言葉は本当にうれしかった。その気持ちにしっかりと答えられるようにこれからも一生懸命取り組もう。
お湯につかり、四肢を大きく伸ばす。ものすごく極楽だ。やっぱり1日の仕事を終えた後のお風呂は格別だな、うん。特に今日は弾幕ごっこや屋敷の掃除でいつも以上に疲れがたまっているから気持ち良さもいつも以上。温かいお湯が体に溜まった疲労を優しく溶かしていってくれるようだ。
毎回お風呂に入る順番は決まっていて最初に幽々子様、次に心華と妖夢が一緒に入り、最後に俺だ。心華は泡が目に入るのが怖いらしく、未だに一人でお風呂に入る事が出来ず妖夢に頭を洗ってもらっている。そう言えば外で火の調節をしている時に心華の「欧我と一緒に入りたい」っていう言葉が聞こえたな。聞き返したら慌てたような様子で「何でもないっ!」って叫んでいた。俺と心華は性別が違うから一緒にお風呂に入る事には抵抗があるけど、それ以前に親子みたいな感じだから入ってもいいのかな?今度心華が望んだら一緒に入ってみよう。
「はぁ~」
明日から本格的なリフォームが始まる。全力で頑張れるように、今日は早めに寝よう。その前に、もう少しゆっくりと。
どうも。
幻想のほのぼのライター、戌眞呂☆です。
…勝手に二つ名を考えてみましたが、おかしいですよね。
今回は書きたいシーンがたくさんありましたが、いい文章が浮かばずこういった形になりました。
次回はいよいよリフォームが始まります。今後も欧我君の頑張りをお楽しみください。
では、次回もよろしくお願いいたします。