レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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とうとう始まったリフォーム…
正確には解体だけですが←

ま、まあとにかくよろしくお願いします。


第65話 解体作業開始! ★

 

「へぇー、これか。思っていたよりも大きいな」

 

 

「うん。たくさんの人に来てほしいからね。そしてたくさんのお金を落としていってくれれば…金が…」

 

 

「お前、最近がめついやつになったな」

 

 

「大食いの主のもとで食費を切り詰めながら金を集めていると誰だってこうなるさ」

 

 

「いろいろ大変なんだな…」

 

 

「そうなんだよな。あはははは…」

 

 

 魔理沙さんと一緒に人間の里から引っ越した道場を眺めながら、自傷気味な会話を繰り返す。本当に、幽々子様の食欲には毎回驚かされる。食費を切り詰め、使う食材の量を減らし、持てる全ての嵩増しアイデアを投入して作った大量の食事をペロッと平らげてしまい、さらにお代わりを要求してくる始末。その食欲は、もはや底なし沼かブラックホールのごとし。そのせいで幽々子様の量を増やしたことで結果的に俺や文たちの分が少なくなり、酷い時には空腹が満たされることは無い。まあ、文たちは妖怪だから食事を摂らなくても生きてはいけるけど、俺は幽霊になりたてだから未だに空腹や眠気と言った人間としての生理的欲求は消え去ってはいないのだ。まあいいや、このまま時間をつぶしていても進展しないから早速解体に移ろう。

 

 

「よし、そろそろ壁をぶっ壊そうか」

 

 

「お、壊すのか!だったら私に任せろ!」

 

 

「ほんと?ありがとう」

 

 

 やけに自信満々な魔理沙さん。おもむろにミニ八卦炉を取り出すと…

 

 

「マスタァァァァァ」

 

 

「ちょちょちょっ!ちょっと待てぇ!!」

 

 

 慌ててミニ八卦炉を取り上げた。ふう、危ない危ない…。魔理沙さんは不満そうなまなざしでじっと俺を見つめている。

 

 

「なんだよ、人がせっかくカッコよく決めようとしていたのに」

 

 

「決めちゃダメだよ!リフォームっていうのは最小限の破壊のみでより良い物に作り替えることを言うの。マスタースパークを決めたら作り変えるどころか跡形もなく消え去っちゃうよ。解体が終わるまでこの八卦炉は預かっておきます!」

 

 

「ちぇー。でもさ、ミニ八卦炉が無かったら解体はどうやるんだ?この建物壁が頑丈そうだし」

 

 

「それはこれを使います。はい、手伝ってよ」

 

 

 固める空気の量を増やし、鋼鉄並みの高度にした巨大ハンマーを手渡した。空気を固めているのでそれほど重量は感じないが、魔理沙さんは嫌そうな表情を浮かべている。

 

 

「まさか、これ力づくで壊すのか?」

 

 

「そうだよ。正確な破壊は人の手によってしか成し得ないからね。さあ行くよ」

 

 

「それよりももっと派手に、ドッカーンと…」

 

 

「ドッカーン(かっこ)物理(かっこ閉じる)

 

 

「物理じゃなくてよー」

 

 

 ぶーぶー文句を言ってくる魔理沙さんと一緒に道場の中に足を踏み入れた。この道場はレストランをするには十分すぎるほどの広さがある。天井は太い丸太の梁が何本も交差し、天井を支える柱が無くても丈夫な構造をしている。この構造、テレビで見たことがあるけどなんという名前だったっけ。思い出せない。この梁は見事なものだから必要な柱を足して強度を上げた後黒く塗って内部の装飾の一部として使おう。

 その梁の様子を見て圧倒されている魔理沙さんを連れてやってきたのは、隣同士くっついて立つ道場と倉庫を隔てる壁の前。この壁を壊して一つにつなげるのが目的だ。余計な破壊を生まないように破壊する箇所以外を空気の壁で覆って…と。よし。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 気合を込め、ハンマーを振りかぶる。呼吸を整えたのち、目印として付けた×印の所に思いっきり振り下ろした。

 

 

バィィィィィィィン!!!

