しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第十七話

 

「両校、礼!」

 

「ありがとうございました!」

 

 

しまなみ女子工業学園と、黒森峰女学園の戦車道履修生が準決勝試合後の終礼を行っていた。他の武道やスポーツと同じく、礼に始まり、礼に終わるのは戦車道も同じである。西住まほのティーガーⅠを相手に勝利を収めたベアトリーセは、その微熱のような現実感が湧かないふわふわした感じに戸惑っていた。

 

 

「メルダースさん、お久しぶり。挨拶が遅れてすまなかった」

 

「お、お久しぶりです西住さん」

 

 

と、すぐにまほが話しかけてきた。過去の事もあり、西住まほに苦手意識を持っていたベアトリーセは若干たじろいでしまう。

 

「まさかワイヤーを使ってⅣ号突撃砲に急制動を掛けるとはな・・・高地陣地に対しての射撃といい、勉強をさせてもらったよ。ありがとう、いい試合だった」

 

そう言って右手をまほが差し出す。

 

「あ ありがとうございます!」

 

その手をベアトリーセは固く握る。それをルイーズや零、しまなみの履修生みんなが笑顔で見ていた。

 

「3年前の私の一勝と、今回の貴女の一勝。これで互いにイーブンだ。どうやら私は思っていた以上に負けず嫌いらしい。いつかまた、貴女と戦える日を楽しみにしている」

 

握手の手がぎりりと強くなる。しかし、ベアトリーセも負けていない。笑顔で強く握り返して反撃する。

 

「望むところです。私も楽しみにしています、西住さん」

 

「貴女が戦車道をまた選んでくれていて良かった・・・また会おう」

 

微笑みながら踵を返し、去っていく西住まほをベアトリーセは見送る。

 

 

「お疲れ様、ベアトリーセ。西住まほ・・・凄い相手だったわね。試合が終わったのにまだ手が震えてる・・・」

 

いつの間にか隣にルイーズとマルティーナ、音森とエレナが立っていた。

 

「でも勝ったのはベアトリーセさん。なんか、優勝出来そうな気がしてきた」

 

音森が珍しく、少し興奮した面持ちで話す。

 

「やったネ!ベアトリーセ!」「おめでとう、ベアトリーセ!」

 

エレナとマルティーナが抱き着いてきてベアトリーセはその場に倒れこんでしまう。

 

「お、お二人ともありがとうございます」

 

大型犬に飛びつかれたようになっているベアトリーセを見て、ルイーズは思わず微笑む。

 

「さて、今晩はささやかな祝勝会といきましょうか。零には許可を貰ってるから、久々に私が腕を振るうわね。マルティーナもよろしく」

 

「了解ルイーズ、任せといて」

 

「あの、隊長はどこに?」

 

 

その頃零は、連盟による試合終了後の車検にエリカと共に立ち会っていた。試合の前後に行われる違反物の積載や、車輌の不正改造を行っていないかを確認する検査である。勿論両校の戦車に不正などあるはずも無く、検査はスムーズに進み短時間で終了した。

 

 

「ぷっ・・・あっはっはっは! もうダメ限界! ぷっ! あっはっは!」

 

「エ、エリカさん。そんなに笑わないでください・・・」

 

零は砲塔にティーガーⅡの零距離射撃を受けた際、集中のあまり照準スコープに顔を密着させたままだった為、射撃の衝撃をもろに受けてしまい、目の周りにはくっきりと丸い跡が出来ていた。それがまるでみほが好きなクマのぬいぐるみに似ていて、試合後でハイの頂点を極めている事も手伝ってか、エリカは笑いが止まらない。

 

「ごめんごめん。しかし本当に・・・よくも勝ってくれたわね!ケーニッヒスティーガーが軽戦車に撃破されるなんて前代未聞よ。はぁ・・・全く、どの顔下げて西住師範の所に報告に行けばいいのよ」

 

「すみませんエリカさん・・・」

 

「もう、何で零が謝るのよ。むしろ感謝してる。最後まで全力を尽くして、日頃の鍛錬の成果を発揮して黒森峰の戦車道を体現することが出来たから・・・去年出来なかった事を思いっきり出来たんだもの。悔いはないわ。無論反省・改善点は山の如し、負けたのは悔しいけれど、完璧に勝てた試合より、なんだかすっきりしているの。不思議なものね」

