しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第二十一話

戦車道全国大会決勝戦、しまなみ女子工業学園の隊長車strv m/40Lと、大洗女子学園の隊長車Ⅳ号戦車は廃校跡を舞台に最後の戦いを繰り広げていた。

 

最早、お互いに持っている手札は切り切っていた。

 

闘志を剥き出しにして、自分達の全てを相手にぶつけ合う。

 

「はぁっ…はぁっ…強い……!」

 

何度目かの激しい接近戦を終え、額の汗を拭いながら零は呟く。自らの対角線上で猛獣の咆哮のようにエンジンを嘶かせるⅣ号戦車を見て、自然と口角が上がってしまう。兎に角言葉が無い程に強い。どんなに追い込んでも、絶妙な車両コントロールで躱され、精密狙撃のような砲撃を撃ち込んで来る。装填速度も凄まじい。何一つ隙が無く、どんなピンチも弾き返してくる。

 

聞き分け上手で、諦め上手なもう一人の自分がしつこく囁き掛ける。

 

”もう十分やったよ、皆笑顔で迎えてくれるんだからもう諦めようよ”

 

”負けたっていいんだよ、大洗の皆を助けられるんだよ?”

 

操縦手の陸奥原がstrv m40/Lの性能を限界まで絞り出し、装填手の紅城が己の限界を超えた最速の装填を持ってしても、目の前のⅣ号戦車には致命傷を与えられない。もし、自らが放った砲弾が、Ⅳ号戦車から白旗を揚げさせたなら、大洗女子学園は廃校になる。零は死神のように頭をよぎる雑念を振り払い己を奮い立たせ、主砲のトリガーを引く。自分達が西住みほと真っ向勝負しなければ、今まで戦ってきた知波単の、ボンプルの、黒森峰の皆の汗と努力と涙を何処に葬ればいい? わざと負けるつもりなど毛頭無い。

 

しかし、追い付けない。どうやっても。

 

背中を獲っても、するりと躱される。

 

砲撃しても、何物にも貫けない盾のように貫けない。

 

己の努力や、勝利の渇望も軍神の前では塵に等しいのかもしれない。

 

 

しかし、どうしようも無く楽しい。

 

 

只々ひたむきに、目の前の好敵手に自分達の全力をぶつける。

 

ダンスのステップをパートナーと合わせるように、車両を疾駆させる。

 

共に歌うように、砲声を響かせる。

 

拳で語り合うように、車両をぶつけ合う。

 

 

幾度と無い戦いを経て、Ⅳ号戦車が距離を取り、互いに向かい合う。Ⅳ号も満身創痍といった状態で、きっとこの一刺しが最後の戦いになる事を零は悟る。

 

「零。西住さん達、次で勝負を決めるつもりよ……いよいよフィナーレね」

 

冷静な声で、操縦手の陸奥原が零に伝える。限界を超えた機動を幾度となく繰り返し、strv m/40Lの足回りは限界を超えていた。

 

「零ちゃん、最後にアレやってみようよ。西住さん達に熱いキスをプレゼントしてあげようよ♪」

 

装填手の紅城が零にいたずらっぽい笑顔を向けながら話す。三人共が、この一撃が最後の戦いになる事が分かっていた。

 

零は、初めての練習試合で大洗の磯前神社の一の鳥居の前で、Ⅳ号戦車の突撃を、strv m/40Lで受け止めた時の事を思い出す。きっとこの戦い方が、みほの必勝パターンなのだろう。ならば、こちらは全力でそれを受け止めるまでだ。まるで野球のバッテリーみたいだなと少し自嘲気味な気分になる。

 

「いや、むしろピッチャーとバッターの関係なのかな……?」

 

「え?零ちゃん、どうしたの?」

 

零の呟きに、紅城がきょとんとしながら話しかける。

 

「ううん、何でも無いよ」

 

零は微笑みながら紅城に返す。そして、目を瞑り、空気を胸いっぱいに吸い込む。硝煙のたまらない香りに闘争本能と生存本能を掻き立てられる。最高の仲間達と、戦車の神様に愛された人間が操る戦車に最後の挑戦を行う。それだけで、もう十分だった。

 

 

「さぁ、行こう二人とも!」

 

「「応!!」」

 

Ⅳ号戦車がこちらに向かって猛牛の如く突進してくる。操縦手の陸奥原は、その動きを正確に読み取り、避弾経始と砲撃に最適な角度に車両を遷移させる。

 

「零ちゃん!装填完了!」

 

