「ふう…。」
台所に入り、ふうっと息を吐いた。
どうやら俺の料理を気に入ってくれたようだ。
みんなの美味しそうに食べる表情を見て、安心することができた。
さあ、最後まで気を抜かないように。
最後に最高の緑茶とコーヒーを用意しないと。
「あ、お疲れ様でした。」
コーヒーの用意をしていると、台所に妖夢が大量の食器を抱えて入ってきた。
もしかして…。
「それ、全部幽々子様の?」
「はい、そうです。」
マジで!?
俺、こんなにも大量の料理を作り続けないといけないの!?
しかも毎日、朝昼晩+間食、それが100年間…。
過労で死んだりしないだろうか。
「あっ、大丈夫ですよ。すぐに慣れますから。」
俺の青ざめた表情を見て、妖夢はそう笑顔で言った。
当分慣れそうにない…。
「そう言えば、フルコースはすべて出したのですか?」
「あっ!?」
妖夢のその言葉にハッと我に返る。
そうだった、まだコーヒーと緑茶を出してない!
慌てて準備を行い、台所を飛び出した。
「お待たせいたしました。食後のコーヒーと緑茶でございます。」
にとりさんと屠自古さん、妹紅さんの前には緑茶。
文と天子さんの前にはコーヒーとミルク、ガムシロップを置いた。
全員に行き届いたことを確認すると、自分の分の緑茶と共に床に座った。
「皆さん、今日はいかがでした。」
わざわざそんなこと聞かなくても、みんなの表情を見ただけで満足したかどうかが分かる。
「本当に美味しかったよ!」
「そうだな。私たちの好きなものを料理に使ってくれて、本当に嬉しかったよ。」
にとりさんと妹紅さんが笑顔で言ってくれた。
天子さんは何も言わなかったけど、コーヒーを飲んで幸せそうな笑みを浮かべている様子を見れば、一目瞭然だけどね。
それにしても…。
「しまった~。」
文はさっきから頭を抱えてぶつぶつと呟いてばかりいる。
コーヒーに手を付けようともしない。
「ど、どうしたのですか?」
「料理に夢中で写真を撮るのを忘れてた~。」
ありゃま…。
なんか申し訳ないことをしたような…。
にとりさんたちは苦笑いを浮かべているし。
「なあ、どうすればいいんだ?」
「あー、屠自古さん。しばらくこの状態が続きますから、そっとしておくのが一番ですよ。しばらくすれば復活しますから。」
「あら、欧我って文の事をずいぶん知っているわね。さすが同棲しているだけはあるね。」
そう天子さんがニヤニヤしながら肘で小突いてきた。
止めてくださいよ、恥ずかしくなってくる。
「写真が~…。」
「ま、今はそっとしておきましょう。それよりも、今は食後のひと時を楽しみましょうよ。」
そう言って、自分の分の湯飲みを持ち上げる。
口の中に流れ込んできた緑茶の温もりが、体に溜まった緊張や疲れを一気に溶かしてくれた。
しばらくすると文も復活し、みんなで談笑しながら午後のひと時を過ごした。
みんなと笑いあい、しゃべり合っていると、いつの間にか2時を過ぎていた。
飲み終わったコーヒーカップや湯飲みをお盆に乗せて、台所まで運ぶ。
台所に妖夢の姿はなく、代わりに綺麗に洗われた大量のお皿が並べられていた。
どうやらフルコースの方で使用した食器も妖夢が洗ってくれたみたいだ。
後で感謝の気持ちを込めたケーキを作ろうかな。
流しのそばにお盆を置き、使用した湯飲みやコーヒーカップを洗う。
すると、台所の障子が開く音が聞こえた。
入口の方に顔を向けると、そこには文が立っていた。
「あれ、どうしたの?」
「欧我…。」
文の寂しそうな表情を見て、俺の顔から笑顔が消えた。
「私、そろそろ家に帰るわね。」
「うん…。」
文は宴会の後、今まで白玉楼に泊まりながら今日の食事会の準備や食材の買い出し、郵便の配達など、常に俺のそばにいて手伝ってくれた。
でも、その食事会もとうとう終わってしまった。
つまり、文がここに泊まる理由が無くなってしまったのだ。
俺はここ、冥界を出ることができない。
文が家に帰ると、もう文の隣にいることができなくなる。
そのことに悲しみを抱いたらしい。俺だって、文と一緒に暮らせないのはつらいし悲しい。
でも、それは仕方のないことなんだ。
「私、欧我と一緒に暮らしたかった。欧我のそばを離れたくない。」
「文。」
文に歩み寄り、そっと抱きしめた。
「ごめんな。俺だって文と一緒に暮らしたい。だから、もう100年だけ待っていてくれませんか。100年経ったら、また一緒に暮らそう。」
耳元で、優しくその言葉を口にした。
俺を抱きしめ、文は「うん。」と頷いてくれた。
「わかったわ。欧我と一緒に暮らせるなら、100年でも、1000年でも、ずっと待ち続ける。」
「文…ありがとう。」
文のその言葉が、とてもうれしかった。
そのまま、2人はしばらく抱きしめあっていた。
「あっ、俺の体冷たいよね。」
「ううん。欧我の心が温かいから、ちっとも冷たくないよ。」
「もう、恥ずかしいこと言わないでよ。」
「照れちゃって。ふふっ、欧我って可愛いわね。」
「可愛いって言うなぁー。」
白玉楼の門の前で、今日のお客様と向き合った。
「皆さん、今日はありがとうございました。」
文たち5人に向け、深々と頭を下げる。
みんなが喜んでくれた。その事だけで、とても嬉しかった。
「いや、こちらこそ美味しい料理をありがとう。」
「ああ。レシピを聞けなかったのが悔しいがな。」
「妹紅さん、レシピを聞いてどうするつもりですか?」
「いや、私も普段料理を作っているが、試してみたい調理法がたくさんあったんだよ。それで自分でも作りたくなって。」
へぇ、妹紅さんも自炊をしているんですね。
妹紅'sキッチン…。
あれ?どこかで聞いたことあるような…。
「じゃあ私たちはこれで失礼するわ。また呼んでちょうだい。」
そう言って天子さんは空へと飛びあがった。
その後に続いて妹紅さんたちも飛びあがったが、文だけはその場に残ったままだった。
「欧我、また来るね。」
「うん、何時でもおいで。」
唇を合わせると、文は空へと飛びあがった。
その姿が見えなくなるまで、俺は手を振り続けていた。
「ねぇ、妹紅さんに屠自古さん。」
「ん?なんだ文か。どうした?」
「実はですね…。」
妹紅と屠自古の耳元で何かを囁く文。
「今夜…?」
「面白そうだな。」
「はい。ぜひ協力してください。」
3人で不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、分かった。」
「やってやんよ。」