レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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※お風呂シーンがあります。
 R-15の要素が含まれているかもしれませんので、読む際はご注意ください。
 
 


第74話 心華とお風呂と家族の絆

 

「ばっちり撮れてるわね!流石写真屋だわ」

 

 

「えへへっ、すごいでしょ?ほら、こっちの写真も見て!」

 

 

「うん、どれどれ?…あははっ、こんなシーンもあったのね!」

 

 

 楽しそうな2人の声が聞こえ、閉じていた目を開いて2人の方に視線を向ける。小傘は今日の夕方まで続いた宴会の中で撮った写真を畳に並べ、文はその写真を拾い上げて目を通し、新聞で使えそうなものを選んでいる。2人とも笑顔で笑いあい、とても楽しそうだ。そんな2人を見ていると、心にもやもやとした感情が渦を巻きだした。小傘よりも私の方がたくさん働いたのに、レストランの中を走り回って、料理を運び続けたのに、なんで私よりも小傘をたくさん褒めるんだろう。はぁ、と小さくため息をつき、目をそらすように寝返りを打った。私だって、もっと褒められたいのに。

 しかし、すぐに体の向きを戻し、2人の方に視線を戻した。なぜなら、ガラガラと部屋の障子が開く音が響いたからだ。開いた障子から欧我が部屋に入ってきた。かなり疲労が蓄積された表情を浮かべてはいるが、文と小傘の「お疲れ様」という声には笑顔で応えていた。欧我なら私を褒めてくれるに違いない。そういう期待を込め、あえて目を閉じて気にしていないように装った。

 

 

「おっ、この写真ってもしかして…」

 

 

「そう!宴会で撮ったんだよ!」

 

 

「そうかぁ!かなり上達したんだね!写真屋の師匠としてこれ以上嬉しいことはないよ」

 

 

「本当!?えへへ!すごいでしょ!」

 

 

 期待していたのに、欧我なら褒めてくれると思っていたのに、私の思いは届かず、欧我は小傘たちと写真の話で盛り上がってしまった。期待を裏切られ、もやもやとした感情はさらに濃くなり、ずしんと心に重くのしかかった。この感情は一体何だろう。

 楽しそうに話す3人から遠ざかるように顔をそらし、背中を向け、寝返りを打った。寝たふりをしていたけど、今日はこのままふて寝しちゃおう。そう思い、小さくため息をついて瞳を閉じた。その直後。

 

 

「あれ、心華…」

 

 

 やっと私に気付いてくれた。諦めていただけに少し嬉しかったけど、いまさら名前を呼んだって遅すぎるんだから。どうせ私より文や小傘と話している方がいいんでしょ。私に構わずに3人で話していなさい。心の中でそう毒づき、欧我の声を無視した。

 しかし、その直後頭に優しく手が置かれた。

 

 

「そっか、寝ちゃったんだね。そりゃああれだけ働いたんだから無理もないか。ずっと見てたよ、心華。常に笑顔を絶やさず、みんなへの気配りも完璧だった。心華の働きを見ていると、本当に嬉しく、そして頼もしく感じたよ。お前は俺の自慢の娘だ。ありがとう」

 

 

 そう言って、優しく頭を撫でてくれた。ずっと見ていてくれた。私の頑張りを認めてくれた。自慢の娘だと言ってくれた。その言葉が、心のもやもやを、負の感情を一気に吹き飛ばしてくれた。

 

 

「欧我、寝ているときに言っても聞こえていないわよ。起きているときに言ったらどう?」

 

 

「面と向かい合うと恥ずかしいんだよ。でも、もちろん伝えるつもりさ。よしっ、心華が起きるまで、小傘の撮った写真でも見ていようか」

 

 

「うん!私ね、心華ちゃんの写真もたくさん撮ったんだよ!ほら、この写真見て、いい笑顔しているでしょ」

 

 

「ふふっ、本当ね」

 

 

 欧我だけじゃない。文や小傘までも、私のことをずっと見ていてくれたんだ。私の頑張りは、ちゃんとみんなに伝わっていたんだ。

 頬を伝い、一筋の涙が流れ落ちた。泣いたことを気づかれないように涙をぬぐうと、ゆっくりと起き上がり、欧我の背中にしがみついた。煙と汗の混じった臭いが鼻を突き、うっと一瞬顔をしかめる。でも、この臭いはさっきまで汗を流して働いていたっていうことだ。私より何倍も疲れているはずなのに、みんなへの気遣いを忘れない欧我は本当にすごいと思う。