紅城の声に零がトリガーを引き、Ⅳ号のターレットリングに高速徹甲弾を撃ち込む。放たれた砲弾はリングに突き刺さるが致命傷になら無い。しかし、瞬時に装填手の紅城が、最高のタイミングで装填を行い、零が更に一発Ⅳ号に撃ち込む。砲弾は一発目を更に深く押し込む形で着弾する。黒森峰の重戦車を撃破する為、磨きに磨いたスポットバーストショットが炸裂する。

しかし、Ⅳ号戦車から放たれた砲弾が、strv m/40Lの転輪に着弾し、砕かれた転輪と履帯が飛び散る。

 

「やられた!履帯はもう駄目!零、烈華!後はお願い!」

 

「あいよっ龍ちゃん!任された!」

 

着弾の衝撃で動揺する戦車の中で、烈華が砲弾装填を行う。零は最後の一撃を放つべく、照準器を覗き、指先に全神経を集中させる。

 

全てがスローモーションのようにゆっくりと流れるように感じる中で、零は一人呟く

 

「ありがとう 二人とも みんな そしてみほさん 貴女達と一緒に戦えて本当に幸せだった」

 

strv m/40Lの37ミリ砲から高速徹甲弾が放たれる。しかし、Ⅳ号の化け物の如きスライド機動を捉えきれない。その間に、Ⅳ号は高速でスライドしながらstrv m/40Lの後方に回り込む。砲撃の爆音と、衝撃がstrv m40/L車内に響き渡った。

 

 

 

零は試合後、連盟による戦車の車検にみほと一緒に立ち会っていた。先程まで死闘を繰り広げていた両校の戦車達が一堂に並び、一台ずつ連盟の検査員によって不正改造や違反物の積載が無いかチェックを受けていた。無論両校の戦車に不正などはある筈も無く、検査は短時間で完了した。両校の戦車達は満身創痍といった状態ではあるが、一様に誇らしげに、鈍く輝いている。

 

零とみほは、検査が終わった後も二人でおしゃべりを楽しんでいた。試合後のテンションもあってか話が弾み、二人で話していると時間を忘れてしまいそうになる。試合の事、仲間達の事、家族の事、話題は尽きず、放課後に教室で談笑している気分だった。

 

「あら、みほさん そのボコは……」

 

零は、みほの左の胸ポケットからちらりと可愛らしく顔を覗かせているボコの縫いぐるみに気が付く。それは大会の抽選会の時に、零がみほにプレゼントした手作りのボコだ。

 

「えへへ、一緒に連れてきちゃいました」

 

ポケットからボコを取り出して、愛おしそうにみほはボコを両手で優しく握りしめる。

 

「ねぇ……零さん」

 

ふと、みほが零に問いかける。

 

「どうして、零さんは私達に全力で向かって来てくれたの……?」

 

みほにも大洗としまなみを取り巻く状況は分かっていたし、しまなみが勝った場合、昨年優勝したプラウダのように謂れのない批判を受ける可能性がある事は分かっていた。しかし、零達は自分達に手を抜かず、全力で向かって来た。それが何故なのか、みほは知りたかった。

 

「それは当然、全力で向かう事がみほさん達とこれまで戦って来た皆さんへの礼儀だからです。廃校の件で手心なんて加える気は無かったですし、そんな事したら頑張っているみほさん達を馬鹿にする事になりますから」

 

少しはにかみながら話す零に、敗北した者の悲壮感は無い。

 

「それに……みほさん達との待ちに待った再戦だったんです。勝てないのは嫌だけど、みっともなく負けるのはもっと嫌でしたから。私だけで無く、皆同じ気持ちだったと思いますよ」

 

零の視線の先には、先程まで戦っていたのが嘘のように、和気あいあいとおしゃべりを楽しむ両校のチームメンバーたちの姿があった。そうして零は、少し身なりを整えてみほに向き合う。手を差し出す。

 

「みほさん、優勝おめでとう。試合、本当に楽しかったです。それに……渡河の際の仲間を見捨てない姿、震える位に感動しました」

 

零は少し高揚した声色で、みほに賛辞を贈る。

 

「そ、そんな 零さん達の声援もすごく嬉しかったです……あ、ありがとうございます!」

 

みほは差し出された手を、ボコのぬいぐるみと一緒に握り返す。その手は零と最初に会った時と同じ、父の手に似た手の皮が厚い働き者の手だった。

 

 

「二人とも、いい雰囲気の所悪いね。大垣ちゃん、少しいいかな」

 

