レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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推奨BGM:匠‐TAKUMI‐
(大改造!劇的ビフォーアフターより)
 


第70話 なんということでしょう!(色んな意味で)

 

 人間の里から離れるようにポツンと佇む古い道場と倉庫。かつて稽古の声が響いていた道場も、今やしんと静まり返り、雨風にさらされてきました。中は広く構造は強固であり、さらに太い梁がむき出しになっている天井は風情と趣を感じられます。その利点に目を付けたのが、白玉楼で専属料理人を営んでいる葉月欧我。能力を活用し冥界へと移したその道場をレストランにするべく、限られた資金を活用し、知恵を振り絞り、仲間との協力を得て完成したレストラン。その全貌をご覧いただきましょう。

 

 生徒たちの声が響いていたのはもうずいぶん昔。今はさびれ、朽ち果てようとしていた道場は冥界へと場所を移し、なんということでしょう!見事豪華なレストランへと姿を変えたではありませんか!

 さびて朽ちたトタンの壁は姿を消し、落ち着いた黒い木材で化粧直しをした外観は高級感と風情漂うレストランへと大変身。以前は無かった大きな窓が並び、出窓にはきれいな花が飾られています。レストランの入り口へと石畳が続き、その奥には白玉楼の庭師である妖夢が手掛けた日本庭園風の庭が広がり、テラスにある席から一望する事が出来ます。

 朽ち果てて抜けそうになっていた床と殺風景な壁、そしてむき出しになっていた丸太の梁は、梁を腐食防止の塗料で黒く塗って残し、そこからアンティークのランプを吊るして照明にし、天井では大きな扇風機が優しく回っています。小屋組があらわになり、開放感が溢れる店内でゆったりとひと時を過ごす事が出来ます。漆喰を塗られた壁は腰のあたりから板が張られ、和風の内壁となりました。客席には紅魔館の倉庫で眠っていたソファを改修し、レストランの雰囲気に合うよう姿を変え、お客様をお迎えするソファへと変身。ソファ席4つが窓際に並び、テーブル席が4つ、そしてオープンキッチンと隔てたカウンターに席が6つならんでいます。もちろん客席の間にはレンガで組んだ花壇が並び、華やかな香りが辺りに漂います。

 レストランの顔ともいえるキッチンの壁は欧我の好みで赤いレンガが積まれ、にとりが作った調理器具が所狭しと並べられ働く時を待ちます。キッチンの奥には食材をたっぷりと蓄える事が出来る冷蔵機能付きの食糧庫を完備。これでたくさんのお客様が来ても安心です。

 店の奥には壁を隔てて控室が。限られた空間しかなかったものの狭さを感じさせないような作りになっており、休憩時間にお腹が空いた時に困らないように簡易的なキッチンも完備。温かい緑茶で疲れた体を癒すこともできます。

 

 みんなへの感謝の気持ちを伝えるため、そして白玉楼の食費を稼ぐため、限られた予算の中、使えるものを再利用し完成した今回のリフォーム。幻想郷で初めてできた夢のレストランを、葉月一家は喜んでくれるのでしょうか。

 

 

 

 

 

 顕界と冥界を隔てる結界を抜け、レストランを目指してまっすぐ冥界の空を飛び進む。レストランは白玉楼へ登る階段の麓にある開けた場所に建っており、結界からはかなり遠く、それなりに時間がかかる。魔理沙さんからレストランが完成したという報告を受け、早く見たいがために全速力で空を駆けてゆくが、なぜかいつもより距離が長く感じてしまう。

 

 

「欧我!」

 

 

「ん?」

 

 

 不意に名前を呼ぶ声が聞こえ、後ろを振り向くと文が後を追いかけてきた。レストランを早く見たい一心で家族みんなを放りだしてしまったことに少し申し訳なく思ってしまった。

 

 

「レストランはあなただけのものではないわ。私たちも完成を楽しみにしていたの。だから、家族みんなで見に行きましょう」

 

 

「そうだね、ごめん」

 

 

 文に頭を下げると、肩に優しく手を置いてくれた。みんなへの感謝の気持ちを伝えるために始めたレストランだけど、いつもそばにいて常に支えてくれた家族のみんなへの恩返しをないがしろにしていたのかもしれない。これからは家族のための時間を作ろうと心に決めた。

 そして小傘と心華が追いつくのを待ち、4人そろってレストランのある場所まで向かった。俺はほぼレストランのリフォームには付きっ切りで作業をしていたし、文の話では俺が異次元へ調査に向かっている間に家族で最後の改修を行ってくれたから、レストランの外見や内装に関しては初めて見るというわけではない。しかし、最後の改修に立ち会えなかった俺は完成したレストランを見るのは初めてであり、それが非常に楽しみである。向かう途中どんなふうになったのか聞いても、みんなは何も教えてくれなかった。

 

 

「あっ!!」

 

 

