皆さんこんにちは、作者の戌眞呂☆です。
今回はいつもより少しだけラブラブほのぼのにしてみました。
やっぱほのぼのシーン書いている方が心が安らぐって言うか…。
そして、後半には重大な発表があります。
最後までしっかりと目を通しておいてください。
それでは第68話、始まります!
「オムライスとスパゲッティひとつずつ追加でーす!」
「はいよー!」
心華からの注文を受け、キッチンから返事を返す。ここは白玉楼の台所ではなく、レストラン白玉楼のオープンキッチンだ。昼ごろ冥界ににとりさんと椛さんがやってきたのはレストランで用いる調理器具が完成したので、それを届けに来てくれたからだ。今日と明日椛さんは非番のため半ば強制的に連れてきたとにとりさんが語っていたが、妖怪の山での河童と天狗の階級差を考えたら親友のために椛さんが手伝ってくれたと考えた方が良いだろう。まあその辺は置いておいて。宴会に集まってきたみんなと協力してすべての機材をキッチンの中に運び込み設置した。今全力で働いてくれているコンロやフライヤー、食器洗い機からオーブン、さらには換気扇から地下で動く発電機に至るまですべてにとりさんお手製の自信作だ。
高性能の機械に負けないように、こっちも料理のスピードと質を高めてこう。フライパンの中では玉ネギがきつね色に変わり、薄く輪切りにしたウィンナーにも火が通ってきた。そこにご飯を入れて炒める。ケチャップを流し入れるとジューッと言う音と共に新鮮なトマトのほのかに酸っぱい香りが辺りに漂い始めた。隣のコンロにかけられた鍋には魚の煮付けがコトコトと心地よい音を立て、さらにその隣のフライパンにはそれ以前に注文された焼きそばが完成の時を迎えていた。焼きそばを皿に盛りつけ、刻み海苔をかければ完成っと。
「よしできた!」
「わぁ、美味しそう!」
心華は出来立ての焼きそばを受け取るとお盆に乗せた。レストランの中にテーブルや椅子、ソファは運び込んではいないため集まってくれたみんなはレストランの外で騒々しい宴会を繰り広げている。宴会が始まってから早くも3時間が経過し、心華と早苗さんは外と中を何度も往復してくれた。俺もキッチンで料理を作りすぎて両手が疲れてきたし、注文された料理も残りスパゲッティとオムライス、そして煮付けの3品だけだから切りもいいし、そろそろ休憩にするか。
それじゃあ早く休みたいから3品をぱぱっと作っちゃおう。オムライスの玉子で包む工程が苦手なんだよな…。フライパンに油を敷いて薄焼き卵を作り、出来たばかりのケチャップライスを乗せて形を整えてと。
「ほっ!」
手首のスナップを生かし、ライスをひっくり返す要領で包み込んで…。
「頑張れー!」
「頑張るよー!」
小傘の応援を受け、もう一度スナップを効かせて、やっ!
「あっ…」
どうしよう、卵に穴が開いちゃった。……よし、ケチャップで隠そう。俺は何も見ていない。気を取り直して煮付けを皿に盛り、スパゲッティもミートソースをかければ完成だ!
「心華、これを届けたら休憩しようか。オーダーストップするから、早苗さんにもそう言ってきて」
「うん、わかった!」
「心華ちゃん頑張れー!」
元気よく返事をするとレストランの外に飛び出していった。その姿をカウンターに座った文と小傘が見送る。家族みんなの時間を過ごしたいと思い、文と小傘の2人だけレストランの中に招き入れた。
「終わったー!」
「お疲れ様」
「お疲れ様!欧我かっこよかったよ!」
「ありがとう、文、小傘」
カウンターに座り、ねぎらいの言葉をかけてくれた2人に笑顔でお礼を述べると、キッチンを出て文の隣の椅子に腰を下ろした。コック帽を脱いでカウンターの上に置くとどっと疲れが押し寄せる。3時間も休まず料理を作り続けていたし、慣れない環境での料理だったから無理もないだろう。
「あややや、すごい汗。じっとしてて」
「え、うん」
文はハンカチを取り出すと額や頬、首筋を伝う汗を優しく拭きとってくれた。優しく触れるハンカチから伝わってくるねぎらいの気持ちと文の優しい微笑みによって少し疲れが引いた気がする。
「キッチンの調子はどう?欧我」