 

零が振り向くと、そこには杏が立っていた。

 

「角谷さん……」

 

二人の間にしばし沈黙の時間が流れる。

 

「あ、のさ……ごめんなさいって言いたかったんだ……」

 

杏は、零達が大洗を応援する為プラウダとの試合を中継で見ていてくれている事、その配信の中継中に大洗廃校が速報で流れる事、しまなみが自分達への情けで本領を発揮出来なくなり、ぐちゃぐちゃになって試合に負けるようになれと、心ならずとも画策していた。そして、そんな地中の蟲の如く蠢いていた自分の姿を、零は知らない筈は無いと今日の試合で直感していた。

 

「い、いえ あの、良くわかりませんが気になさらないで下さい」

 

しかし当の零はそう言って、頭を下げる杏の姿に動揺し、わたわたしている。それを見て、杏はやるせない気持ちになる。実際こちらが一方的に謝っている状態で、零の本心までは読めない。こちらに気を使ってわざと知らない振りをしているのか、それとも本当に知らないのか。だが杏も頑固な一面がある、零との関係を元通りにする為なら何でもするつもりだった。

 

「大垣ちゃん!私を殴ってよ!」

 

「えぇっ!?」

 

突然の杏の提案に、零は思わず面食らってしまう。なんだか話が噛み合わない状態のまま、杏は自分を殴れと言って来る。

 

「お願いだよ、こうでもしないと自分の気が済まないんだ。だからさ、頼むよ。これが私なりのケジメなんだ」

 

杏の頑なな様子に零も戸惑っていたが、その決意を剥き出しにした様子についに折れた。

 

「分かりました……では、角谷さん 目を瞑って歯を食いしばって下さい」

 

少し低い声色になった零の言葉に、杏は目を閉じ、奥歯を食いしばる。

 

あぁ、こんな声色の大垣ちゃん初めてだよ、やっぱり怒ってるよね……そりゃそうだよね。廃校撤回の為とは言え大垣ちゃん達を罠に嵌めようとしたんだから・・・グーかな、やっぱ……

 

杏の脳内に、後悔や自責の念が広がり、静かに制裁の時を待つ。

 

「えいっ!」

 

「へぅ!?」

 

零の声と同時に突然おでこにデコピンを食らい、杏は思わず素っ頓狂な声が出てしまう。眼前にはいたずらっぽく微笑む零がいた。

 

「はい、角谷さん。よく頑張りました」

 

そうして零は杏の体を抱きしめる。廃校撤回という、高校生の背中には巨大すぎる物を背負って戦っている事を、零は杏と同じ生徒会長という立場に立つ者として、それがどれだけ困難で重圧に満ちた物なのかよく分かっていた。そんな彼女が勝利の為に、選択した事を今更どうこう言う気はさらさらないし、杏の事を責める気にはどうしてもなれなかった。

 

「まいったなぁ、やっぱり大垣ちゃんには敵わないね……」

 

杏は、観念したように零の肩に手を回す。今は只、零と仲直りが出来た事と、廃校撤回を得られた事、そして零の優しさと温かさに浸っていたかった。

 

「あ、あの 角谷さん。そろそろ離れてもらっても……」

 

自分から思わず抱きしめてしまったが、あんまり長く杏が離してくれないので、零は杏に耳元で話しかける。

 

「ふふ~ん、だめだめ~オオガキニウムをたっぷり補充させてもらうよん」

 

「わわっ!」

 

杏はそう言って更に零の体を抱きしめる。そうしてたっぷり堪能した後にやっと零を解放した。

 

「あ、そろそろ表彰式が始まりますね。みほさん、そろそろ行きま……みほさん!?」

 

零はみほが形容し難い表情でこちらを見ていたので、思わず変な声が出てしまった。

 

「ふぇっ!?零さん」

 

みほが何だか心ここにあらずな様子だったので、零はみほの手を取り、表彰式会場まで歩き出す。

 

「それでは角谷さん、また後程」

 

「うん。大垣ちゃん、また後で。二人の晴れ舞台、見させてもらうよ」

 

そう言って杏は手を振りながら二人を見送る。その表情は飄々としていて、いつもの杏そのものであった。

 

「会長、良かったですね。大垣さんと仲直り出来て」

 

小山が杏の隣に連れ添い、話しかける。

 

「あぁ、本当に良かった。廃校も撤回になるし、良かった良かった」

 

杏は上機嫌に小山に応える。

 

