しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第十六話

「敵陣地まで残り1キロメートル、シルト隊全車会敵に備えよ!」

 

パンター中戦車二両と、Ⅲ号中戦車二両から成る赤星小梅が率いる小隊が、しまなみ防御陣地の左側面へ全速力で向かっていた。

 

「こちらアクスト隊、交戦開始!敵は五式中戦車一両とソミュアS35が二両!」

 

右側面で挟撃作戦を行っているパンター中戦車二両、Ⅲ号中戦車二両から成るアクスト隊の小隊長、小島エミから交戦開始の無線が入る。赤星も眼前に敵の五式中戦車と、M15/42二両を確認し、スロートマイクに触れる。敵駆逐戦車の猛烈な阻止砲火を紙一重で避け敵陣になだれ込んだ。

 

(負けられない……みほさんと戦うまでは!生まれ変わった私達の姿を見てもらうまでは!)

 

「こちらシルト隊、敵五式中戦車一両とM15/42中戦車二両を確認!これより交戦開始します!」

 

 

 

「流石は黒森峰!車両の動きも射撃の正確さも化け物じみてる!」

 

五式中戦車車長の長原が、小島エミ率いるアクスト隊と交戦しながら叫ぶ。互いに岩石に隠れながらフェイント機動と砲撃を繰り返す。必殺の間合いで両校の七両の戦車が戦っていた。

 

「五式はバウアーさんと私でなんとかするから、貴女達はソミュアを!援護するから次の砲撃で一気に飛び込んで!」

「了解致しました!」

 

小島とバウアーの車両が五式に向かって連続砲撃を行うと同時に、Ⅲ号戦車が一気に敵陣地に向かって切り込みを開始する、快速のⅢ号と粘りの防御戦闘を続けるソミュアS35との戦闘が始まった。敵の五式中戦車は主砲を88ミリ砲に換装しており、破壊力はまほが乗るティーガーⅠ並みである。しかも半自動装填装置を活かしたとんでもない砲撃速度でこちらに撃ち込んでくるので下手に頭を出すことさえ出来ない。

 

「成程、中距離では近づく事さえ出来ないね・・でも接近戦ではどうかな!?」

 

エミの車両が身を隠していた岩石から飛び出し、一気に間合いを詰める。が、五式中戦車の副砲の37ミリ砲が猛烈な牽制射撃を撃ち込んでくる。それを躱し、車両同士が接触し火花が散る距離まで接近する。互いの砲弾が車両を掠り合って車内にぞっとするような金属音が響く。

 

「エミっそいつを引き付けておいて!砲塔側面を撃ち抜いてやる!」

 

バウアーが車長を務めるパンターが五式中戦車に砲身を向ける。五式中戦車は砲塔側面の装甲が薄く、一発の被弾でも致命傷になる。だがバウアーの必殺の一撃は砲身への一撃で照準が逸れ、砲弾が虚空を舞う。砲身を半分もぎ取られたバウアーの車両から白旗が上がった。

 

「嘘だろう!?砲身へ直撃させるなんてそんな芸当できる奴がいるのか?」

 

バウアーが驚きの声を上げる。

 

「間に合った!!」

 

五式中戦車への援護射撃を放ったⅣ号突撃砲車長のベアトリーセが声を上げる。だがその脆弱な側面を晒した一瞬の隙を、ヤークトティーガーの車長は見逃さなかった。

 

「もらった……皆の仇、取らせてもらうぞ!砲撃開始!」

 

ヤークトティーガーから放たれた砲弾がⅣ号突撃砲を貫く寸前に、一両の車両が間に割って入り、側面に砲弾を受けて白旗が上がる。

 

「ドクダミチーム撃破されました……隊長ごめんなさい、もうここまでみたい」

 

「響さん!どうして貴女が……」

 

「ベアトリーセさん、貴女がいないと私達は黒森峰に勝てない・・・だから必ず生き延びて」

 

「ベアトリーセ!フラッグ車の貴女が何迂闊な事やってるの、早く戻って!私達の運命は貴女に掛かっているのよ!」

 

機関部に直撃弾を食らい、炎を上げて炎上する響の車両に向かって頭を下げ、ベアトリーセは陣地に戻る。

 

 

 

Ⅲ号戦車の零距離射撃を受けてガーベラチームとユズリハチームのソミュアS35から白旗が揚がる。しかし同時に発射されていた砲弾がⅢ号を貫き同時に白旗が揚がった。

 