 

 

「ううぉぉ…っ」

 

 

 ハンマーと壁が激突し、その衝撃が強力な波となって襲いかかってきた。両腕に飛び込んできた波は瞬く間に全身に行き渡り、脳が揺れ、視界が揺れ、両腕が痺れてしまった。強烈なダメージを受けてしまったにもかかわらず、ものすごい音がしたのみで壁はびくともしなかった。

 

 

「おい!全然壊れていないじゃないか!」

 

 

 両耳をふさぎながら魔理沙さんが怒鳴り声を上げる。えっと、こんなはずじゃなかったんだけどな…。

 

 

「くそっ、もう一度行くよ!」

 

 

「え!?ちょっと待って!」

 

 

「待ちません!そりゃあああ!!!」

 

 

ドッカァァァァン!!!

 

 

 バラバラと音を立てて崩れ落ちる、俺のハンマー…。この壁一体どれだけ強靭なんだよ。あれか?鬼が中で大勢暴れまわっても壊れないように作った特別性の壁なのか?

 

 

「本当に解体できるのか!?」

 

 

「仕方ない、こうなったら…」

 

 

 魔理沙さんから預かっているミニ八卦炉を取り出した。生前何度も真似て使っていたから打ち方のコツは大方分かる。魔力はあるから、光を集めるようなイメージで…。

 

 

「真似っこスペカ、恋符『マスタースパーク』!!!」

 

 

 ミニ八卦炉から打ち出された極太のレーザー光線はまっすぐ突き進み、唖然として眺めている魔理沙さんの目の前で強固な壁にぶち当たり、メキメキと言う音を立てながら壁を突き抜けた。壁を突き抜けた時点で魔力を抑えたため、急速に勢いを失った光線はキラキラと空中に漂う光の粉を残して消えた。壁の周りには依然としてモクモクと土煙が待っている。

 

 

「よし、どんなもんだい!」

 

 

「マスパは必要ないと言っていたのはどこのどいつだ?」

 

 

「えっへへ。でも、結果的に破壊できたからいいじゃないですか。ほら、綺麗に…」

 

 

 破壊が成功し、壁には大きな穴が開いている。その穴から見えるのは、冥界に生える桜の木々と何かの残骸。あ、幽霊が通った。

 

 

「…残骸?残骸…えっ、えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 慌ててその穴から外に飛び出した。俺の嫌な予感が的中し、隣に建つ倉庫の約下半分が見るも無残な残骸の山に変わり果てていた。残された柱で上半分が何とか建っている状態だが、その柱もマスパの影響で黒く焦げ今にも折れそうだ。

 

 

「いやー、やっぱりマスタースパークは強力だぜ」

 

 

「強力過ぎますよ!はぁ、建設費用がどんどん膨らんでいく…」

 

 

 項垂れ、がっくりとその場に膝をついた。実はこの建設には、生前写真屋としてコツコツ貯めた俺の貯金のほとんどをつぎ込んでいる。リフォームに使う木材も瓦も漆喰だってほとんどが里の人と交渉して安く仕入れた物ばかりだ。さらに俺に自腹を切れと言うのか…。

 

 

「ま、まあ元気出せよ。な?」

 

 

 項垂れたままの俺を気遣って、魔理沙さんがポンと優しく肩に手を置いて慰めてくれた。その気持ちが嬉しかった。それにしても、この空いたスペースをどうしよう。屋根があるから…

 

 

「そうだ!」

 

 

「な、なんなのぜ!?」

 

 

「オープンレストランにしよう!床をタイル貼りにして、柱を補強して、開いた穴に出入り可能な大きいガラス窓を取り付ければ、これはレストランの目玉になるぞ!」

 

 

 でもそうと決まったら内部の構造を1から考え直さなければいけないな。もともとキッチンスペースとして使おうと思っていた倉庫の部分をオープンテラスにするから、道場内に新たにキッチンスペースを設けないと。その前に柱だけ補強しておこう。

 

 

「魔理沙さん、手伝いますか?」

 

 

「いや、私は帰る。何か知らんがものすごく疲れたぜ」

 

 

「そっか、なんか振り回しちゃってごめんね。はい、ミニ八卦炉。もし気になるならもう一度来ていいからね」

 

 

「お、おう。それじゃあな、がんばれよ!」

 

 

