レストラン白玉楼   作:戌眞呂☆

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今回はリクエスト回です。
メインとなるキャラクターと料理をリクエストしていただきました。

リクエスト者:yuttii♪様
 


第75話 あきゅすずと幻想郷縁起とオムデミ

 

「あーやっ!」

 

 

 きわめて陽気な声を出しながら、障子の影からひょっこりと顔を出す。時には茶目っ気が必要かなと思い、少々おふざけも込めてやってみた。昨夜のお風呂の時から心華が自分のことを「パパ」と呼んでくれるようになってから、家族の距離が今まで以上にぐっと近くなった気がする。心華が間を取り持ってくれたことは本当にうれしかった。

 

 

「なにかしら、パパ」

 

 

 ニッとはにかみながら答えてくれた文の笑顔を見て、心がドキッと震え、顔がかぁっと熱くなる。文の可愛い笑顔を見れたこともあるが、やっぱり未だにパパと呼ばれ慣れていないな。うん。

 

 

「あー、えっとね。文にお願いしたいことがあってさ。これを見てよ」

 

 

 そう言って文に1枚の紙を差し出した。

 

 

「どれどれ?…アルバイト?」

 

 

「そう、アルバイトの募集をしようかなって思って」

 

 

 文に渡した紙、それはアルバイト募集の広告だった。今朝幽々子様の朝食の片づけを終わらせた後ちゃちゃっと作ってみた。かわいらしいフォントや見やすい配置、小傘が撮ってくれた写真を配置して作ったものだ。なかなかの傑作だと自負している。

 

 

「でも、まだ募集するの?早苗さんと心華がいて十分じゃないかしら」

 

 

「うん、確かに2人だけでも十分すぎるほどだったよ。でも、これが毎日続くとどうなる?そして早苗さんが来れない日は?そうなると心華や早苗さんの負担が大きくなって、続けられなくなっちゃうよ。だから1人か2人増やすことで、多少は楽になるんじゃないかなと思ってね。それに…」

 

 

 途中で言葉を止め、ごろんと寝転がった。文がポンポンと膝を叩いて膝枕を勧めてきたので、お言葉に甘えて膝に頭を乗せた。うん、絶景。

 

 

「問題はこっちの方さ」

 

 

「こっち?…ということは欧我の方?」

 

 

「うん。文が手伝ってくれたことで分かったんだ。レストランのキッチンは俺一人だけじゃ絶対に回しきれない。だからキッチンの方で誰か手伝ってくれる人はいないかなと思ってね」

 

 

 そう言ってはぁっと息を吐いた。今まで1週間続いた宴会の中で、文が盛り付けや皿洗いを引き受けてくれたことで俺は料理に集中することができ、会話やお酒を一緒に楽しむ余裕ができた。でも、文は鴉天狗であり幻想郷を股にかける清く正しい幻想ブン屋。取材で忙しい中手伝いを頼むわけにはいかないし、種族としての仕事もあるかもしれない。文がいなかった場合を考えると、自分1人ですべてを一手に引き受けることは不可能に近い。

 俺の話を聞き、文はふぅんという声を漏らして傍らに紙を置いた。

 

 

「つまりお願いというのは、この紙を新聞に挟んで幻想郷中にばら撒いてほしい…そういうことね」

 

 

「さすが文。そうなんだ、お願いできる?」

 

 

「もちろんよ、まっかせなさーい!」

 

 

 自分の胸をポンッと叩き、自信満々の表情でうんと頷いてくれた。さすが、自慢の妻だよ。それにしても、本当に来てくれるのかな。時給900円はいい条件だと思うけど、バイト先が冥界だし、冥界に来れる人たちはことごとく自由人だから働いてくれるかどうか…。むーん…。

 あ、もうこんな時間か。ふと壁際に置かれていた時計に目をやり、時間を確認した後ゆっくりと体を起こした。その直後、タイミングよく部屋に心華が駆け込んできた。

 

 

「パパー!準備できたよー!」

 

 

 かなり元気がいい。それだけ楽しみだということかな。

 

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 

「え、どこに行くの?」

 

 

 空中に浮かびあがって外に出ようとした俺を引き留めるように、文がそう聞いてきた。あ、言うのを完全に忘れていたよ。

 

 

「ああ、幻想郷縁起に心華のことを載せたいから来てくれって阿求ちゃんに呼ばれてさ。だからちょっと人里に行ってくるよ」

 