「あらあら、御免なさい隊長……でも二両道連れに出来てよかった」

 

「零隊長申し訳ありません……最後まで……最後までお供したかったです……」

 

朝河がスカートの裾を握り、声を振り絞って被撃破の報告をする。きつく瞑った目から涙が滲んだ。

 

「勝ちたいだろうな黒森峰の!だがそれは私達も同じ!」

 

「次の砲撃で決めるよ!フェイントを掛けつつ、五式の砲塔側面を狙って!」

 

砲撃と車両同士の接触でボロボロになった戦車を引きずり、長原率いるウメチームの五式中戦車と、小島エミのパンターが向かい合い突進する。五式中戦車が放った88ミリ砲の砲弾がパンターの履帯をごっそりえぐり取る。が、白旗は上がらず、パンターが放った砲弾が五式中戦車の砲塔側面を貫き白旗が揚がる。再起不能な損傷を負ったパンターより白旗が揚がる。しまなみと黒森峰、互いの意地と勝利への執念がぶつかり合っていた。

 

 

 

「エレナさん、マルティーナさん 後は私達に任せて。二人はヤークトティーガーの撃破に向かって」

 

「了解したわ」「椿、撃破されるんじゃないヨ!」

 

パンター一両と対峙しているツバキチーム車長の室町椿は僚車にヤークトティーガーの撃破に向かうよう促す。

 

「さてさてパンターの車長さん、決着をつけましょうか」

 

五式中戦車の車長がにこりと赤星に凄絶な笑みを向ける。敵車長の、獣が牙を見せるような笑みを見て、赤星は笑顔は本来攻撃的な表情であるという言葉を思い出す。周りには白旗を上げ擱座したパンター一両と、Ⅲ号戦車が二両横たわり、赤星率いるシルト隊は壊滅的な打撃を受けていた。

 

「なぜですか、なぜ私達の前に立ちはだかるのですか……挫折も、後悔も知らない、戦う理由も無い、失う事の悲しみも知らない貴女達が……私達は去年の大会から大切なものを失い、生まれ変わろうと努力をしました。なぜ私達の邪魔をするのですか……なぜ私達に勝とうとするのですか……」

 

感情が沸き上がり、赤星の目からいつの間にか涙が浮かぶ。去年の大会で、自分が乗った車両が原因の事故で、黒森峰は十連覇の夢を断たれ、副隊長の西住みほは黒森峰を追われ、転校していった。赤星は努力をした、他校との練習試合では誰よりも敵戦車を屠り、戦車道にひたすらに没頭した。自分を助けようとした副隊長の戦車道が、間違っていなかった事を証明したかった。黒森峰も変わろうと踠いた。重戦車偏重の戦術から、中戦車の機動力を重視した小隊を編成し、隊員達は命令を待つだけの駒から生まれ変わろうと必死に踠いた。そんな自分達が、新規履修校に負けるかもしれないという現実が、赤星は信じられなかった。

 

「あらあら、随分と私達を安く見てくれたものですね……栄えある黒森峰の小隊長がこんな甘ったれでは、西住みほさんも浮かばれませんね」

 

口角を上げて、話す五式中戦車の車長に対して、赤星は激情が走る。

 

「知った風な事を言わないでください!何も知らないくせに……私達の事を何も知らないくせに!」

 

「ええそうですよ!貴女達の事なんて何も知りませんよ!だから拳で存分に語り合いましょう!」

 

互いの車長の足を合図に、操縦手が鋼鉄の獣に意志を与える。勝利を渇望する二匹の獣は、お互いの喉笛を食いちぎらんとするように縺れ合い、泥まみれになりながら砲弾という拳で殴り合う。オーバーヒート寸前まで酷使された内燃機関が生み出す熱が熱病のように、砲弾を受けた部品から漏れた機械油が傷から溢れた血液のように、金属同士が擦れ合う音は骨の軋みの如くに感じられる。幾度も砲弾を交え、車体を激突させ、語り合う。最終ラウンドまで戦い合ったボクサーのように、死闘を繰り広げながら、互いに止めの一撃を食らわせることを模索していた。

 

「次の砲撃で決める!あの五式を正面から抜いて見せる!みんなお願い、私に力を頂戴!」

 

「防盾のショットトラップを狙う!みんな頼むわよ!」

 