 冥界の空を飛んでいたら、目の前にレストランの屋根が見えた。もうすぐでレストランに辿り着く!そう思った直後一気にスピードを上げ、レストランの上空に辿り着いた。上から見ると葺き替えたばかりの屋根瓦が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。そしてくるりとレストランの周りを一周すると、今までなかった「RESTAURANT」と「白玉楼」の看板が掲げられており、今まで改修に協力してくれたみんなが集まって手を振ってくれていた。

 

 

「みんな!!ありがとう!!!」

 

 

 大声で感謝の気持ちを述べ、地面に降り立とうとしたその直後…

 

 

「欧我危ない!!」

 

 

 不意に文の叫ぶ声が聞こえ、文の方に視線を移した直後かすめる様にして星形の弾幕が飛んで行った。この弾幕、もしかして…。

 

 

「おーうーがぁぁぁ!!!」

 

 

 怒り溢れる怒号と共に現れたのは俺を呼びに来てくれた魔理沙さんだった。それに先ほどの弾幕を放ったのも魔理沙さんで間違いないだろう。どうして攻撃を仕掛けてきたのか聞こうとしたが、グイッと突き出した右手に持つ弁当箱と首にかかっている水筒を見て察しがついた。そしてとめどなく流れる涙を必死にこらえようとしている表情からも窺い知る事が出来た。

 

 

「お前だな!おにぎりの中に辛い物をたくさん入れたやつは!!」

 

 

 やっぱり。魔理沙さん今日は厄日なのかな。おにぎりをつまみ食いした結果運よく(悪く?) 小傘が作った七味唐辛子たっぷりのおにぎりを選んでしまったと。それにしても、わざわざお弁当をきれいに包みなおして持って来てくれたんだね。

 

 

「あのー、ひとまず魔理沙さんドンマイです。そのおにぎりを作ったのは、俺じゃなくて小傘ですよ」

 

 

「ええっ!?」

 

 

 名前を出した直後、小傘は驚いたような声を上げ、俺の腕をつかんだ。

 

 

「なんで言っちゃうの!?ねえお願い、助けてよ!欧我!」

 

 

「小傘、因果応報に自業自得。申し訳ないけどさすがに今回は庇いきれないよ」

 

 

「そんなぁー!」

 

 

 小傘の絶望に覆われた声が聞こえるが、その声を魔理沙さんの怒号が掻き消した。

 

 

「小傘ぁ!」

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

「今日と言う今日は絶対に許さないぜ!ぎゃふんと言わせてやるからな!」

 

 

「小傘、逃げろ。なるべく遠くへ」

 

 

「う、うん!」

 

 

 涙目と言うか既に泣き出してしまった小傘は魔理沙さんの横を突っ切って今来た道を引き返すように結界の方へと飛び去って行った。魔理沙さんはそれを逃すはずもなく、またがっているほうきをぐるりと方向転換し、小傘の後を追いかけていった。お、早速スペルカードを発動したか。あの光線は…ああ、アースライトレイか。

 小傘を助けなかったことに心が少し痛んだが、たまには厳しく接し間違いを犯したら責任を取らせるのも親の仕事だと言い聞かせ、気分を切り替える。

 

 

「欧我、良かったの?」

 

 

「良いんだよ、これで。じゃあ、さっそくレストランの中に入ろうか!」

 

 

「う、うん」

 

 

「そうね、小傘なら大丈夫よね」

 

 

 俺と同じで、心華も文も小傘の事が心配なようだ。でも、仕方ないことだよね。

 地上に降り立つと、目の前にドンと建っているレストランは大きくて豪華で立派なものに見える。正直に言って、まさかこれほどの素晴らしいレストランが出来るとは思っていなかった。こんなレストランが出来たのも、ここに集まってくれたみんなのお蔭だ。レストランの制服やコックコート、ソファの化粧直しを行ってくれたアリスさん。調理器具や発電機を組み立ててくれたにとりさん。外装や内装、漆喰といった力仕事をかって出てくれた萃香さんや勇儀さん、そしてヤマメちゃん。和風庭園のような庭を作ってくれたり、花壇の整備をしてくれた妖夢。そして最後の改修を俺に代わって行ってくれた文と小傘、そして心華。それぞれの手を取り、感謝の言葉を述べる。言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちを、これから料理で伝えて行けるように、俺はこのレストランで頑張ろう。

 

 

「みなさんが協力してくれたおかげで、こんなに素晴らしいレストランが完成しました!ここまで来れたのは、快く協力してくれた皆さんのおかげです!本当にありがとうございます!今はまだ食糧庫に食材が1つも入っていないので料理を作る事が出来ませんが、食材がたくさん入ったら皆さんを招待して盛大な宴会を開きたいと思っています。本当に、今までありがとうございました!」

 

 

 感謝しても感謝しきれないほどの気持ちを込めてお礼を述べ、頭を下げるとみんなから拍手が沸き起こった。鳴りやまない拍手の中、俺の頬を嬉し涙が一筋流れ落ちていった。

 

 

 

 

 

「とは言うものの…」

 

 

