しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第一章
第一話


ここは愛媛県今治市、造船とタオルで有名なこの街の港に巨大な艦影が横たわっている。

この旧日本海軍の航空母艦に似た巨大な鉄の塊、しまなみ女子工業学園学園艦は、長い航海を終え、物資の補給と各設備の保守点検・整備のため母港で羽根を休めていた。

 

季節は四月、桜も見ごろを迎え、新入生を迎えた校内は活気に溢れている。

 

 

「あ、会長、おはようございます!」

 

「おはようございます」

 

「かいちょー、お早うっす」

 

「はい、お早うっす」

 

 

下級生や同級生から、朝の挨拶を受けながら、この学園艦の生徒会長 大垣零の一日が始まった。

 

 

まずはタイムカードを押して、全校生徒が校庭に集合しラジオ体操を行い、校内清掃を行う。

全校生徒1500人の眼前で、第二まできっちり体操の見本をするのは結構恥ずかしいが、もはや慣れたものである。

 

このしまなみ女子工業学園の学園艦は、造船・機械工学・建築・繊維・情報通信といった分野で、次世代に羽ばたく人材を育成する為に、大垣重工という企業が設立した学園艦である。

その時代の最先端技術をいち早く生かせる人材を、卒業までに育成するというのが設立の目的であり、海外からの留学生も多く、校内は他の学園艦と同じかそれ以上に国際色豊かだ。

 

 

学食も巨大で、全校生徒・教職員が座れるだけの席が準備されており、今日も日々の勉強と実習で腹ペコになった生徒達の胃袋を満たしている。

ちなみに今日は金曜日なので、日替わりランチはカツ野菜カレーである。

 

零も午前中の授業を終えて、二人のクラスメイト達と昼食を楽しんでいた。

 

「昼からは3Dプリンターの実習と、旋盤・溶接実習か。早めに着替えて準備しておかないと」

 

「零、そう焦らなくてもいいわよ。いつも一番乗りなんだからたまにはゆっくりしたら?」

 

 

昼食を終え、実習室へ急ごうとする零を、生徒会副会長の陸奥原龍子が止める。零と同じ機械科2年生の学年首席であり、実習でも常に完璧な成績を収める才女である。

 

 

「ううん。みんなの足引っ張りたくないし、授業の時間を長く取ってほしいから……」

 

 

いつもそう言って零は誰よりも早く、実習の為の資材搬出や、機器の始動準備を行っている。

 

 

「零ちゃん、零ちゃん。龍ちゃんの言う通りだよ、急激な運動は体に悪いよ」

 

 

デザートのガトーショコラを食べながら話すのは、生徒会書記・広報を務める紅城烈華である。機械科の二年生次席であり、生徒会では動画作成・メディア広報などを一手に引き受けている。

 

「烈華はもう少し運動なさい、また少し太ったんじゃないの?」

 

陸奥原はそう言うが、零から見た烈華は、あまり太ったとも思えない。むしろ出るところが出ていて魅力的なスタイルに思える。

 

「え~ん零ちゃん、龍ちゃんがいじめるよ~」

 

しなだれかかって来る紅城の頭を、零はしょうがないなぁとぽんぽんと撫でる。

 

「あぁ、もぅ……烈華ったらすぐ零に甘えるんだから……」

 

何かと愛嬌があり、いつも明るい烈華は生徒会のムードメーカーであり、その甘え上手な性格も相まって零や龍子だけでなく、多くの人から愛されている。最近は学園艦広報の動画チャンネルにも出演しており結構な視聴数を稼ぎ出している彼女は、もはや学園艦のアイドル言っても過言ではない。

 

 

いつもと変わらない平穏なランチタイムだったが、そこに校内放送が響く。

 

 

「「機械科二年五組、大垣零さん。至急学園長室まで」」

 

 

「二人とも御免ね、呼び出し入っちゃった……」

 

 

「気にしないで、先に行って準備しておくから」

 

「う~ん何だろうね?また学園長の無茶振りかな?」

 

 

昼食を終え、二人と別れた零は学園備え付けの自転車で3ブロック先の学園長室に急ぐ。

学園長室は学園艦の艦橋最上階にあり、徒歩で行くにはかなり遠い。広大な学園内には、移動用自転車が備え付けられており、生徒の校内移動の重要な足になっている。

 

 

「機械科二年五組、大垣零です」

 

 

そう言って扉をノックすると、入室を促す声が聞こえて零は扉を開ける。

 

 

「まぁまぁ零ちゃん、お昼に呼び出して御免なさいね。どうぞそこに掛けて、お茶菓子準備するわね」

 

 

そう言いながらいそいそと紅茶と菓子を準備するのは、零の祖母である。

大垣重工の前最高経営責任者であり、現在はその職を零の叔母に譲り、自身はこの学園艦の学園長に収まっている。

 

 

ふわりと紅茶のいい香りがしてくる。祖母は紅茶を淹れるのが本当に上手であり、小さな時から零は祖母が淹れる紅茶が大好きだった。

 

 

しかし同時に零はすごく嫌な予感がしていた。何故なら祖母がこうして自分を呼び出して、美味しい紅茶を振る舞う時は、大概無茶な用件を頼まれる事が多いからである。そして今回もその予想は外れなかった。

 

ウエッジウッドの茶器に注がれた紅茶と、スコーンが零に差し出される。

そうしていつになく、神妙な面持ちで学園長が話し出した。

 

 

「実はお願いがあるの、我が校での戦車道の必修選択科目立ち上げを貴女に任せたいの」

 

 

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