「「戦車道?」」
放課後、零は、生徒会室で陸奥原と紅城に昼の顛末を打ち明けた。
「そう、今年度から必修選択科目に戦車道を新たに取り入れるらしいの。その立ち上げと運営を、生徒会主導で進めて欲しいみたい」
そう言いながら零は、昼の事を思い出していた。
「戦車道…… ですか?」
茶道・華道と並ぶ、日本の芸事。古来より乙女の嗜みにして、良妻賢母を育む事を目指した武芸だったかなと?祖母の淹れた紅茶を味わいながら零は思い出す。
「そう、慈愛と敬愛・礼節と慎み・強く美しい心を育む戦車道。
今年度から他の学園艦でも、必修科目として復活させる動きがある事は知ってる?
文部科学省も力を入れていて、更に社会人プロリーグの発足も間近。
この機会に、是非わが校でも戦車道を必修選択科目に取り入れたいの。
そこでね、戦車道に関する準備・運営を零ちゃん達、生徒会の皆にお願いしたいの」
急に無理を言って御免なさいね と、祖母が零に話す。
戦車道……たまにニュースの録画で実業団とか、海外の大会の試合結果が流れるぐらいでしか見た事ないけど大丈夫かな…… と、零は考える。
若干心配だが、学園長でもある祖母からの頼みとあらば断る事は出来ない。戦車道の事も、戦車の事もよく知らないが、大袈裟に考えず、戦車も一つの機械と考えればなんとかなるかなと思い、零は、紅茶をごくりと飲み干し、学園長に向き直り話す。
「分かりました。他の生徒会役員にも話しておきます。微力ですが、精一杯取り組まさせて頂きます」
そう言うと、祖母は本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、零を強く抱き締めた。
「ありがとう零ちゃん! そう言ってくれると思っていたわ!」
「わわっ、おばあちゃんやめてよ…… ちょっとくるしい……」
零がそう言っても祖母はなかなか抱きしめるのを止めない、祖母のハグが終わったのはたっぷり3分後だった。
「しかし……戦車道とは参ったわね。うちの学園艦は戦車道の活動は今まで無かったしノウハウなんて無きに等しいわよ」
困ったように陸奥原が呟く。しまなみにも、他校と同じく選択必修科目はある。たがそれは華道や茶道といった科目のみであり、戦車道は今まで科目に無かったのである。
「そういえば、戦車道って戦車が必要なんだよね。この学園艦にそんなものあったっけ?
まさか機械科で戦車も一から作らなきゃダメって事?」
これが華道であれば、花器と花があれば何とか形だけでも成立するかもしれない。しかし、戦車道は戦車が無ければ成り立たない。普段考えた事もないものを一体どう準備すれば良いのか検討もつかないといった様子で、紅城も不安気だ。
当の零も頭を抱えていたが、やがて決心したように、二人に話し出す。
「ひとまず一ヶ月後に、必修科目が成り立つような状態を作り上げよう」
「先ずは戦車だけど、これは学院長が手配をつけてくれているみたいだから心配いらないよ。明後日の出航までに港の駅に鉄路で届くから、烈ちゃんは運送業者の人と積み込みの段取りをしておいて。車両は上部甲板Dブロックの第三倉庫に搬入をお願い」
「了解、零ちゃん。早速段取りをするから後から業者さんの連絡先を教えてね」
零が指示を出すと、紅城がてきぱきと戦車受け入れの段取りを始める。
「使用する戦車だけど、かなりの年代物みたいだから、安全に授業を行う為にも、一度徹底的にオーバーホールして、使用出来ない部品を洗い出さなきゃ……むっちゃんは学校の設備の使用に関して、先生達と打ち合わせをしておいて。学園艦の工場も戦車道に関する部品の製造は優先的に回してくれるみたいだし、もし部品が学園艦で内製出来れば、部品不足で授業に穴を空けたりせずに済むし、何より学園艦の工場の精度は折り紙付きだから」
「分かったわ零、早速先生達に話を付けておく」
「明後日の朝礼で、全校生徒に対して履修の募集をかけてみよう。戦車道連盟から配布されたDVDがあるからそれを放映して、履修を募るの。本物の戦車も出せたらよかったけど、操縦方法も分からないし、今あるもので何が出来るか考えていこうか」
「「了解!!」」
そうと決まれば話が早いといった感じに、陸奥原と紅城は元気に零に返事を返す。
こうして、しまなみ女子工業学園の戦車道が生徒会室で静かにスタートしたのだった。