 

そう言ってエリカが零に手を差し出す

 

「ありがとう零、いい試合だったわ」

 

零もしっかりと、その手を握り返す。

 

「今はまだ西住隊長の副官でしかない私だけれど、いつか黒森峰の隊長になって貴女と肩を並べて見せる。零は私の生涯の獲物よ。次は負けないから、私達との次の試合、首を洗って待ってなさい」

 

そう言って握っている零の手を更に強くエリカが握る。その強さは新宿駅でエリカと初めて握り合った時と同じ強さと温かさだった。黒森峰の副隊長であれば、それだけで終生自慢出来る名誉な事である、だがエリカは黒森峰の隊長という更なる高みを目指そうとしている。その上昇志向の強さに零は心底頭が下がる思いだった。しかし、なんだかエリカの目がギラついていて少し怖い。

 

「こちらこそ ど、どうかお手柔らかにお願いします・・・」

 

「もう、こんな時くらいしっかり胸を張りなさいな!」

 

「はぅ!」

 

エリカに思いっきりお尻を叩かれて、試合中にお尻を強かに打っていたいた零はおもわずその場でへたり込んでしまう。

 

「ど、どうしたの零! え?何?試合中お尻をめちゃくちゃ打った?なんでこの場面でそんな事になるのよ・・・」

 

「うぅ・・・エリカさんのセクハラおやじ・・・」

 

 

「二人とも楽しそうだな」

 

「に、西住隊長!」

 

「いいんだエリカ、そのまま」

 

姿勢を正そうとしたエリカをまほが制する。

 

「零、尻の具合はどうだ?」

 

ものすごく単刀直入に聞かれて、零も「い、いえ!大丈夫です、おかげ様で・・・」と何がおかげ様なのか分からない返答をするのが精一杯である。

 

「ふむ、臀部を強打すると尾てい骨を骨折する危険性があるからな。なんだか心配だ、医務室まで連れていってやろう」

 

「いえ、だいじょう・・・って、西住隊長!?」

 

いきなりの事に零は声を上げる。まほはへたり込んでいた零を横向きに抱え上げた。俗にいうお姫様だっこである。

 

「エリカ、零を医務室まで連れて行く。すまないが後を頼むぞ」

 

「かしこまりました!」

 

「あ、あの西住隊長、本当に大丈夫ですから!」

 

「いいから、年上の気遣いは素直に受けるものだぞ」

 

そういってまほは医務室まで歩き始めた。

 

今自分をお姫様だっこで運んでいるのは、全戦車道女子の憧れ、高校戦車道のスーパースター選手の西住まほである。零は、周りの視線が恥ずかしいが、戦車道やっててよかったぁ・・・などと呑気に思っていた。

 

「今日はルクスで追い掛け回して済まなかったな、怖かっただろう?」

 

歩きながらまほが話し始める。

 

「少々手荒だったとは思うが、我々は眼前の敵をみすみす取り逃がすわけにはいかない。これも戦車道の習い、許してくれよ」

 

耳元近くで零に話しかけるその声は、とても優しく、威徳がある。エリカをはじめ、実力者揃いの黒森峰を纏め上げて来たまほの片鱗を思わせた。

 

「はい。確かに少し怖かったですが、いい勉強をさせて頂きました」

 

零がそう答えると、なかなかタフな奴だとまほも笑みをこぼす。

 

「今日の試合は久しぶりに腹の底から楽しめた。ありがとう零、礼を言うぞ」

 

「いえ、そんな勿体ない!今日は悪天候もあって、黒森峰の皆さんには本領を発揮出来ない不利な状況下でしたし・・・」

 

「零、自分達の勝利を誇りに思え。勝ちを偶然や運の産物だと評価していると、いずれ自分達が何故勝てたのか分からなくなる。謙譲の美徳は時に悪徳でもある、勝敗は運では無く必然がもたらすものだ」

 

「まぁ、黒森峰を二度、優勝に導けなかった隊長の言うことだ、あまり学びにならないかもしれないがな」

 

「そんな、西住隊長は!」

 