 

「そう!パパと人里、楽しみだなぁ!早くいこうよ!」

 

 

「はいはい。じゃあ文、行ってきます!」

 

 

「いってらっしゃい!」

 

 

 文に手を振り、心華に腕を引っ張られる形で部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 稗田邸の廊下をまっすぐ進んでいく。流石由緒ある邸宅というか、廊下には塵一つ落ちておらず、掃除したばかりのようにピカピカと輝いて見える。廊下だけではなく壁や天井、障子に至るまで掃除が行き届いている。以前もここに来たことはあるが、里で一番大きくて仰々しい屋敷に来ると、妙に緊張してしまって落ち着かない。

 

 

「こちらです」

 

 

 従者は一枚の障子の前に案内してくれた。

 

 

「葉月様と鏡美様が参りました」

 

 

「どうぞお入りください」

 

 

 従者が部屋の中に声をかけると、中から返事が返ってきた。この声は阿求ちゃんのものに間違いない。この部屋の中に阿求ちゃんがいる。またあの上品でかわいい笑顔が見られると思うと楽しみでならない。

 障子に手をかけ、ゆっくりと開いた。

 

 

「失礼します」

 

 

「お邪魔しまーす!」

 

 

 障子をあけると、そこは大きな広間になっていた。畳が何畳も敷かれた広いスペースで、奥にある床の間には大きな掛け軸と鮮やかな生け花があしらわれており、高級料亭の特別室のような雰囲気を感じさせる。部屋の中、入り口と反対側にある庭に面した縁側に阿求ちゃんと小鈴ちゃんの姿があった。小鈴ちゃんも遊びに来ているんだね。

 

 

「あ、欧我さん!こんにちは!」

 

 

「こんにちは、小鈴ちゃん。遊びに来てたの?」

 

 

「はい!あら、そちらのお方は」

 

 

「ああ、この子は鏡美…もとい、葉月心華。俺の愛娘」

 

 

 そう言って心華の背中を軽くポンッと叩いて紹介した途端、小鈴ちゃんは信じられないといったような驚愕の表情を浮かべ、えーっという絶叫に似た声を上げた。

 

 

「えっえっ!?む、娘さん!?あ、じゃあ文さんが!?で、でも欧我さんが結婚したのって今年ですよね、こんな短時間でここまで成長するわけないし…あわわ…」

 

 

「ま、まあ、そうなるのも仕方ないか…」

 

 

「ねえパパ、この人なんでこんなに驚いてるの?」

 

 

 状況が理解できず、パニックを引き起こしかねない小鈴ちゃんを前に、心華は不思議そうな表情を浮かべている。まあ人間の成長などについて心華は知らないから無理もないか。あとで何とかして説明しなきゃいけないな。

 

 

「うふふ、では、そのあたりの話も交えて、ゆっくりとお話を伺いましょう」

 

 

 阿求ちゃんに促され、大きな座卓を挟み、向かい合う形で席に着いた。そして、阿求ちゃんによる取材が始まった。取材と言っても堅苦しいものではなく、普段の生活や世間話と変わらないような和気あいあいとしたものだった。阿求ちゃんもこちらの話を興味津々で親身になって聞いてくれていて、こちらも気持ちよく話すことができた。どこかのブン屋の強引な取材とは大違いだ。

 家族のこと、心華との日常について話し続け、気づいたらあっという間に1時間が経過していた。そして今は心華の話を聞きたいということで俺は席を外し縁側に腰を下ろした。部屋の中から心華と阿求ちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。俺がいたら話せないことだってあるだろうし、胸の中に詰まっていることだってあるかもしれない。だから、思いっきり話してもらいたいかな。

 風を体に受けながら、傍らで丸くなった黒猫の背中を撫でる。阿求ちゃんが飼っている黒猫で、この子はものすごくのんびり屋で人懐っこい。

 

 

「それにしても驚きました、あの子は付喪神だったんですね」

 

 

 隣に腰を下ろした小鈴ちゃんが安堵したような声を漏らした。心華は俺たちが産んだ子供じゃないことが分かり、ようやくパニックが収まった。妖怪が生まれる過程には解明されていない部分だってあるし、もともと人間だった俺も詳しいわけではないから、同じ人間である小鈴ちゃんが理解できなかったことも頷ける。人間の場合で考えたら、子どもが生まれるまで10か月以上かかるし、今の心華の大きさまで成長するにはそれ以上の時間がかかる。結婚して1年未満の夫婦にいきなり12歳くらいの子どもが生まれることはありえないからね。小傘は、13歳くらいかな。