「ああ、すごいよ。約3時間フル稼働させても微塵の狂いもない。火力も申し分ないし、流石河童の技術は素晴らしいよ」
「そう、良かったわね。それにしても、コック姿が様になってきたわ。すごく似合っているよ」
「文…。ありがとう。えへへ」
文の言葉が嬉しくて、照れくさくて笑顔を浮かべると文も可愛らしい笑顔を浮かべてくれた。やっぱり文の笑顔を見ていると心が安らぐ。この笑顔の為なら、俺はどんなことだって頑張れる気がする。
「文だけずるい。ねー、私も混ぜてよー」
文と笑い合っていると、1人蚊帳の外にされた小傘が口を尖らせる。小傘の顔は酒に酔っているのか少し赤みを帯びている。
「あっ、ごめん!わかったよ、おいで」
謝って腕を広げると、小傘はコクンと頷いて立ち上がり、多少おぼつかない足取りで俺の傍までやってきた。そして向かい合うような形で俺の脚の上に腰を下ろしてもたれ掛る。酒に酔っているからとはいえ、いつもより大胆な行動に俺は驚きを隠せなかった。
「えっ、ちょ、ちょっと小傘?あの…」
「だまって。このままでいさせてよ」
小傘は人差し指で俺の言葉を封じると体を預けもたれ掛かった。状況がつかめないうえに、小傘のいつもより積極的で大胆な行動がドキドキに拍車をかける。無意識の内に両手を小傘の背中にまわし、そっと優しく引き寄せて抱きしめた。
「いつもよりも甘えん坊さんね」
「そうだよね。でも、たまにはいいんじゃないかな?」
「そんなこと言って、顔が真っ赤よ」
そう言ってくすくすと笑う文。そんな文の表情を見て、今度は自分の顔が赤くなるのをはっきりと感じた。
「浮気したら許さないから」
「するわけないよ。俺は文一筋さ」
「もう、面と向かってそんなこと言わないでよ」
「おっ、文の顔も赤くなった」
「な、なってないわよ……バカ」
途端に照れ始めた文の反応が面白くて、可愛くて思わず笑みが漏れる。二人とも笑顔になり、お互いの顔を見て笑い合った。
「ねー、私もいるんだけど!」
文と笑い合っていると不意に心華の声が聞こえた。まだレストランの入り口の扉に来客を知らせるベルが付いていなかったので、心華がレストランに入ってきたことに全く気付かなかった。
「ごめんね。そしてお疲れ様、心華」
心華の頭をよしよしと撫でながらねぎらいの言葉を述べると、心華は笑顔になって「うん!」頷いた。初めのうちは、心華がウェイトレスをやると言い出した時は上手く行えるかものすごく不安だった。でも、今回の働きを見てそのような不安はどこかへと吹き飛んでいた。心華の働きは目を見張るものがあり非常に頼もしかった。
「ねー、お腹減ったから何か作って!」
「ごめん、今それはできないんだ。だって、小傘が寝ちゃっているから…」
そう言って小傘の背中を優しく撫でる。小傘は今俺の胸の中で心地よさそうに寝息を立てている。この状態で動いては起こしてしまいそうなので少しも動けなかった。
「よし!じゃあ私が何か作ろうかしら」
「文が?できるの?」
「任せて!これでも料理の練習は積んできたつもりだから!」
そう言って意気揚々と立ち上がり、キッチンに立つとやる気十分と言いたげにエプロンを身に着ける。その姿は多少頼もしそうに感じたけど、以前の料理している姿を思い出すといささか不安でならない。果たして練習の成果とはどのような物なのだろうか。心華は俺の隣の椅子に腰を掛けると、待ちきれないといった表情を浮かべている。文の手料理が好きなのは俺もだから非常に楽しみだ。小傘の眠りを妨げないように注意しながら徳利に残っていた酒をお猪口に注ぎ、口元に近づける。
「あ、そーだ。昼にも聞いたけど、欧我は大きい胸と小さい胸どっちが好きなの?」
「ぶっ!?」
心華からされた予想外の質問に思わず吹き出してしまった。酒を口に含んでいなかったことが幸いして大惨事には至らなかった。そしてもう一つ幸いなことに小傘は目を覚ましていない。
「いきなりなんてことを聞くの!?」
「私も気になるわね」
「うわっ!?紫さん?」
突然聞こえた声に驚いて声がした方を見ると、空間に開いた裂け目から紫さんが上半身を出し、口元を扇子で隠して、何を考えているのか分からないような不敵な笑みを浮かべていた。なんか眼元が少しニヤ付いていないか?