「いいんだ、零。事実そうだから逃れようがないさ。ただ、お前には何故か話したくなったんだ」

 

「黒森峰はエリカ達の手でこれから一気に生まれ変わり、更に強くなるだろう。私もドイツで更に研鑽を積む。いつかまた、零やしまなみの皆と戦える日を楽しみにしているぞ」

 

「ありがとうございます、西住隊長。私も頑張ります。いつかまた・・・」

 

「あぁ」

 

二人目を合わせ笑い合う。そうして医務室に到着し、診察を受けた所、打ち身との診断だった。冷湿布を貰い、化粧室で湿布を貼ろうとする零に、「遠慮するな、貼りにくい場所なのだから貼ってやろう」と言い寄ってくるまほを丁重にお断りし、帰りは二人で並んで歩いてチームメイト達のもとに帰ったのだった。

 

 

 

「いや~長原さん達の五式には参ったよ。3秒間隔で88ミリ砲連続射撃なんて反則だって・・・しかもあの操縦、本当に戦車道初めて3か月なの?私らの立つ瀬が無いよ・・・」

 

「ほんとほんと。しっかしエミはまだ見せ場あったからいいよ。ちっくしょー、突撃砲に砲身半分吹っ飛ばされるなんて戦車道やってて初めてだよ・・・」

 

「いやいや、エミさんとバウアーさんのパンターの砲撃精度と車両機動の俊敏さと精確さときたら・・・大垣隊長が言っていた日本最強の黒森峰戦車道の妙技、聞きしに勝るものだったよ」

 

何処か馬が合うのか、アクスト隊小隊長の小島エミとバウアー、ウメチーム・五式中戦車車長の長原門野の三人はスポーツドリンクを飲みながらお喋りを楽しみ、ソミュアS35のユズリハ・ガーベラチーム車長の朝河と荒川は、同じく一年生のアクスト隊・シルト隊のⅢ号戦車の乗員達と、今日の戦いの話と、互いの隊長自慢に花を咲かせていた。

 

 

「室町さん、今日はすみませんでした。貴女達にひどいことを言っちゃいました・・・」

 

激闘を繰り広げた赤星小梅と、ツバキチーム・五式中戦車車長の室町椿が話し合っていた。

 

「そんな、赤星さん。私こそすみませんでした、赤星さん達の事も知らずに色々言ってしまって・・・」

 

そう言って、室町は赤星に深々と頭を下げる。

 

「い、いえ!そんな頭を上げて下さい室町さん!」

 

そうして互いにぺこぺこ頭を下げ合う、そうしている内になんだか笑いが込み上げてくる。

 

「今日の試合、負けたのは悔しいけど本当に楽しかったです。室町さん達と全力で戦えて本当に良かった・・・」

 

「こちらこそ、小梅さん達もすごいガッツでした。小梅さん達の戦い振りを見て、きっとみほさんも喜んでいますよ。ふむ、梅と椿・・・もしかしたら私達、すごく相性がいいのかもしれませんね」

 

にこりと微笑み、室町が差し出す手を、赤星もぎゅっと握り返す。互いを讃え合い、認め合うという、ありふれた、だが現実には難しい事を自然とすることができ、赤星は嬉しさが込み上げる。疑似的な命のやり取りを通し、人と人を強い絆で結ぶ、戦車道とはそうしたものなのかもしれないと室町は考えていた。

 

「さぁ、そろそろ閉会式ですね。赤星さん、行きましょうか」

 

「はい!」

 

二人でチームメイト達の待つ会場へと歩みを進める。

 

閉会式では各表彰が行われた。今試合のMVPには、しまなみを勝利に導いたベアトリーセが、ベストバトルには不撓不屈の闘志を戦車道で表現した赤星小梅と室町椿の戦いが選ばれた。表彰された三人に、会場の観客・スタッフ、そして両校の生徒達から万雷の拍手と歓声が沸き起こる。こうして、様々な人間の、様々な後悔や過去を昇華させて、しまなみ女子工業学園と、黒森峰女学園の準決勝は幕を閉じた。

 

 