 

 

「そう、心華は今年白玉楼の倉庫で生まれた付喪神、すなわち手鏡が変化した妖怪さ。それから色々あって、今は大切な家族の一員なんだ」

 

 

「そうなんですね!いやあ、妖怪には子供ができないと聞いていたのでものすごく驚きました。種族を超えた愛が引き起こした奇跡だと思ったのですが」

 

 

「妖怪と人間の間に子供はできません、猫と鳥の間に子供ができないことと同じように。でも、確かに奇跡が起きましたね。大好きな妻と子供たち、小さいころから夢にまで見た家族がそばにいるという奇跡が」

 

 

 脳裏に文、小傘、心華の笑顔を思い浮かべる。いつもそばにいて、眩しくて可愛らしい笑顔を見せてくれる大好きな家族と一緒に過ごす。ここ、幻想郷に来たときは、まさかこの様に夢が叶うとは微塵も思っていなかった。奇跡だと言っても過言ではないくらい、今はとっても幸せだ。

 

 

「それは素敵ですね!羨ましいです」

 

 

「ありがとうね、小鈴ちゃん。俺たち家族に血のつながりはない。幽霊の夫に鴉天狗の妻、そして小さな付喪神の姉妹が2人。傍から見たらおかしな組み合わせだろうけど、俺にとってこの家族は何にも代えられない、とっても大切なものなんだ」

 

 

「素晴らしいですね!うんうん!」

 

 

 俺の話を聞き、感激したように何度も頷いていた。確かに傍から見れば、血の繋がっていないおかしな家族なのかもしれない。でも、俺は死んで蘇った幽霊。体の器官はどれも働かない。空腹や胸のドキドキだって本当は人間だった時の感覚の残り。つまり、俺は子供を作る機能を失ってしまった。だからこそ、今手にしている家族の絆は大切にしたい。

 小鈴ちゃんと話していると、ふと傍らに置かれている雑誌に目が留まった。表紙にはとても美味しそうな出汁巻き玉子の写真が載っている。

 

「あれ、その雑誌は……玉子特集?」

 

 

「え?あ、はい!最近入荷した外の世界の料理本です。この本に載っている料理がどれも美味しそうで食べてみたいんだけど、私も阿求ちゃんも料理に自信がなくて。ほら、これ!」

 

 

 そう言ってぱらぱらとページをめくっていき、ピッとあるページを指差した。そのページにあった料理、それはオムライス、しかも豪勢にデミグラスソースがたんまりとかかっている。ああ、確かに自信がないのも頷けるな。デミグラスソースを作るには3日くらい煮込み続けないとできないし、火加減の調節を間違えれば焦げ付いてしまう可能性だって考えられる。普通の家庭で作るとなるとかなりの根気と技術が必要なのだが、デミグラスソースは意外と女の子に人気だよな。

 

 

「このデミグラスソースというのがとっても美味しそうなんですよ!玉子との相性もいいと思うけど、今まで見たことも食べたこともなくって」

 

 

「なるほどね…じゃあ、俺が作ろうか?」

 

 

「えっ!?作ってくれるんですか!?」

 

 

 そう言った途端小鈴ちゃんの目はキラキラと輝きだした。女の子の好みは幻想郷の結界を隔てていても外と中で変わらないものだな。

 

 

「俺の仕事を忘れたの?俺はとある方の専属料理人。料理には自信があるし、ちょうど前作ったデミグラスソースも残っている。昼近いから、今日のお昼ご飯は俺が作ってあげるよ」

 

 

「本当ですか!?ありがとうございます!やったぁ!!」

 

 

 俺の手を取り、ぶんぶんと振り回しながらキャッキャと喜ぶ小鈴ちゃんを見ていると、つい可愛いなと思ってしまう。ふと部屋の中の様子をうかがうと、心華と阿求ちゃんの会話は終わる気配がない。いつ終わるかは分からないけど、全速力で往復すれば大丈夫だよね。今日の幽々子様の昼食は妖夢にお願いしたから作りに戻る必要もないし。よし、そうと決まったらさっそくレストランに取りに戻ろう。確かレストランの鍋にあったはずだから。

 

 