 オープンキッチンにつながる食糧庫の扉を開け、はぁと大きなため息をついた。目の前に広がるのは、すっからかんで殺風景な光景だ。両サイドに取り付けた棚や飲み物や酒を冷やす冷蔵庫、冷凍されたものを保存する冷凍庫があるが、食材が1つもなかった。食材がいっぱいになったら宴会を開こうとは言ったけど、俺の財産はレストランリフォームに使ってしまったし、白玉楼の食費は無く、食材も底を突きそうなくらい少なくなっていた。まとまったお金がドンと入ってこない限り、宴会もレストランも開く事が出来ないだろう。そしてそれがいつになるかは分からない。

 

 

「完成したけど、貧困なことは変わらない…か。ひもじい」

 

 

「欧我、大丈夫なの?」

 

 

「うん、大丈夫」

 

 

 そう言って後ろに立つ文たちに顔を向けた。食材が少なくなってきたことによって、家族で食卓を囲むことは無くなり、俺も食事を摂らなくなった。ほとんどを幽々子様と妖夢のために作り、文が持って来てくれた食材も幽々子様の胃の中へと消えていった。俺は幽霊だし食事を摂らなくても生きていける事が幸いかな。それ以上に、いつも支えてくれる家族に何もしてあげられないことが悔しくて胸が痛む。

 

 

「文、心華、本当にありがとうね」

 

 

「ううん。欧我はいつも頑張っているんだもん!だから私たちも協力してあげないとね!」

 

 

「そうよ、心華の言うとおり。だから欧我も笑顔で頑張ってね。その笑顔が私の力になるから」

 

 

「うん、ありがとう!」

 

 

 文と心華の言葉が嬉しくて、2人をぎゅっと抱きしめる。その直後入口の扉に設置された鈴の音がカラカラとレストランの中に響いた。入口の方に目線を向けると、妖夢が扉の所に立って目線をそらしていた。あ、もしかして見られちゃったのかな…。

 

 

「あの、何か用ですか?」

 

 

「え、ええっと、あの、幽々子様がお呼びです」

 

 

「あ、はーい。じゃあ、行ってくるね」

 

 

 文と心華をレストランに残し、妖夢の後について白玉楼の幽々子様の部屋に向かう。用事とは一体なんだろう。食事を作ってくれだったらなんて言い訳しようかな。

 

 

 

 

 

「よく来てくれたわね。まずはレストランの完成おめでとう。これで冥界もにぎやかになるわね」

 

 

座卓を挟んで向かい側に座る幽々子様は、緑茶の入った湯呑を置いてお祝いの言葉をかけてくれた。その言葉が嬉しくてお礼を述べて頭を下げた。

 

 

「そして、これがあなたを呼んだ用事よ。レストラン完成のお祝い」

 

 

 そう言って何やら光沢のある紺色の布がかぶせられた大きなお盆を座卓の上に置いた。そして布をめくった時、目の前にあるものを見て思わず目を見開いた。

 

 

「こ、これは!?どうしてこんな大金が!?」

 

 

 そう、お盆に乗せられていたのは大量のお金だった。きっちりと束ねられたお札が重なり合い、大きな山を形作っていた。

 

 

「これは白玉楼の食費よ」

 

 

「食費っ!?え、なんで今これを渡すんですか?」

 

 

 食費が底をついてからというもの、食費が何時入ってくるのかわからないから限りある食材を切り詰め、工夫に次ぐ工夫を重ねながらなんとか今日まで繋いできた。そして食費を稼ぐためにレストランを建てたというのに。

 

 

「本当のことを言うとね、食費を渡す機会はいつでもあったの。でも、レストランを建てようと頑張っているあなたたちを見ると渡す気にはなれなくて。ほら、食費を稼ぐためにレストランを建設している段階で渡しちゃったら、レストランに向ける熱意とか情熱とかが無くなってしまうんじゃないかと思ったのよ。だからね、だから…」

 

 

「なんだよ~!」

 

 

 幽々子様の言葉を聞き、俺は力が抜けたように後ろに倒れ込んだ。幽々子様の言うことは間違っていないと思ったものの、やりきれなさを感じてしまった。じゃあ、俺の苦労は一体何だったんだ。持てる知恵を振り絞り、嵩増しレシピを総動員し、自分の食事を抜き、財産をつぎ込んでレストランを完成させた苦労は一体何だったんだ。なんか今までの苦労が馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 

 

「だからね、この食費は好きに使っていいからね、今日の夕食はお腹いっぱいまで食べたいな」

 

 

「へーい」

 

 

 この時ほど、幽々子様に対してこれほどまで言いようのない怒りと憤りを感たのは生まれて初めてだった。

  




 
「あ、これは…」

【挿絵表示】


「欧我、何か見つけたの?」

「うん、レストランの構想段階で俺が描いた内部の見取り図だよ。完成したレストランとの違いは、これよりもオープンキッチンが広くなったくらいかな」

「ふーん。…あ、ここソファがソアーになってる!」

「え、あ、間違えたの!」

「ほかにも間違いは…」

「間違い探し開始するんじゃねぇよ」
 
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