 

 

「うわっ!?もう、心華も俺を驚かしにかかってくるとはな」

 

 

 そう言って欧我は笑いながら私の手を取って隣に座らせてくれた。そして私の写真を見せながら、「いい笑顔している」や「この時凄かったね」といった短い言葉を発し続けている。でも、欧我が私に伝えようとしている事柄はしっかりと感じ取ることができた。私と向かい合うと恥ずかしくて言えないから、写真を使って遠まわしに言ってくれているんだよね。そんなに頑張らなくても、一番伝えたい言葉は、寝ているときに聞いたわ。それがすごく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

「これでよしっと」

 

 

 長い髪をお団子にしてまとめ、きゅっとゴムで結んだ。ここは白玉楼の脱衣所。結局あの後言いだすことのできなかった欧我が「お風呂入って疲れを癒していきなさい」とか言って逃げるように部屋を出て行った。一緒に入りたいって言っても、いいよって言ってくれなかったし、欧我って恥ずかしがり屋なのか根性なしなのか分からないわ。

 

 

「んしょ」

 

 

 胸元から一つずつボタンをはずし、片腕ずつ袖から引き抜いてシャツを脱いだ。

 

 

「あれ?」

 

 

 上着を脱ぎ、スカートへと手を添えたところで、急に小傘が不思議そうな声を漏らした。小傘の方に視線を移すと、脱いだ服を手に持ったままじっとわたしを見つめていた。

 

 

「心華ちゃんってブラつけてないの?」

 

 

「ブラ?」

 

 

 小傘に言われ、目線を下に向けた。着ているものを脱いだので上半身は裸になっており、自分の胸があらわになっている。確かに小傘の言うとおり、家にいるときはブラをつけてはいない。締め付けられるのは好きじゃないからね。一方の小傘はというと常にブラをつけているみたいで、胸を覆うように白色のブラがまかれている。

 

 

「うーん、私もいつも着るべきかなぁ。小傘よりも大きいから」

 

 

「はぁっ!?ちょっとそれひどくない!?」

 

 

「まあまあ二人とも」

 

 

 険悪なムードになりつつある私たちを文がたしなめた。小傘もいちいちムキになりすぎなんだよ。それにしても…。見上げるように文の方へ視線を動かす。両手を背中に回してブラをはずそうとしているところだが、私たちでは到底敵わないほど大きな果実が2つ実っている。水色と黒の縞々模様のブラで押さえつけられてはいるが、それでも私たちとは比べ物にならない。欧我って、やっぱり大きいほうが好きなのかな?

 

 

「ん?どうしたの、心華」

 

 

「な、なんでもない!」

 

 

 文に気付かれたため、慌てて視線を外す。気づかれてはいないようだ。でも、どうやったらそんなに大きくなるのかな?

 

 

 

かぽーん…

 

 ふぁ~いいお湯だぁ~。極楽極楽ぅ~。

 やっぱり一仕事終えた後のお風呂って格別だよね。こりっこりに固まった疲労が緩やかにじっくりとほぐされていっているように感じられる。

 

 

「ほぁ~」

 

 

 温かいお湯が体中を優しく包み込み、じっくりと温めてくれる感覚が非常に心地よく、無意識のうちに気の抜けたような声が漏れた。

 

 

「あらあら、心華ったらご満悦ね」

 

 

 どうやらその声を文に聞かれたようで、口元に手を当ててくすくすと笑っている。その顔を見ていると途端に恥ずかしくなり、目線をそらした。

 白玉楼のお風呂はヒノキで作られ、木の匂いで、目を閉じたら森の中にいるような感覚になる。3人一緒に入っているから脚をまっすぐ伸ばすことができないけど、みんなで入るお風呂も、一人の時とは違う楽しさがある。一緒に笑ったり、おしゃべりしたり、お湯を掛け合ったり、それがとても楽しい。

 

 

「お湯の温度はどうだ?」

 

 

「ばっちりよ!ありがとう!」

 

 

 それに、外には欧我もいるしね。お湯の温度管理も欧我の仕事なんだけど、料理を作り続けて疲れているのに、まだこの仕事が残っているなんてかわいそう。欧我も一緒に入ってくればいいのに。人間の家族も、一緒にお風呂入ったりするのかな?