「んじゃ、今からちょっと必要なものを取りに行ってくるから、そのことを阿求ちゃんたちに伝えておいてね。わかった?」

 

 

「はいっ!わかりました!」

 

 

 そう言って小鈴ちゃんは立ち上がると、ウキウキとした様子で部屋の中へ駈け込んでいった。小鈴ちゃんが背を向けた隙を突いて空中に浮かびあがり、足裏に圧縮した空気をセット。それを一気に噴射させることで、推進力を得て猛スピードで冥界にあるレストランを目指した。さぁ、5分で帰ってこよう。

 

 

 

 

 

 

 よしっと気合を込め、台所に立った。流石豪邸の台所、大きなかまどがいくつもあり、食材保管庫には大量の食材が備蓄されておりどれも新鮮だ。そして最も驚くべきは使用人の数。料理を作るときにはこんなにも大勢の人が集まって作るのか。それも当たり前か、料理は阿求ちゃんだけのものではなく、使用人たちが食べる料理も作らなくてはいけないからね。使用人だって人間だからな。

 まあ、今日はその必要はないだろう。なぜならさっき使用人分の昼食を一気に作ってしまったから。阿求ちゃんと小鈴ちゃんの料理を作ると言ったら、使用人が血相を変えて拒否してきたのでざっと料理を作って黙らせた。俺の作った料理を食べた途端まるで手のひらを返したようにすごいだの調理法を教えてくれだの専属料理人にならないかだの言ってきたから丁重にお断りをしておいた。俺は幽々子様の下から離れるつもりはない。

 

 

「まずはっと…」

 

 

 鶏肉の余分な脂身をそぎ落とし、サイコロのような小ささにカット。玉ねぎは細かなみじん切りにして、食材の準備はこれでオッケー。濃厚なデミグラスをかけるからご飯の方はシンプルな感じでいいだろう。さあ、フライパンに油を注いで…と。

 

 

「パパー、手伝いに来たよー!」

 

 

「おー、心華!取材は終わったの?」

 

 

「うん!今終わったところ!それに阿求ちゃんが料理をしているところを見たいって!」

 

 

 心華の背後には阿求ちゃんだけではなく小鈴ちゃんの姿も見える。まあ確かに人が料理しているところって、どんな手際か、どんなテクニックを持っているのか、どのように作っているのか、いろいろと気になるよね。俺もオープンキッチンに行ったときは絶対に見える位置に座るからその気持ちはわからなくもないな。

 

 

「オッケー分かった。んじゃあじっくりと見ててくださいねっと。心華、さっそくだけど大き目のお皿と茶碗を一つ持ってきて!」

 

 

「はーい!」

 

 

 心華達と話しているとちょうどフライパンも温まったので、刻んだ玉ねぎを入れ、少ししんなりしてきた段階で鶏肉を加えた。

 

 

「玉ねぎと油って相性がいいんだよ。それにこうやって炒めてあげると辛みが抜けて甘く、美味しくなるんだ」

 

 

 そう教えてあげると、2人はなるほどといった感じで頷いている。まあ、もし一人で作る機会があった時に試してほしいかな。鶏肉にも火が通ったみたいだし、そこにご飯を入れて、バターを加えてまんべんなく炒め合わせる。この時はご飯粒をつぶさないように、斬るように炒めることが肝心。潰れちゃうとベチャッとしちゃうからね。塩と胡椒で味を調えたらバターライスの完成。さあ、ここからが大事なところだ。

 完成したばかりのバターライスを茶碗に盛り、軽く押し固める。茶碗を逆さにした皿の中央に押し当て、えいやっと皿ごとひっくり返した。茶碗を外すと、バターライスがまるで大きな山のように、皿の真ん中で胸を張っている。形の崩れはないようで安心したよ。もう一つの皿にも同じようにしてバターライスを盛り付け、次は上に乗せる玉子の調理。火加減や焼く時間に気を付けないと失敗してしまう、非常に難しい調理だ。

 

 

「じゃあ……あ、いや、やっぱりフライパンを使おう」

 

 

 自分の能力を使ってズルしようと思ったが、阿求ちゃんたちが見ている手前よくないよなと思い直し、フライパンを手に取った。失敗したらごめんね。

 玉子を2つボウルに割り入れ、塩と胡椒で軽く味をつける。熱したフライパンに油を敷き、玉子を流し込んだ。あとは時間との勝負。縁が固まってきたところで、フライ返しを操って破かないようにそっと、ゆっくりとフライパンから離し、下に滑り込ませた。あとはバターライスの上にこの玉子を乗せれば…