二両の戦車が正面から向き合い、出走前の競走馬か、柵から放たれる前の闘牛の息吹の如く原動機を嘶かせる。操縦手が車両を一気に加速させる。赤星のパンターの砲弾が五式中戦車の前面装甲を、室町の五式中戦車から3秒間隔で打ち出された三発の砲弾が、杭打ちのようにパンターの防盾下の装甲を貫く。同時に両車両から白旗が上がった。

 

「ツバキチーム撃破されました……隊長、どうか後は宜しくお願いします…交信終わる」

 

 

 

ツバキチームと別れたオニユリ・アマリリスチームは、ヤークトティーガー撃破の為、地形に身を隠しながら二両で探索を続けていた。

 

「エレナ、どうする?ここから遠距離射撃で狙う?」

「ダメ!この距離だと、ヤツの装甲にはカスリキズしかつけられなイ!」

 

そうしてようやく伏撃ポイントに身をひそめるヤークトティーガーを発見したもの、距離が遠い。

しばらく考え込んでいたが、もはや時間がない。まごついていると、この絶好の機会を失ってしまう。

 

「じゃあさ……前に練習したアレやってみる?」

 

マルティーナがいたずらっぽい笑みを浮かべて、エレナに提案する。

 

「エぇー!練習でも一度も成功してないヨ!」

「いいじゃない、今こそ成功させようよ。私達なら絶対出来る」

 

妙に自信たっぷりに話す相棒を見て、肩をすくめてエレナも笑顔を見せる。

 

「分かった、それじゃ派手に行こうカ!弾種徹甲装填!目標ヤークトティーガー!」

「イタリア人とイタリア戦車だってやるときゃやる所を見せてやるわ、エレナいくよ!」

 

エレナが駆るM15/42中戦車が行進間射撃をしつつ、二両が一糸乱れぬ動きでヤークトティーガーに向かって最大戦速で突進する。

 

「うおぉ……駆逐艦並みの砲に狙われるとか怖すぎ…やっぱり止めようか……」

「マルティーナ今更ヘタれてないで、絶対にここで仕留めるヨ!」

 

「一両で挑んで来るとはいい度胸だ!だが射線に入っているぞ馬鹿め!砲撃開始!」

 

現代の主力戦車をも凌ぐ、128ミリ砲の砲弾がオニユリチームのM15/42の機関部に吸い込まれるように着弾し、白旗が揚がる。

 

「かかったネ……お前が撃ったのは残像ダ!今だマルティーナ!」

 

撃破されたM15/42の影からもう一両の戦車が飛び出す。敵から見える角度を計算し、完全に動きをシンクロさせて二両の戦車を一両に見せていたのだった。アメリカ海軍アクロバットチームの飛行をヒントに、エレナとマルティーナが編み出した。

 

「そ、そんな馬鹿な!?左回り急速旋回!」

 

「もう遅い!ヤークト後方の土手からスリットを狙って3連射!いくよっ!!」

 

アマリリスチームのM15/42が全速で後方にある土手に回り込む。ヤークトティーガーの旋回速度は遅く、長雨の泥濘が鼠捕りのように履帯に纏わりつき中戦車の軌道を追従する事は出来ない。必殺のアングルから放たれた三連射の砲弾はヤークトティーガーの機関部を貫き、白旗を上げさせた。

 

「やった!ヤークトティーガー撃破!!……って、まずい!急速後退!!」

 

M15/42中戦車を着弾の閃光が包む。ターレットリング付近に直撃を受け、戦闘不能になった車両より白旗が上がる。

 

「遅かったか……」

 

エリカが悔し気に呟き、天を仰ぐ。

 

マルティーナの目の前を、黒森峰のティーガーⅡが悠々と突き進んでいく。砲塔から身を乗り出した銀髪が美しい車長と目が合うが、お互いに何も言葉はない。そうしてティーガーⅡの車長が二両の健闘を称え、略帽を取り、一礼し去っていく。

 

「この乱戦でも礼節を失わないか……これが黒森峰の戦車道……」

 

マルティーナは走りゆくティーガーⅡを見届けながら、残った零達の健闘を祈るのだった。

 

 

 

「零!ティーガーⅠの砲口が黒点になったら右肩を蹴って!」

「了解!」

 