 そう言うと魔理沙さんはほうきにまたがって飛び去って行った。なんか魔理沙さんを振り回してばかりだったな。今後気を付けないと。さあ、それよりも補強開始だ。土台が損傷を受けていなかったことが救いかな。

 倉庫の上部が落ちてこないように空気を固めて支柱を作り、ボロボロになった柱を切り落とした。そこに、今度は丈夫な柱を立てて土台と繋ぎ、しっかりと固定。さらに腐食防止の効果を持つ塗料で万遍なく塗れば大方の補強は完了。これで倉庫の上半分が落ちてくることは無いだろう。倉庫の外に運び出した資材を道場の中に戻し、内装を考えるために白玉楼の自室に帰った。

 

 

 

 

 

 あれから数日が立ち、内部の構造が固まってきた。キッチンスペースを道場の上の方からテトリスのTブロック、もしくはLブロックの形にして、間の壁は張らずにオープンキッチンにする。そして…。

 

 

「欧我ー!!」

 

 

 その声と共に、いきなり心華が部屋に飛び込んできた。その心華の姿を見て、思わず目を見開いた。

 

 

「どう?似合っているかな?」

 

 

 心華が来ていたもの、それは鮮やかなオレンジ色のメイド服だった。白いシャツの上からベストをはおり、膝の少し上まであるスカートの上から白いエプロンを巻いている。スカートとエプロンの縁からはひらひらとフリルがきれいな波を描き、咲夜さんのようなカチューシャを頭に付けている。靴下は白いニーソックス。ピンク色の艶やかな髪はポニーテールにまとめ、後頭部から下に垂らしている。心華はその場でくるりと一回転し、非常に可愛いポーズをとって見せた。俺はその可愛さに目を奪われ、言葉を失ってしまった。

 

 

「欧我、どうかな?」

 

 

「え?あ…いや、ごめん。あまりに可愛くて思わず見惚れていた。ものすごく似合っているよ」

 

 

「本当!?ありがとう!!」

 

 

 心華は顔を赤くしながら嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。その笑顔がこれまたものすごく可愛い。

 

 

「良かったわね、心華」

 

 

 その声と共に、部屋にアリスさんが入ってきた。

 

 

「あ、アリスさん!ありがとうございます、こんなに可愛い制服を作ってくれて」

 

 

「どういたしまして。それに、心華ったら大好きなオレンジ色がいいって聞かないのよ。でも、そんなに喜んでくれるなんて苦労して作った甲斐があったわ」

 

 

 そう言うと、アリスさんも笑顔を浮かべる。やっぱり、アリスさんに頼んで正解だったな。里で買ったものじゃあ、心華のこんなに眩しい笑顔を引き出せないよ。制服を着てはしゃいでいる心華を眺めていると、何かを思い出したかのように「あっ!」と言う声を漏らした。

 

 

「見てて、行くよ!」

 

 

 そう言うと心華はその場でくるりと回り、

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 

 

 と俺の予想外の言葉を口にした。その爆弾発言に似た言葉に呆気にとられていると、心華が不安そうな声で聴いてきた。

 

 

「え、可愛くなかった?」

 

 

「心華、ダメだよ。その言葉を言っちゃダメだよ」

 

 

「えっ…そうなの?」

 

 

「うん、絶対に数多くの人たちから誤解を招く。そこはただ普通にいらっしゃいませだけでいいよ。レストランに来るのはご主人様じゃなくてお客様だから」

 

 

「そっか…。早苗さんから、このセリフを言えば絶対に喜んでくれると教えてくれたんだけどな」

 

 

「早苗さんが?」

 

 

 ああ、そっか。早苗さんがそう教えたのか。

 まったく、あの目に優しいカラーの巫女め。俺の子供に変な事を教えるんじゃないよ。俺はメイド喫茶を作っているんじゃないのだから。

 

 

「とにかく、その言葉は使用禁止!絶対に言わないで!」

 

 

「はーい…」

 




 
「あ、そうだ心華。せっかくだから写真撮ってあげるよ」


「本当!?やったぁ!」


「もちろん!ほら、そこに立って、ポーズ決めて…おお、ウィンク!可愛い!」


「え、もう、恥ずかしいよ」


「こら、下向かないの。はい笑って、チーズ!」


パシャッ!
【挿絵表示】


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