 

 

「よし…っと!できた!」

 

 

 少しずれてしまったが、なんとか破くことなく玉子を乗せることができた。でもやっぱりオムライス系の料理って苦手だな、こんなに神経使うから。でも一回できたら自信付くし、もう一つもやっちゃおう。

 背面から来る凄いや綺麗といった称賛の声を受けながら、再び温まったフライパンに油を敷き、玉子を流し込んだ。今度も時間や火加減、力加減に注意して…と。よし。こんなもんかな。

 

 

「あとはお待ちかねのこれ!」

 

 

 そう言ってデミグラスソースをすくってみせると、阿求ちゃんと小鈴ちゃんの目がキラキラと輝きだした。お待ちかねのソースの登場に、待ってましたと言わんばかりにはしゃぎだす2人。そんな2人を尻目に、レストランから持ってきて温めたデミグラスソースを玉子の周りに流しかける。最後に刻んだパセリを振り掛ければ、欧我特製オムデミの完成!

 

 

「さあできたよ!オムデミ!よし、それじゃあここからは心華の番だな」

 

 

「え?あ、うん、わかった!」

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました!オムデミでございます!」

 

 

 座卓に座った2人の前に、レストランの時と同じようにオムデミとスプーンを並べて置いた。夢にまで見たオムデミが目の前にある、その事実に小鈴ちゃんの目はキラキラと輝いている。

 

 

「さあ、召し上がれ」

 

 

「うん!いただきます!」

 

 

 元気よく両手を合わせ、待ちきれないといった感じでスプーンをつかんだ。そして、デミグラスソースのかかった部分をすくいあげ、パクッと頬張った。

 

 

「ん~っ!美味しい!!」

 

 

「わぁ、美味しい」

 

 

 口に含んだ瞬間、歓声とともにぱあっと咲き乱れる笑顔の花。こんなにも眩しい笑顔を浮かべながら、美味しいという言葉を言いながら夢中で食べ進める様子を見ていると、こちらの心とお腹も嬉しさと幸せで一杯になってくる。傍らに立つ心華と向き合い、笑顔でうなずき合った。心華も嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

「欧我さん、里でお店を開いてよ」

 

 

「え、お店…?」

 

 

 不意に小鈴ちゃんからされた提案に、思わず気の抜けたような返事が出てしまった。

 

 

「うん!とっても美味しいから里でお店出したら絶対に成功すると思うよ。それに、欧我さんの料理をまた食べたいから」

 

 

 きらきらとした瞳でじっと俺の顔を見てくるので、すでに冥界でレストランを開いているから無理だと言い出せなくなってしまった。もし行ってしまったら小鈴ちゃんは絶対に悲しむだろうし、冥界に行きたいとか言いだすかもしれない。

 

 

「うん、わかった、考えておくよ」

 

 

 だから、こう言うのが精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 人里の街道を、心華と手をつないで歩いていく。オムデミを作ったことで予定よりも時間がかかってしまったが、最高のひと時を送ることができた。でも、里でレストランか…。冥界の方が忙しくなったら里に来る暇はできないと思うし、白玉楼でもしものことがあったらすぐに駆けつけることができない。でも、毎日食材を安く提供してくれるみんなにも俺の料理を食べてもらいたい。

 

 

「パパ、レストランどうしようね」

 

 

「うん、もう少し考えようか。それよりも心華、少し寄り道しないか?」

 

 

「えっいいの!?やったー!あ、ねえねえ!ママにお土産買っていこうよ!たしかママお勧めの店は…」

 

 

 そう言って俺の腕を引っ張りながら街道を駆け出した心華。その笑顔も眩しく輝いて見えた。

 




 
「ただいまー。ってまた団子食べてるの?食べ過ぎると太るよ」

「いいの。食べるほどに強くなるんだから」MGMG

「はぁ、そうね。はい、今日の文々。新聞持ってきたよ」

「おーありがとう。この新聞、中には眉唾な情報もあるけど、幻想郷(ここ)の情報を集めるにはそこそこ役に立つよね。どれどれ…ん?」

「どうしたの?何か見つけた?」

「こ、このチラシは…っ!?」

「あああっ、よだれよだれ!」
 

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