数刻が経った。両校とも多くの戦車が撃破され、しまなみはキキョウチームのstrv m/40L・クローバーチームのⅣ号突撃砲・カトレアチームのARL44の三両が、黒森峰は西住まほのティーガーⅠ・逸見エリカのティーガーⅡの二両が生き残っていた。平原ではstrv m/40LとティーガーⅠ、ティーガーⅡがドッグファイトを繰り広げていた。互いが互いの後ろを取ろうと履帯が外れる限界まで高速・低速機動を駆使して旋回し砲撃を繰り返す。

 

「エリカ!」「畏まりました隊長!」

 

まほのティーガーⅠと、エリカのティーガーⅡが零のstrv m/40Lを両側から挟み込み、並走するような形になる。擦れ合う履帯からは火花が散り、50トンを超える重戦車に挟まれ、strv m/40Lの小さな車体は軋み音に包まれる。

 

「零、大したものだ。私がここまで追い詰められたのは嘗てのみほとの紅白戦以来だ」

「よくここまで頑張ったわね零!だけどここで終わらせてあげる!安心なさい、苦しいのは一瞬よ!」

 

ティーガーⅠと、ティーガーⅡがしまなみの隊長車を圧し潰そうと、両側から猛烈なチャージを加える。strv m40/Lの車内は特殊カーボンの猛烈な軋み音と履帯が擦れ合う金属音が響き、操縦手の陸奥原が咆哮し操縦桿を動かし続ける。しかし包囲を解くことは出来ない。

 

「させるかぁぁぁ!!」

「何!?」

 

後方から最大戦速で突進してきた重戦車ARL44の体当たりを受けて、まほが乗るティーガーⅠが吹き飛ぶ。

 

「西住隊長!」

 

すかさずエリカのティーガーⅡからARL44へ速応射撃が加えられる。が、ARL44の重装甲はそれを弾き返し、ほぼ零距離に近い状態でティーガーⅡにARL44の90ミリ主砲から射撃が加えられる。

 

「ぐううぅう!」

 

砲塔に直撃弾を受け、猛烈な衝撃が伝わり、身を乗り出していたエリカは半分気絶しそうになる。カトレアチームの決死の突撃で、strv m/40Lが黒森峰の隊長・副隊長車からの猛攻から解放された。

 

「ルイーズさん、ありがとう!」

「馬鹿ね零、騎士より先に死ぬ姫がどこにいるの?」

 

「隊長、ルイーズ!早くこっちへ!敵はもう回復しつつあります!」

 

後方からベアトリーセが二人を呼ぶ。しかし、ルイーズのARL44は動かない。

 

「私達は残るわ。ここで奴らを食い止めるから、貴女達は最後の攻撃の準備をして」

「そんな事は出来ない!私も残ります!」

「零!貴女の役目はこの試合に勝つ事よ。ベアトリーセを宜しく零、早く行きなさい!」

 

操縦士の陸奥原が無言で戦車を動かし始める、真横に着いたⅣ号突撃砲のエスコートを受けて、二両が走り出す。

 

愛する仲間達の勝利を祈り、迫りくるティーガーⅠとティーガーⅡを眼前に見据える。まさか、異国の地で母国フランスの戦車を駆り、ドイツのティーガーⅠ・ティーガーⅡと戦えるとは、しかも日本最強と言われる黒森峰女学園の隊長・副隊長に単騎で立ち向かえる事にカトレアチーム全員の心は燃え上がる。ルイーズは以前本で読んだ、トーマス・バビントン・マコーリーの橋の上のホラティウスの詩を呟いていた。

 

「そして門の守り手、勇敢なホラティウスは言った。地上のあらゆる人間に、死は遅かれ早かれ訪れる。ならば、強敵に立ち向かう以上に尊い死があるだろうか。先祖の遺灰のため、神々の殿堂のため……みんな、奴らに私達の戦車道を見せてやりましょう」

 

ARL44から白旗が上がったのはそれから数十分後。黒森峰の二両に甚大なダメージを与え、零とベアトリーセが最後の攻撃の準備を終えてすぐの事。ルイーズ達カトレアチームは、しまなみのゴールキーパーとしての役目を存分に果たしたのだった。

 

 

 