「私も知りたいわ、欧我の好み」
「それを紫さんが知って何になるというのですか?」
「ただの興味よ。そうだわ、質問を変えましょう。私の胸と文の胸、好きなのは…」
「文の胸です」
「そっ、即答したわね…。これでも私の胸…」
「文の胸の方が好きです。そして紫さん、何か用事でしょうか」
紫さんの言葉を遮り、話を逸らした。だって紫さんが見せつけるかのように胸を寄せようとしたんだもん。こんなの目の前で見せられ続けたら理性の崩壊を招くかもしれない。っていうか文もいつまで照れているんだよ。
「用事…。そうだわ、思い出した!」
そう言って扇子を閉じ、手をパンと叩く紫さん。この人本当に妖怪の賢者なのだろうか。
「欧我は、パラレルワールドって知っているのかしら?」
「パラレルワールド?この世界と並行して存在する、所謂別次元の世界のことですか?でも、そんな世界あるわけ…」
「あるわよ」
「えっ?」
紫さんから聞かされたたった4文字の言葉に、俺は大きな衝撃を受けた。パラレルワールドがある?そんなの実在するの?
「信じられないという表情しているわね。でも確かに存在するの。創造者の数だけ世界があり、幻想郷がある。そこでは同じ人物が全く別の生活を営んでいるの。たまにその世界だけにしか存在しない人物が現れ、その人を中心に生活や環境、人々の関係が急激に変わることだってあるわ。そう、この次元で言う欧我と心華みたいにね」
「俺と…心華?」
未だに実感が沸かないが、俺にも妙に納得することができた。以前そのような人物と関わったことがあるような気がしてならないからだ。
「私はこの世界にしか存在しないの?すごい!それってなんか私がレアみたいじゃない!」
心華は、無邪気に喜んでいるみたいだが。紫さんの話は続く。
「そして私は考えたわ。この次元の幻想郷をより良いものにするために、別次元の幻想郷の文化や仕組みといった様々な情報を手に入れようと。そこで欧我、貴方に別次元の幻想郷に行って情報を仕入れてもらいたいのよ。別次元に行って異文化交流を行ってほしい。これが、今日私がここに来た用事でありお願いなのよ」
「えっ、お、俺が!?なぜ俺なんですか?」
「さっき言ったように、欧我はこの次元にしかいないレアな存在であるだけではなく、その料理の腕前はなかなかのものよ。欧我なら別次元でも料理をきっかけにして宴会を開き、交流や情報収集ができるかもしれない。だから、適任は欧我、貴方しかいないのよ」
適任は俺しかいない。そう紫さんに言われ、俺の中で決心が固まってきた。
「ちょっと待って…」
しかし、文の不安そうな声が聞こえ、その決心は再び揺らぎだした。
「別の次元に行ったとして、欧我は無事に帰ってこれるの?私は欧我と二度と離ればなれになりたくはない」
文の言葉を聞き、俺も同じ不安を抱いた。俺にはこの次元に大好きな妻がいて、愛する家族がいる。そして完成間近のレストランや、みんなと気付いた絆。これらを無くしたくない。
「その点は心配いらないわ。どこに行ったとしても、私が必ずこの次元に戻して見せる。それは約束するわ」
紫さんの言葉を聞き、俺は思案を巡らせる。かなり悩むものかと思っていたが、思っていたより決断に時間がかからなかった。
「分かりました、紫さんの言葉を信じます」
「欧我!?」
「大丈夫だよ、文。紫さんは
「これでもって言う部分が気になるけど…決まりね」
そう言うと紫さんは扇子を広げ、口元を隠した。
「明日の朝、また迎えに来るわ。その時までに準備をしておくこと。ではよろしくね、欧我」
そう言い残し、紫さんはスキマの中に消えていった。
紫さんが去ったレストランの中、俺は文と心華と一緒に別次元へ行くことについての不安や楽しみ、興奮などを話し合った。一体別次元の幻想郷ではどんな出会いが待っているのか、それが非常に楽しみでならない。この胸の高鳴りは、しばらくは消えそうにないだろう。
それにしても、いつの間にかカウンターの上に置かれていた徳利が数本無くなっているけど、それについてはまた今度スキマ妖怪を問い詰めるとしよう。
はい、読んでいただけたでしょうか。
しっかりと読んでいただいたみなさんならもう分かりますよね。
実は!
とある小説とコラボをすることになりました!!ワーパチパチ
レストラン建設編は一旦ストップして、次回からコラボ編が始まります。
どの小説とコラボをするのか…。
それは投稿されるまでのお楽しみ!
活動報告でもお知らせするので楽しみに待っていてください!
コラボ回は、別の小説「東方共作録」にあります!
そちらの方で読んでください!よろしくお願い致します!
それでは、ほな!