しまなみ女子工業学園の戦車道がスタートしてから、早3週間が経った。
今日は日曜日。零は休日を利用して図書館で戦車の図鑑や、過去の大戦を題材にした本、戦術書を読み漁っていた。
学園長でもある祖母に、今度は夏の戦車道全国大会に出場するように言われてしまい、隊長の零は、戦車道の戦術等の勉強で大忙しだった。
と、席で本を読みながら要点をノートに纏めていたが、マナーモードにしていた携帯が震えだしたので、図書室から出て零は慌てて電話を取る。
「お待たせしました、大垣です」
「あー大垣ちゃん?大洗の角谷です。おひさしぶりでーす」
電話の相手は大洗女子学園の生徒会長、角谷杏からだった。
「こちらこそお久しぶりです角谷さん。いつも大変お世話になっております」
以前から二人は生徒会役員同士親交があり、電話やメールで互いの近況を話したり、互いの地域の特産品を送りあったりする仲になっていた。そうして、とりとめのない話や、互いの学校や私生活の話を色々話している時に、ふと杏が提案を切り出した。
「そういえば、大垣ちゃんの学校も戦車道を始めたって聞いたんだけどさ~3日後大洗に入港するんだよね?うちでも戦車道再開させたんだけど、良かったらメンバー同士の親交と、スキルアップを兼ねて合同練習とかやってみない?」
杏から提案を受けて、零の返事は即答だった
「こちらこそ宜しくお願いします。ぜひ大洗の皆さんの胸を貸してください」
「ホントに!?ありがとね!こちらも大歓迎させてもらうよ~」
受話器からは本当に嬉しそうな声が聞こえる。そうして零と杏はでは3日後にと約束をし、電話を切った。
ふ~良かった、大垣ちゃんからアポを取れたよ。
6月の戦車道全国大会の一回戦までに、絶対に会っておきたかったから嬉しいね。
あの辻って役人さんが、実績に乏しい「大洗女子学園」と比べて、「しまなみ女子工業学園」の事を滅茶苦茶褒めてたから、正直言って悔しいって気持ちはあるけど、年代物の10両の戦車を三日で完璧な状態に仕上げる整備の秘密とか、色々知りたかったし、この機会を逃す手はないね。
それに大垣ちゃんにも会いたいんだよね~、一生懸命で健気で本当にかわいいんだよ。廃校を言い渡されてから、最近毒気が溜まってたし、オオガキニウムを補充して、癒されたいね。
そういえば、ほうぼうの組合さんから、ぜひまたイベントをやってほしいって連絡来てたし、大会の抽選会に向けて景気付けにいっちょ派手に盛り上げちゃおうか!それじゃー早速、小山と河嶋に電話だね。
零は杏との電話を切ってから考えていた。
自分達は戦車道を始めて、日々練習を頑張っているが、それはあくまで練習に過ぎない。
大洗は負けはしたけど、以前に練習試合で高校戦車道の四強の一角、聖グロリアーナを、市街地フラッグ戦で敗北寸前まで追い込んでいた。その勝負強さを、ぜひ戦車道のメンバーにも吸収させたいと考えていた。
「3日後か…… 早速準備にかかろうか」
借りる本を見繕い、零は足早に図書館を後にした。
それから3日後、大洗に到着した零と杏は合同練習やイベントについて話し合っていた。
「今回の練習試合なんだけど、大洗町内で、5対5のフラッグ戦でどうかな?」
今週末の日曜日に、大洗の市街地で戦車道練習試合を行う事を、杏は既に準備していた。
役場や、警察にも、町興しのイベントとして許可を依頼したところ、二つ返事で許可が下りた。戦車道に力を入れている文科省の方針もあり、戦車道に関する活動には、行政や警察も優先的に協力を行うようになっている。
更に、対聖グロリアーナ戦での、Ⅳ号戦車の最後の追い上げや、Ⅲ突・八九式中戦車の戦いぶりが大洗の人たちの心に火を付けたのか、町全体が大洗女子学園の戦車道に非常に協力的なのだ。
多くの地元の商業組合も、ぜひまた練習試合をと申し出ており、今回も数多くの屋台が出店し、沢山の観客が県外から来訪する為、地元の宿泊施設も予約で一杯である。
「いいですね、その方向でぜひお願いします」
「よっしじゃあこれでいこうか。警察さんや、商店街や旅館の組合さんとも話してるから、観客の整理とか誘導はあっちがやってくれるし、心配いらないかんね。でも、大会前だし、ウチはあんまりお金無いから、戦車の修理がちょっと心配かな~」
あははと、杏は苦笑いを浮かべる。突貫工事でプランを練って、立ち上げた大洗の戦車道は、なんとか形はできたが、何より予算が無いので、各部にもカンパをお願いしたりと、金策に走っていてはいるが、厳しい台所事情が続いている。なにしろ燃料に弾薬、県外への遠征ともなれば、輸送費も掛かるし、旅費も掛かる。戦車道とは、なんともお金が掛かるものなのである。更に、練習試合ともなれば、戦車の損傷が伴う為、その修理費用も馬鹿にならない。
「その件なのですが、今回お誘い頂いたお礼に、練習試合での戦車の修理は私たちが受け持たせてもらっていいですか?もちろんお代なんて構いませんので」
「えぇー!気持ちは嬉しいけど、それじゃ大垣ちゃん達が大変だよ」
「気にしないでください、私達は今回初めて戦車道を履修し始めたもので、中々練習試合を受けてくれる学校が見つからず、困っていたんです。今回こうして、角谷さんや大洗の皆さんからお誘いを頂いて本当に嬉しいんです。だから、せめてものお礼をさせてください。自動車部の皆さんにも、共同整備という事で力添えを頂ければ、ノウハウの共有も出来ますので、是非参加をお願い出来ませんか?」
「ありがとう大垣ちゃん、それじゃ今回だけ甘えさせてもらうよ。自動車部にも声を掛けておくよ。御免ね本当に……」
本来であれば、敵に塩を送るような行為は、勝敗のある競技ではしない事が最善だろう。
しかし、目の前の少女は、友人からの恩義に報いる為に、自分達のストロングポイントを
曝け出そうとしている。杏は申し訳ないという気持ちと、しまなみの整備の秘密を知りたいと思っていた希望が叶いそうな事を内心喜んでいる自分と、大垣ならばこう言ってくれるはずと、わざと弱音を吐いた自分に、心底嫌気が刺した。
だからせめて、今回の練習試合、目の前に少女の気持ちに応えらえるよう、全力で戦おうと心に誓うのだった。