「しかし会長、廃校撤回を再度撤回されるという可能性は無いのでしょうか……」

 

河嶋が不安そうな表情を浮かべて杏に話しかける。

 

「河嶋、天下の西住流宗家の次女と、戦車道プロリーグの大口スポンサー大垣重工の御令嬢の死闘に泥を塗るような命知らずは天下広しと言えども何処にもいないさ」

 

「そうか……そうですね!!流石は会長です!」

 

杏の自信に満ちた言葉に河嶋は安堵の表情を浮かべる。

 

が、不幸にも河嶋のこの不安は見事的中する。だがそれはまだしばらく先の話である。

 

 

閉会式では各表彰が行われた。今試合のMVPにはみほが選ばれ、表彰台に上がる。みほは、姉だけに許された特別な場所だと思っていたこの場に、自分が立っているなんて、ましてやまだ戦車道をやっているだなんて少し前まで想像もしていなかったなと思う。

 

そして、今試合のベストバトルには、西住みほと大垣零の最後の一騎打ちが選ばれた。名前を呼ばれ、表彰台に上がる零にみほは手を差し出す。

 

「さぁ、この手を取ってください。私のお姫様」

 

排気煙による煤けと、機械油でパンツァージャケットの白地が黒く汚れた「灰かぶり姫」に、みほは手を差し出す。零は慣れない登壇に少し戸惑いながら、笑顔を浮かべてみほの手を取る。そうして、みほはその手を一気に引き寄せて零を思いっきり抱きしめた。

 

「零さん、ありがとう。貴女に出会えて本当に良かった」

 

「それはこちらこそです。私も同じです、みほさん」

 

一年前、全てを失った少女が、新たな場所で新たな仲間を得て、ためらいの泥沼から抜け出し、蝶が羽化するように才能を開花させ、勝利を手にした。その姿に、会場の観客や、両校の生徒、大会のスタッフ達から万雷の拍手と声援が贈られる。

 

みほは壇上の下で拍手を贈る姉のまほと、エリカの姿を見つけた。それに気づいたまほが微笑みを浮かべて頷き、エリカが笑顔でガッツポーズをみほに贈る。三人は、少しの擦れ違いと、しばしの別離を経て、又新たなスタートラインに立つことが出来た。零もその様子を見て笑顔を浮かべる。

 

そして、大洗の生徒が集合し、深紅の優勝旗の授与式が行われた。夕焼けに染まる会場は再度拍手と歓声に包まれる。こうして、無名校二校が優勝・準優勝するという、前代未聞の結果を残し、第63回戦車道全国高校生大会は幕を閉じた。

 

 

 

閉会式を終え、島田千代・愛里寿親子と応援に来てくれた他校の皆に礼を言い、みほとまほ・エリカの三人の和解を見届け、連盟やスタッフへの挨拶・戦車の積載車への積み込みを見届け、零は今一人、会場で霊峰富士を眺めていた。

 

「お疲れ、零」

 

声に気づいて振り向くとそこにはカトレアチーム車長のルイーズと、チームの皆が立っていた。

 

「ルイーズさん、みんな……」

 

試合中、大嫌いなもう一人の自分が耳元で囁いた通り、皆一様に笑顔を浮かべて、こちらを見ている。チームの皆は優しい、だが今は皆のその優しさが辛かった。

 

「ごめんね、みんな あんなにこれまで頑張って来たのに……」

 

零はチームの皆にそう言って頭を下げる。夏の猛暑の地獄も、休みの日も、皆寝食を忘れて戦車道に没頭してきた。そんな彼女達を優勝に導けなかった。

 

「こら、零 私達がそんな事で怒るとでも思ってたの?」

 

ため息を付きながら、呆れた様子でルイーズが零の肩を持って背中を叩き、姿勢を直させる。

 

「そうですよ隊長!私達、みんな隊長の元で戦車道がやれて、本当に楽しかったんです。むしろ西住さんに瞬殺されちゃった私とルイーズが隊長に謝らないといけない所です」

 

「もう、ベアトリーセ!それはまぁ、確かにそうだけど……」

 

クローバーチーム車長のベアトリーセの言葉に、ルイーズがバツが悪そうに頬を掻く。

 

「すぐに謝るのは日本人の悪い所。誠実なのはいいけど、隊長ならどっしりと構えて、自分と私達が得た結果を誇りに思って。そして……出来れば私達をいっぱい、うんと褒めて」

 

アマリリスチーム車長のマルティーナが、凛として零を正す。

 