 

 

「ねー、小傘」

 

 

「ん?なに?」

 

 

「小傘は、欧我と一緒にお風呂入ったことあるの?」

 

 

「うん、あるよ」

 

 

「あるの!?」

 

 

 何気なく聞いた質問だったのに、小傘の口から予想外の返事が飛び出し、思わず驚きの声が口をついて飛び出した。小傘が、欧我と一緒にお風呂入ったことあるなんてちっとも知らなかった。

 

 

「うん、昔文の家で、私たち3人で暮らしているときにね。あとは、博麗神社のそばの温泉で3人一緒に入ったこともあったわ」

 

 

「そうなの!?え、文はもちろん入ったことがあるとして…えっ、じゃあ、私だけ入ってないってことになるじゃん!文たちだけずーるーいー!」

 

 

 驚きのあまり両腕を動かしてしまったので辺りに水しぶきが飛び散り、バシャバシャという音がお風呂場の中で反響して響いた。

 

 

「じゃあ、ちょうど外に本人がいるからお願いしてみたらどう?」

 

 

 顔を拭きながら、文がそう提案してくれた。っていうかさっき飛ばした水しぶきが顔にかかっちゃったみたいだね、ごめんなさい。

 

 

「そうね。ってことで欧我、一緒にお風呂に入ろうよ」

 

 

「えっ!?ってことでって言われても…ね。心華は女の子でしょ、性別違うし…」

 

 

 そうお願いしても、返ってきたのは欧我らしい返事だった。欧我って本当に根性なしなのかな。

 

 

「人里の友達も、一緒に入ってるって言ってたよ。だから気にすることないよ」

 

 

「そうですよ、欧我。心華がかわいそうよ」

 

 

 小傘も文も後押しをしてくれて、3人で欧我に訴える。その結果、渋々といった感じではあったが欧我は分かったって言ってくれた。これで私も欧我と一緒にお風呂に入ることができる。家族だからおかしいことなんて一つもないよね。

 

 

「さて、そろそろ体を洗おうかしらね。2人とも、自分で出来るかしら?」

 

 

「うん、できるよ!」

 

 

 文がそう言ってお湯から出て椅子に座った。改めて見てみると、文って思ったよりもスタイルが良くてうらやましい。引き締まったお腹に、大きく膨らんだ胸に、身長も高いし。でも幽々子のよりは小さいかな?

 文の質問に小傘が元気よく答えたが、私は自信を持ってできると答えることはできなかった。小傘がいるから気が引けるけど、頼まないと汗を流すことができない。

 

 

「文、頭洗って」

 

 

「えっ、心華って自分で洗えないの?」

 

 

 案の定小傘が驚いたような顔で聞いてきた。

 

 

「だって泡が目に入ると痛くて怖いんだもん」

 

 

「だから心華はいつも妖夢さんに洗ってもらっているよね」

 

 

「いっ、言っちゃだめー!!」

 

 

 思いもよらない人からされた突然の暴露。かあっと恥ずかしくなり、暴露をした文に向かってお湯をぶっかけた。そして隣で必死に笑いをこらえている小傘にも同じようにお湯をぶっかける。

 

 

「ごめんね心華。さあ、おいで、今日は私が洗ってあげるわ」

 

 

「はぁい」

 

 

 小傘のゴホゴホとむせる声を聞き流しながら、お湯から出る。お湯が喉の方へ入ってしまったからだろうが、笑うからいけないんだ。本当に怖いんだもん。お湯から出て、文に背中を向ける形で椅子に座り、髪を止めていたゴムをほどいた。締め付けていたゴムが解かれ、髪が花開くように広がった。

 

 

「あら、綺麗ね。心華の髪って」

 

 

「えへへ、そう?」

 

 

 文はそう言って私の髪を優しく撫でる。その言葉が嬉しくて、思わず笑顔になる。

 

 

「そうよ。長くまっすぐな髪で、ちっとも痛んでなんかいないし、滑らかで艶やかね。まるで春に咲く桜のように綺麗なピンク色をしているわ」

 

 

「うん、私も前から綺麗だなぁって思ってたよ」

 

 

「ありがと!でも、私からしたら文の黒髪も、小傘の水色もいいなって思ってるよ」

 

 

 小傘からも髪を褒められ、とっても嬉しくなった。早苗に負けないくらい艶やかでなめらかなこの髪。この髪は、私の自慢の一つ。

 

 

「さ、お湯をかけるから目を閉じて」

 

 

