しまなみ女子工業学園戦車道履修記   作:柿之川

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第三話

案ずるより生むが易しという言葉がある。あれこれ悩むより、やってみれば意外となんとかなるという意味であるが、それは、しまなみ女子工業学園の戦車道にもその言葉が当てはまるかもしれない。

 

 

「それでは、本日の練習を終了します。皆さんお疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした、隊長!」

 

 

隊長を務める零の終礼の挨拶で、今日の戦車道の練習が締めくくられる。戦車道履修開始から二週間、戦車も人員も揃い、未だよちよち歩きではあるが、なんとかしまなみ女子工業学園の戦車道はスタートしていた。

 

 

「零隊長、本日もお疲れ様でした!」

 

 

溌剌とした声が聞こえ、振り返ると、一年生の朝河潮美が立っていた。3人の機械科所属の一年生からなる4号車、ユズリハチーム・ソミュアS35中戦車の車長を務めている。ピシりと背筋を立てて立つ様は、まるで女性自衛官であり、高校生一年生とは思えない凛とした佇まいだ。

 

 

「お疲れ様、朝河さん。今日の模擬戦、ガーベラチームとの連携射撃素晴らしかったよ!」

 

 

すごく上達してるね、と零は可愛い後輩の頭を優しく撫でる。

 

 

「きょ、恐縮です! ですが、隊長のお背中を守るにはまだまだ力不足です! これからも粉骨砕身精進いたします!」

 

 

顔を真っ赤にしながら、朝河はもじもじと零に応える。

 

 

「あー潮美ちゃんだけずるい~ 先輩私も~」

 

 

少し間延びした声で、もう一台のソミュアS35に乗る、機械科所属の1年生3人のガーベラチーム 5号車車長の、荒川四葉が零に抱きついてきた。零は荒川も一緒に、頑張ってるねと褒めて頭を撫でる。

 

 

「隊長さんはすごいネ~、一年ちゃんを二人もテダマにとっちゃうなんてテ」

 

 

陽気に話すのは、ブラジル留学生4人から成る、オニユリチーム車長のエレナ・カルネイロだ。建築科2年生で、その持ち前の明るい性格で周りを盛り上げるしまなみのムードメーカーである。地形に関する卓越した読みの鋭さを持っており、2号車M15/42中戦車を駆って常に先陣を切る、しまなみ戦車道チームのポイントマンの役割を担っている。

 

 

「そうそう、たまには私たちの事も可愛がって欲しいものね」

 

 

本当は私が可愛がってあげたいんだけど、と話すのは、繊維科二年生のイタリア人留学生4人から成る、アマリリスチーム・M15/42中戦車・3号車車長の、マルティーナ・ビアンケッティだ。日本の歴史と着物文化に魅せられて、イタリアより留学してきた日本大好き娘である。

 

 

「四人ともいい加減にしろ、隊長がお困りだぞ」

 

 

そういって四人の間に入ってくるのが、零と同じ機械科の二年生5人から成る、6号車・五式中戦車ウメチームの車長、長原門野だ。

 

 

「かどちゃん、隊長は慕われ体質ですもの。それは仕方がないわ」

 

 

明るく長原に話すのは、同じく機械科二年生5人から成る、7号車・五式中戦車ツバキチームの車長、室町椿だ。

 

 

大垣重工の資料館に収蔵されていたという戦車を、戦車道で使用する為に、零達機械科の生徒達はクラス・学年を問わず総出で、戦車を整備し、ものの三日間で10両全てを使用できる状態に仕上げた。

生徒全員が、超高校級の機械整備のプロフェッショナルなのがしまなみ女子工業学院の機械科でありその中でも、選りすぐりの人材達が揃うのが6号車・7号車の乗員の10人である。なお、試作車両しか残されていないと思われていた五式中戦車の実物が二両も発見された事で、戦車・歴史研究の界隈は今大騒ぎになっている。

 

 

「あらあら、零さんは今日も大変そうですね」

 

 

後ろから声を掛けられ零が振り向くと、ドイツ人留学生4人から成る、8号車・Ⅳ号突撃砲クローバーチームの車長ベアトリーセ・メルダースが立っていた。船舶工学科の二年生であり、零と同じ選択科目が履修したいと、友人と共に加入してきた。戦車道経験者であり、ドイツの草チームではヘッツァーの車長をこなしていたとの事で、その冷静な判断力を武器に、重要なしまなみのスナイパーの一角を担っている。

 

 

「隊長はやはり凄い、男に生まれれば高級ジゴロになったはず。稀代の女たらし」

 

 

さらりと言ってのけるのは電子情報工学科の生徒4人から成る、9号車・Ⅳ号突撃砲ドクダミチームの車長、音森響である。成績は電子情報工学科の学年首席であるが、一時期ネットゲームにドはまりして、遅刻・欠席の常連となってしまい、成績下降から退学の危機に瀕していた所を、零の徹底的な生活指導で救ってもらった経験があり、恩義に報いたいと、友人とともに参加してきた。ネットゲームのポジションではスナイパーが得意との事で、戦車道でもしまなみのスナイパーの片翼を担っている。

 

 

「もう、零ったら私を差し置いて何を楽しそうにしてるの?私もまぜなさい」

 

 

10号車・ARL44重戦車カトレアチームのフランス人留学生5人の車長を務める、ルイーズ・ベルナールが来た。電子情報工学科に所属している。成績は音森に次ぐ次席ではあるが、機械言語の天才と言われており、戦車の主砲発射音に魅せられて友人を誘って加入してきた。フランスの重戦車、ARL44を駆り、フラッグ車の役割を零に任され、しまなみのゴールキーパーの役目を担っている。

 

 

「はいはいみんな、賑やかなのは良いけど、早く大浴場に行くわよ」

 

 

そう言って皆を纏めるのは 零が乗る1号車・strv m/40L軽戦車 キキョウチームの操縦手、陸奥原龍子である。戦車道の授業後は、どうしても油と硝煙の匂いまみれになってしまう為、授業が終わり次第、学園の大浴場にいって汗を流すのが、履修生全員の共通の楽しみになっている。

 

「それでは皆さん、車庫の施錠をするので帰る準備をして下さい」

 

零がそう皆に言うと、全員てきぱきと準備を開始する。零自身も、早く大浴場で一っ風呂浴びたいので、手早く運動着から制服に着替える。

 

「ねえねえ、みんな。ショッピングモールに新しいアイス屋が出来たの知ってる?帰りに寄ってみない?」

 

同じくキキョウチームの装填手兼通信手の紅城がそう言うと、全員がさんせーと手を挙げる。工業高校とは言っても、皆おしゃべりと買い物と甘いものが大好きな普通の女子高生達である。

 

 

こうして、始動間もないしまなみ女子工業学園の戦車道履修生達のとある一日が終わった。

 

 

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