閉会式も終え、連盟・大会スタッフへの挨拶や、戦車を学園艦まで運ぶ積載車への積み込みも無事見届け、学園長に報告を終えた零はやっと終わったと肩を撫でおろす。と、そこに携帯電話に着信が入った。

 

「お待たせしました。大垣です」

 

「やぁやぁ大垣ちゃん!角谷です、お疲れ様でーす」

 

声の主は大洗女学園の生徒会長角谷杏だった。

 

「忙しい所を悪いね、もう話出来るかな?」

 

「はい、丁度全部片付いた所だったので大丈夫ですよ」

 

零は近くのベンチに腰掛ける。ひんやりしたベンチの冷たさに、やっと試合が終わったという実感が沸いて来た。

 

「大勝利おめでとう!いや~大垣ちゃん達なら出来ると思ってたよ、まさか黒森峰相手に勝っちゃうなんてさ。中継みんなで見てたけど、もうみんな熱くなっちゃって大騒ぎだったんだよ。新規履修校が黒森峰相手に勝っちゃうなんて、凄い事成し遂げちゃったね!大洗の皆を代表して、私がお祝いの電話したってわけさ~」

 

杏が興奮した様子で話す。

 

「わざわざありがとうございます角谷さん。今日の試合も、チームの皆が死力を尽くして頑張ってくれて勝つことが出来ました。きっと大洗の皆さんの応援のおかげですね」

 

「またまた~謙遜しちゃってさ~敵わないね~大垣ちゃんには」

 

そうして、今日の試合の事や、明日のプラウダ高校との試合の事など、色々と話し合う。試合前日に電話で話したばかりなのに、話は尽きる事無く進んでいく。

 

「おっと、もうこんな時間か・・・それじゃね、大垣ちゃん。明日の試合、絶対みんなで中継見ててよね!大垣ちゃん達に応援して貰えれば、私達も勝てる気がするんだ」

 

「勿論ですよ、角谷さん。現地に行けないのが本当に残念ですが、チームの皆で、応援させて頂きます。大洗の皆さんなら、絶対にプラウダ高校に勝てます!」

 

「そうかな・・・ ありがとね」

 

そうして、別れの挨拶を行い、零が電話を切ろうとすると

 

「あのさ! 大垣ちゃん!」

 

杏が大きな声で、零に呼びかける。

 

「ど、どうしました角谷さん?」

 

普段の余裕のある声とは違う、どこか切羽詰まったような声色に零は戸惑う

 

「い、いや あはは、なんでもないよ~ じゃ、明日の試合見ててよね!じゃあね!」

 

そう言って電話を切られてしまった。零は何か嫌な胸騒ぎを覚えつつ、チームの皆が待つ学園艦に戻るため、戦車道連盟が準備した車両に乗りこむ。黄昏時、異様に赤い夕焼けが零をどこか心細い、不安な気持ちにさせた。

 

 

「いいんですか、会長」

 

大洗学園艦の艦橋にある生徒会室、会長の椅子に腰かけて外を見ている杏に小山は話す。

 

「あぁ、いいんだ。これで・・・」

 

そう言って、杏は携帯電話を折り畳む。

 

「ですが会長!大垣重工は戦車道プロリーグの大口のスポンサーになる予定です!大垣会長を通して、しまなみ女子工業学園の学園長に文科省へ圧力をかけて頂き、大洗の廃艦阻止に動いてもらうのでは無かったのですか!?溺愛するお孫さんの大垣会長の願いであれば、大垣重工を支配している前最高経営責任者の学園長を動かす事が出来るとおっしゃっていたではないですか!その為に、これまで大垣会長に接近してきたのではなかったのですか!?我々にはもう後が」

 

「桃ちゃん!!」

 

小山が怒りの籠った声で河嶋を抑える。それにはっとした表情で河嶋が我に還る。

 

「で、出過ぎた口を・・・会長申し訳ありません!」

 

「いいんだ河嶋。その通りだよ。廃艦阻止の為に、大垣零に接近したのは事実だからね」

 

そう言って、杏は席から立ち、窓から学園を見下ろす。試合の関係で、かなり高緯度に近い地域に停泊している事もあり、雪が降っており人影はあまり無い。しかし、多くの家々にはあかりが灯り、そこで生活している人々の息吹が窺えた。

 