 文に言われたとおり、お湯が入らなように目をぎゅっと閉じて指で耳栓をした。そして鼻でお湯を吸い込まないように息を止める。その直後、頭にお湯が降りかかってきた。温かい流れは滝のように降り注ぎ、私の体を、髪を伝って流れていく。そして文の手が頭に乗せられ、わしゃわしゃと頭を洗っていく。程よい力加減で洗ってくれているので、ものすごく気持ちがいい。文って頭を洗うのが本当に上手。

 心地よさに笑みが漏れ、耳を押さえていた指を離した。でも目は閉じたままだ。

 

 

「本当に一人では洗えないんだね」

 

 

「るっさい!」

 

 

 お湯から出ているので小傘に向かってぶっかけることができないので、きつめの口調で言葉を浴びせかけた。

 

 

「そういえばね、里で見かけたけど、小さい子供が手をつないで歩いてて、それがすっごく羨ましかったの。だから、またみんなで手をつないで歩きたいな」

 

 

「ええ、そうね。また一緒に行きましょう。あっ、そういえば里に新しくできた甘味屋があるの、そこの饅頭が本当に美味しいって評判だから」

 

 

「もー、文ったらまた甘いものばっかり」

 

 

 そして3人で笑いあった。家族のみんなと過ごすこういった時間が本当に大好き。私は生まれたとき独りぼっちで、人間の言う「親」というもの、「家族」というものが分からなかった。でも、みんなと一緒にいれば、その家族という存在の温かさ、幸福感を感じることができる。私にとって、この家族は一番の宝物だ。もっと、その幸せをかみしめたい。

 

 

「ねぇ、文」

 

 

「なにかしら?」

 

 

「文のこと、ママって呼んでもいい?」

 

 

「あらぁ!」

 

 

「わっ!?」

 

 

 突然後ろに引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられた。目を閉じていたため不意のことで驚いたが、背中に押し当てられる柔らかい感触。文から優しい温もりがひしひしと伝わってきた。

 

 

「嬉しいわ心華!もちろんよ!私も、母親として見られていなかったらどうしようって思っていたけど、心華がそう言ってくれるなんて思ってもみなかったわ!もー、可愛い私の愛娘ったらぁ!」

 

 

 私を抱きしめ、頭をわしゃわしゃと撫でながらぐりぐりと頬ずりをしてくる文。それを見ていた小傘が羨ましそうな声を上げた。

 

 

「いいなぁ、ママって呼んでもらえて。ねえ心華、私は?」

 

 

「えっ、小傘は小傘でしょ?」

 

 

「ええっ!?文だけずるい!私もなんかないの?」

 

 

 そう言って小傘はふてくされたようにブーブーと口をとがらせる。その表情がすごく面白くて、つい吹き出してしまった。

 

 

「あははっ、もう冗談よ。ね、お姉ちゃん」

 

 

 お姉ちゃんと呼んだ途端、小傘は目と口を大きく見開き、そしてにぱぁっと太陽のようにまぶしい笑顔を浮かべ、首を何度も縦に振った。

 幽霊のパパに天狗のママ、そして同じ付喪神のお姉ちゃん。私にとってこの家族はかけがえのない大切なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 お風呂を出た私たちは我先にと白玉楼の台所を目指す。すべては、お風呂を出る間際に外にいた欧我が発した一言から始まった。

 

 

「台所の冷蔵庫にアイスが3つあるよ。今まで頑張ってくれたみんなへのちょっとしたお礼さ。3つとも種類が違うから、早い者勝ちだからね」

 

 

 アイスクリーム。一口含めばひんやりとした心地よい冷たさと爽快感が体中に広がり、お風呂上りで火照った体を冷やすことができる。そして滑らかな口当たりと甘く濃厚な味。一体どんな種類があるのだろう。一番に台所にたどり着いて好きな種類を選ぶ。欧我の発した競走開始の銃声にも似た一声により、ドタドタと廊下を走り続けているのだ。

 そしてドタドタと走り抜け、台所の中に飛び込んだ。結局1番になることができなかったがスタートする前に決めたルールだから仕方ない。私が選ぶのは2番目、ママの後だ。

 

 

「さあ、どんなアイスが入っているのかしらね?」

 

 

 待ちきれないといった表情で冷凍庫の取っ手を握るママ。甘いものが絡んだとたんにこれなんだから。

 冷凍庫が開かれたとたん冷たくひんやりとした空気が飛び出し、走ったことでさらに火照った体を冷やしてくれた。そして問題のアイスの種類は…

 

 