「私達がこれまで、戦車道を続けてこられたのは隊長、貴女のお陰だ。だから、これからもよろしく頼む」

 

「私達をこんな楽しい世界に連れて来てくれた責任、取ってもらいますからね」

 

ウメチーム車長の長原と、ツバキチーム車長の室町が、零の両側に立ち、その乙女離れした腕力で、零の肩をがっちりとホールドする。

 

「とりあえず今夜は隊長と、皆と盛大に語って飲み明かしたい……いいよね、隊長?」

 

ドクダミチーム車長の音森からの提案を、零はこくこくと頭を縦に振って了承する。

 

「やっタ!それじゃ準備してきまース!隊長サン、今夜は寝かさないヨ!」

 

オニユリチーム車長のエレナが大喜びで宴会の準備の段取りを行い、皆に指示を出す。皆本当に楽しそうで、試合に負けた悲壮感は微塵も感じられない。

 

「それでは零隊長、行きましょうか」

 

「地獄の果てまでお供しますよ~」

 

ユズリハチーム車長の朝河と、ガーベラチーム車長の荒川に腕を両側から掴まれ、零は歩き出す。

 

「ふふ、隊長 おかえりなさい」

 

マルティーナの言葉に、零はやっと試合が終わった事を実感する。緊張と、重圧から解放され、零は知波単学園と戦った後のように腰が抜けそうになるが、二度もは倒れなかった。そして、笑顔を浮かべる

 

「うん みんな、ただいま」

 

紅い夕陽が戦場となった東富士の聖地を赤く染め上げ、少し冷たい風が頬を撫でる。遠くで鳴いているひぐらしの声が夏の終わりを予感させた。

 

 

 

時は少し流れて、しまなみ女子工業学園学園艦は、母港・今治への帰港の為、途中の横浜港での寄港を経て太平洋を航行していた。学園も今は夏休みの最中、部活動や、課外活動に精を出す生徒達の声が聞こえるが、普段の喧噪が嘘のように静まり、静かな時が流れていた。

 

零は一人、戦車格納庫にいた。決勝戦の後、履修生達の手で徹底的に整備された戦車達は、全てが完璧な状態で、静かに次の活躍の時を待っていた。零はその鉄の仲間達に、礼を言うように、愛おしそうに触れていく。

 

「零、探したわよ」

 

「やっぱりここだったね、零ちゃん」

 

同じ車両の相棒達、陸奥原と紅城の登場に零は笑みを浮かべて迎える。戦車道履修生も、留学生の多くが母国に里帰りしており、他の履修生達も戦車道での活躍を手土産に実家に帰ったり思い思いの夏休みを過ごしている。生まれも育ちも零の出身地と同じ二人は、そのまま学園艦に居残っていた。

 

「何を考えていたの、零?」

 

「え? ううん、何も」

 

零は少し寂しそうに呟く、新学期からあまりにも目まぐるしく日々が過ぎ、戦車道中心の毎日を送っていた為、こうして戦車道をしていない日はどこか物足りなく、アンニュイな気持ちになってしまう。

 

「この跡は黒森峰戦の時の……本当に良く働いてくれたわね」

 

陸奥原は愛馬のボディーを優しく撫でる。歴戦の傷を撫でられ、strv m/40Lもどこか誇らし気に見える。色々な事があったが、沢山の友人達に支えられてここまで来れた、零はふと二人に向き直し、礼を告げる。

 

「ありがとう二人とも。こんな私の事、いつも助けてくれて」

 

「なんのなんのだよ、零ちゃん!」

 

「零ったらなに全部終わったみたいな感じになってるの?月末には大洗でエキシビジョンマッチなんだから気を引き締めていくわよ!」

 

そうして三人は、思いついた新しい戦術や、月末のエキシビジョンマッチについて賑やかに話し合う。三人とも、最早戦車道の虜になっていた。

 

「さぁ、書類仕事が溜まってるし、そろそろ生徒会室に戻りましょうか」

 

「零ちゃん龍ちゃん、ちょっとアイス屋さん寄ってこうよ。新しいフレーバー入ったんだって~」

 

「あぁ、鍵を掛けるからちょっと待って」

 

賑やかな三人の声を後に、格納庫の扉は再び閉じられる。天井のガラス窓から夏の日差しが差し込み、戦車達を照らし出していた。

 

しまなみ女子工業学園学園艦は今日も輝ける海原を勇壮に進む、零達には沢山の波乱の戦車道がこれからも待ち受けているが、まだそれは少し先の話である。

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