「明日のプラウダとの試合中に、大洗女子学園廃艦が速報で報道される手筈になっている。勿論廃艦撤回の条件も一緒にね。学園艦教育局の非情な決定に抗おうと立ち上がった、か弱い大洗の女子高生達。判官びいきな日本人がこれに飛び付かない筈はないよ」

 

「明日の試合、大垣零には私達の試合の中継をチーム全員で見るように頼んでおいた。お人好し揃いのしまなみの皆が、明日の報道を見れば、私達との決勝戦で本来の実力を発揮できなくなるのは必定だからね。しまなみには、決勝戦で勝つことが出来ない試合を戦ってもらう。私は自分の手を汚さず、大垣ちゃんと、しまなみの皆を苦悩と失墜のどん底に叩き落すってわけさ。これで私の策は完成。ははっ、我ながら最高に最低だね」

 

そうどこか投げやりに話す杏の背中は、どこか小さく、そのままどこかに消えてしまいそうに見える。

 

「みんなの帰る場所を守らないといけないんだ、その為なら・・・」

 

「もういい、もういいよ杏。もうわかったから」

 

小山が杏を後ろから抱きしめる。廃艦を言い渡されてから、杏はその類稀な才能故に孤独な戦いを続けていた。そんな中でも、気丈さを失わず、飄々としながら皆を支えてきた。それを知っている小山は杏を抱きしめる事しか出来なかった。

 

「明日の試合は絶対に勝つ。私が砲手と車長を務める。河嶋も死ぬ気で装填手を務めろ。小山は手の皮が破れようが操縦桿から手を離すな。私も全身全霊を注いで役割を果たす。だから・・・二人とも頼んだよ」

 

杏がそういうと、河嶋も杏と小山を抱きしめる。いつも三人で一緒だった。小山と河嶋は、杏とならどんな地獄へも共に行く覚悟だった。

 

 

「明日はいよいよ準決勝か~なんか緊張しちゃうな~」

 

大浴場で、練習の汗を流したあんこうチームの面々は、寮や自宅に向かって歩いていた。

 

「寒い・・・なんで夏場にこんな寒い所で試合しなきゃならないんだ・・・」

 

分厚いコートを着て、寒いのが苦手な冷泉麻子が恨めし気に呟く。夏場でも降雪のある地域での試合となるため、学園艦にも雪が降っている。

 

「降雪地帯はプラウダのホームグラウンドです、明日の試合はプラウダ有利な構図ですね西住殿」

 

秋山優花里がむむむと唸りながらみほに話す。

 

「そうだね優花里さん、だけど皆でいっぱい練習してきたんだもん。きっといい試合になるよ」

 

みほはそう言って優花里にほほ笑む。優花里もそうでありますねと微笑みながら話す。

 

「明日の試合の事を思うと私、胸が熱くなるんです!絶対に勝って、しまなみの皆さんと決勝の大舞台で戦いたいです!」

 

「華ったら、昨日のしまなみと黒森峰の試合見てから気合入ってるね~」

 

「当然です!みなさん、明日の試合は頑張りましょうね!」

 

そう言って四人で華の音頭でまだ勝ってはいないが勝鬨を上げる。みほも、明日の試合は何だか面白い事が起こりそうな予感がしていた。

 

「じゃあね、みぽりん。湯冷めしないように、早く寝なよ。おやすみ~」

 

「お休みなさい西住殿!」「おやすみなさい、みほさん」「おやすみ西住さん」

 

「うん、みんなお休み」

 

そう言ってみほは寮の前で四人と別れる。不思議と階段を上る足取りも軽やかだった。自室に入り、部屋着に着替え、帰り道のコンビニで買ったアイスの封を開ける。テレビをつけ、のんびりとベッドに寝そべりながら、みほは枕の隣にいつも置いている零が贈った、手作りのボコのぬいぐるみを手に取った。

 

「えへへ、零さん。もう少しでまた戦えるね・・・今度はどんな試合になるかなぁ、楽しみだなぁ・・・」

 

一番の宝物のぬいぐるみを高く上げ、みほは微笑む。ぬいぐるみ以外、何も映っていないその目は、獲物を狙う猛禽類の目にどこか似ていた。

 

 


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