キキョウチームとクローバーチームは、ルイーズの食い止めによってまほとエリカの追撃から逃れ、木々が生い茂る昼なお暗い林の中で、敵の出現をじっと待ち伏せていた。車両には擬装網を掛け、その時を待つ。キキョウチームのstrv m/40Lは、黒森峰の榴弾の雨を潜り抜け、更にティーガーⅠ・ティーガーⅡの両サイドからのチャージを受けて、満身創痍といった状態で、もはや僅かな余力しかない。反対にクローバーチームのⅣ号突撃砲は、一発の被弾も無く、試合開始と状態はほぼ変わりがない。チーム全員で徹底して行った、クローバーチームを最高の状態で最後までサポートし、守り抜くという作戦が実を結んでいた。

 

やがて眼前に巨大な鋼鉄の虎が姿を現す。黒森峰の二両の戦車は、砲塔と足回りに深刻なダメージを負っていたが、操縦手と砲手、二人の天才的な車長の手によって、その戦闘力を衰えさせる事無く、維持していた。主砲の照準スコープで二両を見ていた零は、まるで巨大な虎と、銀色の狼が獲物を見据えにじり寄ってくるように見え、怖気づきそうになる。しかし、もう後には引けない。先に撃破された仲間たちの事を想いながら、無線でチームメイト皆に語り掛ける。

 

「皆さん……どんな結果になっても、私は皆さんと一緒にここまで来られた事を誇りに思います。あともう少しです。各員の奮迅の働きを期待します」

 

strv m/40Lと、Ⅳ号突撃砲が一気に前進を開始する。strv m/40Lが煙幕を噴き上げながらティーガーⅠの左前方に回り込みながら、主砲で左側の転輪を狙い撃つ。転輪が歪み、足回りが悲鳴を上げるがまほは冷静だった。後はⅣ号突撃砲が、自車の左前方から後方に回り込み、零距離射撃で機関部を狙い撃ち、雌雄を決そうとするだろう。操縦手は足回りにストレスを与えないようにミリ単位の繊細な操作でⅣ号突撃砲に対し昼飯の角度を取り、砲手は偏差射撃で捉えるべく主砲を照準する。後はⅣ号突撃砲の横っ腹を88ミリ砲弾が貫くだけである。しかし、88ミリ砲から完璧なタイミングで撃ちだされた砲弾は、Ⅳ号突撃砲の鼻先をわずかに掠め、後方の地面に大穴を空ける。Ⅳ号突撃砲の後部牽引フックに車両牽引用の鋼鉄のワイヤーが括られ、林の中の大木に繋がれていた。どんな戦車でも、急ブレーキをかけても慣性によってすぐには静止出来ない、しかし戦車と大木をワイヤーで結べば、一気に速度を殺して急制動を掛ける事が出来る。大木を軸に、ワイヤーによって繋がれたⅣ号突撃砲は、まるでコンパスのように正確な弧を描きながら、まほのティーガーⅠに吸い込まれるように突進していく。

 

「隊長! 零いぃ、貴女の相手はこの私よ!」

 

エリカのティーガーⅡが、眼前を走る零のstrv m/40Lを死に物狂いで撃ち抜こうとするが、60トンの車重を長時間に渡って支えてきた足回りが限界を迎え、車両が動揺し照準もままならない。零は、ティーガーⅡの後方の高台に回り込み、高低差を利用してティーガーⅡの後部排気口から機関部を狙う。

 

「ベアトリーセさん!」「零さん!」

 

Ⅳ号突撃砲がティーガーⅠの斜め正面に食らいつき、砲塔のターレットリングに対して零距離射撃の態勢を組む。ティーガーⅠも砲塔を旋回させ、Ⅳ号突撃砲の機関部を狙うが突撃砲の低い車高に対し俯角が取れない。最高のタイミングと角度でⅣ号突撃砲の75ミリ砲が火を噴く。射撃後、辺り一帯を息が詰まる程の静寂が包んだ。黒森峰フラッグ車のティーガーⅠとティーガーⅡ、そしてエリカと相撃ちになった零のstrv m/40Lから白旗が上がる。

 

「黒森峰女学園フラッグ車走行不能、及び残存車両なし。しまなみ女子工業学園残存車両1」

 

「しまなみ女子工業学園の勝利!!」

 

審判員と審判長の蝶野亜美の声が会場に響き渡り、会場は歓声に包まれる。長く降り続いた雨も止み、雲の切れ間から降り注ぐ太陽の光が、両校の選手達の健闘を称えるように、戦場と戦車を優しく照らしていた。

 

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