「バニラにチョコにイチゴかぁ、悩むなぁ…。心華、私時間かかりそうだから先に選んでいいよ」

 

 

「えっ、本当!?ありがとう!じゃあ…イチゴ!」

 

 

「じゃあ私も選ぶね!チョコで!」

 

 

 冷凍庫から一番大好きなイチゴのアイスを取った途端、すかさず小傘がチョコのアイスを取り上げた。必然的に残ったバニラがママの食べるアイスになったけど、ルールだから仕方ないよね!ママは若干苦笑いを浮かべながら残されたバニラアイスを手に取った。

 縁側に行って食べようと2人が歩き出す中、私はアイスを冷凍庫の中に戻した。

 

 

「あれ、食べないの?」

 

 

「うん、後で食べる。それよりも私行きたいところがあるから」

 

 

 2人と別れ向かった場所はお風呂の脱衣所。床には乱雑に脱ぎ捨てられた欧我の服が散らばっていた。かすかに煙の臭いも漂っているから間違いない。お風呂の中からお湯の音も聞こえてくるから絶対に欧我がいる。欧我とも一緒にお風呂に入りたい。その気持ちが強くなり、ここまで来た。欧我と一緒に入るのはちょっと恥ずかしいけどね。

 気づかれないように極力音を出さずに寝巻を脱ぎ、体を大きなタオルで覆った。そして引き戸に手をかけ、驚かす意味も込めて勢いよく開け放った。

 

 

「おーうがっ!」

 

 

「うわわっ!?こっ、心華!?」

 

 

「えへへっ、来ちゃった」

 

 

 案の定欧我はとっても驚いている。そしてちょっと顔が赤くなっているかな。その直後はっとしたように我に返り、そばにあったタオルをお湯の中に引き込んだ。

 

 

「ど、どうして来たの!?」

 

 

「ちょっと走ったら汗かいちゃってね。だからついでに一緒に入っちゃおうかなって思って。ダメかな?」

 

 

 少し首を前にかがめ目をキラキラと輝かせ、胸の前に右手を置き軽くタオルを握る。その姿を見て欧我は一瞬ぐっと押し黙る。小傘から聞いたとおり、欧我はこの仕草に弱いらしい。少し考えたのち、欧我は首を縦に振った。

 

 

「わかった、いいよ」

 

 

「ありがとう!!」

 

 

 前々から一緒に欧我とお風呂に入ってみたかった。その願いが叶い、思わず笑みがあふれる。桶でお湯をすくって肩から流しかけたが、そのお湯があまりに熱かったためキャッという悲鳴を上げてしまった。欧我の好みなのか、お風呂のお湯がさっきよりずっと熱くなっていた。

 

 

「あっはっは、ごめんね。今温度下げるから」

 

 

「むー」

 

 

 少し時間を空け、今度は恐る恐るお湯に足を入れた。ちょん、ちょんっと温度を確かめ、ちょうどいい湯加減になったことを確認して、体をお湯に沈めた。ざばぁっとあふれるお湯の音を聞きながら、欧我の隣に座った。欧我の体は座った状態で比較しても自分の背よりもずっと高くがっちりとしていて、ところどころ筋肉もはっきりと見て取ることができた。

 どうしよう、今になってすごくドキドキしている。

 

 

「宴会はどうだった?このままずっと続けれそうかな?」

 

 

「すごく楽しかったよ!うん、早苗とも仲良くなれたし、一緒に頑張ろうねって約束したの。だから、私も一生懸命頑張るよ」

 

 

「ありがとう、心華。お前は自慢の娘だよ」

 

 

「ん、なんか言った?」

 

 

「な、なんでもないっ!」

 

 

 聞き返すと、欧我は慌ててそう言い、ごまかすように頭をわしゃわしゃと撫でてきた。でも、私はしっかりと聞き取ることができた。欧我から言われた「自慢の娘」という言葉。その言葉の嬉しさを、心の中で何度も噛みしめる。生みの親がいない、孤独のまま生まれた私を受け入れ、娘と呼んで受け入れてくれた家族の優しさが大好き。

 

 

「ねーねー、私の頭を洗ってくれない?お返しに背中洗ってあげるからさ」

 

 

「え、さっき洗ったばかりじゃないか」

 

 

「いいの!文と小傘だけ洗って、私だけ洗っていないのは不公平よ」

 

 

「わかったわかった、じゃあ外に出て髪をほどいてね」

 

 

「うん、ありがとう!パパ!」

 


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